宣告 (上) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1982年1月1日発売)
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  • 本 ・本 (654ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101067025

感想・レビュー・書評

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  • 上巻だけで653ページと読み応えたっぷり。

    死刑宣告を受けた確定囚の拘置所。その拘置所の医官。登場人物一人一人の背景、心理描写を描きながら、人間ドラマを綴る。確かに、死を宣告されながら、無理やり目的を見出しながら生きるのは異常な世界だ。閉ざされていない、我々のいる娑婆と何が違うのか。確定囚には、死を忘れ、死から気を逸らすような娯楽、圧力、誤魔化しが無い。それらを削ぎ落とし、死と向き合わされるのだ。更に、執行日を告げないことで、余計に生命の無力感を与えられるのだろう。小説内で彼らをまるで屍体だと表現する箇所がある。これは言い得て妙である。屍体とは、肉体も精神も滅びた末の形である。確定囚は、明らかに肉体も精神も生きてはいるが、社会からは、共に死んだものとして扱われるのだ。無論、そう扱わないようにと働きかける団体もいるのだが。

    19歳というノンフィクションを読んだ時、私はやはり、殺人犯には同情の余地なく、感情移入する事が非常に危険だと感じた。刑務所の話は、見沢知廉や佐藤優などで味わったが、死刑確定囚と医官の世界は初めて入り込む体験だ。

    社会には人間をダメにする構造的欠陥が随所にあり、そこに陥れば人間は精神を病むリスクが高い。それは、刑務所だろうが、娑婆だろうが一緒。確定死刑囚は、病みやすい。しかし、娑婆でも家庭環境によって、病みやすい条件がある。怖いのは、そういう条件下で一定数、バグを持った人間が生まれ、社会に内含する事を避けられない事実がある事だ。

    自分の身は自分で守らなければならぬ。しかし、子供をバグから守るのもまた、大人の役目なのである。

  • 【過去読了レビュー】
    死刑囚を収容する刑務所に勤務する若い診療医が、葛藤、昇華、苦悩する日常を描いた作品。
    いつ来るとはわからないが、確実に予定された死を前に起こる様々な人間模様と、それを見守る人々の思い。

    鬱々とした思春期に読んだ今も記憶に残る作品。
    内向になりがちな時期に、その底を垣間見たような気がした。

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著者プロフィール

1929年生れ。東大医学部卒。日本ペンクラブ名誉会員、文藝家協会・日本近代文学館理事。カトリック作家。犯罪心理学・精神医学の権威でもある。著書に『フランドルの冬』、『帰らざる夏』(谷崎潤一郎賞)、『宣告』(日本文学大賞)、『湿原』(大佛次郎賞)、『錨のない船』など多数。『永遠の都』で芸術選奨文部大臣賞を受賞、続編である『雲の都』で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。

「2020年 『遠藤周作 神に問いかけつづける旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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