海と山のピアノ (新潮文庫)

  • 新潮社 (2018年12月22日発売)
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  • 本 ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101069333

作品紹介・あらすじ

「四国って土地だから行政からほっといてもらえるのかもしれない」二年に一度、村の全員で住む場所を移す「村うつり」。私は“足” を澄ませ、移った故郷を探す(「ふるさと」)。三崎の若い漁師達は遭難し、マグロになった。海に飛び込もうとする彼らを 咤したのは船頭の大マグロ。励まされ、必死に漁を続けると──(「野島沖」)。生も死もほんとうも噓も。物語の海が思考を飲みこむ、至高の九篇。

感想・レビュー・書評

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  • それぞれが一見突拍子もない話に見えて、世界が海でつながっているように短編全体が同一のテーマで満たされている。
    全体が非常に考えられて構成されていると感じる。海や山といった平地とは違う高さにあるものはどこか異界とつながっており、平地に恵みや災いをもたらす。ときに荒々しく、時にやさしく人々と共鳴する。

    個人的には海賊船の話が特によかった。

  • 水といのちのお話。陸は海、海は陸、生も死も一続きになって「うた」にのせてぐるぐる回る、そういう強いテーマが短編たちの間に貫かれていてとても統一感ある短編集だった。
    「ルル」はちょっと反則だろう、と思いながらボロボロ泣いたけど、一番好きなのは「野島岬」だ。
    「わかんねえからってびびっちまって、ちっちゃけえ理屈ぶっかぶせようってもよ、金魚すくいの網でメカジキ追っかけようってなもんなんだ。わかんねえもんはしゃんねえべ、オイラもオメエらも脳みそこんなだしよ。けどよ、パッと見意味なくって、わかんなくってもよ、どんぴしゃのアタリって、案外目の前にぶらさがってんみてえなもんじゃねえか、なあよ、オイ」
    そう、私も脳みそこんなで、金魚すくいの網だから、いろんなことわかんないけどしゃんないよね、と思ってなんかすがすがしく、すっきりした。
    漁師たちの台詞がまた面白くて、微妙に言葉が足りない感じ、繰り返される感じ、荒々しいリズムが、ああ海で生きている言葉なんだと思ってすっと入ってくる。これも「うた」かな。

    解説も良かった。いしいさんの本の暗闇の話。私は「プラネタリウムのふたご」が大好きなんだけど、あれもどうにもやりきれない闇、かなしさが広がっていて、でもそれと共にある人間とおはなしの強さが暗闇にきらきら光っていた。言わんとすることすごくわかる。
    「しかし本作では、それがけっしてただの悲しみとしては描かれない。……それら無数の境界を越えていく。」
    確かに、どの話もすごく優しかった。大丈夫、暗闇の中でつながっている、続いている、ずっとずっと続いている、たまに入れ替わりながらも続いている。全部が当たり前だと思える、お話の力強さ。いしいさんだなあと思う。

  • ルルや船長、オヤジさんやちなさ。そして、キキさんやアヤメさんは、きっとこの星の、このくにのどこかにいるのです。そして、わたしのこころの中にも。

  • 自分と他、あるいは人と人以外のもの、現実と幻想、生と死、さまざまな境がしゅるんと溶けて、それがどうしたの?という顔で成り立つ世界。
    解説が彩瀬まるということにも納得。

    一読しただけではよくわからず、各篇を2度読みした。(短編集で助かった…。)
    『四とそれ以上の国』より、はるかに受け入れやすい。

    これは…震災後文学?
    大事故、大災害を経験した人々、地域が多く登場する。
    境が揺らぐ世界であることは、単純な癒しにはつながらないのだろうけれど、世界とつながることをやめないでいることが大切なのかな。

  • 何を伝えているのか分かるようでいて、分からない。
    何も考えずに文章のキレイさを楽しめばいいのかなと思う。
    前半の3つは比較的わかりやすくて、面白かった。

