蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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本棚登録 : 3004
レビュー : 398
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101084015

感想・レビュー・書評

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  • 最初はプロレタリア文学として、その思想的背景が嫌であえて避けていた。
    間違いだった。

    少なくとも「蟹工船」は、共産主義やその周辺の思想的な記述はポツポツと出るだけ。
    しかも見かけ上は過度の共産主義賛美な箇所は見当たらなかった。
    作者の意図を度外視すれば、この小説の面白さはイデオロギー(団結、反権威など)とは別のところにあると思う。
    現代に生きる我々としては、例えば多彩な人物の登場であるとか、セリフを多用した臨場感や、濃密な空間を設定し、そこで起こる出来事や感情の動きを一つ一つ追う、といった、いわばオーソドックスな手法から、小説的面白さを汲み取ることができるのではないか。

    そもそも「蟹工船」の設定は古臭いものなのか?
    船内の狭い空間に何百人という漁夫たちが押し込められた描写は、満員電車でもみくちゃになった通勤風景を想起させ、死ぬ寸前までの労働者の酷使は、過重な残業を思い起こす。
    蟹工船の労働者と現代のサラリーマンとが、私のなかであまりにも重なり、古さを全く感じなかった。
    だからと言って、「サボ」を現代人にも薦めるつもりは全く無いけど…
    我々の過酷な労働環境をどう改善すべきかは、また別の機会に考えるとして。これを共産主義文学や革命文学というくくりで読もうとするから話がこじれるのであって、純粋に多喜二の小説的技法を味わう、といったノリでいいんじゃないか。
    (2007/2/8)

  • 29年前に読んだ本らしい。当時はプロレタリアートという語さえ理解できなかったに違いない。
    「蟹工船」は数年前だったか、世間で妙にリバイバルされたようで、「いま」のリストラ吹き荒れ、賃金がどんどん下がってゆく状況とこの作品内の労働状況とが似ている、とのことだったが、果たしてどうか。
    「蟹工船」の世界では極めて劣悪、過酷な労働を強いられており、死者さえ出すことから、ロシア人から「アカ」思想を吹き込まれたことをきっかけに、雑多な経歴をもつ労働者集団が自然発生的にストライキを組織するに至る。
    ここでの雇用者-被雇用者という対立図式は極めて明快であり、ストの自然らしさには説得力がある。雇用者を代弁している「監督」は悪辣な人物であり、同情の余地はない。ただし、彼でさえ、最後にはクビにされるので、実は被雇用者にすぎなかったことが確認される。
    小林多喜二の死の前年に書かれ、「前編おわり」という文字で終わる「党生活者」では、主人公は完全に当時非合法な共産党員として活動する。しかしマルクス主義思想が作品の前面に突出することはなく、「階級闘争」という言葉すら出てこない。あくまでも関心は、現在の職場の労働条件の改善である。そこに反戦思想も少し混ざっている。満州事変の最中の作品だが、当時は反戦を掲げるには「アカ」になるよりほかなかったのかもしれない。
    ともかく、どちらの作品でも、問題となっているのは現在の職場の労働条件であって、マルクス主義の思想ではないし、理屈っぽさは全くない。ジャン=リュック・ゴダールの映画「中国女」の世界とはまったく異なる。
    小林多喜二のえがく職場にはシモーヌ・ヴェイユあたりも潜り込んでいそうだが、現在のような労働基準法等の諸制度が完備し、たとえパワハラがあったとしても(現にたくさんあるのだが)その気になれば何とかできる体制が整っている社会とは異なる。小林多喜二作品の「雇用者」の背後にあるのは帝国主義・軍国主義と結びついた企業である。現在でも大企業は、いかにも腹黒そうな経団連、政府(特に自民党)と結びついているが、労働者に対する拘束は比べものにならないくらいゆるやかだ。
    これらの小説がえがきだすように労働組合という「組織」が社会史上重要な役割を果たし、現在でも重要さを失っていないことは確かだが、マルクス主義的「理論」はフランスとは異なり、日本人にはまるで根付かなかったと思われる。
    よく言われるように「働き過ぎ」の日本の労働者の実態は、確かに外国人の労働観とはどこかで決定的に異なっているが、たぶんそれは、「企業」のせいでも「国家」のせいでもない。日本人全体のあいだに何となく漂っている独特の雰囲気のせいだろう。だから何十年たとうとも、労働組合がいかに頑張っても、日本労働者の根本的な姿勢は変わらない。
    「働かないとメシが食えない」というのは表向きの言い訳である。
    「蟹工船」の労働者たちも、本心からがむしゃらに働きたいのである。そのへんが、どうも諸外国とは異なっているし、雇用者-被雇用者の対立が、たとえばエミール・ゾラの『ジェルミナール』のような激しい闘争にまで到達しない原因なのではないだろうか。

  • 学生の時に習ったプロレタリア文学ということでお堅い、思想的な内容を想像していたが、情景が浮かぶような迫力ある描写で引き込まれた。劣悪な環境の中でも希望を捨てない人たち。それが読んでいて苦しかった。なぜだか「老人と海」と重なった。

