檸檬 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.60
  • (398)
  • (424)
  • (817)
  • (100)
  • (28)
本棚登録 : 5035
レビュー : 507
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101096018

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 「要約不可能な小説の例を挙げよ」と言われたら、『重力の虹』と『フィネガンズ・ウェイク』と『檸檬』を私は挙げるだろう。ただし意味合いはそれぞれ異なる。ピンチョンは難解であり、ジョイスはそもそも読むことができない。それに比べて梶井基次郎は文意も文章も極めて平易だ。ただ、ストーリーを要約しても得るものは何もないという意味で、要約不能と思われるのである。「あらすじでは読めない名作」の典型だ。

    無理を承知で要約すると、こういう話である。肺病やみの鬱屈した青年が、散策の途中に果物屋でレモンを買う。次に書店に入り、美術コーナーの画集を手あたり次第に積み上げると、その上にレモンを置いて立ち去る。――出来事としてはこれが全てだ。奇妙なオブジェが完成したこと以外、世界に変化は何もない。語り手の内面だけが変化してゆくが、それすらもさざ波のようにかすかなゆらぎであり、外界に働きかける程の振幅はない。描かれているのは徹頭徹尾、自己完結した閉鎖的な世界なのである。

    だが、その世界は閉ざされているが故に、侵しがたい孤高の煌めきを放って読者を惹きつける。『檸檬』のイメージ喚起力は、小説というより詩に近い。古いアルバムを繰るように、ひとつの場面がひとつの映像として現れてくる。ビードロのおはじきと南京玉。みずみずしい野菜と果物。硝子戸ごしに見る電燈の光。ランダムに積まれた画集と、取り残されたレモン。繊細な心象風景は硝子細工のようにfragileで、作者の生の短さに想いをはせずにはいられない。そのくせ、その一瞬の幻影は、退色することのない永久標本として脳裏に焼きつけられるのだ。

    この作品の舞台となったのは丸善の京都本店である。作者を偲んでレモンを置いていく客が後を絶たなかったという。時代の変化に伴って一度は閉店したものの、2015年8月、10年ぶりにリニューアルオープンして話題となった。2016年3月24日は、リニューアル後、初めての梶井の命日(檸檬忌)である。狂信的なレモン教徒たちが爆弾をたずさえて聖地に結集するであろう。厳重に警戒すべきである。

    • mkt99さん
      佐藤史緒さん、こんにちわ!(^o^)/

      自宅でレモネードを飲むのでもいいですか?
      ダメ?(笑)
      では、レモンティーを飲むのでは?(...
      佐藤史緒さん、こんにちわ!(^o^)/

      自宅でレモネードを飲むのでもいいですか?
      ダメ?(笑)
      では、レモンティーを飲むのでは?(^o^)

      いっそ、丸善さんでレモン爆弾をレモンティーに加工してふるまうのというのもいいかも。(^o^)v
      2016/01/11
    • 佐藤史緒さん
      mkt99さん、こんにちは!
      今年もよろしくお願いします。

      レモネードもレモンティーも勿論、可です!(笑)サクマのフルーツドロップ(...
      mkt99さん、こんにちは!
      今年もよろしくお願いします。

      レモネードもレモンティーも勿論、可です!(笑)サクマのフルーツドロップ(缶入り)のレモン味でも構いません。各自、自宅ないしは最寄りの丸善で、同時多発的に飲食するのがよろしいでしょう(^_^)
      2016/01/12
  •  短篇集です。

     「桜の樹の下には」という一篇では、屍体を栄養にして妖しく美しい花を咲かせる桜を作者は夢想しています。

     作者の梶井基次郎は、結核により三十一歳の若さで亡くなっています。この短篇集は、死と隣り合わせの日々の中で、残された命を燃やし尽くすようにして書かれたもののようです。「桜の樹の下には」で作者が描いた“死を栄養にして咲いた花” ── それはこの短篇集そのもののことであるような気がしました。
     
     大部分の作品はストーリーよりも心象風景の描写を中心としており、小説というよりも散文詩に近い気がしましたが、「ある崖上の感情」は、物語としても上手く出来た作品だと思いました。

     「Kの昇天」、「冬の蠅」にも心に響くものを感じました。そして、表題作「檸檬」は不思議な味わいでした。

     ただ、他の多くの作品は、じっくり読んでも内容が真っ直ぐには頭に入って来ませんでした。独特で微妙な感情に、戸惑いを感じることもありました。ただでさえ鋭い感受性を死の予感によって研ぎ澄まされた作者の心の動きを、そうでない私のような者が本当に理解することは、あるいは難しいのかもしれません。

  • 梶井基次郎の文章って、こんなだったんだー、というのが一番の感想。

    私は梶井作品というと「檸檬」しか読んでいなかったため、何やら物騒なイメージが残っていた。
    というのも、当時高校生だった私は「檸檬」を読んで、「この主人公は愉快なやつだ。まるで私みたいに馬鹿だなぁ!」という感想を抱いていたからである(それを高校の司書の先生に話したら、変な顔をされた)。

