沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104294

作品紹介・あらすじ

「空の安全」をないがしろにし、利潤追求を第一とした経営。御巣鷹山の墜落は、起こるべくして起きた事故だった。政府は組織の建て直しを図るべく、新会長に国見正之の就任を要請。恩地は新設された会長室の部長に抜擢される。「きみの力を借りたい」。国見の真摯な説得が恩地を動かした。次第に白日の下にさらされる腐敗の構造。しかし、それは終わりなき暗闘の始まりでしかなかった…。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;山崎豊子さんは、小説家。大阪の老舗昆布店に生まれ、毎日新聞に勤務後、小説を書き始めました。上司は作家の井上靖氏で、薫陶を受けています。19歳の時、学徒動員で友人らの死に直面。「個人を押しつぶす巨大な権力や不条理は許せない」と言っています。社会派小説の巨匠と言われ、権力や組織の裏側に迫るテーマに加え、人間ドラマを織り交ぜた小説は、今でも幅広い世代から支持されています。綿密な取材と膨大な資料に基づく執筆姿勢は有名です。
    2.本書;国民航空の新会長として関西紡績・国見会長が就任。国見は、恩地(主人公)を会長室部長に抜擢。次々と白日の下にさらされる不正・乱脈・腐敗の構造。「今なお航空会社の使命を忘れ、贖罪の意識の欠片もない社内の魑魅魍魎の輩を、このままはびこらせてはならない。会長室への反発は、さらに強まるだろうが屈してはならないと、恩地は心に誓った」と物語は、“会長室篇・下”に続きます。
    3.私の個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
    (1)『第1章 新生』より、「関西紡績では、大卒の新入社員は必ず、地方工場の舎監になり、女子従業員の指導に当たる事になっていた。国見が、富山工場の舎監に赴任して、眼にしたものは、ごうごうと音をたてる紡織機を前に、千五百名もの女子従業員が糸切れを紡ぐために、綿ぼこりにまみれながら、こまねずみのように動き回っている姿であった。一日八時間乃至十時間働き、夕食を済ませてから、女学校並みの学力をつけるために、補習教育を受ける。・・・昼間の疲れで、つい睡魔に襲われ る十代の少女たちに、いかに興味を持たせて学ばせるか、苦心したことが、懐かしく思い出された」
    ●感想⇒寮生活をしながら、仕事と学業を両立させてきた人達には頭が下がるばかりです。今でも同じような環境で頑張っている人がいると思います。しかし、大抵の人は親の庇護のもとで、学校生活を送っているでしょう。親への感謝の心を忘れてはなりません。私事です。異動で、調達部に変わった時の事です。調達(購買)の仕事には、経理知識が必要にも拘らず、若い人は知識不足かつ学ぶ場がありませんでした。そこで、私が講師になり、自主勉強会を企画し、在籍期間3年までの人を対象に希望者を募りました。かなりの人数が集まりました。その時に、女性中堅社員が「私も参加させてほしい」と直願してきたのです。理由を聞くと、「夫が零細企業を経営。経理の人を雇う程の余裕がないので、私が勉強したい」との事でした。給与も出ない自主勉強会でしたが、参加を了承しました。共働きだけでも大変なのに、その意欲に感銘しました。自前のテキストで、1年間ほど研修しました。終了した時に聴講者から数々のお礼の言葉を貰いました。今でも私の大切な宝物です。
    (2)『第2章 朝雲』より、「国民航空が今日のような姿になったのには、・・・その根源は「人事」にあると考えます。不正人事が、全ての部門に影響を与え、会社全体を活力のない、しらけた状態にしてしまったのです。これは歴代の社長はじめ、役員が、自分の子弟や親族を縁故入社させ、これにより役員が、私的に人事を左右する環境が社内に生まれました。そして、自分を中心とした閥を作ることに専念し、その派閥に属した特別なグループの社員のみが昇進昇格出来るようにしています」
    ●感想⇒縁故採用はどこの会社でもあります。縁故は最大限に活用すべきだと推奨している先生もいると言います。しかし、縁故採用は就職希望者の門戸を狭くするので、機会均等の点で好ましくありません。一歩譲ったとして、問題なのは、実力がない縁故者を採用するという事です。ある会社では、縁故者を優先的に受験させていますが、企業向きでない人はブランド大学でも不合格にしているそうです。それはそれとして、縁故のない人は不利な条件の中でも、勝ち抜ける力を養いたいものです。会社側も真に実力あるものを採用する事が企業の将来に資すると考えてほしいと思います。それは企業の社会的責任の一端です。
    (3)『第6章 狼煙』より、「恩地君(主人公)は常に弱い者の立場に立って考え、行動する、言うならば人道主義者です。・・・彼のように組織の中で、悲惨な立場に置かれ続けてきた人間を用いることで、差別されてきた者に希望を持たせ、・・・陽の当たる職場で働く姿が、組合員の差別撤廃の旗印になると信じている」
    ●感想⇒主人公・恩地のような人に出会った事がありません。物語のように、差別されてきた人に活躍する場を提供する人がいれば拍手喝采です。私事です。私は幼少の頃に、人道(主義)について、祖母から色々と言われました。「他人からの恩を忘れたら犬畜生と同じだ。他人が困っていたら助けてあげなさい。お百姓さんが大事に育てたお米に感謝し、米粒一粒残してはいけない。食べ物で美味しいと思うのは誰もが同じ、先に人にあげて自分は後にしなさい、・・等」と教えられました。振返ると他人からそのような事を言われた事がありません。至極当然な言葉ばかりかも知れませんが、私には言霊です。
    4.まとめ;国民航空の腐敗構造に言葉がありません。例えば、①派閥を作るための手段を選ばぬ人事考課の仕方、遊び人・政治家の子弟ばかりが昇進していく実態 ②労働組合の副委員長は、一日たりとも出社せずして、査定は最高の評価をずっと受け続けている ③生協理事は納入業者に商品の伴わない架空領収書を書かせる・・・等、枚挙に遑がありません。国民航空には、真面目に正直に真摯に働いている人が大勢いると思います。フィクションとは言え、憤慨遣る方無い思いに駆られます。この会長室篇は下に続きますので、そこで再度“会長篇”をまとめます。(以上)

  • 御巣鷹山航空機事故を受けて、後任人事として全く業種の異なる会社に会長職を要請した。世間の風当たりが強い会社の会長職に就くというのは、爆弾飛び交う戦場に突如派遣されるようなもので、受けた人間の覚悟も相当なものに感じる。抜本的な社内改革のために政府主導で依頼されたものではあるが、当然旧体制化で甘い汁を吸ってきた輩からはきつい反発があり、事故から1年経っても改革は進まない。
     自分の身を案じること(地位など)に一番の人間、そのためには他者のことなどお構いなしという風潮は今の世の中でも変わることなく、特に組織の中でいい地位にいる人たちに多く存在し続けているように思う。それを変えようとすると異端とも捉えられかねない。会社再建の道のりは果てしなく遠い。

  • 大手航空会社に勤務するオンチ君が主人公で、「善人」のモデルとなっています。全5巻にわたって、善をまっとうすることが1つのテーマであり、テーゼになっています。オンチ君の反対のモデルがギョウテン君で、企業・社会を上手く生きていくために、正義を見てみぬふりをしたり、不正を行ったりします。こちらが大勢だったりもします。

  • 恩地が遺族者担当として奔走するさなか、国見氏登場

  • 機長全員を管理職にすることなどできるのか?労働法上管理職の要件は?

  • 再読。

    労働組合なんて本当に古い考え方。くだらない。人事体制が整っていないのも悪いが、加入する組合により派閥が起こって待遇に差が出るなんて言語道断。その前に御巣鷹山事故をもっと真摯に受け止められないのか。会社が腐ってる。それが故に起こした事故なのでは。
    国見会長に光を見た。恩地さんを救えるのはこの人しかいない。

    次はついに最終巻。ここまで遺族の想いに泣き、会社の体制に憤りを感じることのできる小説はなかなかないのでは。やはり偉大な人でした、豊子先生。

  • 事故後1年も経ってないのに、賄賂やキックバックで私腹を肥やすことしか考えない上層部面々。こんな会社ほんとにあるんだなー

  • 会長の国見が良い人であるのが救い。
    次から次へと私服を肥やした男達が登場し、国見や恩地の行手を阻んでいますが、、次巻で大逆転があることを期待します。

  • JALが嫌いになるような作品。
    いい意味でも悪い意味でも昭和ってやりたい放題の時代だったんだなとは思う。
    もちろんフィクションも混ざっているのはわかるが、ある程度事実に基づいているであろう山崎さんの作品であるがゆえにショックも大きいように思う。

  • 長編は苦手なのですが、ノンフィクションに近い内容で読み応え凄く、あっという間に読破してしまいました。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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