事件 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (599ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101065083

感想・レビュー・書評

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  • 朝日新聞に連載中は、『若草物語』といふタイトルだつたさうです。当初は青春小説の心算だつたらしい(ただし若者の犯罪を通して青春の無軌道さを描く心算だつた)。完成作品とは似ても似つかぬタイトルですな。
    それが執筆を続けるうちに、裁判小説となり、表題も『事件』と改題されました。

    19歳の若者・上田宏くんは、神奈川県の田舎町に住む好青年。そののどかな町で、坂井ハツ子なる女性が殺害された。この女性は、実は上田くんが同棲してゐる坂井ヨシ子の姉でありました。で、いろいろあつて証拠が揃つたとして、上田くんは殺人と遺体遺棄の容疑で逮捕されます。未成年といふことで少年法の規定により、家裁へ送られ、さらに横浜地方検察庁に送致されたのでした。
    その後は裁判所が主たる舞台で、裁判小説の様相を呈してきます。記憶が飛んでゐるといふ上田くんは果たして冤罪なのか?

    青春小説から裁判小説へと変貌した理由について、著者の大岡昇平氏は、あとがきの中で「日本の裁判の実情があまりにも、裁判小説や裁判批判に書かれているものと異なっているのに驚き、その実情を伝えたいと思うようになった」と述べてゐます。
    日本の裁判制度にメスを入れ、推理小説としての体裁も整つた、読み応へのある長篇小説であります。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-784.html

  • これも部長から、面白いと言われて借りたけど、確かに面白かった。捜査に不備があった事件ということで、刑事裁判の進展に沿って事実が見事明らかになって判決に至るけど、刑事裁判による真実解明の限界がしっかり描かれているのもまた見事。いろいろ正確。当時の刑事裁判の進行、時代を感じるけど、現在の公判迅速化のやり方や問題と通じるところもあり興味深い。ただ右陪席が家に帰って、判決前に妻に主文を言ってしまうのは、、、?

  • かつてNHKのドラマで放映されてたような気がする。見なかったけど。大岡昇平の作品というのが記憶に残った。「野火」とは全く異質の作品。裁判をテーマにドキュメンタリー風な小説。法律用語が飛び交って読みづらいかと言えばさにあらず。面白かった。主人公が主任裁判官か、弁護士か、不明なまま読み切ったがぼやけたまま。あまり主題とは関係なかったようだ。人が人を裁き切れるのか。でなければ裁判とは何なのか。日頃とっつきの悪い舞台に惹きつけられる。2023.4.9

  • 映画は未見。

  • 500ページくらいの、神奈川県で起きた殺人事件(架空)の裁判が緻密に描かれている。
    法律系小説のおススメみたいなものなかで、紹介されていた。法律・権利は関心ごとの一つ。

    なかでもこの本でテーマと扱われているのは、刑事訴訟法。
    六法のなかでは刑訴は素読をしたことがないものなので、いつかやってみたい。
    ドラマ「相棒」シリーズをより面白く観ることができそう。

    執筆時が30年くらい前になり現在の条文とは異なるが、GWに読んだ宮部みゆき「ソロモンの偽証」の学校裁判と違い、
    文章が実際の裁判により近くとても勉強になった。プレイしたことはないが、「逆転裁判」というゲームを彷彿した。

    また、裁判の進行だけでなく、それぞれ当事者における感情の機微も巧みに書かれていて、
    心理描写の面においても大変楽しむことができた。

    加えて、世界の司法体制との比較もあり、多角化された視点から一層内容を吟味することができる。
    大岡昇平だと、高校の日本文学史にて「俘虜記」が有名なので、そちらも読んでみたいと思った。

  • もしかすると、大岡昇平の本を読むのは初めてかも。日本推理作家協会賞受賞作の法廷物。弁護士、検事、裁判官たちのやりとりにドキドキします。

  • いや~、完全にノンフィクションだと思いました。それだけ描写が緻密で、実際の裁判風景が目に浮かぶようなリアリティが伴ってるってこと。もちろん陪審員制度はない時代だし(でも作中では触れられている)、前時代的に感じられる部分も少なくない。でも本当、実際の案件の中から印象的なものをチョイスして、素人にとっても平易な言葉で書かれていて、裁判の入門書みたいな感じも受けました。真実を追究する弁護の妙も真実味があって、法廷シーンはかなり引き込まれました。ゲームの逆転裁判やってるみたいに熱中してしまいました。面白かったです。

  • 話はなかなか面白く、裁判の流れもよくわかったが、説明が詳しすぎて、話の流れが途切れてしまう感じがありちょっと残念だった。裁判について勉強になりました。

  • 別の方のネタバレを読めばあらすじはそこで分かり、
    この題材をミステリーにしようとしたらこの書の1/4で終わりそうな内容ですが、
    裁判を通じて描かれるからこそその裁判での扱いの難しさやそこで気づくことの難しさを感じました。

    はじめは「大岡昇平がこんな小説書くんだ?」と驚きましたが・・・

  • 実際の事件のルポルタージュと思うような物語だった。

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著者プロフィール

大岡昇平

明治四十二年(一九〇九)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和七年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和十九年三月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、二十年一月米軍の俘虜となり、十二月復員。昭和二十三年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『武蔵野夫人』『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『将門記』『中原中也』(野間文芸賞)『歴史小説の問題』『事件』(日本推理作家協会賞)『雲の肖像』等を発表、この間、昭和四十七年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和六十三年(一九八八)死去。

「2019年 『成城だよりⅢ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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