- 本 ・本 (654ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101067025
感想・レビュー・書評
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上巻だけで653ページと読み応えたっぷり。
死刑宣告を受けた確定囚の拘置所。その拘置所の医官。登場人物一人一人の背景、心理描写を描きながら、人間ドラマを綴る。確かに、死を宣告されながら、無理やり目的を見出しながら生きるのは異常な世界だ。閉ざされていない、我々のいる娑婆と何が違うのか。確定囚には、死を忘れ、死から気を逸らすような娯楽、圧力、誤魔化しが無い。それらを削ぎ落とし、死と向き合わされるのだ。更に、執行日を告げないことで、余計に生命の無力感を与えられるのだろう。小説内で彼らをまるで屍体だと表現する箇所がある。これは言い得て妙である。屍体とは、肉体も精神も滅びた末の形である。確定囚は、明らかに肉体も精神も生きてはいるが、社会からは、共に死んだものとして扱われるのだ。無論、そう扱わないようにと働きかける団体もいるのだが。
19歳というノンフィクションを読んだ時、私はやはり、殺人犯には同情の余地なく、感情移入する事が非常に危険だと感じた。刑務所の話は、見沢知廉や佐藤優などで味わったが、死刑確定囚と医官の世界は初めて入り込む体験だ。
社会には人間をダメにする構造的欠陥が随所にあり、そこに陥れば人間は精神を病むリスクが高い。それは、刑務所だろうが、娑婆だろうが一緒。確定死刑囚は、病みやすい。しかし、娑婆でも家庭環境によって、病みやすい条件がある。怖いのは、そういう条件下で一定数、バグを持った人間が生まれ、社会に内含する事を避けられない事実がある事だ。
自分の身は自分で守らなければならぬ。しかし、子供をバグから守るのもまた、大人の役目なのである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【過去読了レビュー】
死刑囚を収容する刑務所に勤務する若い診療医が、葛藤、昇華、苦悩する日常を描いた作品。
いつ来るとはわからないが、確実に予定された死を前に起こる様々な人間模様と、それを見守る人々の思い。
鬱々とした思春期に読んだ今も記憶に残る作品。
内向になりがちな時期に、その底を垣間見たような気がした。
著者プロフィール
加賀乙彦の作品





