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本 ・本 (457ページ) / ISBN・EAN: 9784101068091
感想・レビュー・書評
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辻邦夫さんのルーツを廻る物語ですね。
父親が亡くなった事に端を発して、時ならぬ辻家の歴史的資料が見つかるという予期せぬ事態に、辻さんは持ち前の知的好奇心と作家としてのライフワークを触発された力作ですね。
小説とは違う美意識の表現ではなく、辻さんの「発見」と「確認」の文学者として、辻家の子孫としての使命感につき動かれされた解説者のいわく「洞察」のなせる文体は推理小説ようでもあり、臨場感溢れる作品と成っています。
辻さんの作品はロマン溢れる滔々とした流れるようなリズム感のある文章で、読んでいる内に物語に吸い込まれる感覚が堪らなく好きですが、この作品は辻さんの別の魅力を醸し出していて、辻さんと一緒に先祖巡りをしているかのようで、愉しく読了しました。
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著者が父親の死をきっかけに、一族のルーツをたどり、歴史のなかで生きた祖先のすがたに思いを馳せる作品です。
文学の世界を彷徨してきた著者が、父の死に際会してみずからのルーツに目を向けるようになるという叙述は、「父」もしくは「家」との和解という、かつての日本文学の重要なテーマを連想させます。たとえば著者は、さだまさしの歌を参照しながら、「とても優しくなりたい」と語り、これまでのみずからの生きかたに対する屈折した思いを吐露していますが、こうしたとぐろを巻くような自意識のなかにこそ「文学」が生まれると考えることは可能でしょう。また、辻守瓶と守敬の父子に書き継がれた日記「春秋」の内容を紹介し、自分自身と父との関係を振り返っていますが、これらのところに記されている著者の思いなどにも、文学を通じて「家」および「父」との和解を果たすことになるという見かたが可能であるように思えます。
ただし著者が辻家のルーツを訪ねるさいには、「家」のうちに閉じていくのではなく、むしろ大きな歴史の流れへとみずからを開いていこうとする志向が強く感じられます。それは、院政期における荘園のありかたや、江戸時代における医術のありかたなどに著者の関心が向けられているところに顕著にうかがえるように思います。このような見かたが可能であるとすれば、本作は私小説的なテーマをあつかったものではなく、むしろ著者の歴史小説のひとつとしてとらえるべきなのかもしれません。 -
(「BOOK」データベースより)
すべてを棄てて文学に打ち込んできた自分の半生は、父が大切に思い慈しんできたものを黙殺するものであった―。父の死から受けた哀切な心の痛みは、父、そして一族の歴史を辿る旅へと著者を駆り立てる。熱い想いに呼応するかのように次々と現れる関連古文書。資料を読み解きながら、想像豊かに祖先の喜怒哀楽を再現する。古代から現代へ、甲州を舞台に繰り広げられる歴史絵巻。
著者プロフィール
辻邦生の作品





