一握の砂・悲しき玩具―石川啄木歌集 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101093031

感想・レビュー・書評

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  • 石川啄木 1886.2.20〜1912.4.13 啄木忌

    一時は、小説家を目指した啄木。東京に出てきた当時、森鴎外の主催する観潮桜歌会に三回参加しているとのこと。鷗外は、若手の後見に積極的だったので、石川の小説を2作雑誌社に掲載依頼をしていた。1作は、時間はかかったけれど掲載されて原稿料も手に入ったようだ。その作品がたぶん「病院の窓」かなと、読もうとしてというか少し読んだのだけど、わからなくて、一握の砂に戻る。

    第一歌集で、東京での創作 三行分 5部構成
    私が所有している本は、昭和の五十刷で、もしかしたら現在のものと違うところがあるかもしれない。
    まず、序文が薮野椋中。石川を用いて朝日歌壇を創設。そして、編者が金田一京助。金田一は、本当に同郷で石川をずっと心配して助けた親友だったようだ。wikiの石川啄木の写真は、左側に金田一と撮ったものだと思う。家庭の不幸はあったとしても、本人もなかなか定職に就かず、夢追いがちで、死ぬまで困窮していたが、他にも友人には恵まれていた。友人達もかなりお金を融通していたようだ。やはり、才能に対してですかね。

    「我を愛する歌」
    本人の気持ちを歌っている。教科書にもでてきた、
    “はたらけどはたらけど”や 
    “たはむれに母を背負ひてそのあまり軽きに泣きて三歩歩まず”はこちらにはいる。啄木の妹さんが、兄は暴君だったので、絶対背負ってないという後日談があるらしいけど。
    “浅草の凌雲閣のいただきに腕組みし日の長き日記かな”は、もしかしたら、奥さんに読まれたくなかったローマ字日記のことかもしれない。イケナイ遊びの様子など記者時代の一時期、ローマ字で書いてあって、死ぬ時焼いてくれって奥さんに頼んだのだけど、奥さんローマ字読めて、更に出版されてしまったという日記ですかね。
    「煙」
    中学時代や故郷を詠んだ歌。
    “教室の窓より遁げてただ一人かの城址に寝に行きしかな”は、本当らしく、神童と言われた啄木も、最後はカンニング事件で退学。
    「秋風のこころよさに」
    秋を詠んでいます。古典的な感じ。
    「忘れがたき人」
    貧しい生活の家族や生活。
    「手袋を脱ぐ時」
    春の歌もあるけど、その他いろいろ。
    歌集なので、一度読んで、わかるわけもなし。
    我を愛する歌の中には、ブラックな悲観的な作品があるけど、若くて尖った感じが良いかな。
    もう少し、生活が、どうにかならなかったのかな。奥さんはよく耐えました。

  • 歌の内容は何とも暗い。
    しかし暗いだけでなく、その中に日々の小さなあたたかな出来事や、それらを愛する気持ちが感じられて、啄木の筆致のいみじくがつたわってきた。
    生まれ故郷への哀愁も、貧困による喘ぎも、病による苦しみも、たくさん歌に詰まっている。
    哀しくもなるが、共感もしてしまう。
    豊富なあとがきや啄木自身と彼の歌の解説により、石川啄木をよく知りたいという方にはかなりおすすめです。

  • 昔、仕事の関係で、3年ほど小樽に住んでいたことがある。転居したての頃、花銀通りと呼ばれる近所の商店街を散策していると、かつて石川啄木が逗留したという建物があった。文士ゆかりの地は、北海道には珍しい。なんとなく嬉しくなり、啄木に親近感を覚えた。しかし、商店街を抜けた先にある小樽水天宮という神社で、境内に設置されていた啄木の歌碑を見たとき、覚えたばかりの親近感は遠くに吹き飛んだ。歌碑にはこんな歌が刻まれていたのだ。

      かなしきは小樽の町よ歌ふことなき人人の声の荒さよ

    …ちょっと待て。啄木、あんた小樽を田舎と思ってバカにしてるだろ? 文化と無縁の町と思ってるだろ? というか、この歌碑を税金で建てて後世に残すなんて、お人好しすぎるだろう小樽市!

