火宅の人(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101064031

感想・レビュー・書評

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  • 作者の前時代的なクズ男人生をなぞっていく内容だが、口があまりにも巧すぎる。
    男の破綻を孕んだ情緒が都度完璧に言語化される。
    作者のカラッとした筆致も相まって、上巻の“黄金時代”感は読んでいて楽しい。

  • 知り合って10年間気持ちを抑え続けてきた矢島恵子とついに関係を結ぶ。
    妻に言ってしまおうというのが、秘密を背負うより開き直って楽になろうという魂胆が見えて、何ともずるい男である。

    「私」桂一雄には子どもが5人いる。
    長男・一郎は、病死した先妻の子。
    現在の妻・ヨリ子との間に、次郎、弥太、フミ子、サト子。
    次郎は5歳で小児麻痺を発病し、全身に麻痺が残った。
    1年後のその発病の日が近づくにつれ、気持ちが不安定になって、ついに恵子を旅に同行してしまった、というのも甘えた言い訳である。

    妻は、もう顔も見たくないといったんは家を出たものの、結局戻る。
    しかし、継子の一郎は思春期に入り、ヨリ子の手に負えなくなった。
    父親の自分が家を出て愛人と同棲をしているという家庭環境が、子供にとってよくないことは分かっている。
    それでも、放浪と放蕩はやめられないのだ。
    妻と恵子の間を行ったり来たりし、恵子の過去を知れば、今度は自分の所業を棚に上げて嫉妬する。
    酒と性欲に溺れ、心の制御もままならない。頑健で疲れを知らないからなお悪い。

    何とか恵子と距離を置いて出かけた欧米旅行の、アメリカ紀行の描写は良い。
    しかし、ここでも女と事を起こし、現地日本人会の有力マダムににらまれる。

    病気・・・ですね。

  • 読書会で『檀流クッキング』をプレゼンするため、檀一雄について知ろうと思い読むことにした。

    小説として面白いかといえばそこまででもないのかもしれない。が、檀一雄の想像以上の放埒さにびっくりする。
    よそに愛人を作るのはともかく、その為の借家も転々としつつ借りまくる、常に酒は飲みまくる、他にも愛人を作る……。

    「最後の無頼派」といえば聞こえはいいが(「太宰の腰巾着」とも揶揄されていたが)、太宰や安吾が早世するなか、檀さんは身体が頑健なので生き残る……その頑健な身体を持て余し、格闘していたようにも思う。

    私小説を書こうとすると、いや書く為にとかそんな生易しいものではないと思うけど、書く内容は自分についてなので、作者の生活そのものが小説や芸術に接近していく。だからこんなにやりたい放題やったのかな。

    たいして面白くない中、ほっこりするのは檀ふみらの子どもの頃の描写。「チチ、もう、ドッコも行かん?」かわいいけど切ないな……。
    あとは料理の描写になると、さすが。

    長男の一郎くん(太郎)の育て方、ただの放任主義だけど一理ある。
    「一郎。自分で信じられることなら、断頭台にかかるところまで、やったっていいよ。あとで人のせいにさえしなければね……」

    愛人・恵子の昔の関係を疑い、嫉妬しながらアメリカへ飛び立ち、下巻へ続く。

  • 檀流クッキングは座右の書であり、檀一雄に興味大だが、代表作の火宅の人はおどろおどろしそうで避けていた。読んでみて予想以上に感じ入るところがあった。多くの人がやっている無難な生き方で本当に生きた心地がするか、と。ひたすら「自分の気持ち」に従って生きることが意外と繊細に表現されていると思った。
    長男が窃盗事件を起こしたときの刑事との会話に作者の言いたいことが集約されていると思う。以下抜き書き。
    「…どんな人間だって、それぞれの環境を負って生きてきたでしょう。人様や社会に対しては重々申し訳ないけれど、私も、私なりに生きることをやめるわけにはゆきません。…」
    「…戦っているからこそ、破局もあるのじゃないですか。手をこまねいていたら、破局なんぞないでしょう。どんなに悪影響があろうと、生きている姿のままの私から、子供はそれなりのものを汲みとって大きくなる以外にはないわけです」
    警察からの帰り、海で泳いでよいかと息子に聞かれて答えるセリフ
    「一郎。自分で信じられることなら、断頭台にかかるところまで、やったっていいよ。あとで人のせいにさえしなければね…」
    (…すばらしい、さすが檀一雄!ついていきます!)

