西郷札 傑作短編集3 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101109046

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  • 松本清張氏の傑作短編集第三弾。12編の短編からなる。時代小説版だが、時代は江戸から明治維新ごろまで。多くの話は、時代の主流になれなかった人物が主人公になっている。ハッピーエンドではなく、もの悲しい。『恋情』では、男の純愛が描かれるが、清張氏はこんな話も書けるんだ。

  • 江戸時代の御家騒動的な歴史物を含む。

  • 「松本清張」の歴史小説12作品を収録した『西郷札 傑作短編集〔三〕』を読みました。

    ここのところ「半藤一利」作品を読んでいたので、歴史に関する本が読みたかったんですよね… 「松本清張」作品は、一昨年の12月に読んだ『黒の様式』以来です。

    -----story-------------
    時代小説の第1集。
    西南戦争の際に薩軍が発行した軍票をもとに一攫千金を夢見た男とその破滅を描く『西郷札』。
    江藤新平の末路を実録的に描いて、同じ権力機構内にいるものの軋轢、対照的な勝敗を浮びあがらせた『梟示抄』。
    幕末に、大名、家老、軽輩の子として同じ日に生れた三人の子供が動乱の時代に如何なる運命を辿ったかを追及した『啾々吟』。
    異色の時代小説全12編を収める。
    -----------------------

    久しぶりの「松本清張」作品… しかも、歴史小説は、本当に久しぶりです。

     ■西郷札
     ■くるま宿
     ■梟示抄
     ■啾々吟
     ■戦国権謀
     ■権妻
     ■酒井の刃傷
     ■二代の殉死
     ■面貌
     ■恋情
     ■噂始末
     ■白梅の香
     ■解説 平野謙

    『西郷札』は、『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈下〉』で既読の「松本清張」処女作品、、、

    義妹への淡い恋、忍び寄る罠、そして破滅… かつて薩軍が発行した紙幣に一攫千金の夢を賭けた青年を、史実と想像を巧みに織り交ぜて描いた作品で、何度読んでも愉しめる傑作サスペンスですね。

    西南戦争に参加し、生き延びた末、上京した青年「桶村雄吾」… 人力車夫となった彼は、離ればなれになっていた義妹「季乃(すえの)」と再会を果たすが、「季乃」は高級官吏「塚村圭太郎」の妻となっていた、、、

    そんな折、一銭の価値もないと思われていた西郷札でひと儲けしようとした紙問屋の主人「幡生粂太郎」が、「雄吾」を利用して「塚村」へ働きかけ、政府に西郷札を買取ってもらえるように工作を図ろうとします… 「雄吾」と「季乃」の仲を嫉妬していた「塚村」は、この機会を巧みに利用して二人の関係を引き裂くことを画策します。

    追い詰められた「雄吾」の「最後の策」とは… 明示されてはいませんが、きっと「塚村」の命を奪おうとしたんだと思います、、、

    人の心に潜む情念を巧く描いた名作ですね。



    『くるま宿』は、明治初期の東京を舞台に、ある旧幕臣の姿を描いた物語、、、

    人力車の俥宿「相模屋」に、新しい俥挽き「吉兵衛」が雇われた… 若い車夫たちに混じって力仕事をする四十代の「吉兵衛」は、隣家の料亭に押し入った五人の賊を、巧みな太刀捌き(峰打ち)一人で取り押さえてみせ、皆を驚かせる。

    その後、官員のお抱え車夫との揉め事に巻き込まれた「吉兵衛」は、官員が「吉兵衛」の幕臣時代を知る人物であったことから、自らの正体が知れてしまうことを避けるため、病弱な娘とともに旅立っていく… 時代劇ヒーローモノにぴったりの題材でした、、、

    旧幕臣としてのプライドを捨てずに生きる姿に憧れちゃいますね… 好きな作品です。



    『梟示抄(きょうじしょう)』は、佐賀の乱を主導した「江藤新平」の必死の逃避行を綴った物語、、、

    明治初期の刑法にあった梟首刑(きょうしゅけい)… 犯罪者が斬首にされた後に、三日間にわたって晒し首にされる、見せしめ的な要素のある公開処刑のことで、当時、最高権力の座に上っていた参議「大久保利通」が、かつての同僚参議の「江藤」に対して容赦なく刑を執行させる姿にはぞっとさせられましたね。

