ポラーノの広場 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 547
レビュー : 34
  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101092089

作品紹介・あらすじ

つめくさのあかりを辿って訪ねた伝説の広場をめぐる顛末を、自伝的思い深く描いた表題作、ブルカニロ博士が現れる「銀河鉄道の夜〔初期形第三次稿〕」、本物の風の子又三郎の話「風野又三郎」、「いちょうの実」など童話17編。多彩な作品の複雑な成立の秘密もうかがい知れて、魅力をさらに堪能できる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • (01)
    風の又三郎や銀河鉄道の夜といった著名な作品の旧稿も収められていて,唱えられる念仏というものに変則や変種があるとすれば,物語の唱え方を作者は色々に試みていたことを知ることができる.
    旧時代の言葉から新時代への言葉への移行という点では,明治維新から約60年後に物語や童話の執筆の盛期があった作者が,新しい言葉をどのようにこなしていたのだろうか,という面が見えてもいる.
    鉱石や鉱物の名,植物や動物の種名,古い邦語にはなかった響きの人名や役名や地名,気象に関する命名など,固有名詞をとっただけでも,物語に新味を添えている.面白いのは,作者の生地の付近にあった古い物語や言葉をも,それと同時に,新しい語群の中に溶け込ませていることで,そこに生じる詩的な作用や憑依的な心神の状態は,文学の祖型にも通じるものがある.
    言葉とは何か,物語とは何か,作者による試みの一部は現代の文学技術に生かされてもいるが,試みの大部分は,いまだに省みられずに,これらの作品の中でさらなる新しい作用を待ち受けているようにも感じる.
    例えば,任意に「種山ヶ原」の一文を引いてみる.「達三のうちは,いつか野原のまん中に建っています.急いで籠を開けて,小鳥を,そっとつかみました.そして引っ返そうとしましたら,」という夢の様相を描写した文がある.この「いつか」は「いつのまにか」に近いが,懐古的な響きもあるが,現在ではほぼ見られなくなった用法でもある.「引っ返す」もいまなら「引き返そう」に改められそうでもあるし,「そっとつか」まえられる籠の中の小鳥というものも,現代では,鳥類ではなく,ハムスターやら爬虫類やらの別の動物に置き換わってきてもいて,その小鳥の軽さや羽毛の感触を宿したこの「そっと」は実感として消えつつある.

  • 時さえが歩みを緩める深更の刻限。星明かりも届かぬ森の底。その男の跫音が聞きとれたその瞬間、つめくさは一斉に目を覚ましてあかりを灯し、柏の樹々は興奮に身をくねらせ、風はどうと大笑して、無機物たちは生命を謳歌する合唱を歌い始める。
    ■「いちょうの実」
    母親(いちょうの木)から実たちがいっせいに落ちはじめる。実たちはみな期待と不安に包まれている。
    「困ったわ、わたし、どうしても(おっかさんに貰った新しい外套が)ないわ。ほんとうにわたしどうしましょう。」「わたしと二人で行きましょうよ。わたしのを時々貸してあげるわ。凍えたら一緒に死にましょうよ。」
    一陣の北風。子供たちは一斉に飛び降りる。「北風が笑って、『今年もこれでまずさよならさよならって云うわけだ。』と云いながらつめたいガラスのマントをひらめかして向こうへ行っていしまいました。」
    ■「ガドルフの百合」
    嵐の夜、偶然見つけた空き家で野宿することになった孤独な旅人の心象風景。賢治にしては珍しく、結構激しい。
    ■「種山ヶ原」
    牛を追って未踏の森に分け入る達二。賢治の森に対する愛と恐れが同時に伝わってくる。
    ■「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」
    『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』より長いが、
    『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』よりは短い。
    略して「タネ噛ん」!
    ■「氷河鼠の毛皮」
    タイトルはエラリー・クイーンっぽい。中身はヒッチコックっぽい。
    ■「ポラーノの広場」
    ”足の曲がった山猫の馬車別当” がこんなところにまた出てきた。
    架空の広場”ポラーノの広場”に迷い込んだ異世界譚かと思っていたら、実在する広場をめぐる現実的なお話だった。
    ■「竜と詩人」
    竜と詩人との対話。格調の高い文章で綴られるファンタジィー。テッド・チャンみたいだがそれより上。