  • オホーツクの漁場で漁をし、船で加工をする蟹工船。
    蟹工船に集められた乗組員は、貧乏人ばかり。劣悪な労働条件のもと、資本家にいいように使われる。
    病気になっても働かされる。

    貧乏な労働者は、不衛生な劣悪な環境でこき使われ、資本家は苦労をせずにボロ儲けをする。

    当時の資本主義の構図が描かれている。

    一方、党生活者の方は軍需用品を製作する会社に勤める「私」が、工場の中で戦争反対の動きをつくろうとする。


    どちらかというと、蟹工船より党生活者の方が読みやすく感じた。
    蟹工船の乗組員の病気や虫とも戦う姿は目を背けたくなるほど悲惨で、読んでいて苦しくなってしまう。

    この作者の生涯と照らし合わせて読んでしまうため、どうしても同情的になってしまう。
    今の時代に生まれていたら、作者の人生も大きく変わっていただろうに。。。

  • ちょっと前に流行ってましたよね。現代のブラック企業に勤める若者が共感できる……的な。まあ、2ちゃんねるブラック企業偏差値ランキングで偏差値76のIT業界でもっともブラック、と評されていた会社で働いていた僕から言わせてもらうと、ハッキリ言ってまるで共感できない。ブラック企業とか全然甘い。蟹漁船怖すぎ。
    だって、いくら酷いプロジェクトマネージャーでも、メンバーを殺したりしないですしね。それで、殺しておいてそれをなかったこととかに出来ないし。
    なのでまあ、何が言いたいかというと、ブラック企業に勤めてしまって毎日が辛い人たちも、「あーでもオホーツク海で蟹漁船に放り込まれてるわけじゃないしな」と思ってがんばってください。いざとなれば、地続きなのでどこにでも逃げられる。蟹漁船は逃げ場すらないのだ。

  • 蟹工船は、底辺にいるプロレタリアン達がストライキを起こすまでの過程が書かれていたけど、果たしてあの表現のなかのどこまでが本当なのでしょうか。

    党者生活は、共産党の活動にのめり込んでいる主人公の行動を書いているのだけど、なんと小林多喜二自身が共産党の活動者だったのね。全く知りませんでした。

    私はコミュニストではないしその思想も正しいとは思わないけど、でも、まぁ戦時中の話ですからねぇ。そりゃ思想も違って当たり前ですよね。

    解説によれば、小林多喜二氏の作品の評価するべき点は、文学における民主主義を作ったこと、みたいです。
    確かに戦時中に共産党についての作品を発表したりなんて、とてもじゃないけど出来ないよね。実際小林多喜二氏はそのせいで警察に虐殺された訳だし。

    個人的にはコミュニズムには賛同しないけれど、でもどうやってコミュニズムが民間人の間に広まったかなどは興味深いです。もっと彼の他の作品も読んでみたい。

  • いまさら読了。
    プロレタリア文学の代表的作品だが、臨場感溢れる筆致で小説としても迫力に満ちている。歴史的に共産主義という壮大な社会実験が失敗に終わり、陳腐化した資本主義に代わるロールモデルを見出せない現代ではあるが、何故共産主義という思想が生まれたのか、という歴史背景は語り継ぎ、理解する必要がある。その意味で、本書と著者の生き様の記録は第一級の資料であると言える。

  • 共産主義者やそのシンパの書いた文章は独特の面持ちがあってなんとなく分かる。
    これもその一つで、むしろその元になる古典なのだろうか。
    それともその源流はロシア文学に有るのか、とにかく独特の匂いがあって心地良い。

    プロパガンダものは分かっていても読んでる間はわざと心を流されるのが作法なのです。
    読み終わって戻ってこれなければそれはそれで新しい所に行けたということで喜ばしいことなのです。

  •  あまりにも有名なせりふから始まる、違法漁船の現場記録。今でいうブラック企業。
    少年漫画のように、熱く、勢いのある文章。全編を通して、嗅覚への訴え方が実に見事。

     ところで、「カムサツカ体操」とは一体。罰に使われるくらいなのだから、余程ハードなものには違いないのだけれど。

  • 実に10年ぶりぐらいに読み返した。福岡久留米の大砲ラーメンみたいな作品。プロレタリア文学の先駆け、実にクセが強い。ただ、蟹工船の社会的弱者の団結と闘争を描く過程はグッと嵌まり込むところがあり、開高健「日本三文オペラ」を読んだ後のようなある種の勇壮さを感じる。

    一度目に読んだ10年前は蟹工船ばかり印象に残ったんだが、今読むと党生活者もなかなかに読み入った。人間としてのあらゆる幸せを全て投げ出してまで、誰か別の人が考えだした思想を広めることになぜここまで投身できるのだろう。これは極端な例だしもちろん程度によるけどブラック企業に日々出社する人、創価学会の勧誘員、政治デモで国会前に集う人、みーんな根っこは同じだと個人的には思っていて、つまりは「悲劇的な役割を大衆の中であえて選ぶことにより、己が人生の価値に特別感をもたらす」ことじゃないかと。何かに頼って生きていくのは楽なようで虚しい気がするんだけどなぁ。もっと別の方法で自己実現の道筋探す方が、絶対ストレスないと思うんだけども。

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