- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101069227
作品紹介・あらすじ
音楽にとりつかれた祖父と、素数にとりつかれた父、とびぬけて大きなからだをもつぼくとの慎ましい三人暮らし。ある真夏の夜、ひとりぼっちで目覚めたぼくは、とん、たたん、とん、という不思議な音を聞く。麦ふみクーツェの、足音だった。-音楽家をめざす少年の身にふりかかる人生のでたらめな悲喜劇。悲しみのなか鳴り響く、圧倒的祝福の音楽。坪田譲治文学賞受賞の傑作長篇。
感想・レビュー・書評
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一度読み始めた本は最後まで読む主義のため頑張って読んだけど、自分には理解できない類の本だった。
ただひとつ「音楽のよろこびの大きな部分を合奏のたのしみが占めている。なにかにつながっていること、それをたしかめたい、信じたいがために、音楽家はこれまで、そしてこれからも、楽器を鳴らしつづけるのかもしれない。」という文章は共感できた。また、栗田有起さんの解説「読書とは、文字による合奏に参加することだ。」という言葉には大きな衝撃と共感を感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「自分は周囲から浮いてる、変わり者なんだ」と悩んでいる子どもたちに、是非読んでほしい。あなたは「へんてこ」だから独りかもしれない。でも、大きくなって世界が広がれば、「へんてこ」の仲間や理解者が必ず集まってくる。そして、これまでのことはすべて繋がって、大きなことを成し遂げることができる。だから、それまで「へんてこ」なところを磨いておいてね。「ねこ」と呼ばれる主人公の男の子の成長を通して、著者はそんなふうに語りかけているのかもしれない。
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完璧やられました。
またいしいさんの本で泣いちゃいました。
この本ステキすぎて言葉にならないので読んでもらいたいです。
読んでる間ずっと小学校のとき2年間やってた器楽クラブのこと思い出してました。大体はアコーディオンをやってたんだけど、1回だけシンバルをやったことがあって、間違えて鳴らしちゃったときの申し訳なさとか、先生に叩き方を教えてもらったこととか、なんかいっぱい思い出した!この本に出てくるおじいちゃんが先生だったら間違いなくティンパニーをぽいーんと鳴らされて怒鳴られるんだろうな(笑)
合奏の楽しさとか味わったすごく幸せな思い出です。
「音楽のよろこびの大きな部分を合奏のたのしみが占めている。なにかにつながっていること、それをたしかめたい、信じたいがために、音楽家はこれまで、そしてこれからも、楽器を鳴らしつづけるのかもしれない。」
また合奏したいなー。
今回わかったこと。
私にとってウソとかホントとかは別に大して問題ではなくて、語られるお話が好きだということ。
まぁ、何でも信じ込みやすい私だからその話がほんとなのか気になって仕方ないんだけどね(笑)
この本に出てくるんだけど楽譜にほんとに「ねこの声」とか「犬の声」ってあるんですかね?もしあるのなら、そんな音楽が聴いてみたい!
2008年12月18日 -
このひとの文章は、景色も音も匂いも温度も伝わってくる気がする。
突き放すでもなくくっつくでもない温かさ。
絵も描きたくなるし、音楽も聴きたくなるし、演奏したくなるし、お菓子もつくりたくなるし、散歩を楽しみたくなる。
生きたくなる。
それぞれの人生ににっこり笑ってしみじみ乾杯したくなるおはなし。 -
作中に出てくる楽曲が本当にあれば良いのに。
曲のタイトルが秀逸。『なぐりあうこどものためのファンファーレ』とか『赤い犬と目のみえないボクサーのワルツ』とか。
オーケストラ曲に「ねこの声 ほがらかに」(にゃー!)と指定が入っているのも良い。 -
普段、目をふさぎ、耳をふさいでしまうような悲しい現実の中から、きらきら光るものを取り出して大きくひびかせてくれる、いしいさんの小説こそ、「一流の音楽家」の音楽ようだな、と思いました。
いしいさんの小説では、胸がしめつけられるような現実を見せられるので、途中、読んでいてつらくなるのですが、でも、最後には、必ずあたたかい気持ちで本を閉じているのです。
「ぶらんこ乗り」も「トリツカレ男」もそうでした。
この感情は、胸がしめつけられるような現実を見せてもらったからこそ、得られたものなのだと思います。 -
一気に読み切ってしまいました。同じリズムで流れていても、音楽は先へ先へと進んでゆきます。変わらないことを抱えながら(あるいは信じながら)、自分に出来ることを黙々と続けることが大切なんだなぁ、と改めて気づきました。
僕たちはみんな「クーツェ」なんですね。 -
漢字の開き(ひらがな)が多いので
読み切るのに少し時間がかかりました。
前半にあるのは穏やかで停滞した世界。
後半に訪れるのは残酷で優しい世界。
後半に物語がどんどん加速するので、
途中で断念してしまった人も、
ゆっくり休み休みで良いので
読み進めて欲しいなぁと思う作品でした。
終盤に主人公のバックグラウンドが
靄が晴れるように一気に明らかになっていき、
それはそれなりに鬱蒼になる内容だけれども、
根底には思いやる気持ちが流れているので深く沈み込むことなく、
読後には柔らかな余韻に包まれます。
所々散らばる一見意味不明なパーツたちが組み合わせっていく様も読みどころです。
人生には救いのないことがままありますが、
この作品に悲劇は数あれど、本当の悪は描かれていません。
それが現実との境界線であり、いびつで愛おしい童話たる秘訣なのかもしれません。 -
なんだか、自分の中にぐいっと入って、ストンと落ちて、なじむのが難しかったように思う。
悪い意味ではなく。
…口に入れたはいいけど、なかなか飲み込めない感じ。食道あたりで詰まっちゃうみたいな。
やはり境界線というか、紙一重のところを描くのがとってもうまい。
そういうところに強烈に惹かれるのです。
きれいに「めでたしめでたし」で終わらないのもいい。
真に美しいと思える。
栗田さんのあとがきもすてきでした。