    なので、この短編集でその硬質ながらもどこか涼やかな文章を読んでびっくり。こういう文章の作家だったのか、と思った。
    とはいえ、「檸檬」を読んで「愉快だ」と思った私なので、この短編集も全体的に共感はできなかった。むしろ、梶井基次郎は若いなぁ、と感じた。
    鬱々とした思い込みの激しさや、随所にちらちら見え隠れする退廃的な願望、自分を曲げられらない頑なさなど、まるで思春期の青年のようだ……と言うと言いすぎだろうか。

    なので、私としては日々を見つめた描写的な作品よりも、幻想的な作品の方が「お話」として楽しめて好きだった。
    「Kの昇天」や「桜の木の下には」、「ある崖上の感情」などは、江戸川乱歩っぽい幻想が感じられた。

  • 「桜の木の下には屍体が埋まっている」というのがこの人の作だとは知らなかった。日常の細かな事やふと過ぎった感情を深く掘り下げて、ここまで印象深く美しく描けるのは素晴らしいと思う。
    基本的に内容が病んでいるので、理解しようと何度も読み返すとこちらまで病んできそうだ。

  • 「櫻の樹の下には」が読みたくて購入しました。表現が豪快で生々しいです。こんな感じの色の短編集がすごいすきなので良かったです(^O^)やっぱり檸檬は名作ですね

  • 綺麗。文章しかり、小説の醸しだす雰囲気しかり。いいなあ、と読了後純粋に感じる。梶井が病に冒されていて自分が短命であると悟りながら書いたのだ、と考えながら読みすすめていくとさらに迫ってくる。檸檬を店に置き去りそれが爆発する、なんていう無邪気な夢想をする彼を想うと、なんだか胸が苦しくなり目頭が熱くなる。美しい小説。

  • 窓の外は雨。手元には梶井基次郎。
    曇り空にこれ以上ないカップリングです。

    異国の太陽を燦々と浴びたレモンの
    滴るような新鮮さはありません。
    ただ、ラストに仕掛けられた色彩の爆弾が
    読後いつまでも、心に黄色く輝きつづけます。

    ふと、日常という「圧迫」に対して
    内側から破裂してみたい。という「私」の願望。
    その酸っぱい果汁のような想いが
    本屋という「知のかたまり」に対して
    ステキに晴らされているラストシーンに酔います。

    最近の憎悪は、稚拙で直接的。
    すぐに血を求めてしまうその「鬱」な人々には
    上手に自分をなだめられる「知性」が不足してるのかも
    と、納得している今日この頃です。

    漠たる不安に日々悶々としておられる方。
    変わりに『檸檬』が、仇をとってくれますよ。
    是非ご一読を。

  • 高校2年のとき図書室で、文学少女ぶってこの本を手に取らなければ、私の中二病はもう少し軽かったんじゃないかと思う。

  • 全文章中に通奏低音として流れる死の気配。死が常に目の前にあるからこそ、日々の「日常」である生が驚くほど細やかに立ち上がってくる。世界を覆う静かな絶望。しかし、そこにある生は単なる陰惨さで塗りつぶされたものではない。「もののあはれ」を感じさせ、ときには爽やかでさえある、繊細な瞬間の連続である。

    病気に侵され憂鬱の中で日々を過ごす「私」の繊細な感受性と微妙な心情の揺れを丁寧に描いた表題作『檸檬』、片田舎の子どもたちの姿や何気ない家族生活の中にささやかながら充実した幸せを見出す『城のある町にて』、世界からの疎外感とどうしようもない孤独に苦しむ『冬の日』、蝿に自己を投影し、絶望から来る諧謔によりあえて自分を痛めつける『冬の蠅』、自己と客観世界の圧倒的な断絶とそれへの得も言われぬ感動を著した『ある崖上の感情』など。

    梶井の半生を反芻しながら、何度も読み返したい一冊。

  • 巻末解説に書かれていた「意欲ある絶望」という表現が、私の梶井作品に対する印象に一番近い物だと思いました。
    どの作品も、肺病病みの青年が自分の先に待ち受けている「死」に向かって、激しく抵抗するわけでもなく諦めて達観するわけでもなく、ただひたすらに前を向き、自分の命をみつめ心情を吐露する。どれも読み終わった後、マイナス感情だけではない、何かプラスのモノが残る不思議な読後感。
    また、風景描写の美しさと、そこから主人公への心情吐露へと繋げていく文章の巧みさには脱帽。風景までひっくるめて心象表現になっているといってもいい。どれも素晴らしい小説でした。

全507件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1901年(明治34年)、大阪生まれ。志賀直哉の影響を受け、詩情豊かな小品を描いた。1925年、同人誌「青空」に、「檸檬」を発表。肺結核で1932年(昭和7年)に没。

「2013年 『檸檬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

檸檬 (新潮文庫)のその他の作品

檸檬 (1978年) (新潮文庫) 文庫 檸檬 (1978年) (新潮文庫) 梶井基次郎
檸檬 (280円文庫) 文庫 檸檬 (280円文庫) 梶井基次郎
檸檬 Kindle版 檸檬 梶井基次郎

梶井基次郎の作品

檸檬 (新潮文庫)に関連する談話室の質問

檸檬 (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする