白い巨塔〈第3巻〉 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104355

作品紹介・あらすじ

財前が手術をした噴門癌の患者は、財前が外遊中に死亡。死因に疑問を抱き、手術後に一度も患者を診察しなかった財前の不誠実な態度に怒った遺族は、裁判に訴える。そして、術前・術後に親身になって症状や死因の究明にあたってくれた第一内科助教授の里見に原告側証人になってくれるよう依頼する。里見は、それを受けることで学内の立場が危うくなることも省みず、証人台に立つ。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    何とか教授選を勝ち切り、無事教授になった財前でしたが、その慢心ゆえに、同期である里見の助言を全て無視し、挙句の果てには患者を死に至らしめて訴訟されるという大きなミスを犯してしまう。
    ただ、この本の胸糞悪いところは、裁判に関わる医者たちの殆どが、その専門的な知識を駆使して患者やその遺族ではなく、財前や自分たちの立場を守るといった愚行に走った事でしょう。
    そして、正しいことをしているはずの里見が大学病院を追われ、罰を受けなければならない財前が何食わぬ顔で病院内でのさばり続ける・・・
    本当に読んでいて胸糞悪くなりました。

    この本を読んで分かる腐敗した世界観は、正直なところ現代ではかなり改善されているのではないかと思います。
    僕自身、仕事で大学病院などに訪問したり院内の色んな医師とお話をしますが、コンプライアンスにうるさい今日、国立病院では接待は基本NG、会社からの寄付でさえ上限金額が決められるなど、むしろ医師にとってかなりウマミがなくなってきているのが現状かなと思います。

    また、これは病院や診療科などその医局によって異なるかもしれませんが、上下関係はあるとはいってもフランクな医師も多く、総じてみると封建的な印象なんてあまりないようにも感じます。
    少なくとも、この小説のように、患者にとってここまで傲慢な医師なんていないと思います(笑)
    なんなら、「ブラックジャックによろしく」のような院内の雰囲気すら、現代の病院にはないと思います。
    (しかし、医師や医療従事者の人材不足はコロナ前からずっと課題としてありますが・・・)

    ただ、現代でも医療事故は減ったとはいえ起きており、被害者によっては泣き寝入りを強いられる事はあるようです。
    その構図は段々と良くはなっているとはいえ、根深い問題として残っているのかもしれませんね。

    こういった改革は、何も医師たちを虐げる為にやるわけではありません。医師や医療従事者の方達は、本当に尊敬に値する存在です。
    また医師や医療従事者のワークライフバランスもしっかりと確保した上で、医療事故を極力防止し、より良い医療がこれからも受けられる世の中であってほしいと願います。

    さて、「白い巨塔」も5分の3を読み終えました。
    ただ、正直今のところは胸糞展開ばかりで、読んでいてあまり面白いと感じておりません(笑)
    残り2巻、"名作"である所以をしっかりと僕に魅せて頂きたいですね!!(何様)


    【あらすじ】
    財前が手術をした噴門癌の患者は、財前が外遊中に死亡。
    死因に疑問を抱き、手術後に一度も患者を診察しなかった財前の不誠実な態度に怒った遺族は、裁判に訴える。
    そして、術前・術後に親身になって症状や死因の究明にあたってくれた第一内科助教授の里見に原告側証人になってくれるよう依頼する。
    里見は、それを受けることで学内の立場が危うくなることも省みず、証人台に立つ。


    【メモ】
    p329
    「何を根拠にしてとか、ぶこく罪とか、そんなことは知りません。けれど、財前という先生の無責任な診察で夫が思いもかけぬ死に方をしたことは事実だす。この間から大学のえらい先生たちが鑑定に出て、素人にはわからんような難しい医学のやりとりばかりをしてはりますが、なんでそんな難しいことばかりを言わんならんのです?財前という先生が、患者をちゃんと親切に間違いなく診察したからどうか、それだけを裁けばええのだす。なんでそれを裁かんのです!証拠や根拠ばかりを言うて、こんな裁き方は間違うてます!」

    「うちの人を返して、生き返らせて。子供の父親を返して!」
    振り絞るような声で叫び、財前の胸に掴み掛かった。


    p374
    「里見君、君の友情のない証言で対質にまで持ち込まれ、一時は苦境にたたされたが、これでやっと僕に誤診の事実がなかったことが明らかになったよ」
    勝ち誇るように言うと、
    「財前君、こういう勝ち方をして、法律的責任は逃れられても、医者としての良心、倫理に問うてみて、君は恥ずかしいとは思わないのか」
    里見は財前を憐れむように言った。
    「じゃあ、どういう勝ち方をしろというのかね」、ぎらりと精悍な眼を光らせ、開き直るように言った。
    「君は医者である自分に対して、もっと厳しくあるべきだ。医療は人間の祈りだとさえ言われている。神を畏れ、神に祈るような敬虔な心で、患者の命を尊重する心がなくては、医療に携わることは許されないはずだ」
    里見は静かな揺るがぬ声で言った。


    p376
    一体、何をしたというのだろうか?
    初診した患者の死の経緯について正しい証言をした者が大学を追われ、事実患者の診療に誤りを犯した者が、大学の名誉と権威を守るという美名のもと、大学のあらゆる力を結集してその誤審を否定し、法律的責任を逃れて大学に留まる。
    何という不条理であろうか。

