- Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101104140
感想・レビュー・書評
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【感想】
上中下3部作の下巻を読み終えましたが、かなり壮絶な終わり方でした。
ちょっと前にドラマで「半沢直樹」を観ていて、池井戸潤特有のスカっとするような勧善懲悪の終わり方を本作品にも期待していたのですが・・・
そこは山崎豊子、容赦がありませんね。残念ながらかなり胸糞悪い終わり方となっていました・・・
この一族、全然華麗じゃねえよ!!!!笑
読んでいて特に、下巻で凋落っぷりを感じたのは、やはり相子に関するエピソードでしょう。
上巻・中巻では思うがままに万俵家を采配し、栄華を極めるような相子でしたが、下巻の途中からは万樹子の里帰りや、次女・二子の縁談がうまくいかないなど自身の影響力の低下が露わになり、最後は大介から破局の申し出をされ取り乱してしまう始末。
読者としてはざまあ見やがれ!と思いましたが、よくよく考えられると大介に弄ばれた一人の不幸な女性だと思うと、哀れでなりませんでした。
また、万俵大介も、下巻になって影響力に衰えを見せ始めた内の一人だったかと思います。
あれだけ憎んでいた鉄平が自死を遂げてしまい、その時になって初めて鉄平と自分が血のつながった父子だと理解するなんて、なんて滑稽なのかなと読んでいて思いました。
そして、万俵自身が色々な事を犠牲にしてようやく成し遂げた都銀同士の合併でしたが、それすらも近い将来により大きな銀行に食われてしまう事が確定事項としてあるなんて・・・・
作中では描かれていませんが、近い将来にこの「華麗なる一族」が凋落する事を喚起させる描写に、戦慄が走りました。
などなど、かなりドロドロして胸糞悪い終わり方をした物語でしたが、唯一の救いだったのは、鉄平の死後に心情の変化があった万俵家の子ども達でしょう。
二子は結局お見合いは破談となって自身が思い合った男性と縁を結ぶことが出来ました。
ニヒルで斜に構えた考え方しかできなかった次男・銀平も、鉄平の死によって心の氷が融和するような描写がありました。
鉄平は犠牲となりましたが、その命と引き換えに、万俵家の子どもたちに新たな幸福が訪れる事を、切に願っています。
【あらすじ】
万俵大介は、大同銀行の専務と結託して、鉄平の阪神特殊鋼を倒産へと追いやり、それをも手段に、上位の大同銀行の吸収をはかる。
鉄平は、三雲頭取を出し抜いた専務と父親の関係を知るに及び、丹波篠山で猟銃自殺をとげる。
帝国ホテルで挙行された新銀行披露パーティの舞台裏では、新たな銀行再編成がはじまっていた。
聖域〈銀行〉にうずまく果てしない欲望を暴く熾烈な人間ドラマ。
【メモ】
p56
「では、ご機嫌よう。皆さまにはあなたからおよろしく」
と言い、万樹子は玄関を出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、相子は、どうせ自分の婚前の秘密を明かされることを恐れて、万俵家の三台並んだベッドのことも言えず、舞い戻って来るに違いないとたかをくくっていたが、初めて自分の指図が通らなかった口惜しさが相子の心を錐揉んだ。
p156
こうして一対一で向かい合うと、一種の威圧感を持って映る。
万俵はこの時、自分が都市銀行でただ一人のオーナー頭取のは云いながら、たかだか第十位の地銀的都市銀行の頭取にしか過ぎないことに、かすかな劣等感を覚えた。
(中略)
総理夫人の予定に合わせて、二度も正式の見合いの日取りを変更し、京都の嵯峨の「吉兆」であれほど大層にした見合いであるにもかかわらず、総理には全く伝わっていないのか。
万俵は自尊心を傷つけられて、視線を総理の背後へ移した。
(中略)
万俵は、視線を佐橋総理へ向けた。
今日の本当の目的は、総理夫人の甥の細川一也との婚約を有難って報告に来、田舎者扱いされるためではない。
p278
「いまとなっては、お目にかかる必要はないと思います。あなたと私との間はもう終わっているのです。あとは法廷で争うだけです」
万俵の耳に法廷という言葉が強い響きを持って残った。
(中略)
万一そのようなことになれば、阪神銀行の信用と同時に、万俵家の家名を汚し、来春にひかえている二子の結婚にまで響き、ここまで完璧に積み上げて来た自分の野心が一挙に打ち砕かれてしまう。