    しかも、「大久保利通」は日記に、裁判の梟首判決を受けて大声をあげようとして取り押さえられた「江藤」について「江藤醜態笑止なり」と書き留めて冷笑し、梟首された後には「今日都合よく相すみ、大安心」と丁寧に書き入れたというんですからね… 同じ権力機構内での軋轢って、怖いですね。



    『啾々吟(しゅうしゅうぎん)』は、肥前佐賀藩(鍋島藩)において、幕末の弘化三年丙午八月十四日に生まれた三人の男… 肥前守「鍋島直正」の嫡男である「鍋島淳一郎」、鍋島藩家老の子である「松枝慶一郎」、二百俵三人扶持御徒衆「石内勘右衛門」の子である「石内嘉門」という、身分の異なる三人の武士の数奇な運命をたどる物語、、、

    高い能力と才知に恵まれながらも、自分の身分・家格の低さに根深い劣等コンプレックスからか、まわりから受け入れてもらえず、次第に冷遇され、自分より学識や才覚で劣っている人間が厚遇されて出世していくのを見て、妬み嫉みの感情を募らせ次第に孤立していく「石内嘉門」の姿は、現代にも通ずる部分がる感じましたね。

    人に好かれる人間性の有無… という、定量的に評価のできない部分での評価や運命をリアルに描いた印象深い作品でした。



    『戦国権謀』は、「徳川家康」に仕えた「本多正信」・「正純」親子の権臣としての生き方、そして「本多家」隆盛と衰退を描いた物語、、、

    あたかも友人のような関係にあった「徳川家康」と「本多正信」… 相次いで二人が亡くなった後、「正純」には、「徳川秀家」や重臣たちから疎ましく思われ、その存在価値がなくなったという時代の変化が読めてなかったんでしょうね。



    『権妻(ごんさい)』は、明治初期、零落した旗本の息子が妻にしたいと連れてきた女の素性をめぐり、自分の過去の過ちと向き合わねばならなくなった男の苦悩が描き出された物語、、、

    明治の世となり没落した士族「杉野織部」は、隣り屋敷に越してきた新政府の官員「畑岡喜一郎」との境遇の違いに屈辱を感じる… 「畑岡」の権妻(妾)「お由」と恋仲になった「織部」の息子「進介」から、彼女との結婚の意志を聞かされた「織部」は、「お由」の素性を知り愕然とする。

    妊娠した愛人を捨てた過去を持つ「織部」の慚愧… 「お由」が軽い気持ちで使った嘘の身の上話が悲劇を生む、、、

    哀しい物語ですが… さすがは「松本清張」作品ですね。巧い!



    『酒井の刃傷』は、経済的に苦しくなった大名の転封をめぐり、頑固な老臣の苦悩が生んだ悲劇が語られる物語、、、

    老中の職を辞め、裕福な姫路三十万石への国替えが決まり、喜ぶ前橋藩主「酒井雅楽頭(うたのかみ)忠恭」… 国家老「川合勘解由左衛門(かげゆざえもん)」は、「酒井家」にとって由緒ある前橋の地を損得勘定で離れることに異を唱えるが聞き入れられず、この先、若い世代に藩政が左右されていくことを憂える「勘解由左衛門」は最後の手段に訴えることに。

    老人の孤独・嫉妬・覚悟が見事に描かれていました… ラストの臨場感・緊迫感が印象深い作品でした、、、

    このラストシーンは「黒澤明」に撮って欲しいなぁ… って感じです。



    『二代の殉死』は、「徳川家光」に仕えた忠臣の息子が、その父の生き方に縛られてしまったことから起こる悲劇が綴られる物語、、、

    持ち前の美貌により「徳川家光」の心を掴んだ「堀田正盛」… 「徳川家光」が亡くなり、「堀田正盛」が殉死した後、息子の「正信」は父の「幕閣が間違った方向に動いた時には、遠慮なく諫言せよ」という遺命を実行しようとしますが、守旧派の「松平信綱」等に、ことごとく握り潰されてしまいます。

    敗北していくネガティブな人物像が描かれた作品でした。



    『面貌』は、「徳川家康」に嫌われぬかれた息子「松平忠輝」の生涯をたどる物語、、、

    「徳川家康」と、百姓の女房だった側室「茶阿の局(つぼね)」との間に生まれた「忠輝(幼名・辰千代)」だが、その顔から受ける印象は、冷たく、陰気で、不快で親しめない… その面貌の悪さから、家康だけでなく、誰からも愛されずに育ち、「家康」の死後、兄「秀忠(二代将軍)」の命によって流罪になってしまう。