  • 卒業論文
    宮沢賢治「ポラーノの広場」論

  • 風の又三郎や銀河鉄道の夜の別バージョン収録。
    タイトルのポラーノの広場は初めて読んだかも。あとは他の文庫で読んだことがある話が多かったかな。
    銀河鉄道の夜、もう一度読み直したくなりました。

  • ブルカニロ博士が出てくるものを初めて読んだのに、初めてのような気がしない。不思議な物語。

  • 表紙素敵やなぁ~
    表題作がすごいよかった。それにしても何年越しであろうか。笑

  • 再読。賢治作品のなかでは比較的マイナー(?)なものや、有名な童話の初期形態などを中心に収録されていた感じ。

    とりわけ「銀河鉄道の夜(初期形第三次稿)」は興味深い。ブルカニロ博士という謎の人物がジョバンニの旅の背後にいたという設定。一般的に知られている四次稿では、ジョバンニ自身が自力で考えることが、こちらでは博士の言葉として語られており、確かに物語としてこれでは弱い気がする。ジョバンニ自身で答えを見つける形にして正解だと個人的には思った。

    「風野又三郎」は、謎の転校生「風の又三郎」と違い、本当に風の擬人化、風の精としての又三郎。「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」は「グスコーブドリ」とほぼ同じ筋書きながら、なぜか人間ではなく「ばけもの」界の話になってるのが面白い。

    ※収録作品
    「いちょうの実」「まなづるとダァリヤ」「鳥箱先生とフウねずみ」「林の底」「十力の金剛石」「とっこべとら子」「若い木霊」「風野又三郎」「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」「ガドルフの百合」「種山ヶ原」「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」「氷河鼠の毛皮」「税務署長の冒険」「銀河鉄道の夜(初期形第三次稿)」「ポラーノの広場」「竜と詩人」

  • 「ポラーノの広場」がギフトエコノミーを表してる、というのを誰かのメールで見て、読んでみた。つながりはよく分からなかったけど、いいお話。

  • 表題作の他、短編も多く入っている。現代ではあまりない、独特の言い回し。繊細で優しい表現。
    2014/8/8

  • 所有している銀河鉄道の夜とはかなり違う初期のものを読めてうれしかった。色々最終稿(?)ではわからなかったところが、詳らかに書かれていて、作品理解がかなり深まりました。
    「するといきなりジョバンニは自分というものがじぶんの考というものが、汽車やその学者や天の川やみんないっしょにぽかっと光ってしぃんとなくなってぽかっとともってまたなくなってそしてその一つがぽかっとともるとあらゆる広い世界ががらんとひらけあらゆる歴史がそなわりすっと消えるともうがらんとしたただもうそれっきりになってしまうのを見ました。だんだんそれがはやくなってまもなくすっかりもとのとおりになりました。」(p.324)
    キリスト教的なモチーフの多い作品だけれども、ここなんかとっても仏教的。賢治のメッセージを感じます。

    風野又三郎も風の又三郎より好きです。メッセージがはっきりしていてわかりやすい。詩的感覚が恐ろしく乏しい私の様な人間にはこれくらいあからさまなほうがありがたいです。

    確かに彼の文章は当然校正前の生硬なものだけれど、「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」なんてタイトルから声に出して読みたい、音に関して言えば第一級の天才だなあと感じる次第です。賢治作品は声に出して子供に聞かせたい。というのを実践しているのがにほんごであそぼなんでしょうな、と思ったり。

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著者プロフィール

宮沢賢治(みやざわ・けんじ、1986~1933)
岩手県花巻市出身の詩人、童話作家。幼少より鉱物採集や山歩きを好み、盛岡高等農林学校(現在の岩手大学農学部)卒業後は、教員として岩手県立花巻農学校で地学や農学を教えた。その後も近在の農家に肥料相談や稲作指導を行ったり、東北砕石工場で技師として働いたりしていたが、37歳の若さで病没。仕事のかたわら、生涯を通じて数多くの詩や童話、短歌などの文学作品を残した。

「2020年 『宮沢賢治の地学読本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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