今は何よりも、鉄平に告訴を取り下げさせることであった。
p314
「お父さんも、今度ばかりは、やり過ぎですよ」
「なにがだ?」
「鉄平兄さんのことですよ。会社を潰しておいて、その上、管財人が帝国製鉄の常務ではひどすぎますよ」
(中略)
「兄さんに対するお父さんの態度は少なくともそんなものじゃありませんね。しかし、どのような大きな意図のもとでも、息子の会社を平然と潰すお父さんと、だからと云ってそれを告訴する兄さんも、どちらもおかしいですよ。僕には解りませんねぇ」
p501
三雲は、しばし万俵の顔を凝視し、
「万俵さん、孟子の教えに『天下ヲ得ルニハ、一不義ヲ成サズ、一無辜ヲ殺サズ』という言葉がありますねぇ」
静かな淡々とした語調で言った。
天下を得るには、一つの不義もなさず、一人の罪なき者も殺してはならぬという意であった。
自ら不倫、不義の私生活を営み、罪なき者、鉄平を死に追いやってしまった万俵としては、その言葉がぐさりと鋭く胸に突き刺さった。
p521
「あなたって怖ろしい人ね。ご自分の企業的野心を満たすためには、親子の絆のみならず、男女の絆も、ご用済みとなれば平然と切っておしまいになるのね」
相子は許し難いように言い、目の前の封筒を万俵に押し返した。
「別れない!意地でも別れて差し上げない!」
万俵は瞬きもせず、相子を凝視し、
「妻でもなく、まして子供もない仲で、意地でも別れないなどというのはおかしいじゃないかねぇ。相子らしくない取り乱し方だ」
ぷつんと断ち切るように言った。
p527
「金融再編成の火蓋を切るために、ともかく都市銀行同士の大型合併が必要だったからだ。
(中略)
今日発足した東洋銀行の合併後の体質改善を図り、名実ともにワールドバンクたる銀行をつくる。
そのためには東洋銀行を上位4行の一つと再合併させることだ。」
永田大臣の声が室内に低く籠り、美馬は驚愕のあまり言葉も出なかった。
(中略)
その一瞬の引きつれるように歪んだ笑いが、まさか舅である自分を裏切る戦慄だとは、万俵は気づかなかった。
万俵は、3年先に再合併される運命に置かれつつあることも知らず、会場を埋めた来賓たちの乾杯を受け、激励の握手をさらに受け続けていた。 -
以下、上中下巻で同じ感想です。
最近、「近過去」のドキュメンタリーや小説が面白い。
人間の織りなすドラマの本質は古今東西いつも変わらないのかもしれないが、舞台設定として、いわゆる「ザ・昭和」は実は1950-60年代、すなわち昭和30年代前後であり、もちろん、働き方や家庭生活など今ではありえないようなことも多いが、同時にやっぱりいまだに、ということも多い。そしてテーマとなる政治や経済のトピックが、これまた日本はこの数十年間何をしていたのか、というくらい共通なのである。
「華麗なる一族」の物語は、行政の手厚い保護と支配の元にあった銀行の経営統合という壮絶な戦いを縦糸に、昭和な家長制と血縁の闇を横軸に進む。
一番の迫力は、ここで取り交わされるさまざまな会話。一歩間違えれば追い込まれる神経戦の連続。経済に関する記述も非常に正確で、企業乗っ取りといえば流行りものを含めそうとう雑なものも多い中、リアリティは今なお色褪せない。
スカッとしないことこの上ない読後感ではあるが、だからこその読み応え。 -
ドラマを先に見ており、結末を知っていたのに下巻の怒涛のストーリーは一気読みしてしまった。
結末のなんとも寒々しい空気感が伝わってくる感じ、流石山崎豊子さんだと感じました。 -
人の欲望の持つ負のエネルギーを見せて貰いました。自らの野望を遂げるためには、人を人とも思わず、利用価値というフィルターを通した生活を送る万俵大介。誇張されたキャラクターではありますが、怪物感がよく出ていたと思います。それでも、政治の世界が絡むと新銀行の頭取となった大介もいずれは...となる怖い世界。家族内でも長男鉄平の死後、少しずつ変化の兆しが現れ始めたことが救いです。
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Review読ませて頂きました。
あらすじネタバレは本当に悪意しか感じませんよね・・・笑
僕は中巻のあらすじで「熱風炉が爆発するという事故が...Review読ませて頂きました。
