不毛地帯(五) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104447

感想・レビュー・書評

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  • 『不毛地帯』第5巻。

    近畿商事・副社長となった壱岐正。
    商社マン最後の仕事として、イランでの油田採掘に奔走する。

    先手を打つも、政界、競合からの巻き返しにより、独立系石油メーカー・オリオンオイルとの共同で入札に挑むことに…

    なんとか、採掘権を得たものの、第4井まで石油の出る兆しはなく、窮地に…

    一方、社長・大門は綿花相場で莫大な焦付きを抱えていた…

    壱岐の見事な商社マンとしての生き様だった。
    異例の昇進に対する周りからの嫉妬にも臆せずに自分を貫き通した、壱岐の強さ。

    『国家のために』を判断基準とし、最初は大本営参謀として、第2の人生では、近畿商事の企業参謀として、常に戦いの中に身を晒してきた。
    自らの人生も、家族との生活も犠牲にして…
    最後まで、壱岐の心の内は誰もわからなかったのではないだろうか…
    口下手なところも災いして…

    大門に社長辞任を迫り、自らも副社長を辞任、近畿商事を退職。見事な自らの身の処し方であった。

    第3の人生で、ようやく安らぎの時を迎えられるのか…

    千里との人生が始まるのだろうか…

    長かった…が、面白かった。
    山崎豊子作品でNo.1だった。
    まだ『華麗なる一族』は読んでいないが…

  • 最終巻が一番おもしろかった。先が全然読めなかった。
    それでいて、この巻が一番、読む前の期待に近いものが描かれていた。

    でもやっぱり取材は大変だったんだな、とあとがきを読んで思った。こんな大舞台の小説、どうやって取材して書いたんだろうとずっと思っていたけど。
    取材先は女の旅は不可能な国ばかりだった、みたいなことを書かれておられたが、そういう意味ではハンデ背負っての取材だったんだなぁ。

    簡単にジェンダーでくくるのは物事を単純化するようでよろしくないけど、でも、この作品を大正生まれの女性が書いた、というのはやっぱり私には偉業としか思えないな。女なんて何も知らなくていいんだ、と言われて脇においやられていた時代によくまあ、ゴッドファーザー的苦渋に満ちた男の世界をこんなにもリアルに描き出したものだと思う。

    でも、主人公に対して容赦ないところ(最後の仕事だけは悔いがないように清く仕事したい、という希望を簡単に打ち砕くあたり)、女性ならではの容赦のなさも感じるような。
    男性作家はもうちょっと主人公に甘い気がするなぁ。

    しかし、秋津千里は最後まで違和感ありまくりのキャラだった。なんでこの人は関西弁じゃないのかしらん。
    あんな喋り方の京女はいませんよ。
    っていうか、考えてみたら、大門と秋津千里のやかましい系のおじさんしか関西弁しゃべってない。
    ガサツ系、KY系なおっさんにしか関西弁をしゃべらせてはいけない、みたいな謎ルールがこの時代の文壇にあったんだろうか。
    この本に限らず、関西が舞台なのに、なぜかヒロインは標準語を貫く、みたいな昔の小説、わりとあるような気がします。

    ちなみに、壹岐は最後まで彼氏としては最悪の男で、アンチ秋津千里な私もさすがに彼女に深く同情した。
    山崎さんてば自分のキャラに厳し過ぎじゃね?と思った。

  • 2019年1月30日、読み始め。
    ようやく、5巻にきましたか。
    カバーの小解説を読むと、この小説のタイトルが「不毛地帯」という理由が、少しわかったような気がする。


    2019年2月9日、読了。
    全5巻読了である。
    シベリア抑留者を対象とした朔風会のモデルは、朔北会で、その朔北会は2004年に解散しているようだ。そして、朔風会をまとめていた谷川大佐のモデルは、長谷川宇一とのこと。谷川大佐の生き様は、感銘を受けた。

  • 去年の暮れからお正月にかけて『不毛地帯』5巻(山崎豊子)を読み、ちょうど高度経済成長期のいわば、わたしたちが通ってきた昭和の時代をたどるようで興味深く、山崎豊子さんの代表作だとは思いました。

     おもしろく読みふけった話は置いといて

     その主人公の「壱岐正」は「瀬島龍三」をモデルにしているらしいですが、それはそれで。

     その「壱岐正」や『沈まぬ太陽』の「龍崎一清」の人物像の描写が孤愁の影を宿していて印象深く、妙に気になったのであります。

     山崎豊子さんが若いころ大阪の毎日新聞に入り、『あすなろ物語り』の作家井上靖が上司だったのは有名で、しごかれた(?)話は作家紹介にあります。

     わが町の図書館がちょうど井上靖の作家展をしていたので、見に行きましたら井上靖は詩人でもあったと知りました。

     さっそく井上靖の詩篇をひもといてみましたら、冷たーく研ぎ澄ましたような詩が続いておりました。

     そのひとつに「裸梢園」という題の心象風景詩があり、こんな風な内容

     氷雨がぱらぱらと過ぎ、梢と梢とは、刃の如く噛み合って、底知れない谷をなして行くところ、破れ傷ついた二月の隊列があてどなく落ちてゆく。

     (これは山崎豊子さんが要約しているもの)なかなかの印象です!そして

     「一匹狼のもつ誰にも汚されない厳しく、烈しいそして純粋な野生に満ちた目が生きている。しかし、一匹狼には強靭な実力がいる。群を恃まずにして生きぬいて行ける実力と、いかなる時にも孤独に耐え得る厳しい精神がいる。」  

