田園の憂鬱 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1951年8月17日発売)
3.30
  • (16)
  • (19)
  • (54)
  • (10)
  • (5)
本棚登録 : 536
感想 : 44
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 本 ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101070018

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 初佐藤春男、1919年発表の代表作。読んでるうちに気持ちが沈んできたので、タイトル通りの作品なのかもしれません。

  • 親から大金もらって女優の妻と田舎暮らしするというご機嫌なご身分で憂鬱を味わってるという全く共感できないというのが率直な感想。
    暮らしの中の観察というか自然の描写は凝っているというか文豪っぽい気がする。あまり面白い話でもないが短めに終わるので読みやすい。元々のタイトルの方が作品に合っていたのではなかろうか。

  • これほど内容と題名がマッチしたと思える小説も珍しいのではないだろうか。まさにそのまんま。(笑)
    妻と2匹の犬(レオとフラテ)と猫(青)を連れて、片田舎の田園風景の中の一軒家に男が引っ越してきたところから物語は始まる。いや、物語といっても何か筋書きがあるわけではない。そこに住み始めた男の自然の中での生活や人との交わりを過ごす中で、雨季の鬱陶しさとともに神経質な気質や癇癪、幻覚が次第に全面を覆い高じて、狂寸前の頂点の中で自らを薔薇に象徴して振り返るところで物語が終わるという話。
    もともと本書自体の原作が「病める薔薇(そうび)」で、さらに「田園の憂鬱 或は病める薔薇」となり、本書の「田園の憂鬱」になるまでに加筆・改稿・合体と紆余曲折があったようで、初頭の薔薇(そうび)への世話と、最後の象徴化とで、ようやく主人公の男の田園でのあり様に一貫性を与える物語となっているように思える。
    生活の中であらわれる数々のエピソードが面白いが、色彩感覚のある田園風景と、細やかな人物や動物描写、そして主人公の男の神経質な言動の切迫感は見事に表現されている。静かな自然の中でともに生きることの憂鬱さを詩情豊かにあらわした作品。

  • 佐藤春夫の代表作。詩人として有名な佐藤春夫だが、現代の読者家からは詩よりも本作が有名ではないだろうか。

    本作は、妻とペットを連れて、都会から田舎へ引っ越した若者の心情の移り変わりを、精緻な風景描写とともに記述したものだ。
    著者が実際に置かれた状況と似ているので、私小説かもしれないが、そうでないようにも思える。私小説のように、作者が物語に介入しているとは感じないのだ。しかし、主人公が見る景色、田舎で得た感情はあまりに瑞々しく、鮮明だ。そして、時々濁りも混じっている。これは実際に経験しているものでないと書けるはずがない域に達している。
    本作が私小説ならば、私小説の灰汁を上手く掬い出せている。私小説でないならば、想像で(実際に見たものもあるだろうが)情景をここまで言語化できるのも素晴らしい。

    自分が置かれている場所から憧れた場所への跳躍、そこでの喜び、発見、そして苦悩。そうした状況は、100年以上経っても、人々の共通項として立ちはだかり、新たな世界をもたらしてくれる。

  • 作家の顔で買った気がする。変な惹かれ方だ。

  • 都会の重圧と喧騒に苦しみ、己の生の意味を見失った青年が、愛人と二匹の犬と一匹の猫をかかえて草深い武蔵野の一隅に移る。

    田舎の草葺き屋根の一軒家を紹介してもらったとき、青年が感じたのは自然に包まれた大らかで穏やかな生活だったのでしょう。愛人の不安をよそにこれからの隠棲生活に思いを馳せます。ところが、長雨やご近所トラブル、変わり映えのない食事や風呂のない生活。いろんな鬱々とした感情が彼を襲いはじめます。それにしても幻聴や幻覚の描写はまるで絵のように思い浮かべることができます。愛人がいない夜。犬たちと暗い台所の土間で心細そうにしている青年の背中なんか、ぽっかり浮かんできます。この精神のバランスが危うい青年の憂鬱さと生命力溢れた田舎の自然や人間と(犬たちも!)の対比が印象的でした。

  • 学生時代以来、25年ぶりに読む。国立の増田書店で買った文庫。5回の引越しを経て、かなり状態良く残る。
    タイトルからして憂鬱と言っている通り、とにかく陰気。東京の街中から田園に引っ越した人がネイチャーの中で経験する、嫌気と数々の幻聴幻覚。

  • 初稿題名は『病める薔薇』だったそうだが妙に納得。全体に漂う沈鬱な雰囲気と精神薄弱の支離滅裂な主人公の言動が相俟って、幻想的な空気を作り出している。静謐が不気味であり、主人公の一挙手一投足が冴え、狂気を感じさせるのだが、美しいのはなぜだろう。不思議な魅力を持った作品だ。

    1919年といえばいまから100年前だが、いまと違って情報が限られた世界のなかで本書を読んでしまうと気が違えてしまいそうな気がする。(誉め言葉)

  •  自然の描写は美しいが、それ以上に主人公たる『彼』の気鬱の病の描写が怖い。雨のシーンは恐ろしいが、惹かれる。
     後半は、頼むから早く病院へ行け、あたられる奥さんが可哀想、と思ってばかり。
     田舎生活に憧れて移住して馴染めない状況が気の毒になる。縁故も頼る人も仕事もない零スタートの厳しさを感じた。

  • 佐藤春夫の情景を表現する見事な筆致。現実と幻想の間で、ふらふらと、不安定に展開される彼の思想が不思議な味わいをそこに表現している。短く、明確な筋もないながら、不思議と引き込まれる作品。

全44件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

さとう・はるお
1892(明治25年)~ 1964(昭和39年)、日本の小説家、詩人。
中学時代から「明星」「趣味」などに歌を投稿。
中学卒業後、上京して生田長江、堀口大學と交わる。
大正2年、慶応義塾を中退、
大正6年、「西班牙犬の家」「病める薔薇」を発表し、
作家として出発。
「田園の憂鬱」「お絹とその兄弟」「都会の憂鬱」などを
発表する一方、10年には「殉情詩集」、14年「戦線詩集」を刊行。
17年「芬夷行」で菊池寛賞を受賞。23年、芸術院会員となり、
27年「佐藤春夫全詩集」で、29年「晶子曼陀羅」で
それぞれ読売文学賞を受賞し、35年には文化勲章受章。
小説、詩、評論、随筆と幅広く活躍。

「2018年 『奇妙な小話 佐藤春夫 ノンシャラン幻想集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤春夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×