ある一日 (新潮文庫)

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  • 本 ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101069326

感想・レビュー・書評

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  • 最近のいしいしんじの小説はちょっと固いというか重いというか、自身の家族にふりかかった悲しみを受け止めきれず作品に投影した私小説に作風変わっちゃった?という印象でしたが、それもこの作品で終わるでしょうか。『みずうみ』の三章にも登場した、作者自身とおぼしき慎二と園子の夫婦、彼らのその後がこの『ある一日』になります。『みずうみ』で誕生する前に失った子供、その悲しみを乗り越えて今度は園子が無事出産をする、その一日だけを描いた作品。

    後半は、ひたすら出産までの痛い、苦しい描写がえんえん続くので、読んでるほうまで手に汗握って疲弊しましたが(もちろんその分、無事に生まれたときの感動もひとしおですが)、前半、夫婦が京都をぶらぶらしているだけの部分は奇妙な浮遊感があって好きでした。たとえ出産シーンがえんえん続くにしても、全体的にマジックリアリズム的手法が多用されているので、なまなましさよりもある意味ファンタスティックな印象が残ります。

    余談ですが「地蔵盆」、子供の頃から当たり前に毎年行われていたので、私は大人になって京都を出るまで全国でおこなわれている行事だと信じて疑っていませんでした。そのせいかいまだに「お地蔵さま」にはどこで遭遇しても妙に親近感を抱いてしまいます(笑)。

  • 園子さんの出産を私小説として描いている。
    ごはん日記のファンなので、やはり事実は日記として読むのに敵わないのだが、
    出産の描写は未経験者にはとても恐ろしく、かつ、尊い。
    園子さんのバースプランが巻末に載っているのもよかった。
    高齢出産ということもあり、いろんなひとに希望を与えるとおもう。

  • こんどこそは、この世に生まれてきてくれる――。ひとつの命の誕生という奇跡をのせて、天体は回転しつづける。人生最大の一日を克明に描きだす、胸をゆすぶられる「出産小説」。

    出産前に読んでおきたくて、予定日まであと17日というところで読了。
    いしいさんの作品で現代が舞台のものは初めて読むから、どんな感じなのかなぁと思ったけど。くるくると情景が変わっていって、やっぱり不思議な感じ。
    陣痛〜出産シーンは壮絶…。〝お腹の中の小さな「いきもの」〟目線がとても良かった。
    バースプランは泣いた。

    2020.7再読
    こないだ読んだ「京都ごはん日記」のすぐ後の出来事。
    いしいさんと園子さんの赤ちゃんのお話。

    前に読んだ時は出産前だったけど、出産後のいま読むと陣痛の描写にうんうん頷いていた。
    『だんだん人間でなくなっている、見まもる慎二はおもい、いっぽう園子には、そんなことはもうとうにわかっていた。』
    『気絶できればまだ楽なのに、からだは燃える筒のように覚醒し、痛みとまぶしさのあまり目をつむることもできない。』

    お腹の中の「いきもの」の目線。
    『あらゆるものと一体だった自分が、いまはもう、すべてから切り離され、そうして、その切り離されてしまったものの影武者ばかりが、まわりにどさどさ無秩序に転がっている。』
    確かにそう考えると、いきなり外に出され今まで一緒にいた紐やぶよぶよと離れて心細いし泣きたくもなるよね。
    妊娠出産は神秘。

  • 前半ははもとまつたけを食べる2人が印象的。
    そして園子さんの出産シーン。私もつい3ヶ月前に体験したのが誇らしく思えるぐらい、神々しくて、奇蹟に近い営みなんだと思わせてもらえた。
    母親目線だけでなく、これからまさに産まれ出ようとする胎児の目線で書いてある文章はものすごかった。手に汗を握るぐらいドキドキした。
    また読み返したい。

  • 恐らくは作者自身の、ある夫婦の出産の一日。日常からはじまり陣痛を経て出産へ至る過程が、実に濃密にでも淡々と描かれています。独特の言葉遣いや、こちらとあちらを行き来する文章に圧倒されながら、ずんずんとお腹の底から力が湧き出てくるかのような気持ちにさせられます。

    視点は夫から妻へ、妻から夫へと移り変わり、そして生まれて来る子の視点へと繋がります。それは生き物の持つ道であり、土地が結んだ道でもある。
    最後にバースプラン(どのように出産したいかを記したもの)が提示されるのですが、それを読むと今まで通った道をもう一度振り返りたくなります。何とも力に満ちた物語でした。

  • 自分と関係のないものばかりのこのひどい場所で、かぼそいその光の筋だけが唯一好ましく、あたたかみを帯び、じっと見守っていてくれる感じがした。

  • 読み進めていくうちに、タイトルの「ある一日」を実感してハッとした。

    1つ目は、この小説が一日ちょっとの出来事であること。
    いしいしんじの言葉巧みな描写が、「ある一日」にこれほどの読み応えを与えている。

    そして、もう1つは当たり前だけど「ある一日」の過ごし方は人それぞれ違い、どこかで違うドラマが起こっているということ。
    登場人物以外の時間の存在を認識することで、「ある一日」の奇跡をより感じた。

    記憶はないけど、何故か「いきもの」に共感する傍ら、
    読者としてこの奇跡に純粋に感動できる、そんな物語です。

  • 京都での出産の一日。神秘的な描写が多かった。

  • いしいしんじ読んでいるとどこかへ連れていかれるんだよなぁ

  • 園子の出産場面、最後の手紙でボロボロ泣いてしまった。
    本を読んで泣いたのは『西の魔女が死んだ』以来だと思う。

    最初の方こそ、登場人物2人の視点があっちにいったりこっちにいったり、ハモやうなぎの話をしたりで読みにくい小説だなぁ、と思ったけど、読み進めるとそれらが全て『生まれる』ことや『生命のエネルギー』や、その逆にあるであろう『死』に繋がっていたのだなぁ、と感じる。

    京都の街を舞台にしているのも、伝統行事や錦市場の色が作品にすごく良いスパイスになっていると思う。

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著者プロフィール

いしい しんじ:作家。1966年大阪生まれ。京都大学文学部卒業。94年『アムステルダムの犬』でデビュー。2003年『麦ふみクーツェ』で坪田譲二文学賞、12年『ある一日』で織田作之助賞、16年『悪声』で河合隼雄物語賞を受賞。そのほか『トリツカレ男』『ぶらんこ乗り』『ポーの話』『海と山のピアノ』『げんじものがたり』など著書多数。趣味はレコード、蓄音機、歌舞伎、茶道、落語。

「2024年 『マリアさま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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