二つの祖国(一) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104454

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  • 二つの祖国(一)〜(四) 山崎豊子を読んで

     著書は、日米開戦から戦後にわたるアメリカ在住日系人の物語である。戦中、強制収容所での生活が人々を苦しめ、様々な悲劇が生まれた。

     開戦前、主人公の天羽賢治は、日本人向けに発行している邦字紙「加州新報」の記者として働いていた。父の乙七は、クリーニング店の店主。母のテルは、父の仕事を手伝っていた。両親共に働き詰めの日々。「子供達に祖国日本の教育を受けさせたい」という思いからであった。兄弟は、日本の大学生である弟の忠。ハイスクール三年生の弟、勇。ハイスクール一年生の妹、春子。妻は、価値観の相違がある妊娠中の恵美子。

     アメリカ合衆国の忠誠心テストは、家族の絆を引き裂く残酷なものであった。
    下記二つの質問が最も人々を悩ませた。
    No.27:あなたは命令されれば、どこであっても、米陸軍兵士として戦闘任務につくか、
    No.28:あなたは合衆国に無条件の忠誠を誓い、日本の天皇、その他外国政府、組織に対する忠誠と服従を拒否するか、
     弟(勇)は誰よりも素早くYes、Yesと決断し、米陸軍に志願した。賢治はYes、Noと回答するも、その実力を評価され、米軍日本語学校の教官として働く決心をする。No、Noと回答した両親は、息子達から裏切られた気持ちで一杯であった。家族はバラバラとなった。

     本書で一番心を痛めたことは、決断することに伴う犠牲であった。日系人達は二つの祖国に対して、それぞれの価値観をもっていた。

     賢治は、米陸軍所属の日本語学校教官の道へ進む時、両親の気持ちを深く傷つけた。語学兵になり戦線へ出る決意をした時、妻を先の見えない不安な気持ちにさせた。両親と妹を悲しませた。死と向き合う環境で、命の保証はないからだ。

     終戦後、賢治は東京裁判のモニター(通訳の訂正)の任務を引き受けた。アメリカ側を援護する役割であった。米軍の一員として、忠誠心を失わず懸命に働いた。一方で日本と日本人への愛情は決して忘れなかった。しかし、結果として日本人達へ沢山の傷を負わせてしまうことになった。

     人の気持ちに寄り添うことができる優しい賢治は、自分の決断により、周りの人達がどれだけ深い傷を負うことになるか、痛いほど理解していたであろう。だから、自分自身もその傷を背負いながら生きていた。その苦しさは、計り知れないものであったに違いない。

    アメリカで生きていく為には、自分の信念よりアメリカに全ての忠誠心を捧げたほうが楽であろう。しかし、ほとんどの人は自分の感情を殺し、簡単に割り切ることができないと思う。賢治のように。

     アメリカ在住日系人達は、戦前・戦中・戦後、残酷な差別を受け続けてきた。「戦争は差別を決定的にする最も恐ろしい凶器」であると思う。死者、負傷者だけでなく、家族や大切な人との絆が崩壊する。そういった心の傷を抱えた人々が地球上に多数いるだろう。

     東京裁判の記述から、戦争の裏事情を学ぶことができた。理不尽極まりない裁判であり、強い憤りを感じた。特に下記二つの事実は許しがたいと思った。
     まずは十一ヵ国の判事の判決について。7名の判事と4名の判事の間には、意見の相違があった。しかし、徹底的な議論をすることはなく、判決となった経緯。
     そして原爆投下問題。日本は原爆投下の二ケ月前からソ連を通じて降伏の準備をすすめていた。それを承知で原爆を投下したこと。さらに、法廷記録から原爆投下に関する記述は全て削除されたこと。

     山崎豊子の作品に向き合う情熱は、尊敬の念しかない。社会問題を徹底的に取材し、真実を迷いなくぶつけてくる。そういう作家は数少ない。「読者のバトンを繋げて行きたい」という思いから感想を書いた。