  • 明け方、眠りから覚めかけたころにみる夢のように、なんだかもあもあとした浮遊感のあるお話でした。ふわふわとした浮遊感ではなく、もやもやとしたでもない、もあもあとした読み心地のする短編集でした。
    9つの物語は、すべて水に関連していて、生と死が混在しています。この世と異界との境目もあやふやです。命あるものはいずれ終わりを迎え、形あるものはいつの日か崩れ去り、跡形もなくなる。そんな当たり前のことを、当たり前のこととして受け入れられないから、人の営みって面白味があるんでしょうネ。真実なんて探し求めたところで、どこにもないのかもしれません。当たり前のことを、当たり前のこととして受け入れたとき、さらに面白みが増すような気もしないではありません。


    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • 隅から隅までいしいしんじで満たされている。そんな短篇集です。
    生と死、光と影、静と動、清と濁、それらが対を為すのではなく混じり合い、しかしひとつにはならないような。そんな混濁とした感じなのに清らかに透き通っている。それがいしいしんじの作品に接した時に感じるものなのです。

    二年に一度行なわれる「村うつり」、子どもの上に現れる透明な女の人とエアー犬、海からやって来た少女とピアノ、あたらしい熊を求める僕。突拍子もない設定に放り込まれて巻き込まれて流されて、行き着く先はどこなのか。想いも感想も思考も全てを飲み込む、そんな物語たちが詰まったいしいしんじの短篇集。

  • 不思議な短編集。
    生と死、善意と悪意、色んなものが同居する世界が
    とても独特な雰囲気を醸し出しています。
    暖かいのだけれど怖い、そんな世界観が大好きです。

  • 久しぶりのいしいしんじ、短編集。2年ごとに村人みんなで移動する「村うつり」だとか、秘密結社のような海賊の勧誘だとか、マグロ漁師がマグロになっちゃうとか、海からピアノに乗って女の子がやってくるとか、どれもちょっと不思議というか不条理というか独自のルールが設定されていて、飲みこむのに時間がかかるのだけど、こういう世界観自体は好みなので基本的には全部おもしろく読んだ。ただし何作も続けて読むとなぜかしら意外と消耗する。寝る前に1作づつ、とかにしとけばよかったかも。

    一見なんの繋がりもない短編だけれど、共通点は「海」と「うた」そして何らかの災害、それも圧倒的に波にさらわれる系の。直接的な表現はされていないけれど、やはり震災後に書かれたものだからだろうな。乱暴に分類すると海(川)は死者の領域、陸は生者の領域で、港とか、浅瀬とか、水際は死者と生者が共存、入り混じって行き来する領域なのだと思う。どの短編もだからテーマは同じで、その共存の形のバリエーションだったんじゃなかろうか。

    大好きだったのは「ルル」これは泣く。風邪薬ではなく見えない犬の名前。江國香織さんの「デューク」に匹敵する犬ものの名作短編だと思う。「川の棺」に出てくるガーナの個性的な棺桶の話はテレビで見たことがあったので目に浮かんだ。お葬式が楽しそうなのはいいな。「あたらしい熊」はちょっと難解だったかも。「浅瀬にて」は「穴」の話が怖かった。

    ※収録
    ふるさと/ルル/海賊のうた/野島沖/海と山のピアノ/秘宝館/あたらしい熊/川の棺/浅瀬にて
    解説:彩瀬まる

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著者プロフィール

いしい しんじ:作家。1966年大阪生まれ。京都大学文学部卒業。94年『アムステルダムの犬』でデビュー。2003年『麦ふみクーツェ』で坪田譲二文学賞、12年『ある一日』で織田作之助賞、16年『悪声』で河合隼雄物語賞を受賞。そのほか『トリツカレ男』『ぶらんこ乗り』『ポーの話』『海と山のピアノ』『げんじものがたり』など著書多数。趣味はレコード、蓄音機、歌舞伎、茶道、落語。

「2024年 『マリアさま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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