ふらんす物語 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101069012

感想・レビュー・書評

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  • 当時、刊行直前に発禁処分になったということで気になって読了。外遊の収穫で彼の青春を記念する作品、帰朝の直後明治四十一年終わりから四十二年正月にかけて雑誌発表。当時自然主義全盛期の文学界に対する異国趣味と新鮮な近代感覚、同時代の日本文化に対する批判家としての新しさがあったと解説されている。
    アメリカ滞在後紐育を出航して仏蘭西のル・アーヴル港についたときの期待感が伝わる文体から始まる。
    「無数の信天翁が消えゆく黄昏の光の中に木葉の如く飛交う。遠い沖合には汽船の黒烟が一筋二筋と、長く尾を引いて漂っているのが見える。どうしても陸地へ近いてきたと云う気がすると同時に、海の水までが非常に優しく人馴れて来たように見え初めた。」
    夢と現実の景色か判別つかないという『船と車』、黄昏の色合いの美しさ『ローン河のほとり』、木の葉の散る様子と燈火との対比の物の哀れ『秋のちまた』、巴里の女性と日本人(黒田清輝がモデル?)との恋愛話をカッフェエで傾聴『おもかげ』、経験は尊き事実、リヨンでの女性に対する嫉妬にかられた行動を茶目っ気交えてかたる『祭りの夜がたり』、「フランス!ああフランス!自分は中学校で初めて世界歴史を学んだ時から子供心に理由もなくフランスが好きになった」「一語でも二語でも自分はフランス語を口にする時無上の愉快を覚える」と語り、巴里を離れることになってとどまりたい思いを連ねる『巴里のわかれ』、「かの仏蘭西ならば夏の中は九時ちかくまでもつづく幽暗美妙な黄昏も、この砂漠の海にあっては、夕陽は殆どその余光を止める暇がないので夜は唐突に非常な勢で下りて来るのである。」『ポートセット』、「ああ、われは如何にこのマロニエーを愛せしか」「忘れがたき記念は一ツとしてこのマロニエーの木陰に造られざるはなし。」マロニエ賛美の文章が続く『橡の落葉の序』など。(マロニエはフランス語名、正式にはセイヨウトチノキというらしい)美しく流れるような日本語で仏蘭西への思慕を体感できる。語学が堪能でないとここまで楽しめないのではと思うくらい現地の方との自然な交流には驚かされる。

  • 『あめりか物語』もそうだったが、100年も前だのにこういう日本人が居たんだなと感心した。

     この『ふらんす物語』は荷風があこがれていたフランスの地だけに、美しく、哀切のいろ濃いフランス紀行、観光案内の文章群でもあるが、明治維新によって上からの押し付けられた中味の薄い日本の文明開化への批判論でもある。

     西欧文明に触れて、浴したことが自慢ではなくて、自分の芯を持っている人が外国で暮らし、経験したことから得たものを、また自分の芯に組み替えて、愛国の情が増せども、それだから日本の文明文化批評にもなっていくのがわかる作品であった。

     当時発禁なったとの記事があるが、何がそうさせたのか、けして享楽的で退廃的な内容だけではないのかもしれない。

     なるほど、フランスでもアメリカでもおつきあいした女性はその筋の女性ばかり、売春婦や援助交際頼みの女たち。おやおや。でも描写が的確ですばらしいのだけど。

     しかも、そういう女性と喧嘩してゆきちがうと、もう我慢が出来ない。

     「もう二度と妾だの、囲い者なんぞ置くものじゃない。と決心したが、それにつれて、感ずるともなく深く感じて来るのは、結婚に対する不快と反抗の念とである。結婚とは最初長くて三箇月間の感興を生命に一生涯の歓楽を犠牲にするものだ。毎日毎夜…(後略)」

     と、「雲」の章の「貞吉」という男に語らせているのは作家の本音らしい。あらまあ。

     何度か結婚しては離婚し、作品の題材は花柳界やらカフェー嬢や私娼、踊子やらになり、晩年は孤高に暮らしていたものね。それが悪いといっているのではない。

     帰国して気骨のある耽美派の大御所になり、長い作家生活を送ったことは確かであるので。

  • 個人主義の流れから手に取る。個人的には情景描写がダラダラと続く文章は好みではないのですかこれは違った。その辺にあるもの(暴言多謝)とは全く別物で飽きがこない全くもって美しい文庫だ。
    当初、読む前に期待していた個人主義的な考え方はところどころに見受けられるものの、それ以上に文章にやられてしまった。また、よくある外国かぶれの的外れな日本批判なども鼻につくようなこともなく、その視点はこの時代には珍しく映る。おすすめは「巴里のわかれ」。79

  • 第一次世界大戦前のパリの駘蕩とした雰囲気の中、作者のニヒルで哀惜を含んだ筆致がないまぜとなり、読後、静かな哀愁に浸る。

  • 私のような、情緒を持ち合わせていない人間が読むと退屈になってしまう。ヨーロッパの情景ならば、沢木耕太郎氏の深夜特急のほうが断然面白かった。

  • 西洋かぶれ、と揶揄するのは野暮なくらいに思い切り西洋かぶれ。本当にこんなにフランスにどっぷり浸かった生活ができていたのかわからないが、できていたとすると明治の人の言語能力やコミニュケーション能力の高さに圧倒される。

  • フランスに滞在していた時の話。かなりフランスが好きだったのだと思われる。恋人もいたみたいだし。何年か前に行ったフランスの景色を思い出しながらよんでいました。

  • 今もしこんな人がいたら「どんだけフランスかぶれてんだ?」って言われるとこだけど、当時の標準的インテリはあっち目線に同化してなんぼみたいな所もあったんでしょうかね。

  • これが耽美なの? 女々しくてロマンチックだけどさっぱりしていた。よかった。ちょっとフランスのこと好きすぎでほめ過ぎだけど。日本のこと悪く思いすぎだけど。

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著者プロフィール

東京生れ。高商付属外国語学校清語科中退。広津柳浪・福地源一郎に弟子入りし、ゾラに心酔して『地獄の花』などを著す。1903年より08年まで外遊。帰国して『あめりか物語』『ふらんす物語』(発禁)を発表し、文名を高める。1910年、慶應義塾文学科教授となり「三田文学」を創刊。その一方、花柳界に通いつめ、『腕くらべ』『つゆのあとさき』『濹東綺譚』などを著す。1952年、文化勲章受章。1917年から没年までの日記『断腸亭日乗』がある。

「2020年 『美しい日本語 荷風 Ⅲ 心の自由をまもる言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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