  • 2018年4月7日、読み始め。
    2018年4月14日、214頁まで読んで、終わり。

    2021年5月4日、追記。

    著者の檀一雄さん。
    ウィキペディアを見ると、次のように紹介されている。

    檀 一雄(だん かずお、1912年(明治45年)2月3日 - 1976年(昭和51年)1月2日)は、日本の小説家、作詞家、料理家。私小説や歴史小説、料理の本などで知られる。「最後の無頼派」作家・文士ともいわれた。また、西遊記の日本語抄訳もある(東京創元社ほか)。

    そして、作品、『火宅の人』。

    『火宅の人』(かたくのひと)は、檀一雄の長編小説で遺作。『新潮』1955年11月号より20年にわたり断続的に連載された。1975年に新潮社で単行本が刊行(現:新潮文庫(上下)、改版2003年)。没後に第27回読売文学賞(小説部門)と、第8回日本文学大賞を受賞した。全集を含めると150万部を超す檀の最大のヒット作。

    20年にわたって連載というのは、すごいですね。

    この作品のあらすじは、

    作家・桂一雄は、妻のほか、日本脳炎による麻痺を持つ息子のほか4人の子を持ちながら、女優を愛人として、通俗小説を量産しながら、自宅をよそに放浪を続けている 、というところ。
    自伝的な内容のようです。

  • 妻と3男2女のいる家を捨て、舞台女優の恵子との愛欲の暮らしに走る作家桂一雄。しかし結局は、その恵子の元でも安住せずに終わりのない放蕩を繰り返す…。
    作者自身の人生に素材をとった、いわゆる私小説。完成までに20年をかけたという。 “酒と女にまみれた放蕩”と言えば極めて不健康そうだが、意外と健全な面を持ち合わせている。自炊や水泳が大好きで、自身の過剰に健康な体に対して懸念を抱くほどだ。ゆえに、その中に垣間見れる独特の寂寥感はなおさら強い。個人的には、彼のとぼけた文体と妄想癖に好感を持ったが、先に沢木耕太郎氏の「壇」を読んでいたせいか、こんな人の妻になったらたまったもんじゃないと思う。
    ☆読売文学賞・日本文学大賞

  • 有名な無頼派作家が愛人と同居生活!?みたいなジャーナリスティックな面白さは皆無。今ではありふれた話だし、愛人の浮気にメンヘラっちゃうとかも普通。
    特筆すべきは主人公の言動の異常さ。メンヘラっちゃうとホテルの7階の窓から体を出してぎゃっぎゃって叫ぶとか。そんかことするやつはいないよ!隣の部屋の人はさぞや迷惑したろうな!
    意中の女と寝たことを妻に報告しちゃうとかもおかしいし、やたら新しく部屋を借りちゃうとかも狂ってる。いうなよ!借りるなよ!
    主人公はモノローグで無頼派ぁッ!て感じの諦観や割り切りをみせて自身の言動を正当化していくんだけど、いやいやあんたそんな言葉のマジックで正当化できる程度ではないぜ、といいたくなる。
    無限にボケが書かれてあり、読者がツッコミを入れていく、というように読むとたいへん楽しい。

  • 何十年ぶりかに読みました。けっこう前半は忘れています。日本脳炎、、、のくだりも忘れてました。

  • ガンの激しい痛みの中で、最後の気力をふりしぼって完成させた長編。人々に大きい感銘を与えた。
    『火宅の人』の生き方は、現代の管理社会の優等生的生き方と全く反対である。彼は社会のあらゆる約束事、既成の道徳、立身出世、家庭の幸福などを無視し、反逆的に生きとおした。
    もちろん今日でも秩序への反逆を試みる者も脱出を企てる者もいるが、その多くが陥るようなみじめな落後者、ひねくれたすね者の生き方とは、檀一雄は全く異なっていた。今日の退嬰化、矮小化、規格化した精神からは絶対に生まれないおおらかさ、本質的な自由奔放さがあった。どんな逆境にもめげない、いや逆境とか不遇とかを受け付けない強さがあった。天然の詩情や旅情のおもむくままに生き、その瞬間瞬間の真実に忠実であろうとした。それがたとえ破滅に、背徳に向かう道であろうともちゅうちょするところがなかった。

  • リアルで率直で、読み応えがあった。

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著者プロフィール

1912年、山梨県生まれ。東京帝国大学経済学部在学中に処女作『此家の性格』を発表。50年『真説石川五右衛門』で直木賞受賞。最後の無頼派といわれた。文壇きっての料理通としても有名。主な著作に、律子夫人の没後に執筆した『リツコ その愛』『リツコ その死』のほか、『火宅の人』『檀流クッキング』など。1976年死去。

「2016年 『太宰と安吾』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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