半生の記 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101109121

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  • 2009年…太宰治生誕百年の年、
    ボクは、太宰が入水自殺した玉川上水をたどり、
    三鷹の禅林寺に墓参した。太宰の墓の前には、
    森林太郎…森鴎外の墓がある。

    太宰と鴎外…およそかけ離れた作家を
    つなぐかのように感じられるのが松本清張だ。
    松本清張は太宰と同年の生まれ…しかし、
    清張が作家として世に出たとき、すでに太宰は亡かった。

    清張が太宰を知らなかったはずはない。
    しかし、太宰に関して書いたものをボクは知らない。
    その一方で、鴎外を描いたものは数多ある。
    その秘密を知りたいと思った。

    折しも、今年…2012年は、鴎外生誕150年、清張没後20年にあたる。
    清張が作家になるまでを知りたくて本書を手にしたのだった。
    あとがきにこう記されている…
    -いわゆる詩小説というのは私の体質に合わないのである。

    たしかに本書で、きらびやかな青春が描かれることもなく、
    ドラマティックな成功譚が綴られるわけでもない…のだけれど、
    だからこそ、清張作品の虚構が照射するものは、
    真実をつまびらかにしているように思われてならない。

    今年の夏…清張が鴎外に関して書いたものを読みながら、
    二人の足跡をたどってみようと思う…清張が育ち、
    鴎外が暮らした小倉…鴎外の出生地・津和野…
    ボクの旅の愉しみは、頭の中でまわりはじめてるんだ。

  • 実に誠実で素朴な私小説。
    清張が何ゆえに 文学の道に進んだのか
    本のわずかな動機だった。
    その動機を最大限活かした。

    清張が、印刷の下働きをしているときも
    朝日新聞に勤めているときも
    『なにかがたりない』『なにかがむなしい』
    と感じながら生活していた。

    しかし家族の生活を支えていかなければならない
    という二つの労働が必要だった。
    清張の常なる向上心というべき姿勢が
    文学史に 残る実績を作り上げた。

  • ブルー。暗すぎる。でも、この暮らしぶりと、貪欲な読書精神が、本人の血肉になっているのは間違いない。それと、もっとひどい環境と異常な執着があっても大成しない人は世界中に数えきれないほど存在することも忘れてはいけない。これは研究対象にならないか?

  • 仕事のため、読書会に出席できず、本日読了。とても面白かった。会のみんなはどんな感想を持ったのか、聞きたかった。

  • 貧困と孤独に苛まれた40歳頃までの自伝。コンプレックスに打ち克つ強さを実感した。11.10.22

  • 「砂を噛むような」孤独で呪縛された半生を淡々と書いてます。終戦後の経済状況とかは今からだとなかなか想像しづらいですが、その孤独については現代のひとたちにも訴えるものが大いにあるんじゃないでしょうか。私も清張先生の孤独が手に取るようにわかる気がしました。

  • 貧しい印刷工時代、差別された新聞社時代、出兵から敗戦。
    貧困と孤独の半生を淡々と語る。

  • 09116

    07/21

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/4101109125
    ── 松本 清張《半生の記 19700625 新潮文庫》
     
    ── 松本 清張《半生の記 196610‥ 河出書房新社 19700625 新潮文庫》
    …… 松本 清張《回想的自叙伝 196308‥-196401‥ 文芸》
    http://d.hatena.ne.jp/adlib/20020804 清張紙碑

  • <span style="color:#000000"><span style="font-size:medium;"> 何年前だったか、ある雑誌で、これまで刊行された本の部数をもとにした、ベストセラー作家のランキング及びその解説が載っていた。

     一位は、松本清張。当然だわな。私もいくつもその作品を読んでいる。短編、長編ともに何度も読み返したものもある。

     「カルネアデスの舟板」や「真贋の森」、「張込み」なんて何回読み返したか。「西郷札」や「或る「小倉日記」伝」は、清張の初期の作品なんて信じられないくらい練りこまれている。

     そんな中、清張作品の内、一冊だけ選ぶとするならば、私は、迷いながらも「鬼畜」をあげる。いや、一旦「鬼畜」と決めてしまうと、絶対、これしかないという思いになる。
        ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
    <img src="http://yamano4455.img.jugem.jp/20081119_535063.jpg" width="160" height="160" alt="鬼畜" style="float:left;" class="pict" /> <span style="font-size:small;">「鬼畜」(松本清張著)</span><br style="clear:both" />
     竹中宗吉は印刷の職人である。いくつもの印刷会社を転々としながらもその技術を高めていった。そのうち、ある印刷会社で知り合った女「お梅」と結婚。一念発起、独立し自分の会社を持ち、従業員を何人か抱えるまでになった。

