- 本 ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101069258
感想・レビュー・書評
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今は中途半端な町に住んでいるのだけど、前に東京に住んでいたことがあって、こういうタイトル見るとつい読んでみたくなるのですよね。
いしいしんじって何者かも知らず、読み始めて、タイトルからこちらが勝手に持っていたイメージと違ったので、ちょっと戸惑いました。
シュールな感じにちょっとついて行けないところもあったりして。
それでも読み進めていくと、じんわりと沁みるところが結構あって、悪くなかったです。
私のお奨めの一番は「築地」かな。あとは「浅草」「新宿ゴールデン街」「田町」ってとこでしょうか。
おしなべて後半戦が楽しめましたが、これはこの本の感覚に慣れてきたせいかも。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
巻末の解説にあった、境界を消しにいく人、という話。
すごくしっくりきた。
世の中にあるあらゆるものを、自分のもってる目で等価に眺めることができるひと。周囲が作り上げた括りに囚われるのではなく、自分が感じたまま、思ったままに向き合いそれを表すことができるひと。
自分の中に入ってくるあらゆるもの。あるがままでいようとして、ヘンテコでこっけいなもの。そんな存在に素直に寄り添い、紡がれる言葉という表現。
不器用なものたちにそそがれるやさしさに惹かれて、ぼくもこのひとの物語を読んでるんだと思った。
吾妻橋の下、イヌは流れる。
川は、人に似ている、と。
隅田川という川はそこにあっても、水はいつだって絶え間なく、ずっと流れていく。
私という人がここにいても、こころ、というか、いのちというか、そういうものはずっと流れていくんだなあ。
川はそこにある。水は流れていく。そして、すべての水は、合流する。いや、合流する以前から、ひとつの流れとして、すべての流れがある。 -
いしいしんじが詰まった作品。
いしいしんじが上手につく嘘と本当を、たっぷり堪能できた。
さっきまで日常にいたのに、気がついたらフィクションの中にいる、みたいな不思議な感覚が味わえる一冊。
なんていうか、境目が滑らか。
個人的には巣鴨のおばあちゃんの話と先生の話がよかった。
おばあさんの群れを「濃密なブラウン運動」と表現したのが笑った。
「人生の入り口と出口において、人間の風貌はユニセックス化するのだ。」も、なるほど。
先生のおでんの話や、「川はそこにある。水は流れていく。そして、すべての水は、合流する。いや、合流する以前から、ひとつの流れとして、すべての流れがある。」
なんだか錬金術みたいだなーと思った。
ぶらんこのりの、指の音もでてきて嬉しい。
でも正直、読むのに時間がかかった。笑
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いしいしんじさんの小説を読んでいると、いしいさんって普段はどんな人なんだろう?といつも気になる。普通の人は気にしないようなことを面白おかしく書かれていて普段も楽しい人なんだろうなと思う。
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村上春樹の『東京奇譚』とセットで読みたい「東京小説」集。
ちょっと怖い話もあり、不思議な話もあり。
クロマグロの一人称視点で、シラサケとの種を越えた恋が語られたかと思えば、「池袋」の町が擬人化された池袋くんが、池袋の町で酔いつぶれるとか、なにか頭の中が捩じれていくような不思議な感覚。
毛皮に落書きをされた、情けない老犬が、柴又の章にもほかの章にも出ていた。
「ぶらんこ乗り」でもそういう話が出ていたっけ。
野良犬やホームレスの人々など、町と一体化して生きる存在が登場する。捨てられたダッチワイフも。
恥ずかしながら、私は実生活でそういう存在に対し、見て見ないふりをしてしまう。
彼ら、彼女らは間違いなく町の一部。
実にいろいろな関係の取り方があるんだなあ、と思う。
どれだけ懐の広い人なんだろう。 -
1話目のシュールさに若干引いて、読むの止めようかと思ったのですが、読み切りました。
中には心地よい感動をくれる話もあったけど、気持ち悪いという印象の方が強く残ったかな・・・ -
凄い。
現実から非現実へとひょいと飛び越えていく物語が沢山ある短編集です。
あまりに自然に、唐突に非現実的な世界観が始まるので、逆に自然にすっと頭に入ってきます。
きっと、作者は現実のちょっとした風景から、
一気に想像力を膨らませるのだろうなぁ。
とても、面白い小説でした。 -
「ぶらんこ乗り」が面白かった印象があったし
(内容は覚えてない。。。こんど読みなおします)
原田郁子のアルバムで歌詞も書いてて印象が良かったので買ってみた。
すなも(南砂町)に入ってる古本屋が、品ぞろえ・価格ともに良かったのでびっくり。
短編集で、それぞれの話がほんの少しだけリンクしてるけど、そのリンクにほぼ意味はないみたい。
順番に読んでいって、4話目までは「つまらん。外したなあ」と思ってたけど、神保町の話でちょっといいなと思って、築地マグロの話はかなり良かった。
仲間たちより体が大きいクロマグロが主人公。
誰よりも速く長く泳ぎ続けるんだけど、
群れの中でもなんだか孤独で、ついには一人になっちゃう。
「お前は、変だよ。お前を見てると、なにか、悲しいんだ」
冒頭のシーンですでに漁港に引揚げられてて、
時々漁港のシーンが間に挟まれる形で話が進んでいくんだけど、
この進め方も、主人公マグロの悲しい強さを引き立たせてて、よくできてると思った。
そんなクロマグロがある日、メスのシロザケと出会って、恋をする。だけど
「うちらには実感ないけどな、このあたりの水温は、もうシャケには無理や。…あの子はシャケなんやで。マグロやないんやで。寒い、寒い、川の生まれなんやで」
関西弁のおばちゃんがいい味出してるよね!さすが。
ということでまあ、別れが来て最後に人間につかまっちゃうんだけど、築地で再会(?)することになって、ラスト。なんだけど!!!
このラストはなんなんだ。。。マグロの悲しい強さも、シロザケの一途な美しさも、すべてが台無しのラスト。これって最後のページだけ他の人が書いたんじゃないのかと思わせるほど、最悪の終わり方。
みんなこんなグロテスクなラストに感動するわけ!?安っぽいし、俗っぽくて、とってつけたみたいで、最低じゃん!
そもそも性的なものを「汚い」ものだと感じてしまうおれがロマンチストすぎるのだろうか。
みんな、「子どもは愛の結晶」なんて気持ち悪いことを、キリッとした表情で、心から言えちゃうのかな。気持ち悪。。
とまあ、なんだか最後はよくわからなくなっちゃったど、これだけ話の種になるってだけで、いい本の証拠だよね。
大半はつまらなかったけどね!
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