花のれん (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101104034

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  • 山崎豊子文学忌 1942.1.2〜2013.9.29 豊子忌
    直木賞受賞作
    大阪商人の気迫と根性で大阪一の興行師となった女性の一代記。
    主人公の多加は、吉本興行の創業者・吉本せい。
    愛人の上で死んだ夫の借金を背負うマイナスからのスタート。そこから、創意と工夫と根回し。そして、気配り、心付け。使うところには、惜しまず使い、興行でしっかり稼ぐ。
    次々と繰り出される興行は、安来節の芸能化、真打落語家への采配、漫才への変革と、大阪の芸能の歴史の一端を担っていた様。
    東京空襲の後、大阪から人を雇い毛布や食料を運び、落語家への見舞いに回るなど、思いたったら、行動しないと気がすまない。
    最後は戦争により、多くのものを奪われたけれど、やり切った人と読みました。
    素晴らしい女性だけれど、読んでて息苦しくなる程の仕事への情熱。ろくでなしの夫を白装束で送る意味はあったのか。ロマンスになりかけた男性に未練はなかったのか。一人息子とも気持ちは離れたまま。
    痛快で、清々しくて、少し物悲しいさが残る女傑物語。

  • 大好きな作家さん、山崎豊子の小説を図書館で。
    この本は初期のころの本で、まだ読んだことがなかったです。

    山崎さんの本は何から何までレビューを書けている訳ではないですが、
    自分の中ではテッパン小説の一つです。
    うまく言えませんが、「艶(つや)」のある文章なんですよね。

    読みながら、吉本興業の劇場運営っぽい話だなぁ…と
    思いながら読んでいましたが、
    あとがきの解説によるとまさに吉本がモデルのようです。
    書き言葉が古いので、ちょっと読み辛いところもあるかもしれませんが、
    丁寧に取材を重ねたと思われるトピックが
    小説の中に散らばっており、とても面白いです。

    インターネットが普及した今の時代では考えられないですが、
    昔は東京と大阪も文化が異なり、
    ある意味違う世界だったんだなぁ…というのが、
    本を読みながら感慨深かったです。
    (確かに、お笑いの世界でも「東京進出」みたいな
    言い方をすることもありますしね。。)

    ※運命の人(一)~(四)
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4167556065#comment
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4167556073#comment
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4167556081#comment
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/416755609X#comment

    ※女系家族〈上〉〈下〉
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/410110431X#comment
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4101104328#comment

    ※暖簾
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4101104018#comment

  • 大正から昭和にいたる大阪の寄席を舞台に、一からはじめた世界で、席主としてどん底からのし上がっていく「御寮人」多加の半生を描く痛快小説。
    最初は細やかな文体と大阪弁と寄席独特の用語が馴染みにくく少し読みづらかったのだが、慣れるてしまうと、上げ潮な展開もあってとても面白かった。
    山崎豊子さんらしく詳しい下調べに基づいていると思われ、寄席の世界についての描写もとても興味深かった。
    大阪商人の才覚とど根性があますことなく描写されるのだが、独特の大阪弁の言い回しが大変面白く、商魂の中にも和やかな雰囲気を醸し出している。
    多加の周囲でそれぞれ活写される登場人物もなかなか楽しい。儚い心を抱く市会議員の伊藤や息子久男との微妙な関係など、商売の合い間にみせる女性多加の人間味あふれる心の葛藤や、多加を助ける番頭のガマ口をはじめ芸人や客との会話など商売を彩るエピソードが盛り上がり、全体として豊かな人生を描き出せたといえよう。
    笑いを商売しているだけあって、物語全体としても大らかな楽しさに満ちており、ずっと続いていてほしいと思った小説であった。

  •  花のれん。

     古き時代の心かよわき女性が、旦那の度重なる失態に呆れながらも、三行半をしたためることはせず、旦那を健気に信じ、共に商いを営んできた。
     人との出会い、繋がり、絆。そのすべてを商売に賭け、自分の人生をも担保にした主人公は、自分が決意した幕引きを遂げた。
     幸せだっただろう。商売繁盛、一世風靡、時の大阪で大円団を築いたのだから。けれど、満たされるどころか、虚無と不乱の入り混じる感情の中で、一人ぽっちだったのではなかっただろうか。