    しかし、これが現代の白い巨塔なんだ。
    外見は学究的で進歩的に見えながら、その厚い強固な壁の内側は、封建的な人間関係と特殊な組織によって築かれ、里見一人がどう真実を訴えようとも、微動だにしない非情な世界が生きている。

  • 財前が手術をした佐々木庸平が、財前の欧州出張中に死亡。死因に疑問を持った遺族から訴えられる。

    そして、財前の対応に疑問を持った第1内科・里見は、自身にとって、不利益になることを顧みず、原告側証人として、証人台に立つ。

    判決は…

    確かに財前の医者としての対応はひどいものであった。
    ただ財前の誤診が佐々木庸平を死に至らしめた、という医学的根拠はないだろう。
    遺族の財前への怒り、庸平を失った悲しみはわかるが、勝てる裁判であったとは思えない…
    控訴するというが…

    里見も医師として、正しいことをしたと言うが、その前にできることはなかったのだろうか…
    『学会の報告の作成で…』

    正しいことをしたために、自らは研究者としての道を閉ざされてしまった…

    大学病院を頂点とする封建的な医学界。
    里見のしたことは正しいのかもしれない。が、医学界で研究者として生きていくには正しいことをしたとは言えないのだろう。
    里見の長年続けてきた研究が死んでしまったのだから。

  • 不穏な様子を見せた2巻、次はどうなるの?とハラハラしながら3巻を読み始めると国際外科学会に招待された新教授の話で舞台はしばし日本を離れて西ドイツへ。新教授は国際学会での研究発表、ドイツでの手術の成功...と華々しい活躍。

    そしてまた視点は日本へ戻る。ドイツへ発つ前に診た患者が急変し、死亡する。胃癌の手術は成功したものの肺に転移していたのだ。それまでにも更なる検査を勧められたにも関わらず「私の診断に間違いはない」と一蹴していた新教授。これは驕りが生んだ犠牲者なのか...。

    ドイツから意気揚々と帰ってきた新教授、日本へ着くなり遺族から訴えられたことを知り、話は裁判編へ突入する。

    山崎さんの緩急の付け方うまいなーと感心しながら読みました。新教授の憎たらしさといったら...。新教授一派が裁判であの手この手を使う様子は人間の醜悪さを見せられているようで少々しんどかった。その中で正義の心を貫く者、学問に忠実である者、弱みを握られ真実を言えない者、出世のために進んで嘘を吐く者...などいて多種多様。裁判の成り行きもドキドキしながら読める。エンターテイメントとして消費するならば非常に面白い。遺族の立場に立つならば非常に心が重い。

    4巻ではどのように展開するのか...

  • 5巻にて感想を。

  • 患者遺族が財前教授を訴えた裁判の場面が多かった。概して、小説内の裁判の場面は面白くないが、この本の場面は、わりと面白かった。

  • 山崎豊子はいつも「しがらみ」をテーマにしていますね。現実にも似たような話がどれくらいあるんだろう。
    もう40年以上も前の小説なのに全然「古さ」を感じさせません。

    自分が里見教授の立場だったら同じように法廷で真実を語れるだろうか。
    そのポストを手に入れるのに苦労をすればするほど保身に走ってしまうのはよくわかります。

    それから敬語の勉強、若造の権威者に対する立ち居振る舞いの勉強になります。

  • 前半に描かれている、ドイツの風光明媚な自然、城、街並み、レストランと財前教授の感性にはうっとりとさせられた。羨ましいほど絶頂期を迎えた男の姿が活き活きと描かれていた。
    変わって、後半はドロドロの裁判戦。流石にもうダメか、と思われるところまで追い詰められ、ドキドキがとまらないまま一気に読み切ってしまいました。
    読み応えのある第3巻でした。

  • いよいよ財前の立ち位置が怪しくなっていく。

    国立病院という場がいかに政治的で、私利私欲に満ちた医師ばかりが集まる場所かということがまざまざとわかる。

    小説だから架空の話だけど、事実、組織が大きければ大きいほどこのような体質を持つようになるんだと思う。

    ここからいよいよクライマックスの序章が始まるので、今後が楽しみです。

  • 主人公の財前がどんだん醜く堕ちていく…
    第4巻はどこが舞台となるのか楽しみ。
    今後も大学病院はこの封建制のままなのだろうか。

  • 前半のドイツ訪問時のアウシュビッツ見学の際に、主人公が感じた凄惨さと、後半での受け持ち患者の死に至る経過の中での自身の感情が、同一人物かと思われるほどの差を見せます。利害関係が発生した時の自己防衛、自己を正当化し保身に走る心理は分からなくもありません。原告側の人々の心理と、真実を追究する姿勢の対比が素晴らしいと思いました。裁判での唐木教授の証言にも心打たれました。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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