- 本 ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101079028
感想・レビュー・書評
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田山花袋
初めて読んだ。田舎教師 教員としてスタートした自分と重なったから読んでみた。人は今いる場所で頑張らねばならない。つい華やかな友人の道を羨ましく思ってしまうことがあるが、今いるその場所で輝ける人はきっとどこでも輝ける人なのであろう。2020.9.22 -
志は挫け恋にも破れた主人公の孤独の心情、その寂しさをあの手この手で遣り過ごそうとする悪足掻き(友人への嫉妬、生活に安穏とする同僚への軽蔑、日々の労働とは無関係の素人研究への熱中、上級資格の検定試験を受けて何とか成り上がろうとする試み、幼いがゆえに純粋な者たちと接する中に見出す慰め、商売女との仮初の交わり、遠いところへの憧憬、世捨人然とした生活、諦念と沈黙・・・)、それが今までの自分の姿と重ねられる。
"あゝわれ終に堪えんや、あゝわれ遂に田舎の一教師に埋れんとするか。明日! 明日は万事定るべし。"
自己の内面に一度でも沈潜してしまった者は、その深淵に比して自らを捕り囲む実生活の尺度が余りに卑小であることに、軽蔑と戦慄を覚える。唾棄すべき俗世の中で何者かとして固定され埋れてしまうことへの恐怖。つまらぬ日常は、それこそ毎日、補給され続ける。
内的な理念によって自らを吊り支えることも能わず、他者と情愛を遣り取りする合せ鏡の間に自己の居場所を見つけることも叶わず、かといって世俗の汚泥に頭まで浸かりせいぜい実利計算にばかり長けた小賢しい愚鈍の俗物に堕することも潔しとしない。自殺もできぬ、発狂もできぬ、宗教にも走れぬ。せいぜいが、束の間、生理的快楽に孤独を紛らわせるくらいしかできない。
内的な信念への重苦しい誠実さを抱え続けること、実生活の尺度に合わせて「小さく生きる」こと――ルカーチならば、節制 Haltung と呼ぶだろうか――、如何にしてその折り合いをつけていけるものだろうか。執着か妥協か、何が本当なのか分からない。
嘗ての教え子である女生徒の中に清三の影が残っていることが、救いだ。 -
田山花袋はとても評価が低いらしくて、どんな文庫の
「あとがき」を読んでも「ぬるい」ということが書いて
ありますけど、こんなに風景をテンポよく、さりげなく
書ける作家は田山花袋ぐらいじゃないでしょうか。
私は大好きです。明治時代にタイムトリップしたい!
と思ったらすぐに読み始めます。ただ、、、主人公が
ちょっとどうしようもなく辛そうなのは辛い、、。 -
自然主義作家田山花袋の代表作の一つ。世に出て事を成し遂げたいという志を有しながらも恋に夢に生活に破れる田舎教師の挫折。
本作が発表されたのは一九〇九年。実に百十五年前である。にも拘らず主人公・林清三には何処となく親近感すら感じて了う。彼の理想と現実のギャップに悶え苦悩する姿はまるきり現代の意識高い系の若者に他ならないからだ。
志と言っても、具体的なものは無く、兎に角何でも良いから世に出て成功者に成りたい。そんなところだろう。時代が五十年違えば安保闘争にでも燃えただろうか。尤も清三なら病床に伏して歯痒い思いをするだけかも知れないが。
時代が変われども人間の本質は変わらない。そういう普遍の真理が、田舎教師林清三の姿を借りて此処に描かれている。 -
やっと読み切った本。何度か挫折しながら読んだ。解説を読んでやっと理解できた。
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友人知人が前途に希望を持って都会に行き、また日本全体が日露戦争という国事に奔走する中、哀惜や諦念の流露を伴い田舎の一教師として埋もれていく主人公の姿が描かれる。
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5月13日『花袋忌』この一冊
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