あらすじネタバレは本当に悪意しか感じませんよね・・・笑
僕は中巻のあらすじで「熱風炉が爆発するという事故が・・・」というネタバレを見て以来、本書については一切あらすじを読むことなく読み終えました。2020/10/13 -
本当にあらすじは読まないのが賢明ですね。私も気をつけるようにします。(かなり前にいただいたコメントに恐れ入ります)本当にあらすじは読まないのが賢明ですね。私も気をつけるようにします。(かなり前にいただいたコメントに恐れ入ります)2021/02/14
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親父が汚い
鉄平も良く言えば一本気だけれど、融通のきかなさがすごい。
多分俺は鉄平は苦手(笑)でも一生懸命に情熱を傾けられるのはとても尊敬できる。
けれど現実的なのはやはり親父かなあ。
親父の汚さはあるけれど今の社会を生き抜いてどんどん成長できるのは狡猾な冷静な、そんな人間なのかもしれない。
理想主義にも感じられる鉄平は今の世を生きていくのは難しいと思う。簡単に騙されそう。難しいね。人間て。
あとなげえwww -
2018年2月25日、読み始め。
2018年3月10日、読了。
著者は、1924年生まれ。
「華麗なる一族」は1970年3月~1972年10月に「週刊新潮」に連載された。
したがって、著者が46~48歳の頃に書かれた作品になる。
著者の出身地は、大阪市。
したがって、この作品の舞台が近畿近辺を舞台にしているのは、その辺りに理由がありそう。
銀行合併が書かれているが、そのモデルと言われているのが、現在の三井住友銀行のようである。
ちなみに、三井住友銀行の沿革を見てみると、多くの銀行が合併してきていることがわかる。 -
こんなにも全ての人が不幸な本てあったかなぁ。はぁ、おもしろかった。
悪者のうえには悪者がいるもんだな。
後味は悪いけどよくできたストーリー。妻妾同衾が表沙汰になってほしかった。 -
中巻は相子にムカついたけど、下巻は本当に大介に腹が立った。あんなに熱い思いを持って何が何でも高炉の完成をやり遂げようとした実の息子に対して、超冷たく扱って利用するだけして、自殺にまで追い込むなんて非道すぎるなほんと。大介も小が大を喰う銀行の合併という大事業をやり遂げたかったんだけど、あまりにも心がなさすぎる。鉄平が死んだときに大蔵官僚の美馬も、人の死に対して「迷惑なことを。。。」とか言ってるのとか、どいつもこいつも打算的過ぎて心がなさすぎて、腹が立つわ~。美馬とか大介みたいな人間ってたくさんいると思うけど、そこまでして地位や名誉を得たいと思う人間の心理がまったくわからん。社会派の小説はかなりおもしろいんだけど、文学の方がディープということが改めてわかったし、文学が本当に好きな人はこういった社会派の本は好きじゃないんだろうなと思った。
それにしても大介とか美馬のような悪的な考え方の持ち主をさらに上回った悪い考え方をしていた大蔵大臣は大悪党だなと思った(笑)
まぁ文学と新書の合間にまた社会派の小説を読んでみようと思う。 -
今から50年以上も前の小説とは思えない程時代背景を気にせず、面白く読み終えた。
評価も星5つまでだが7つにしてもいいのではないかと思う。
社会派ってことで池井戸潤の小説っぽい逆転劇を期待してたけど、良い意味で期待は裏切られた。
リアルで所謂都市銀行って凄い競争社会の先端にいるんだね。
もう死んでしまったけど、第一勧銀重役だったらしい親戚は接待漬けで体を何度も壊し、出世街道から外れて結局ヤナセに常務で出向になったことを思い出したよ。
小椋佳と同期って言ってたな。 -
圧倒的としか言いようがない読後感、、、。
万俵家自体が愛人の相子まで含めた大所帯なのにもかかわらず、万俵家を取り巻く海千山千の怪物達の全てが無駄なく、物語のプロットを崩すことなく描かれている。
上巻、中巻のあからさまな伏線がなかなか回収されないことに疑問を覚えていたが下巻でその全てが漏れなく回収されていて、この筆力たるや、、。
自らの子が命を捧げた会社とついには我が子の命そのものさえも生贄に野望の実現にこぎつけた万俵大介が鉄平が血を分けた実子であることを知ったあのシーンの衝撃は全てを読み終わった後でもずっしりとのしかかり続けている。
こんな小説読んだ後で社会派小説書こうとか思う人いるのかな、、? -