     そよ風にたなびく、藍染を白抜きし、季節の花を散りばめた花のれんをくぐる、白い喪服を羽織った女性。
     脇目も振らず歩いていく。
     その目は、表情は、誰にも見えない。
     けれどきっと、その先で待ってくれている誰かを夢見て、少女のように爛々としていると思う。

     「花のれん」は、はっきり言えば切ない物語りだった。だけど、紆余曲折、波瀾万丈の人生も、主人公からしてみれば、百花繚乱にきらめいていたのではと、私は思った。

  • 商いに生きた女興行師の生涯を描いた、直木賞受賞作。

    楽な方についつい流されてしまう弱い夫を持った多加の、誇り高く、魂を削って商いにすべてを捧げた生き様が圧巻です。
    正直、そこまでする?という程の努力と気遣い。

    多加の才覚ももちろんありますが、事業を大きくしていった根底にあったのが、人との縁でした。
    たしかに運もあったんでしょうが、人との縁を作るために、待たずに行動していったところに運を呼び込む鍵があったように感じます。
    人との縁を作るための多加の努力がいじらしい。
    最近こんな風に脇目を振らないで何かをひたむきに頑張るってことがないな・・・とふっと自分を省みたり。

    多加は自身の生き方を、独楽に喩えているんですよね。
    “わてみたいな商売人は、独楽みたいなもので、回っている間だけがたっているので、動きが止まった途端に倒れますねん、商人て何時まで経っても、しんどいものだす“ (p257)

    多加の人生は辛いことも多くて、決して楽な人生ではないし、本当に走り続けることしかできなかったんでしょうが、そうすることでしか手に入らないものは確かにあるだろうし、ある場面は涙なしでは読めません。

    この小説の魅力の1つは、なんと言っても大阪弁。
    商業言葉である大阪弁の、なんとも複雑豊富なニュアンスを持つ巧みな言葉であることか。
    本当に言葉が美しくて、特に商いの交渉場面は必見です。

    商いに生きたとはいえ、損得勘定のみを考えるではなく、常に「人」を大切にしていた多加の生き様は、いつの時代も人の心に響きます。

  • 大阪の寄席道楽を営む女性の話。
    商売魂が第一。
    子どもや恋愛は、二の次。
    女としての幸せ…とはなんだろう。
    私、読書三昧で一生独身なんだろうか。
    本好きな方と出会えたらいいのに、なんて。

    落語聞きに行ってみたいな。

  • 朝ドラ、小説
    2017年下半期に放送された連続テレビ小説「わろてんか」は、吉本興業創立者の吉本せいがモデルでした。
    かなりのやり手な女性だったそうですが、朝ドラでは見事なふんわりヒロインになっていました。朝ドラのアレンジ力は大したものだと思いました。

    しかし、朝ドラよりも60年近く前に吉本せいがモデルとなった小説が出版されていました。
    『花のれん』(山崎豊子/新潮文庫)です。実は、「わろてんか」放送中に本書を購入してたのですがずーっと積読で、この2日間ほどで一気に読みました。

    明治〜昭和初期の大阪
    吉本せいは1889(明治22)年生まれ、没年は1950(昭和25)年なので『花のれん』の作中では明治、大正、昭和初期の大阪の街の様子が描かれています。
    小説が発表されたのは1958(昭和33)年なので、数年前まで本人が生きていたとしても、既に太平洋戦争が終わって10年以上経ち、大阪の街の様子もかなり変わっていたでしょう。
    山崎豊子先生の取材力なのでしょうね。

    道楽夫に先立たれた女丈夫
    どの部分かまでは調べていませんが、実話に基づきながらもアレンジもある程度加えているのかと思います。夫に先立たれた多加は夫の残した寄席を大きくすべく奮闘します。
    そして何軒もの寄席のオーナーとなっていくのですが、実ることのない淡い恋心もありました。
    朝ドラほどのふんわりではありませんが、実話よりはソフトに描かれているでしょう。

    終盤、息子のくだりはどう描かれているのかな〜と思いましたが、その辺は描かれませんでした。興味がある方はググッてみてください。そっちはそっちで小説1本書けそうですからね。

