黒い福音 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.58
  • (16)
  • (39)
  • (51)
  • (6)
  • (0)
本棚登録 : 328
感想 : 40
  • Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101109138

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 先日、上信越方面の避暑地に向かう道中、ひさしぶりに大学時代に住んでいた東京23区西部を通り過ぎました。そのときふと当時暮らししていたアパートの近くにあった教会のことを思い出しました。

    当時のわたしには信仰のシの字も存在せず、その教会も毎日正午に鐘が鳴り3限に間に合うよう起こしてくれる便利な建築物にすぎませんでした。しかしある日、最寄駅付近のアルバイト先で、バイト仲間から昔あの教会で殺人事件があった、それも神父が信者の女を殺したらしい、という不気味な話を聞いたのでした。

    それから幾年月、気がつくとわたしは立派な(?)クリスチャンとなっており、先週環八を通り過ぎながら改めてその怪談を思い出し、興味本位で車中であれこれ調べてみたところ本書に行きついたという次第です。

    未解決とはいえ実際の事件が骨格になっているため、ミステリーのような驚愕の展開が待っているわけではなく(そもそも多くの読者はおおまかな筋書きを事前に知っている)、その割に700ページ近くあり、冗長さは避けられないかと思いきや2夜で読了。さすがは松本清張。

    こんな話は戦後の何でもありだった時代の暗部であって今の時代じゃ考えられないよ、という見方もできる一方で、社会からは見えにくい教会・聖職という覆いの中で「所詮は人間」が何をしてしまうのかという問題は、先般報道された米国の事件にも共通するものです。

    著者の義憤が前面に出すぎな感もしなくはないですが、そこを割り引いたとしてもエンターテイメントとしては傑作であり、また後の世代に残すべき重要な作品だと思います。

  • この作品は、昭和34~35年に書かれたもの。
    清張が50歳位の時に書かれた作品である。

    日本人スチュワーデス殺人事件という実際にあった事件をヒントに書かれたもので、当時としてはタイムリーな作品であり、それなりに読まれたようである。

  •  同じ教団に所属する者として戦慄したのは、本作によってではなく、当時の週刊誌のインタビューに載ったある女性作家のコメントである。
     司祭による殺人(容疑)というセンセーショナルな事件に対し、この作家は以下のように述べている。
     「神父様の瞳をご覧になって下さい。澄み切った美しい瞳です。決して人を殺せるような方の目ではありません」

     ベルメルシュ神父(作中ではトルベッキ神父)は2009年時点でカナダの地元の名士として存命中であった。この事件についてはノーコメントを通し、死者への哀悼のことばはなかったと聞く。

     なお本事件に関し、日本のサレジオ会(作中ではバジリオ会)でも真相を曖昧にした当時の教会当局のあり方を批判する声があることは明記しておきたい。

  • 犯罪はどこで道を誤れば至るのか。聖人君子ではない神父もまた人として道を見誤る。裏社会にも通じる圧力は時に政治や世間体へと影響する。真実を突き止められずに終幕する未解決事件、悔恨が日常の営みに溶け込んでいく。忘却へと流される被害者の無念が私たちの心にひっそりと宿した時に変えよう変わろうという声となることを望む。変えなければならないのは世間よりも先に私たちなのだ。

  • 昭和34年に実際に起こった「スチュワーデス殺人事件:英国海外航空の現役スチュワーデス:武川知子さん(27歳)が川の畔で死亡しているのが発見。解剖の結果、他殺と断定されて、捜査が始まる。遡上に上ったのは、武川さんが通っていた都内杉並区にあるカソリック教会のベルギー人神父。結局、神父の帰国によって未解決のまま。」を素材とした作品が本書。

  • ☆☆☆2019年2月レビュー☆☆☆


    松本清張の小説からは「昭和」を感じる。この作品は実際に昭和34年に起きたスチュワーデス殺人事件を題材に描かれた小説である。
    グリエルモ教会は「布教」の名のもとに、密輸、支援物資の横流しで大きな金銭的利益を得ていた。「密輸」を生業とするランチャスター氏と深い関係を持ち、それがスチュワーデス殺人事件に繋がる。
    直接の実行犯はトルベック神父であるが、彼もまた追い込まれて罪を犯したという意味では「被害者」ともいえる。殺人を犯すまでに追い込まれたトルベック神父があまりにも憐れだ。恋人である生田世津子を自ら手にかけるその精神的苦痛が、読んでいた痛いほど伝わってきた。
    新聞記者と刑事のやり取りや、人々の生活描写から時代を感じることもでき、最後までスラスラ読めた。

  • 実際にあった殺人事件を元に、事実を推測し物語にしたもの。結構分厚く、持参のブックカバーに入らなかった。それだけに読みごたえはあるが、難しいと思うことなく時間を忘れて読み進めた。

    あまり推理もの等を読まない身としては偏見として、警察は悪役に回るものなのかなと思っていたけどこの話はそうではなかった。寧ろ日本の警察の力❨勿論権力のことではない❩に期待をかけていたような感じさえ受ける。教会側は教会側として、初めから詐欺だとかなんだとするというのではなく本気で布教するなら国の法律を犯してもよいというところに基づいているところもなんとなく歯切れの悪いところ❨※これは誉め言葉です❩。

    構成としても江戸川乱歩の初期作品のように、実際の犯行を先に書き後から明かしていくというのもよかった。

  • ある日本人スチュワーデスの殺人事件を追ううちに、教会の闇物資や麻薬取引にも事件と関係があることがわかってくる。事件を追う警察や新聞社だが、教会の閉鎖的な慣習と戦後間もない日本の立場の弱さが、犯人逮捕の道を閉ざしていく。実際に日本で起きた事件をもとに描かれた小説。信仰の名の下に、教会のためなら善悪の判断もつかなくなってしまった神父たち。神父は悪いことをしないという前提のもと、擁護する信者たち。何かがおかしいのにそこがわかっていないその感覚。わたしが宗教に何となく苦手感を持っている理由がそこにあるような気がする。

  • 実際にあった未解決事件を元に書かれた小説。綿密な取材を元にストーリーは展開されていく。著者は死体のあった現場等にも足を運んだそうだ。事件は俗に言うスチュワーデス殺人事件。容疑者には教会の神父があがったが、裏に潜む闇の人物、教会とのつながり、どれも確信に近いものだったのに当時の時代背景によって、国際問題に発展する可能性を秘めたこの事件は慎重に扱わざるを得なかった。モタモタしているうちに容疑者は国外へ。事件は闇の中へ葬りさられてしまった。この小説が事実に近いものならば…殺された被害者は一体どういう気持ちの中、死んでいったのだろうか。死に顔は穏やかで笑みを浮かべているようだった。とあるが最後まで愛を信じたのだろうか。

  • 実際の事件を基にした作品。
    いつの時代にも本来行く場所に行くものを
    くすねる愚か者は存在します。
    こともあろうか、それが「聖職者」だったのです。

    しかも聖職者どもは
    平然と禁忌を破り、快楽にふけっていたわけで。
    もう神って何?となってしまいますね。

    結局のところ女におぼれた男は
    その女を悪事に加担させることに失敗し
    抹消するという悲しい事態へと落ちます。
    ただし、その男か?というと疑問で。

    日本が敗戦国だったことで起きた
    痛ましい事件です。
    でも、こんなことがあっても
    人は弱くて、過ちを繰り返すんですよね。

全40件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2021年 『葦の浮船 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

松本清張の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

黒い福音 (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×