    私がこの本に星2つしか付けていないのは、こういう私憤による所が大きい。しかし、この件を置いておいても、この歌集には色々と突っ込みどころが多い。虚飾を排し、生活実感から湧き上がる歌を目指すという方向性は素晴らしいが、「正直であればいいってもんじゃないだろう」と思ってしまうのは私に歌心がないせいだろうか?

      一度でも我に頭を下げさせし人みな死ねといのりてしこと

      どんよりとくもれる空を見てゐしに人を殺したくなりにけるかな

    芸術家として誇張表現はあるにせよ、相当ヤバい人であることは間違いない。もちろん啄木には後世に残る歌も多く、有名どころでは、

      東海の小島の磯の砂浜にわれ泣きぬれて蟹とたはむる

      はたらけどはたらけど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざりぢっと手を見る

      たはむれに母を背負ひてそのあまり軽きに泣きて三歩歩まず

      友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来て妻としたしむ

      ふるさとの訛(なまり)なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく 

    こういう秀歌も多いだけに、ブラックな歌とのギャップが凄まじい。もっとも、美しさも醜さも歌いあげたからこそ、啄木の歌は時代を超えて愛されてきたのだろう。しかし精神状態が良くない時には、闇の方に引きずりこまれてしまいそうだ。感応力の高い人は注意した方が良いだろう。

    ちなみに、啄木には酷評されてしまったものの、実際のところ小樽は、大正ロマンを感じさせる詩情ゆたかな町である。有名な小樽運河も良いが、標高の高い小樽公園や水天宮からは小樽港が一望でき、晴れた日には青々とした日本海が実に美しい。そう捨てたものではないことを、レビューの主旨からは外れるが、小樽市の名誉のために一言申し添えておきたい。

      声荒き町の美空に海あおし君よ嘆くな歌はなくとも

    • 佐藤史緒さん
      それはともかく小樽に物件、ですか! 詳しい事情がわからないので、私も下手なことは言えないのですが、小樽に通年住む予定なら、可能なら一度、雪の...
      それはともかく小樽に物件、ですか! 詳しい事情がわからないので、私も下手なことは言えないのですが、小樽に通年住む予定なら、可能なら一度、雪の季節に視察に来られると良いです。小樽の自然は本当に美しいのですが、厳しさと表裏一体なので…。雪の季節を乗り切ることが、あらゆる条件に優先します。あと、もしお車を運転なさるなら、駐車場は極力、屋根付きの所をお薦めします。私は3年間、青空駐車場で散々な目にあいました(^_^;)
      2018/05/28
    • 佐藤史緒さん
      ちなみに花園町という所に住んでいました。例の北一ガラス本店が近い所です。そこから以前お話したキンダーリープまでは、車で約10分。よく子供を連...
      ちなみに花園町という所に住んでいました。例の北一ガラス本店が近い所です。そこから以前お話したキンダーリープまでは、車で約10分。よく子供を連れて遊びに行ったものです。絵本、児童書のほとんどはここで調達していました。大人向けの書物が市内で1番充実してるのは、小樽駅ではなく、小樽築港駅に隣接しているウイングベイ小樽と呼ばれるショッピングモールに入っている本屋です。本の9割はこの2件で調達していました。
      以上、不動産屋さんでは絶対教えてくれない、ブク友ならではの情報提供でした〜(*´∀`*)
      2018/05/28
    • nejidonさん
      佐藤史緒さん、貴重な情報をいただいてありがとうございます!とっても嬉しいです。
      キンダーリープとウィングベイ小樽にだけ、真っ先に行ってみた...
      佐藤史緒さん、貴重な情報をいただいてありがとうございます!とっても嬉しいです。
      キンダーリープとウィングベイ小樽にだけ、真っ先に行ってみたいです・笑
      書店はスーパー・病院と並んで必要事項ですものね。
      小樽にはいつも雪の季節に行っておりました。
      懸念するのは、観光で行く数日間と、住み続けるのとは相当の差があるのだろうなということです。
      寒い地域に住んだことがなく、冬場のシミュレーションが出来ません・笑
      旅行者の私がダウンで厚着していても、現地の方は比較的薄着で過ごしていたのを覚えていますけどね。
      要は「慣れ」かもしれません。
      ハイ、車は大好きなので屋根付き駐車場は必須ですね。

