北の海 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1980年1月1日発売)
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感想 : 5
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  • 本 ・本 (677ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101063263

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに再読。
    昔の学生はどうもスケールが大きいような感じがする。でんと構えてちょっとやそっとでは動揺しないし、言うことも大きい。金遣いは荒く、放埒としている。そういう学生像にどこか憧れを感じるような気もする。
    この小説のすごいのは、いつの間にか洪作の目線で出来事を追体験してしまっている点だと思う。最終盤で洪作は両親のいる台湾へと発つが、その場面に至って、金沢で柔道に明け暮れた夏の日々が自分のことのように懐かしく想起された。これは稀有な読書体験であると思う。

  • 「自伝三部作」の第三弾。

    中学を卒業したものの、旧制高校の受験に失敗した洪作は、引きつづき沼津にとどまって浪人生活を送ります。そんな彼に、落第してもう一年中学に通うことになった遠山が声をかけ、彼は中学生に交じって柔道部に通う日々を送ります。そんなある日、第四高等学校の蓮実という学生がやってきます。小柄な体格であるにもかかわらず、寝技では洪作も遠山もまったく彼におよばないことを知らされます。

    一方で、中学の化学教師の宇田は、卒業してもいっこうに焦る気配を見せず柔道ばかりしている洪作のことを気にかけてくれます。洪作は、台北にいる両親のもとへ行くように宇田とその妻に説得され、不承不承ながらも約束をしますが、「練習量がすべてを決定する柔道」という蓮実の語ったことばに強い魅力をおぼえ、夏休みのあいだに金沢の街をおとずれて四校の柔道部員たちと練習に打ち込みます。

    前作では、金枝を中心とするやや不良めいた文学少年たちのグループに魅力を感じていた洪作でしたが、彼自身はグループのなかで野人的なポジションを占める風変わりな少年でした。本作では、そうした彼のほんらいの志向がはっきりと定まり、頭をからっぽにして高校時代を柔道だけにささげることに無性に魅かれていく心のうちがたどられるとともに、そんな気楽なようすの彼を親身になって心配する周囲の人びととのかかわりが、ユーモアを交えながらえがかれています。

  • しろばんば、夏草冬濤に続く自伝的小説。洪作が高校受験に失敗してから親がいる台北にいくまでの浪人生活の話。洪作視点だと周りの人たちは変わった人たちばかりだけど、周囲からしたら洪作も相当風変わりに映ってる。 井上靖の書く小説は実在した実体験や実在した人物をモデルにしてることが多いから、一人一人の個性が強くて魅力的。

  • 伸びやかな空間の中で、10代の終わりから二十歳頃を迎える。こんな素晴らしい時代があったのだ。

  • 椎名誠が随分前に「井上靖の再来!」とまで評されたのは解りますね。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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