    令和5年7月5日

  • 日米開戦後、本編の主人公の邦字新聞の記者である天羽賢治はFBIに連行され、スパイ容疑で留置所へ入れられる。
    そして、アリゾナ砂漠の収容所へ送られる。
    砂漠の収容所から釈放され、ロスアンゼルスの家に帰ると家族は強制退去されていた。
    家財道具一切を二束三文で売り、一人2つまでのスーツケースの所持を許可されて、家族が移動させられたのは、競馬場の馬小屋だった。
    床にタールを撒いた、馬糞の付いた臭くて不潔な馬小屋に何千人もの日系人が、押し込められた。
    一週間に1回のみ、馬小屋の馬を洗うシャワーを使用することを許された。不潔な場所で、日系人達は、家畜の牛馬の扱いだった。
    しばらくして、千五百名の日系人はマンザナールの砂漠の中に建設されたバラックのマンザナー強制収容所へ入れられた。

    ※以下、ウイキペディアより。
    1942年2月19日にフランクリン・ルーズベルト大統領が発した大統領令9066号によって翌3月に開設された。マンザナー収容所は最大時には10,046名を収容し、収容された総数は合計で11,070名となった。

    アンケートや天皇の写真を踏み絵にしたり、日系人は各個人の米国への忠誠心を試される。親兄弟妻子間で意見が別れ、家族の絆の崩壊を招いた。
    同じ二世の賢治の弟の忠は、人種差別の米国に嫌気がさして、戦争前に日本へ帰属した。
    かつて、日本に留学していた賢治は、祖国日本と米国人としての自分との葛藤に悩む。

    戦前・戦時中と、相当な迫害を受けて来た日系人の心の有り様が、本作を読んで初めて分かった。
    日系人は人種差別を受けながら、そうではない白人もいるというエピソードが救いだった。
    物語は、更に続く日系人の苦難の道へ。
    二巻へ、つづく。

  • 山崎豊子の人間に対する深い洞察や徹底した取材には、彼女の作品を読むたびに、驚嘆の念を新たにせずには
    入られない。
    当時の日系人の皆さんが苦難を忍ばれ、我慢を重ねて来られたことに思いをはせた。
    偶然だが本書読中にドラマが放映され視聴したこともあって、深く印象に残る一冊になった。

    • pinoko003さん
      ドラマが結構原作に忠実で驚きました。好きな小説です。
      ドラマが結構原作に忠実で驚きました。好きな小説です。
      2023/05/06
  • アメリカで生まれ、アメリカ人として育てられた日系二世。

    日本による真珠湾攻撃により、太平洋戦争が勃発。
    アメリカに残る日本人、日系人には過酷な試練が待っていた。

    日系二世たちはアメリカ人として生きるか?
    日本人として生きるか?問われる…

    天羽賢治も日系二世として、厳しい選択に迫られる…

    どちらを選ぶべきなのか…

    父・乙七は日本人としての、薩摩の郷士としての誇りを。

    弟・勇は、アメリカで生まれ、育ち、日本に対する想いや天皇陛下に対する想いもなく、アメリカ人として生きることを。

    賢治は…

    難しい選択。
    日系二世だとしたら、どう生きるだろうか…
    チャーリーのような生き方はできないだろうが。

    戦争が賢治の家族を切り裂いていく…
    元の家族に戻れる日が来るのだろうか…

  • サンタアニタ競馬場として知っていたが、まさかそんな過去があったとは。

    主人公の二重国籍ゆえの苦難、米国人か大和魂か。

    戦争の悲しみは戦場だけに収まらない、様々な所に陰を落とす。それを教えてくれる意義ある作品だと一巻目でも感じ取れます。

  • 移民の立場からみた戦争の物語。
    星5つにしてもよいのですが、やはり「沈まぬ太陽」が一番なので星4つ。
    山崎さんの小説は深いですね。

  • 日本の真珠湾攻撃から太平洋戦争が始まり、アメリカに住む日系二世天羽賢治らの周囲に大きな波が起こり始めた。

    ドラマを見て、さらに深く知りたくなり、原作を手に取りました。
    ドラマは原作にかなり忠実でした。

    日系人にとって、父祖の国と今住む国との戦いという悲劇がどんな不幸なことなのか、恥ずかしながら数年前まで知らずにいました。ナチスのユダヤ人迫害にも次ぐような事実に驚かされます。


