杏っ子 (新潮文庫)

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感想 : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101103068

感想・レビュー・書評

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  • 600ページを超える長編だけれど新聞連載だったこともあり、すいすい読める。前半は日本版『大きな森の小さな家』シリーズのように家族の成長をたどり、しかもお父さんの女人幻想がバクハツしていて甘い薄焼き菓子を食べている気分。そして後半は失敗した結婚が壊れるまでを執拗に追いかけて(よくある話なのだけれど)目が離せなかった。平四郎はなんとも奇妙なお父さんだけれど、節度をもって妄想しまっすぐに愛情を注いだおかげで、娘は健やかに育ったのだった。

    杏子は平四郎の思い通りの美人にはならなかったかもしれないけれど(「美人に育てたい」って無茶である)、背筋のぴんとしたいい女になったのだから、平四郎の勝ちなのだろう。でもいい女であることと駄目な男に引っかかることは別なのが、なんとも平四郎向きに仕上がった杏子さんだった。父親が素敵すぎるのも考え物。

  • 室生犀星の自伝的長編小説。
    文庫で600ページ超という長さだし、50年以上前に書かれた小説。
    正直、途中で挫折しても仕方がないと思っていたが、読んでみたらするする読める。知らない言葉もたまに出てくるが(重畳、●●輩など)、勉強になるので良かった。

    作家平山平四郎が生まれるところから物語は始まり、金沢で不遇の少年時代を過ごす。大人になった平四郎は東京で作家として生計をたてるようになり、やがて娘の杏子(きょうこ)が生まれる。
    杏子の成長を軸として、戦時中の暮らしなどが綴られ、何気ない日常の一コマでも当時の人々の息遣いが感じられるようで興味深い。

    平四郎は杏子を自分の好みの美しい女性としてつくりあげようとしていた。これはまだわかるとしても、杏子の少女時代の友達である、美しいりさ子の足を意識して見ていたりする。とにかく「美しい女性」という存在を礼賛している。醜いよりも美しいほうがいいのは当然だけど、平四郎の女性観は少し歪んでいる気がした。

    そして平四郎好みに育てられた杏子は、美しいかどうかはよくわからないが、嫁にいくことになる。物語の後半は、杏子の夫の亮吉のクズっぷりについてばかり。どうなってしまうのと思っていたら、杏子が出戻ったところであっさり終わってしまった。

    ストーリーと言えばこれだけなのだが、読後の満腹感はすごい。
    「作家はその晩年に及んで書いた物語や自分自身の生涯の作品を、どのように整理してゆく者であるか、あらためて自分がどのように生きてきたかを、つねにはるかにしらべ上げる必要に迫られている者である」
    「私という一個の生き方に終りの句読点をも打ちたかった」
    とあとがきにあるように、これは室生犀星の人生を詰め込んだ叙事詩だ。
    きっと何度読んでも、読む度に違う感想が得られるだろう。

    平四郎が杏子に向けるあたたかい愛情、思いやり、信頼、そして自分で決めさせようという突き放した厳しさ。自分の父親も、自分に対してこんなふうに思っているのだろうかと思って少し涙ぐんだ。
    間違いなく心に残る一冊。

  • 文豪、室生犀星を初めて読む。
    前半は氏自身のことを、後半は自身の娘である杏子のことを中心に書いている。軽井沢に疎開してきたところまでは淡々としており、作者の嫁とのエピソードも最小限だし(ほかの作品で描き切ったのか?)正直これと言って平坦で感情移入が出来ず、分厚い本を持て余す気分だったが、杏子が見合いを始めたあたりから急激に面白くなり一気に読めた。物語には悪者が必要なのかな、と感じる。杏子の夫は理屈の通らないひどい野郎だし、息子も職にも就かず嫁とは3か月で離婚、嫁のりえ子は病気になるしで散々ではある。息子の嫁探しのところで、バスで同席する人を探したりするところが可笑しい。
    杏子との作者との掛け合いがとても楽しく、杏子が最後に家に戻ってくれるところで一応のハッピーエンドですね。
    執筆を通じて母に会うことができ幸せと書いているが、自身の身に起こった不幸を作者に読んでもらう幸せもあるかと思う。ここまで赤裸々に書くのも恥ずかしいとは思うが。
    こまやかな感情表現を美しい言葉で綴っており、読了後の充実感がよいです。
    新聞の連載であったこの作品は読む気にさせるユニークな題名がついていて楽しく、小さな章で連続されているのも読みやすくて良いです。

  • 題名からは、少女の成長を想像したが、相反して特に後半は、夫婦の愛憎劇。とても子供向けの小説ではない。父親の傍観を装いながらも愛情もって娘を見守る姿が痛々しくも幸せそうである。2020.10.27

  • こういう父娘もいるんだなと思った。父の幼少期の悲惨な感じに比べると、娘と息子が甘やかされてる感じもした。娘婿のモラハラぶりは読んでてもとても嫌だったが、この婿のひがみもまあ致し方ないような。ちょっとあまりに父親にべったり甘え過ぎ。息子も無職のように描かれてて、これも、え?なんで?って感じでした

  • かわいかった。これは友情かな。

  • 長編ながら短く章が区切ってあって読みやすい。美人ではないかもしれないけどさっぱりとした杏の様子と、飄々とした父と娘の会話がおもしろい。ドラマチックな事が起こらない部分も楽しかった。平四郎は苦労して育ったせいか、作者の理想なのか、人間出来すぎてる気もしたり。えん子のエピソードがしみじみときれいな話なのはとても好き。離婚の話はりさ子ほどキッパリするのもどうかと思うけど、杏にしても金をつぎ込み献身をしながらもさっぱり期待しないままずるずると終わらせないのには、私もけっこうやきもきしました後半。

  • 平四朗が娘(杏子)の交際相手の親から、もう付き合わないように娘に言ってほしい、と言われ、激高してある行動とるのが一番印象に残った。親ゆえの業であろうか。結局娘も息子も結婚に失敗してしまう。自らも私生児であったのも因果なのだろうか。興味深かったのがこの時代、男が無職で女が仕事していて結婚できたことである。

  • じぶんのなかで室生犀星についての勘違いをしていたに違いない。ある日突然、このお金が全部なくなってしまうにちがいないというように何となく絶望を感じながらページをめくったけどそんなことはなかった。
    かわいいものをめでてだけいるというのと親になるということは違うのだなあ。今は親になるということがしみじみと身にしみる。

  • 20120422読了

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著者プロフィール

1889年石川県生まれ。詩人、作家。1915年、萩原朔太郎、山村暮鳥らと交わり、『卓上噴水』を創刊。18年『愛の詩集』を自費出版、以後『抒情小曲集』『寂しき都会』など数々の詩集を刊行。58年『杏っ子』により読売文学賞、59年『我が愛する詩人の伝記』により毎日出版文化賞、『かげろふの日記遺文』により野間文芸賞を受賞。1962年没。

「2021年 『写文集 我が愛する詩人の伝記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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