    ここのところ小説はご無沙汰だったので、楽しく一気に読めました。

  • 「暖簾」を読んだ方は是非セットでこちらもどうぞ。

    先代から継いだ呉服屋を寄席道楽に耽って潰してしまう、あまりにも頼りない夫を支えて大奮闘する女興行師の物語です。いっこうに商売に身が入らない夫に呆れ、いっそ道楽を本業にしたら働くかもしれないと一縷の望みを託した多加の勧めで寄席を買った夫は、冒頭で借財を残したまま妾宅で死亡します。控えめで大人しかった多加は他人の好奇の目をふりきるかのように、前作の「暖簾」父子もびっくりの気迫で金儲けに邁進します。

    金持ちになって見返してやりたいわけではなく、ましてや芸事が好きなわけでもない主人公は、ただただ反射神経だけで毎日を切り抜けていきます。そこには未来も正義も救いもあったものではないのですが、絶望している暇もないほどの爽快なスピード感です。そして何かに取り憑かれたかのように商売をする間も、人情の機微を忘れず、お客さんと芸人さんと使用人たちを大切にする多加には自然とお金が集まってきます。

    目まぐるしく飛び交う大阪弁は、えげつなくずけずけと言い合っているようでも見苦しくなく、テンポよく商談がまとまっていきます。大阪弁の威力に圧倒されること間違いなしです。「暖簾」に引き続き、生粋の大阪人を自負する著者の思い入れの強さを感じた作品でした。

    女主人公ということで、淡い恋心、息子とのすれ違い、息子が頼りにしている女中に対する嫉妬なんかもちょこちょこ挿んであるものの、やはりメインは女商人のど根性。細腕で采配をふるう多加を見るにつけ、頭下げて這いつくばって恥も外聞も捨てて、商売で身を立てていくとはどういうことかを、ひしと感ることでしょう。戦前の上方の寄席小屋や大阪商人の世界が生き生きと描かれていて、春団治、松鶴、エンタツ・アチャコなど、芸人さんが実名で登場しています。漫才・落語に詳しい方にもおすすめです。

  • 大阪船場に嫁いだ多加は夫が急死し借財を抱えて29歳で寄席を取り仕切ることとなる。金貸の老婆に取り入り、便所で師匠を待ち伏せしたり、トッピもないアイデアで大阪の寄席をのし上がっていく物語。
    ストーリーは面白いが短いのでやや読み応えに欠けたのと、古い大阪言葉がやや読みづらかった。

  • あらすじ
    第39回直木三十五賞受賞作
    船場の呉服店に嫁いだ多加(たか)は、家業に関心を持たず、芸事にうつつを抜かすばかりの頼りない夫・吉三郎に、いっそ道楽を本業にしてはどうかと勧める。二人は店を廃業して寄席を始めたが、吉三郎は妾宅で急死。幼い子どもとともに残された多加は覚悟を決め、なりふり構わず人気芸人を集め、金策に走り、寄席の屋台骨を支えるのだった――。女興行師の奮闘ぶりを描き、著者に直木賞をもたらした傑作細腕繁盛記。エンタツ・アチャコや桂春団治など、実在の芸人が花を添える! 
    感想
    これぞ吉本興業だ‼︎

  • ◯大阪の商人の描写がやけに詳しいので、例によって緻密な取材の賜物かと思ったが、山崎先生はもともと大阪の商家の生まれで、大阪商人の話し方、商人の考え方、生き方がリアルなのも頷ける。
    ◯一気に読ませる展開の妙は流石。落ちて上がっての波乱万丈で、テンポが良い。
    ◯ただ、物語自体に滲み出る、金への業の深さが引き起こす因果が悲しく切ない。
    ◯決して金だけに囚われているわけではないが、その生き方が果たして幸せだったのかはわからないが、筋の通った強い生き様に惹かれるものがある。

