杏っ子 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101103068

感想・レビュー・書評

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  • 表題の語感とはかけ離れた重厚な内容。
    600p弱のボリュームだが、非常に細かく区切られていて当時にしては読み疲れのしづらい構造になっている。
    作者とその娘をモデルとし、娘の人生の荒波に浮き沈みし流転する日々が克明に描かれる。
    現代とはかけ離れた価値観と家族への愛情を持つ作者の特異性を存分に感じれる必読の一冊。

  • 600ページを超える長編だけれど新聞連載だったこともあり、すいすい読める。前半は日本版『大きな森の小さな家』シリーズのように家族の成長をたどり、しかもお父さんの女人幻想がバクハツしていて甘い薄焼き菓子を食べている気分。そして後半は失敗した結婚が壊れるまでを執拗に追いかけて(よくある話なのだけれど)目が離せなかった。平四郎はなんとも奇妙なお父さんだけれど、節度をもって妄想しまっすぐに愛情を注いだおかげで、娘は健やかに育ったのだった。

    杏子は平四郎の思い通りの美人にはならなかったかもしれないけれど(「美人に育てたい」って無茶である)、背筋のぴんとしたいい女になったのだから、平四郎の勝ちなのだろう。でもいい女であることと駄目な男に引っかかることは別なのが、なんとも平四郎向きに仕上がった杏子さんだった。父親が素敵すぎるのも考え物。

  • 室生犀星の自伝的長編小説。
    文庫で600ページ超という長さだし、50年以上前に書かれた小説。
    正直、途中で挫折しても仕方がないと思っていたが、読んでみたらするする読める。知らない言葉もたまに出てくるが(重畳、●●輩など)、勉強になるので良かった。

    作家平山平四郎が生まれるところから物語は始まり、金沢で不遇の少年時代を過ごす。大人になった平四郎は東京で作家として生計をたてるようになり、やがて娘の杏子(きょうこ)が生まれる。
    杏子の成長を軸として、戦時中の暮らしなどが綴られ、何気ない日常の一コマでも当時の人々の息遣いが感じられるようで興味深い。

    平四郎は杏子を自分の好みの美しい女性としてつくりあげようとしていた。これはまだわかるとしても、杏子の少女時代の友達である、美しいりさ子の足を意識して見ていたりする。とにかく「美しい女性」という存在を礼賛している。醜いよりも美しいほうがいいのは当然だけど、平四郎の女性観は少し歪んでいる気がした。

    そして平四郎好みに育てられた杏子は、美しいかどうかはよくわからないが、嫁にいくことになる。物語の後半は、杏子の夫の亮吉のクズっぷりについてばかり。どうなってしまうのと思っていたら、杏子が出戻ったところであっさり終わってしまった。

    ストーリーと言えばこれだけなのだが、読後の満腹感はすごい。
    「作家はその晩年に及んで書いた物語や自分自身の生涯の作品を、どのように整理してゆく者であるか、あらためて自分がどのように生きてきたかを、つねにはるかにしらべ上げる必要に迫られている者である」
    「私という一個の生き方に終りの句読点をも打ちたかった」
    とあとがきにあるように、これは室生犀星の人生を詰め込んだ叙事詩だ。
    きっと何度読んでも、読む度に違う感想が得られるだろう。

    平四郎が杏子に向けるあたたかい愛情、思いやり、信頼、そして自分で決めさせようという突き放した厳しさ。自分の父親も、自分に対してこんなふうに思っているのだろうかと思って少し涙ぐんだ。
    間違いなく心に残る一冊。

  • 人の行動や感情をじっとよく観察しているような気持ちになりました。苦しい事があろうと新しく歩き始めるような人間の強さを感じました。

  • 前半は親友芥川龍之介が出てきて、天然ぷりが面白かった。
    後半。娘婿は酷いやつで、最終的に離婚し戻ってきたので良かったが、息子ものらりくらりやっている風、奥さんは寝たきりで、主人公一人がこれだけの家族を食べさせているというのも、いくら大作家とはいえ大変な事だと思った。当時はこういう事はよくある事なの?
    杏子は働かない亭主にばか呼ばわりされ何かと助けてくれる父親まで悪く言われて散々だが、夫婦喧嘩のシーンは言いたい事を鋭く切り込んでいて格好良かった。そこが一番好き。ただしそれが通じない亭主なんだけど。

  • 私生児であったのも驚きだけど、生まれてすぐ、ごうつくばばあに育てられるのも、明治生まれの常識なのかな。しかし、室生犀星が侍の子であることは確からしいし、それが文筆の才や娘の美貌に繋がってるのかな、と思う。
    やっぱり、血筋、遺伝なのだろうな。

  • 結婚生活において女性に使役を課すことを当然と考える男たちと、それに抵抗し続ける女達。後半の、犀星自身がモデルである父親の超然ぶりが面白かったです。

  • 文豪、室生犀星を初めて読む。
    前半は氏自身のことを、後半は自身の娘である杏子のことを中心に書いている。軽井沢に疎開してきたところまでは淡々としており、作者の嫁とのエピソードも最小限だし(ほかの作品で描き切ったのか?)正直これと言って平坦で感情移入が出来ず、分厚い本を持て余す気分だったが、杏子が見合いを始めたあたりから急激に面白くなり一気に読めた。物語には悪者が必要なのかな、と感じる。杏子の夫は理屈の通らないひどい野郎だし、息子も職にも就かず嫁とは3か月で離婚、嫁のりえ子は病気になるしで散々ではある。息子の嫁探しのところで、バスで同席する人を探したりするところが可笑しい。
    杏子との作者との掛け合いがとても楽しく、杏子が最後に家に戻ってくれるところで一応のハッピーエンドですね。
    執筆を通じて母に会うことができ幸せと書いているが、自身の身に起こった不幸を作者に読んでもらう幸せもあるかと思う。ここまで赤裸々に書くのも恥ずかしいとは思うが。
    こまやかな感情表現を美しい言葉で綴っており、読了後の充実感がよいです。
    新聞の連載であったこの作品は読む気にさせるユニークな題名がついていて楽しく、小さな章で連続されているのも読みやすくて良いです。

  • 題名からは、少女の成長を想像したが、相反して特に後半は、夫婦の愛憎劇。とても子供向けの小説ではない。父親の傍観を装いながらも愛情もって娘を見守る姿が痛々しくも幸せそうである。2020.10.27

  • こういう父娘もいるんだなと思った。父の幼少期の悲惨な感じに比べると、娘と息子が甘やかされてる感じもした。娘婿のモラハラぶりは読んでてもとても嫌だったが、この婿のひがみもまあ致し方ないような。ちょっとあまりに父親にべったり甘え過ぎ。息子も無職のように描かれてて、これも、え?なんで?って感じでした

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著者プロフィール

詩:詩人・小説家。本名、照道。金沢生まれ。北原白秋・萩原朔太郎らと交わり、抒情詩人として知られた。のち小説に転じ、野性的な人間追及と感覚的描写で一家を成す。「愛の詩集」「幼年時代」「あにいもうと」「杏つ子」など。


「2013年 『児童合唱とピアノのための 生きもののうた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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