     そんな余裕ができるうち、行きつけの小料理屋の女中と関係ができ、別宅を構え、別の家庭を持つ。子供も三人生まれる。

     現代はもちろん、この二、三十年前であってもあり得ない話であろうが、清張作品の多くは、戦後間もない時代を背景としている。決して少なくはない話であったようだ。

     それに、印刷会社を変わりながらも技術を高めていくというのは、機械化が進んだ現代ではあり得ない。職人個人の技術が当てにされた時代。つまり、高度成長期前の時代背景であることが分かる。

     宗吉にとってそんなうまい事は長くは続かない。まず、宗吉の工場の隣家で火事が起き、延焼で印刷工場も焼けてしまう。その再起を図った矢先に、同じエリアで最新式の機械を備えたライバル会社の出現。宗吉の事業もなかなか立ち行かなくなりながらも、何とか苦労をしてやりくりする。

     当然、別宅へお金を入れる事も滞りがちになる。ついに、意を決した女は、子供三人を連れて宗吉の自宅へ直談判に行く。

     宗吉の妻お梅は、気が強い。女や子供のことは歯牙にもかけない。宗吉は、双方に対して後ろめたさもあり、ただ、おろおろするばかり。無為に時間が過ぎる。

     夜になる。それまで、尋常ならざる事態を感じ、泣いてばかりいた7歳長男利一と4歳長女良子は、そのまま板の間に寝入ってしまう。2歳の次男庄二は背負われて寝たまま。

     一向に進展しない話。強気のお梅、おろおろするばかりの宗吉、変わらない夫婦それぞれの態度。そんな様子に業を煮やした女が、仁王立ちになり声を張り上げる。

    『 「畜生。おまえたち夫婦は鬼のようなやつだ。それでも人間か。そんなにこの男が欲しかったら、きれいに返してやる。取られぬようにするがいいよ」
     「そのかわり、この子たちは、この男の子供だからね。この家に置いていくよ」』

     すっかり寝入っている子供三人を打ち捨てて、女は宗吉の家を出て行く。宗吉、あわてて追いかけるも女の姿はすでに見えない。その後、女はすっかり姿を消してしまって、ようとして行方は知れない。一人目の鬼畜。

     宗吉は自宅兼職場の2階に子供たちを置く。次第に二歳の赤ん坊の具合が悪くなってきた。医者に見せたところ、「栄養失調ですね。腸も悪くなっています」

     2階の部屋で寝ている庄二。宗吉は、何かしらふっと不安になり、2階に駆け上がる。

    『 庄二の顔の上に古毛布がくしゃくしゃになって落ちていた』

     慌てて毛布を隅に投げた。しかし、庄二は、ピクリとも動かない。『 陶器のように固定していた』

     医者は病みおとろえた赤ん坊の死には何の疑問も持たず、死亡診断書を書いた。

    『 「これであんたも一つ気が楽になったね」と、お梅は宗吉に言った』二人目の鬼畜。

     その晩、お梅はこれまでになく激しく身体を宗吉にぶつけてきた。
     
    『 二人の心の奥には、共通に無意識の罪悪を感じていた。その暗さがいっそうに陶酔を駆りたてた』

     お梅は事を行いながら、宗吉に、次なる提案をする。宗吉は、頷くしかなかった。

     しばらくして、宗吉は、良子を東京へ連れて行った。

    『 「良子、おまえ、お父ちゃんの名前が言えるかい?」「父ちゃんのなまえ、とうちゃんだろ」「じゃ、おうちはどこか」「かみがいっぱいあるおうち」(中略)これだけでは、他人にわかりはしないだろう。宗吉は煙草を吸った』

     銀座のデパートの屋上。

    『 「父ちゃんは、ちょっと用事があるからね、ここで待っておいで」』
     彼は、そこを離れた。そのまま一人で帰りの列車に乗る。三人目の鬼畜。

    『 家に入ると、宗吉は一人だけなので、お梅は顔に薄ら笑いを浮かべた。
     「これで、あんたも、だいぶん肩の荷が楽になったね」とささやいた』

     清張は、段落を変えて、次の言葉を持ってくる。

    『 しかし、もう一人、残っている!』
     もう一人、当然、7歳の利一のことである。

     宗吉は、すでに、頭が麻痺している。良子を打ち捨てただけでなく、庄二を死に追いやったのも自分だと思い込んでいる。次は、利一だ。

     宗吉は、お梅に言われるがまま、青酸カリ入りの饅頭を利一に与えた。

    『 利一が饅頭を吐いた。宗吉は、はっとなった。
      「きらい」
      利一は吐いた理由をそれだけ言った。』 

     後日、宗吉は、利一を動物園に連れて行く。そこで、甘い最中に青酸カリを入れ、利一に与えた。最中を食べる利一。一つ食べた。
     しばらくしてもう一つ口に入れる、と同時に吐き出した。

