- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101069210
感想・レビュー・書評
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声は出せないけど
ぶらんこが上手で
動物と話ができて
つくりばなしが得意な
一人の男の子と、
そしてその子の
つくりばなしに救われた
姉の物語。
金城一紀の「映画篇」や
ティム・バートン監督の「ビッグ・フィッシュ」
に触れた時に感じた
「物語の力」を
これでもかと思い知らされた小説です。
姉が喜ぶ顔が見たいがために
ノートに書き綴った
4歳の弟が考えたおはなしの数々。
哲学的で考えさせられる話ばかりだけど、
自分の胸には
痛いほど響いてきました。
命がけで手を繋ぐことで絆が深まる
ぶらんこ乗りの夫婦を描いた
「手をにぎろう!」
そして声を失った弟の
切実な思いが込められた
歌を捨てた郵便配達員の話
「うたうゆうびんはいたつ」
には
まんまと泣かされましたよ…(>_<)
やがて弟は初めてのサーカスでぶらんこに魅せられ、
この世のいろんなものと
しっかり手を繋ぐために、
誰よりも上手い
ぶらんこ乗りになっていく。
犬の伝言板として再生した
「指の音」という変な名前の犬と
声を無くした弟との
向かい合う空中ぶらんこのような絆がまた
なんともあったまるこな気分をくれるし、
指の音の腹に書かれた
最後の伝言はもう
反則でしょ〜(泣)
なぜ人は物語を必要とするのか?
物語とは
想像力の翼で空を翔る
魔法の絨毯のようなもので、
人間はその「物語」によって
他者の苦しみや痛みを自分のものとして味わい、
人を憂う心を身に付けていく。
人間と他の獣を隔てるものは
物語を必要とするかしないか、
その一点に尽きるんだと思う。
ラスト「冬の動物園」で鮮やかに見せてくれる
希望の錬金術には
誰もが泣き笑いになること必至。
(いしいしんじやるじゃんって思った瞬間でした)
シュールでへんてこだけど、
いつまでも記憶に残る
愛しい小説です。
あなたに重なる物語も
必ずここにありますよ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
家族(飼い犬も含めて)の愛情に満ちた、美しいお話でした。
引力っていい言葉だ。ちょうどいい距離で、お互い支え合っているような感じがする。
いしいさんて、こんなおはなし書く人だったんだ。ちょっと不思議だけど、すごく惹きつけられます。 -
動物がいっぱい出てきて不思議でゆるっと可愛くてユーモラスなのに、やんわり不穏な空気がずっと漂ってるお話。悲しいことは悲しくて、残酷なことは残酷で、全然シビア。それでも、出て来る登場人物と文章のタッチが優しくて愛しかった。あったかい余韻が残る終わり方。すごく好き。
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1ページめから、もうぐっときてしまいました。こんなふうに感じさせてくれる作家さんなかなかいないです。いしいしんじさんがますます大好きになりました!
一回読むだけじゃ足りないです。何度も何度も味わいたい素敵なお話。
2023.1.5再読
前回この本を読んだのが10年前ということに驚く。
内容はすっかり忘れてしまっていたので初めて読むような気持ちで読めた。
キラキラといつまでも胸の中に残る余韻が心地いい作品。
主人公や指の音は最後また弟に会えたのかなぁ。
宝物のような愛おしい作品です。 -
たまらない。
この雰囲気。
賢くて
動物と話ができて
ブランコ乗りと指を鳴らすのが、誰より得意な男の子。
そんな弟を持った、一人の女の子の物語。
どうしよう。
上手く言葉にできません。
ぶらんこ、サーカス、夜の散歩
絵はがき、夜ふかし、犬の掲示板
この言葉が気になった人には
とにかく、読んでみて欲しい。 -
久々に読んで、やっぱりこの人は天才だ!と思った。
すごく優しいのに、すごく冷静で客観的。
明らかにフィクションの、「ものがたり」なのに、
非常に現実的に、ものごとを描き出す。
月と地球がほどよい引力で引きつけ合っているように、
人と人とも、それぞれがそれぞれの引力で引き合う。
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「わたしたちはずっと手をにぎってることはできませんのね」
「ぶらんこのりだからな」
だんなさんはからだをしならせながらいった。
「ずっとゆれているのがうんめいさ。けどどうだい、すこしだけでもこうして」
と手をにぎり、またはなれながら、
「おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、すてきなこととおもうんだよ」
ひとばんじゅう、ぶらんこはくりかえしくりかえしいききした。あrしがやんで、どうぶつたちがしずかにねむったあとも、ふたりのぶらんこのりはまっくらやみのなかでなんども手をにぎりあっていた。
-------------(146頁)
人間が人と関わりながらいきていくということの、
それだけで生まれる哀しさ、喜び。
ときに残酷な面も示しながら、つよくやさしく生きていくことを教えてくれる小説。 -
誕生日プレゼントに貰った本で
なんて日本語ってすごいんだろうって思った。
ひらがなの魅力についてこんなに衝撃をうけるとは!
優しい雰囲気
危なげな空気感
じわりじわりと感覚で自分に落ちていく感じ。
ああ、なんだか不思議。
『ぼく』の気持ちがリアルに見えるみたい。
風景もまるで本当に見えているかのよう。
読んでいるけれど感じているという
不思議な感覚に陥った一冊。
トリップしたのだ、きっと。 -
通算四度目くらいの再読