      ブクログのコメント欄に書きこむことでもないなぁと思いながらのコメントでしたが、思わぬ収穫で喜んでおります。
      ありがとうございました。


      2018/05/29
  • 石川啄木が好きです。
    自分への圧倒的な自信、時折垣間見せる傲慢さ、このままでは生きたい道では生きていけない弱さ、人間としての甘さ、それでも圧倒的な魅力。

    すべてが含まれている彼の作品が好きです。

    『一握の砂』
    『悲しき玩具』

    両方を読み比べることで、彼のことを好きになる人もいれば、彼のことを嫌いになる人もいると思います。

    有名な作品だけではなく、まだ知らない作品に心奪われるかもしれません。

    今から石川啄木の作品に触れることができるのはうらやましいなぁ。

    もう一度、最初に読んだ時の気持ちで、石川啄木を読み返したいな…。

  •  こういうのを楽しみ、味わえる人間でありたいと思い読みました。悲しいことにそういう人間ではありませんでした。
     わかるやつはよかったですが、わからないやつはとことんわからなかったです。アホで辛い!

  • ヤバイ、まず冒頭の献辞がヤバイ。今まで読んだどの献辞よりも心打たれる。

    『-また一本をとりて亡児真一に手向く。この集の稿本を書肆の手に渡したるは汝の生まれたる朝なりき。この集の稿料は汝の薬餌となりたり。而してこの集の見本刷を予の閲したるは汝の火葬の夜なりき。』

    貧困と死別によって着想を得た短歌はどれも哀愁が溢れる。秋に読んで正解だった。

  • 東北の旅行中であること、voicyフェスで安宅和人さんが良く読まれる人として話されていたので気になり再読。

    どこか懐かしくなる心に沁みる詩が溢れホッコリ。記憶力の悪いワタシでも記憶にある様な作品がチラホラ。

  • 啄木の処女歌集。
    貧困と孤独の中にも、文学への情熱を失わず、歌壇に新風を吹きこんだ啄木。
    最もよき理解者で同郷の友でもある金田一京助の解説も素晴らしい。
    全編通して改めて読むと、すごさが分かります。
    酩酊感のある歌の数々。
    天才です。

    冬は来ぬたとへば遠き旅人の故郷(ふるさと)に来て眠るごとくに ー 217ページ

    今日は汝(な)が生れし日ぞとわが膳の上に載せたる一合の酒 ー 219ページ

    猫を飼はば、
    その猫がまた争ひの種となるらむ、
    かなしきわが家。 ー 202ページ

    猫の耳を引つぱりてみて、
    にやと啼けば、
    びつくりして喜ぶ子供の顔かな。 ー 175ページ

    葡萄色(えびいろ)の
    長椅子の上に眠りたる猫ほの白き
    秋のゆふぐれ ー 146ページ

    そのかみの愛読の書よ
    大方(おはかた)は
    今は流行(はや)らずなりにけるかな ー 60ページ

  • 早逝の天才詩人というイメージから、もっと自由闊達な詩を期待していたが、意外と青臭くジメジメしていた。
    晩年の正直な文体はいい。

    私の今の年齢で亡くなった啄木。
    その太く短い人生がこれ一冊に凝縮されており、読んだだけで何となく知り合いのような気持ちがしてくる。

  • 何度も読んでより情景が思い浮かぶようになりたい。

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