    • やまさん
      yoshio70さん、おはようございます。
      「花のれん」は、むかし読んだような読んでないような。
      図書館で調べましたら大活字本が有るのが...
      yoshio70さん、おはようございます。
      「花のれん」は、むかし読んだような読んでないような。
      図書館で調べましたら大活字本が有るのが分かりました。
      手持ちの本が少なくなったら、読んでみようと思います。
      yoshio70さんの本棚を見て、思いつきました。
      有難う御座います。
      やま
      2019/11/08
    • yoshio70さん
      やまさん、コメントありがとうございます。
      私も最近NHKでやってた朝ドラを見て、なんとなく思い出したので読んでみました。
      他の人の本棚で色々...
      やまさん、コメントありがとうございます。
      私も最近NHKでやってた朝ドラを見て、なんとなく思い出したので読んでみました。
      他の人の本棚で色々な記憶が蘇ってくるのも、このアプリの良いところですね。
      2019/11/10
  • 山崎豊子

    お笑い界の超モンスターマネジメント会社である吉本興業の創業者がモデルになってます。同じく吉本興業の創業者がモデルになった朝ドラ「わろてんか」の原作、、、にはなってないのかな?

    でもまぁ、同じような歴史をたどってますので主人公の多加の喋りは全て葵わかなが頭に浮かびます(笑
    何も知らない船場のこいさんが頼んない旦那に嫁いだためにすんげぇやり手になって寄席を大きくしていったってお話。
    春団治やエンタツ・アチャコが実名で登場してる、、、
    こんな船場言葉いまどき誰も喋らないけど、やっぱり大阪人にとっては心地いい(って字面眺めてるだけやけど)

    とこれは多加のお話で実際の吉本の創業者は船場のこいさんではなく、船場に嫁いできたってことかな?旦那さんも働き者やったし、、ここら辺は史実とは違う。

    山崎豊子自身が船場のこいさんだったので初期のお話は大阪が舞台になってるのが多いですよね。

    やわらかい船場言葉でどぎつい商売をするってところがきっとポイントなんでしょう。

  • 序盤は、夫のダメ男ぶりと
    苦手な関西ノリに難儀したけど、
    中盤以降からは面白くなってきた。

    伊藤とはそれだけかよ!…だからこそいいって話でもあるんだけど。

  • 第34回:日本の歴史(大正時代)・・・安藤

  • 吉本を作ったモデルの女性と言われる女興行師の波瀾万丈の生涯。
    ダメな夫、次々降りかかる試練、時代の波、その度にプライドも捨てて「ど根性」で乗り越える。
    絶妙なタイミングでの商売へのお金の投資の仕方、相手との駆け引き。
    さすがです。
    これだけのことができないと、商売を大きくすることはできないんだ、と感心。
    商売には勘とセンスが必要なんだわ。

    そして、こんなにこんなに苦労して苦労して..でも最後は..
    心が少し痛いせつない読後感。

    吉本の芸人さんたち、頑張って!

  • ブギウギで興味を持ち久しぶりに山崎豊子さん。
    今吉本も変わらないと行けない分岐点にいるタイミング。この時代には戻れないけど、今の時代のエンターテインメントを磨いていってほしい。

  • 2023.12.30-12.31
    朝ドラ『ブギウギ』から吉本せいさんを知り、しかも大好きな山崎豊子氏の作品ということで初っ端から読み入った。

    決して夫婦の縁には恵まれたわけではなかったが、多加は天賦の商才には恵まれた。
    分をわきまえ、上下の関係をもたず、常に商売を盛り上げることに精力する姿は見ていて痛快でした。

  • 山崎豊子さんの作品は、情緒的で素晴らしい!

  • 浪花言葉 大阪弁が醸し出す味が
    心地良い。
    どてらい男 花登こばこを彷彿させる
    船場
    流石 山崎豊子 社会派物から人情物まで
    素晴らしい作家
    確かNHK朝ドラ わろてんか だったかな

  • 吉本興行の創業者、吉本せいをモデルにした小説。
    吉本せいの生涯については[ https://booklog.jp/item/1/4106108453 ]や[ https://booklog.jp/item/1/4480434712 ]でも読んだことがある。実際の生涯が既に起伏に富みすぎているのだが、小説にするとやはりそれはそれで面白い。
    解説によれば著者は大阪船場の商家の生まれだそうで、そのためか、大阪弁や大阪の地域・気質がリアルにふくよかに描かれている。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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