クラインの壺 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 2354
感想 : 237
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101080123

作品紹介・あらすじ

ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は…。現実が歪み虚構が交錯する恐怖。

感想・レビュー・書評

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  • この世界感を30年以上前に作り出した作家さんの発想に脱帽。
    どこまでが現実でどこからが仮想現実なのか、疑心暗鬼で狂っていく心理描写も良かった。

  • ❇︎
    クラインの壺/岡嶋二人

    徳山諄一と井上泉(現在、井上夢人)共作筆名。

    内側と外側の区別のない世界。
    この小説の初出が今から約40年前というのが、
    本当に驚きでした。

    現代のバーチャルリアリティ以上に、
    リアルとバーチャルゲームの境目がない
    状態を作るK2という機械の試作品モニターとして
    主人公がチェックを行なっているという設定。

    限られた登場人物の中で、いかにも怪しい人物が
    現実なのかK2という壺の中なのか判別できない
    恐ろしさをヒシヒシと感じました。

    いつか技術がどこまでも進んで、
    生きて経験していること全てが擬似体験に
    なってしまうのか。

  •  世界の実在性といえば、最近僕が書いたレビューをお読みの方がいらっしゃったら「オメェまたその話かよ」とか言われてしまいそうだが、本作もざっくり言えばそんな感じ。SFミステリーが大好物だということもあり読む前からして既に期待度は高かったのだが、読み始めるとページを繰る手が止まらず、思わず一気読み。
     展開自体はVRを題材とするのだからこう来るよねと概ね予想通りではあったが、まずこれが30年以上前に書かれたことに驚く。結末の解釈が読者に委ねられているのも良い。つまり、上杉は最終的にクラインの壺の中に閉じ込められたままなのか、壺の外に逃れているのにも拘らず自ら死を選ぼうとしているのかという点である。読者が記述を丹念に読めば答えが見つかるかといえば、そうではない。寧ろその逆で、読み返すと余計に、どちらの解釈が正しいのか次第に分からなくなってくる。例えば、「戻れ」という声が最初に上杉に聞こえたのはイプシロン・プロジェクトが上杉のことを騙し始めた(と上杉が考えている)時点より前であり、また真壁が指摘したように『クライン2』の目的を玩具だと考えることには確かに違和感がある、といったことなどからは上杉はクラインの壺の中に居るように思える。一方で、上杉をクラインの壺の中に閉じ込めておく理由もよく分からない。もし上杉がクラインの壺の中に居るのなら梨紗は死んでいるわけで、しかもイプシロン・プロジェクトは(アメリカでそうしたように)そのような不祥事を揉み消せるだけの力を持っているのだから、上杉のこともさっさと殺した方が面倒が無いだろう。では、上杉はクラインの壺の外に居るのだろうか…。結局、どちらの解釈にしても決め手がなく、謎は謎のまま、読者は宙ぶらりんのままである。
     世界の実在性について、この本を読んで思ったことを最後に一つだけ(結局書くんかい)。そもそも我々は、あるいは少なくとも僕は、なぜこの世界が実在しているのか、それともしていないのかということが気になるのだろう?その答えを知ったところでこの世界の在り方自体は変わらないというのに。人の好奇心の成せる業と言って了えばそれまでの話ではあるが、そこにはそれ以上の何かがあるような気がする。例えば、もし仮に、この世界が実はゲームの世界であることを、それなりの、一瞬でもそうかなと思わせるぐらいの、根拠とともに教えられた(もちろんそのような主張を、この世界の中で真に裏付ける証拠は原理的に存在し得ないのだが)と想像すると、何か、心の奥がざわざわするような不安を感じる気がする。上杉が呑まれてしまったのも、きっとこの恐怖だと思う。では、この不安・恐怖は何処に由来するものだろうか?世界が確かに存在しているということが、人が生きる上でそんなに大事なことなのだろうか?

  • 今、読むからこそ、VRだったりが普及して、現実と仮想空間が入り混じる恐怖が伝わってくる小説。1989年の作品みたいです。クラインの壺は実際に存在する言葉であり、読み終わってタイトルの意味を調べて読み返して、納得。結末は読者に委ねられている気がする。何が真実で何が虚構なのか。これからの時代、仮想空間がリアルになればなるほど現実との境界が曖昧になってくる。そもそも今僕が感じている現実も、僕が現実と認識しているだけなんだよなーと、哲学的な観点もあったかもしれない。

  • けっこう前に読メでどなたかが読んでてその感想を見てずっと読みたいと思ってたのをようやくブックオフ110円コーナーでみつけたので買ったのですが、ちょうど良いスリルでめちゃくちゃおもしろかったです。
    VRに目をつけた先見の明作品のひとつなんだろうけど、時代設定は当時のままだから連絡くるのを待つ手段が家にいることしかないの不便すぎ〜とか思った(そういうのも楽しい)。
    読後感はかなり読者側の随意という感じだけど、自分が今いる世界への疑惑という点ではけっこう馴染みのあるテーマでそういうの含めて展開にドキドキした。

  • 30年前の本なのに今読んでも古くない、というか今の方がピンとくるのかもしれない。現実と仮想現実がだんだんお互いを侵食してくる恐怖は、これからが本番なのかなという気がしています。
    現実としか認識できないレベルのヴァーチャルゲームや体験はこれからあり得るよね。当分無いだろうけど死ぬまでにはありそうな気がする。

  • 僕には子供の頃から今だにふとした瞬間に陥る感覚がある。

    気がつくと、今の自分は回想であって本当の自分は病院のベッドの上。命を綴じる間際。

  • これが平成元年の作品だと思うと恐ろしさを感じる。ポケベル、留守番電話、記憶領域1MBのPC、これらのキーワードが出てくるのを確認すると、その時代にVRが描かれていたなんてなかなか信じがたい。

  • 井上夢人作品にハマって辿り着いた岡島作品。
    いやはや面白い。
    現実がぐんにゃりと歪んでしまうような感覚が味わい深い。

    これもまたカテゴリー分けしずらい作品だ。
    また、いつか読み返すであろう。

    大満足。

  • 400ページほどある長編の小説だが、ぐいぐいと読ませるのですぐに読み終えてしまった。
    新作ゲームのアルバイトをする主人公と同じくバイトをするヒロイン?との話だけど、途中からスピードアップしてきたら一気にラストへ。
    夢かうつつか分からなくなる描写は面白いの一言。言葉づかいや風景描写も古びれてなく、これが1989年にできた作品とは・・・!と思わせる作品。

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著者プロフィール

岡嶋 二人(おかじま・ふたり)
徳山諄一(とくやま・じゅんいち 1943年生まれ)と井上泉(いのうえ・いずみ 1950年生まれ。現在は井上夢人)の共作ペンネーム。
1982年『焦茶色のパステル』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。86年『チョコレートゲーム』で日本推理作家協会賞を受賞。89年『99%の誘拐』で吉川英治文学新人賞を受賞。同年『クラインの壺』が刊行された際、共作を解消する。井上夢人氏の著作に『魔法使いの弟子たち(上・下)』『ラバー・ソウル』などがある。

「2021年 『そして扉が閉ざされた  新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岡嶋二人の作品

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