    不幸な面貌ゆえに孤独に生きた「松平忠輝」の生涯を描いた作品でした。



    『恋情』は、明治初期、留学中に、許嫁が親の出世の道具とされて自分の手の届かぬところにいってしまった男の心情が語られる物語、、、

    旧藩主の長男に生まれた男爵「山名時正」は、本家筋である伯爵「山名包幸」の娘で、幼馴染の「律子」に恋慕するが、彼が英国に留学中、彼女は政略結婚によって「宮家(東山科宮英彦)」に嫁いでしまう… 「律子」の和歌を見て、彼女の真情を知った「時正」は、「律子」が「宮家」で不幸な生活をしていると聞くに及び、彼女を救いたいと念願するが、「宮家」に嫁いでしまった女性は夫が亡くならない限りは「宮家」を出ることはできない。

    “待つ”という生甲斐を見出した主人公の幸福(敗北?)を描いた悲恋物語でした。



    『噂始末』は、同僚のねたみからあらぬ噂を流されて破滅にいたってしまう武士夫婦の苦闘を描く物語、、、

    上洛する途中、遠州・掛川に一泊した将軍「徳川家光」とその一行… 掛川藩の馬廻役「島倉利介」の家には、「岡田久馬」という旗本が泊まるが、「利介の女房・多美が、旗本と懇(ねんごろ)した」という根も葉もない噂が流れる。

    「徳川家光」一行は帰路も掛川で一泊することになるが、「利介」の家には誰も泊めさすなという処置が下されてしまう、、、

    噂が一人歩きして、噂が噂でなくなってしまう怖さを描いた物語… 武士の死に様が印象深いですが、理不尽過ぎてやるせなさを感じる作品でした。



    『白梅の香』は、国許から一時的に江戸に上ってきた若い武士が妙な事件に巻き込まれてしまう物語、、、

    出府する藩主の共で、初めて江戸へやって来た美男子な若侍「白石兵馬」… 何度も芝居見物に行くうちに、芝居茶屋の主人に呼びとめられた「兵馬」は、白梅の香が漂う邸に招待され、見知らぬ女と夢のような一夜を過ごす。

    しかし、衣服についた白梅の匂いによって思わぬ事態に… 田舎侍の江戸見物の顛末が描かれた物語、、、

    「江戸は面白い所のようでつまらなく、広いようで狭い所だと思った」… という「兵馬」の言葉が印象に残りました。



    「松本清張」の歴史小説が愉しめた一冊でしたが… 特に『西郷札』、『くるま宿』、『権妻』が面白くて、印象に残りましたね。

  • 同題は、2022年の、また、「恋情」は2021年の、それぞれ松本清張記念館読書感想文コンクール課題図書。私は「梟示抄」のラストが好き。

  • 小林聡美さんの『読まされ図書室』の中で、井上陽水さんがお勧めしていた短編「白梅の香」。この作品を読むために借りました。松本清張は『点と線』以外読んだことがなく、しかも時代小説とのことで若干警戒していましたが、さらっと読めました。名前も顔もいかついおじさんでしたが(失礼)、文章はとっても読みやすい!どのシチュエーションでも、だれもが読みやすい文章を書ける人というのは真に頭のいいひとなんでしょうねぇ。

  • 松本清張の代表作である表題作を含む12編の短編が収録。12作品すべて時代物。

  • 久しぶりの松本清張。20年以上ぶりだが、読んでいない作品が多く、楽しめた。後年の清張風の作品が多く、短編で本当に楽しめた。ちょっと今とは違う雰囲気のサスペンスを読みたい、気分転換の読書をしたいという時にオススメ。特に表題作は史実なのか創作なのか分からず非常に良い。

  • 著者が芥川賞を受賞する前年に発表された「西郷札」を含む歴史短編が収められてる。時は江戸、明治にかかる大変革時など歴史小説ではあるが、現代の人間模様を見ているようである。

  • 表題作はもちろんの出来栄え。松本清張に松平忠輝を書かせると味わい深いな。他の話も、コンプレックスだらけで良い

  • (リリース:茂樹さん)

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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