    「父祖の国日本に殉じるような生き方をするもの
    アメリカ人として生きようとするもの
    絶えず日系二世としてのアイデンティティを模索し苦悩しながら生きるもの」

    一世と違い日系二世だからこその苦悩。
    一巻は賢治がマンザナール収容所を出るところで終わりです。
    続けて二巻を読みます。

  • 新版になったので、こちらも登録。今度は4分冊です。

    ロサンゼルスの邦字新聞『加州新報』の記者天羽賢治、ケーン。
    彼とその家族の運命を通し、真珠湾攻撃、ヒロシマ、東京裁判と
    太平洋戦争の荒波の中で身も心も切り裂かれながらも、
    愛と祖国を求め続けた日系人の悲劇を描いた感動巨編。

    山崎豊子を読むのは沈まぬ太陽以来2作目。
    例によって、本屋で平積みになっていたので、
    何気なく買っただけでしたが、またしても
    山崎豊子の世界に引き込まれました。

    父祖の国日本に対する誇り、そしてアメリカで生まれた
    ものとして、自由の国アメリカに対する誇り。
    二つの祖国に対する誇りの中で葛藤していく賢治。
    そして、正義を貫けば貫くほど回りには理解されない
    このジレンマ。

    先の戦争の中で、多くの人々が苦しみを味わいましたが、
    彼らほど数奇な運命をたどった人もいないでしょう。

    今まであまり詳しく知ることのなかった、フィリピンでの
    激戦の様子や東京裁判のことについても、彼女ならではの
    記述で詳細に知ることが出来ました。
    日経新聞で東京裁判の検証が特集記事になっていましたが、
    こっちのほうがその裏の人々の心情まで描かれていて、
    その場の雰囲気を感じることが出来ます。

    ちょうどこの本を読み終えたとき、靖国神社の
    すぐ近くで結婚式でした。翌日、なぜだか靖国参拝
    したいという気持ちになりました。

    それは二つの祖国の間に挟まれながらその人生を
    送った賢治の忠魂の気持ちなのか、激戦の中で
    日本の勝利のために命を捧げて逝った日本兵のことを
    思ってなのか、はたまた、勝者の裁きによって、
    死刑となったA級戦犯のことを思ってなのかは
    自分でもよく分かっていません。

    ただ一つ確かなのは、人々をこうやって引き裂いてしまった
    戦争を繰り返してはいけないんだというその祈りを
    捧げたい。そんな気持ちが芽生えたということだと思います。

    今また戦争歴史観が話題となっていますが、
    結果的には、アジア諸国に対して日本が侵略行為と
    取られる行為を行ったというのは覆しようのない事実です。
    しかしながら、その時々を生きた人たちにとって、
    自分の立場でそれぞれが正義だと信じる路を歩んだんだと
    思っています。
    国家のレベルと個人のレベルでは分けて論じるべきかと。

    http://teddy.blog.so-net.ne.jp/2008-11-02

  • またまた山崎豊子。
    すきやわ~。

    二つの祖国は、太平洋戦争時代のアメリカでの日系2世のお話し。
    敵国アメリカでの日本人の扱い・・・。
    戦地でなくとも、戦争の非人道的な側面が浮き彫りになっています。

  • アメリカと日本、二つの祖国を持つ日系二世が主人公の物語。
    大平洋戦時下、アメリカに暮らす日系人は皆、日系人であるというだけで、自由を奪われ、非人道的な耐え難い苦難にさらされていたという事実をどれだけの人が知っているのだろうか。
    少なくとも、恥ずかしながら、私自身は、小中学校の歴史の授業でそのことは学んでこなかった。
    この物語では、日系二世である主人公をはじめ、その家族、周りの人々皆がそれぞれ、この困難の中、苦渋に満ちた決断をし、必死で生きていく姿が描かれている。まだその物語は始まったばかり…

    昨年末観にいった映画"永遠のゼロ"、つい先日読了したばかりの"小さいおうち"、そして、毎朝楽しみにしている朝ドラ"ごちそうさん"そのどれも、時代背景は、同じ大平洋戦時下。
    うまく言えないのだけれど、国と国が争い、勝った負けたの事実はあれど、現代に生きる私たちはそのことばかりクローズアップしてはいけないと思うし、買った国負けた国、そのどちらが正しくどちらが間違っているなどと決して白黒つけてはいけないのではないかと思う。