     と、全集の月報に随筆を書いていらっしゃるのです。

     ははーん、師を敬い想いいれて作品に昇華させているのだなーと思いました。

     その井上靖の詩集『北国』に「猟銃」という詩もありまして、

     天城の山の中で出合った霜柱を踏みしだき、猟銃をかついで、孤独に行過ぎた男の後姿に人生の白い河床をのぞき見た、しみいるような重量感をうけ、自分も磨き光れる猟銃を肩にくいこませたい、都会の雑踏の中で、ゆっくりと、静かに、つめたく

     というのです。

     井上靖には『猟銃』という作家デビューの作品があります。読みたくなりました。

     やはり、小説はこの詩が冒頭にでてきまして、詩が取り持つ縁、その天城の男が作家に便りをくれるのです。

     孤愁色濃い男には過去のわけがありました。

     でも、はっきり言ってなんじゃらほい、美しい妻がありながら、離婚して一人娘と暮らしている妻の従姉と不倫。騙しだまされて三つ巴。あげくにその従姉は別れた元夫が忘れられない、とラジオ人生相談のよう。

     そんな小説を師、井上靖氏はお書きになったのですねぇ。はぁ~。

  • 1~5巻までまとめて。

    山崎豊子氏の綿密な描写により、躍動感溢れる内容となっています。読む側の専門知識が足り無くて何言ってるのか分からない所も多々有りましたが。
    商社での最後のシーンに引き際の美学を感じた。自分もあのように生きれるだろうか...

    スーパーマンのような主人公壱岐正ですが、男としては最低ですな。ビジネスマンとしては立派だけど下半身に人格がないキャラというのが山崎氏の企業トップの男性に対するイメージだったのでしょうか?

  • サルベスタン鉱区の国際入札で一番札を取るため、近畿商事の兵藤はイラン国王の侍医であるドクター・フォルジと接触する。
    しかし、ドクターとの話し合いがモスクワで行われることを聞いた壹岐は、顔を硬ばらせ、「君には、極北の流刑地で、囚人番号を捺されて、地下数十メートルの暗黒の坑内で、鶴嘴を持って使役された人間の苦しみが解るか!」と激昂した(ドラマのこのシーンの唐沢寿明さんがすごくよかった!)。

    結局、近畿・オリオングループが3,990万ドルという高値で落札に成功するが、それから3年8ヶ月、三号井(さんごうせい)まで掘り進めても油は一向に出ない。
    続く四号井も廃坑になり、壹岐が資金調達に奔走する中、大門社長が棉花相場で46億円もの損を出していることが明るみになる。
    この損失の責任を取るべく、壹岐が棉花部長の伊原に進退伺いを出させたところには、組織の厳しさがありありと描かれている気がした。

    五号井で大油田の発見に成功したのを花道に、壹岐は大門に勇退を勧める。
    しかしそれは、社長の座を取って替わろうとするためではなく、自分に第二の人生を与えてくれた大門社長と企業の発展を思ってのことだった。

    近畿商事を辞め、朔風会の仕事に第三の人生を尽くすことにした壹岐が、シベリアの白い大地を見て涙を流す最後のシーンに目頭が熱くなった。

    全五巻、3,000ページにおよぶこの一大巨編を書くのに、山崎豊子さんはいったいどれほどの取材を行ったのだろう?
    僕にとって、これまでに読んだ小説の中でまぎれもなく質、量ともにナンバー・1の傑作だった。
    壹岐正という1人の孤独な男の姿を通して、今も人々の心に残る戦争の傷痕と熾烈な商戦の実態を知ることができ、本当によい小説に巡り会えたと思う。

  • 田宮二郎にこそ、壹岐正を演じて貰いたかったな。

  • 再読。
    最終巻なので終わらないでーって思いながら、最後はドタバタしたものの第三の人生へと清々しい終わり。

    重要人物と取引するときのサスペンス要素にハラハラし、大門社長の老い、若手も立派に成長したし、入社した時の問題の組織作りを果たせましたね。

  • 5巻まで一気読み。読み始めたら止まらない面白さ。
    あらゆる場面に於ける細かい描写から、著者が取材や文献を通して徹底した研究を行ったことが容易に読み取れ、各描写の詳細さに著者の小説に対する情熱的な姿勢が溢れてる気がする。
    自分の人生を賭して成功させたいと思う仕事に出会いたいなと思う小説でした。

  • 二度目の読了。
    二度目でも面白い。
    言うことなし、最高である。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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