すごい、筆圧が。
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作品としては「白い巨塔」などと同じく初期の長編。従って、主人公万俵大介が自己の野望のため策略をめぐらすなど、「白い巨塔」の設定と近しいところもある。
個人的には、万俵鉄平が祖父の子かもしれないとの疑惑から大介は鉄平に冷酷な対応をするという設定になっているが、大介の銀行家としての冷酷さをより現すためには、自分の実子だろうが側近だろうが必要ならば切り捨てるという意味で、そういう設定にしなかった方がよいと思う。 -
相変わらず悲惨なラストだが、山崎豊子にハズレなし
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物語の中核、都市銀行としては小さな阪神銀行が、自分より上位の大同銀行を呑み込む策動が動き出す辺りから物語は俄然面白くなる。
阪神銀行頭取の万俵大介が権謀術数で家族を不幸に巻き込みながらも己の欲望を満たして行く様に嫌悪感を抱きながらもストーリーに引き込まれて行く。
「自らの欲望を遂げるためには、冷然と金の力で自分に都合のよい正義を作り変えることの出来る男」
万俵大介を表す的確な言葉だろう。
物語のいたるところに出てくる馴染みある土地。
神戸を舞台にしたストーリー展開も嬉しい。
阪神銀行があるのは元町栄町通であるし、南京町、北野坂、六甲山など地名もさることながらドンクやオリエンタルホテルなど固有名詞で登場する場所が嬉しい。
息が詰まりそうなドロドロとしたドラマだったが重厚感はさすが山崎豊子だ。
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経済界・金融界、そして万俵家のドロドロとした関係を精緻にかつドラマティックに描いており、改めてとんでもない作家だと圧倒された。
上巻冒頭の華やかな万俵家の食事の風景が、最後にはもの寂しい風景に変わっており、この華麗なる一族が終焉を迎えたことを深く印象付ける。
銀行家としての野心や名声のために、家族や周囲の人間を意のままに操ろうとし、時に突き放し陥れ、そして失い、それでもなお自らの方針を覆さない万俵大介の姿は病的でもあり、恐ろしかった。自らの野心を達成するためにあらゆる手段を講じてきた万俵大介だったが、今後彼の野望が崩壊されていくことがラストで示唆され、痛快な読後感があった。
ドラマ(観ていないが)ではキムタクが鉄平を演じていたそうだが、キムタクに鉄平感はあまりないように感じた。もう少しキムタクが歳を取ったら、むしろ大介役がハマるのでは。 -
名作。本音を言うと、巻末の展開の続き、つまり阪神銀行のその後、万俵大介のその後が見たかった。高須相子も。
3つの本で下巻が1番面白い。ハラハラドキドキするのが止まらなかった。
この本では悪人が勝つようなストーリーだが、最後の最後でそのどんでん返しの兆しを残して終わっている。
1人の人間の死をきっかけに、家族に変化が見られるのも見もの。どんなに悪党も所詮は人間。
また時間が経ってしばらくしてから読み直そうと思える本。
ドラマの時に見てなかったのですが、いつか読んでみたいと思っている作品です。きのPさんの感想を読んで、絶対、いつか読みたいと思...
ドラマの時に見てなかったのですが、いつか読んでみたいと思っている作品です。きのPさんの感想を読んで、絶対、いつか読みたいと思いました!
でも上、中、下巻は、読むのに大変そうです(*´-`)
コメントありがとうございます(*^^*)
上中下巻と長編ですし、内容も中々ハードなのですが、気が付いたら...
コメントありがとうございます(*^^*)
上中下巻と長編ですし、内容も中々ハードなのですが、気が付いたら読み終えているほどのめり込める面白い作品ですよ♪
是非ご一読ください(*^^*)
さすが読後済みでしたね。
私めも早くにレビュー読ませていただいてました。
もうのめり込んで
山崎豊子作品を片っ端から読んだ時が...
さすが読後済みでしたね。
私めも早くにレビュー読ませていただいてました。
もうのめり込んで
山崎豊子作品を片っ端から読んだ時が楽しかったです。
ここまでの作者は令和に現れますかね。
もうぐいぐい引っ張られました。
人間って哀れですね。