    第一巻でとても心に残ったオーソン相川の言葉。
    「…この私だって、人は二世のトップというが、心の中は理不尽な差別と偏見でずたずたに傷ついている、…われわれ二世は、苦悩する世代なのだ、だからといって、役に立つことが出来る者が、収容所の中でただ漫然と過ごしていていいものだろうか…」
    そして、主人公天羽賢治が、アメリカの陸軍情報部の日本語学校の教官になることを、親子の縁を切ってまで、苦渋の上決断した心の内。
    「…日米戦争という歴史の歯車の中で、帰米二世として果たすべき何かを自ら模索していたからだ…」

    大平洋戦争という時代を生き抜いた、多くの人々の生き様を、私はまだまだ知りたいと思う。

  • 今、この時代を生きてる私だから、賢治の気持ちを理解出来る(と思う)だけで、当時を生きていたら、きっと賢治を苦しめる立場に立ってしまったんやろうなぁ。

    この本を読んで、日系人に興味を持った。第二次世界大戦に対しても違う見方をもった。

    山崎豊子の本はいつも知らない世界を教えてくれる、社会を考えさせてくれる。

  • 日系二世として、日本人アメリカ人どちらからも阻害され、苦しみながら生き抜く賢治とその一家周りの人たちの第二次世界大戦中の物語。4部作。
    他の作品に比べ、主人公の印象がいまいち薄かった。2巻に期待。

  • 名作

  • 山崎豊子作品の戦争シリーズ第二弾。
    太平洋戦争におけるアメリカ在住の日系二世が主人公。
    1巻では、真珠湾攻撃から始まった戦争において、アメリカ在住の全ての日本人が収容所に入れられるところから始まる。

    ハワイでは日系人は少数派ではなかったため、それほど冷遇されなかったらしいが、本土では酷い扱いを受けたのは歴史的事実らしい。
    そして、日系人の中でも、アメリカのために忠誠を尽くそうとする者と、あくまでも日本民族としての誇りを捨てずに生きていこうとする者(アメリカ政府と対立して兵役にもつかない)とが対立する。
    主人公は、どちらにも属せず、あくまで日本人として誇りを捨てずに生きることがアメリカのためにもなるという信念のもとに行動する。
    そんな行動は、両派から理解されずに時には両派から疎まれることもある。

    そして、この戦争を早く終わらせることが両国の国益になると考え、日本の暗号解読を担う軍人になる。

  • 以前TVドラマで見て一度は原作を読みたいと思い、読んだらとても引き込まれました。
    日系人の苦悩がとても鮮明に描き込まれて
    いて、戦争の新たな悲劇の一面を垣間見て
    胸が痛くなった。
    同じ日本人なのに、祖国の日本育ての親アメリカ
    かの板挟みになり日系二世の方々がこんなに
    複雑な心情で生きていたと思うと心が本当に痛む。

  • 再読。
    日系一世か二世かによって意見が分かれ家族離散となってしまう、忠誠テストによるイエスかノウ。
    どっちを選択しても悲劇でしかない。

  • 1980年~ 山崎豊子

    相変わらず山崎豊子の小説は長い、重い。
    日系二世の苦悩を描いています。第二次世界大戦勃発後、収容所に入れられ、アメリカ人として戦争に行き、たまたま日本に帰ってた弟は日本軍として参加し。
    終戦後の東京裁判までアメリカ人なのか日本人なのか苦悩、どちらからも差別され、苦しめられ。
    想像を絶する苦労をしたことでしょう。

    主人公の天羽賢治、忠の兄弟は実在の兄弟がモデルになっているようです。

  • 戦争は、辛いです。

  • 「大地の子」をNHKで見て原作を読み、中国残留孤児という第二次世界大戦の犠牲者の存在を知った。またそのあまりにも苛酷な人生について涙せずにはいられない。同様に戦時中のアメリカでの日系二世の物語。戦争という異常事態に翻弄される人生に心が痛くなる。

  • 日本人とは何か?色々かんがえさせられる

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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