    『 「いや、きらい」
      利一は言った。
      「そんなことはない。さっきはおいしかったじゃないか。さあ、お食べ」
      宗吉は、食い残りの最中を手で奪うと、利一の首をつかまえて、口の中に無理に押し込もうとした。利一は歯を食いしばって顔をそむけ、激しく首を振った。二人はそんな争いを続けた。
      急に人の足音が聞こえ、宗吉は手を離した。』

     我に返り、自分がやろうとしたことに気付いたのだろうか。力なく茫然と座り込んでいる宗吉。

    『 「父ちゃん、帰ろうよ」
      利一がしょんぼり横にすわって言った。宗吉は初めて涙を流した。』

     しかし、父として、人間として、涙を流した宗吉であるが、それ以上に、お梅の叱責を恐れている。

    『 どうにでもなれ、と思った。とにかく、早くこの地獄から解放されたかった』

     宗吉は、利一を連れて海に行った。

     何度か、利一を突き落とすタイミングを見計らうも、どうしてもできない。そのうち、日も暮れ、利一も寝込んでしまった。寝込んだ利一を抱きかかえ、崖の上に行く。

    『 宗吉は利一をほうった。暗いので物体の行方は眼に見えない。彼の腕が急にぬけたように軽くなっただけであった。』

     しかし、利一は生きていた! 

     利一は、絶壁に生えている松の根方に引っかかっているところを、通りがかりの漁師によって助けられた。

     介抱の甲斐があり、「子供」は元気になった。事情を聞いてもその「子供」は、一言もしゃべらない。名前も、どこから来たのかも、なぜそうなったのかも。「子供」の身元を表すようなものも何も持っていない。

     ただ、ズボンのポケットから石辺が出てきた。それだけである。
     たまたま、警察に来た印刷屋がその石を見て、珍しそうに手に取る。
     警官が尋ねる。
    『 「おい、何を見ているのだ」
      「この石です」
      「なんだい、それは?」
      「石版用の石の欠辺ですよ」』

     !

     この小説の最後はこう締めくくられる。

     『 警察の捜査が、それによって始められた』
        ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

     今改めて読み直しても、寒気がするような作品だ。
    <img src="http://yamano4455.img.jugem.jp/20081119_535126.jpg" width="146" height="146" alt="鬼畜映画" class="pict" />

     映画がまたすごい。宗吉の緒方拳もそうだが、お梅の岩下志麻なんて、そのまんまのどはまりの役だ。実は、映画そのものは私は見ていないのだが、YouTubeでその予告編を観ただけでもすごい。
     ( http://jp.youtube.com/watch?v=KO2V7Jdkrnk )

     一体、この「鬼畜」にせよ、清張はなぜこんなストーリーを思いつくのだろう。清張は何かで書いていたが、この小説の時代背景もそうであったが、戦後間もない日本の様々な事件、その事件の遠因は、「社会の貧しさ」にあったと考える。その貧しさとは、もちろん経済的なものが主であろうが、社会全体の成熟という意味もあろう。戦争を引きずった時代背景。「ゼロの焦点」なんかは、その代表的なものである。

     また、あまり読まれていないが、「半生の記」は、清張作品を読み込むに、ぜひ、必要な作品であると私は思っている。清張の暗い半生がよくわかる。清張自身、あとがきで、編集者から進められるままに書いたが、やっぱり書かなければよかったなんて書いているくらいだ。
    <img src="http://yamano4455.img.jugem.jp/20081119_535150.jpg" width="160" height="160" alt="半生の記" class="pict" />

     しかし・・・・・。

     清張は、日本共産党支援者として有名だが、冒頭に上げた「カルネアデスの舟板」や「真贋の森」を読むと、偽善的で安っぽいアカデミズム、思想に対して、極めて透徹した態度でいるであろうことを思うと、反共産主義になりそうなものだが。

     いずれにしても、すごい作家だ。</span></span>

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