- 本 ・本 (533ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101095103
感想・レビュー・書評
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私のバイブル
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美しい。
本当に美しい、
表現の一つ一つに、情景に心惹かれた。
どうしようもなく惹かれあい、
迷い、抑制する強さ、哀しさ。
書き手によっては、
ドロドロしたものになるのかも
しれないけれど、この作品世界では
清冽な水の流れのように、白い雪のように
美しかった。
生なく滅なし。
この言葉が強く心に残った。 -
夫に逃げられた里子と、里子から逃げ続ける工藤。坂西と出会い、女として成熟していく里子に対して、女を渡り歩いて生来の幼さが際立っていく工藤。この対比は面白かった。
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ただ、いびつな
白磁があったから
最後の喫茶店のブラインド越しに、里子が坂西を見つけ、そしてバスに乗り込むまでを見届けたシーン。。木枯らしがぴゆぅと吹くみたいに、心がぎゅうっとなってしまった。
これから里子はどうやって生きていくのだろう。。
ふたりにとって、ちょうどいい愛し合い方だったのかもしれない。里子と坂西が一緒になるのも、違う気がするし。
結婚して、こどもを産んで、死ぬまで一人の人を愛し続ける、、その人生の素晴らしさって、ある。
でもそう生きなければ素晴らしさを感じられないのかといえば、そうじゃない。
傍目には分かりにくくても、人生のなかで誰かと関わり合うことか出来たささやかな、暖かいきらめきを2人は分かちあえたんじゃないだろうか。
もっと、たくさん、ずっと、って欲張ることは出来ないから、苦しみだってあるけれど。。
わたしも最後の一行まで、二人の再開を探しながら読んでいたよ。でも、一緒になれなかったから、バッドエンドとは思わないよ。
坂西と里子、生活というものをないがしろにしない二人だから、今の関係がこのまま続くのは遅かれ早かれ難しかったんだと思う。二人の慎み深さや守ろうとする姿に心打たれ、歯がゆさや不自由さにもどかしくなる。それでも、二人の間には癒やしがあり安らぎがあるように感じたのでした。
でも、残された人生はあなたなしで生きるにはあまりに長すぎるよね。。
きっかけはなんであっても、
二人の関係に味わいを重ねて行くものが愛なのかしら
そして自分の人生、世の中の見方、味わい方がどんどん開かれていく。その華やかな喜び。
自分の性格や、周りの環境がどうだから、とかいうのは、物事の理由にはならない。あとから振り返ってみたときに、関わりを見つけることはあったとしても。
物事はただ積み重なっていく。それこそが、掛け替えのない、言葉にも簡単に表せられない自分自身なんだと見つめていく勇気。
身体とは別に愛があるのではなく
身体をつつむように愛が積み重なっていく
そしてまた身体がひらかれていく -
立原正秋さんの代表作といえば「春の鐘」か「残りの雪」ということになりましょうか。
いずれも発表当時話題を呼んだ日経新聞の連載小説ですが、今日の渡辺淳一さんの恋愛小説のさきがけ、今風に言えば不倫小説です。
多くの男性たちが経済記事を読むをふりしてそっと目を走らせては固唾を呑んでいました。
文学作品としての出来は「残りの雪」に軍配が上がります。
「春の鐘」は作者の気負いが感じられて少し重い作品に仕上がっています。
膨大な立原作品の評価、良し悪しは「ちからが抜けているかどうか」です。
それはゴルフのスイングあるいはバッティングに似ているかもしれません。
ちからが抜け真っ芯に当たったボールははるか彼方に飛んでいきます。
例えば初期作品、芥川賞候補となった「薪能」、ラストで主人公たちのあの心中事件の記述がなければ受賞していたでしょう。芥川賞作家か直木賞作家の分かれ道も「ちからが抜けているかどうか」でした。
ただもしあの時芥川賞を受賞していたらその後の流行作家立原正秋は生まれていなかったでしょうから皮肉です。
さて「残りの雪」は日本経済新聞に昭和48年4月から約1年間連載された新聞小説です。
主人公里子の夫が会社の女性と駆け落ちしたためやむを得ず鎌倉の実家に帰り骨董店に勤めはじめますが、
その骨董店を訪ねる『目利きの男』といわれる坂西と深い仲になっていく物語です。
終盤、
「二人は連れ立って劇場にはいった。
六時開演であったから、観客はもうあらかた席についていた。二人の席は前の方だった。
演じる曲目は一中節の〈松がさね〉筝曲の〈七小町〉、長唄の〈鷲娘〉だった。
『武原はんさんをずうっとごらんになっていらっしゃるのですか』
里子はとなりの坂西に小声できいた。
『いや、そんなには観てないが、なんとなく好きでね』 」
武原はんには「雪」という名舞踊がある。
表題の「残りの雪」とはここからきているのではないか、
この小説そのものが武原はんさんへのオマージュであったのか、と胸にしみた。
立原正秋さんは昭和後期の人気作家でした。流行作家ゆえ世間から誤解の多い作家でしたが、
年月を経て純文学者立原正秋さんの文学史上の立ちいちを時間をかけて検証してみたいと思います。 -
鎌倉をそぞろ歩きたくなる1冊。
でも切ない。
なぜこんなに、女心を美しく描けるのだろう。
立原正秋の作品





