- 本 ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101109244
感想・レビュー・書評
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『ゼロの焦点』でも思ったけれど、清張作品のタイトルはかっこいいものが多い。『砂の器』もそう。人の心、また社会というものの脆さや危うさ、そういうものをあらわしているように思った。
とても有名な作品タイトルなので、ストーリーは知らなくてもタイトルだけは知っているという方も多いのでは。私もそんな感じだ。だいぶん前に中居くんが主演のドラマをチラッと観た記憶があって、実は犯人だけは知っているのだけど、なんでそうなったのか動機とか捜査過程とか、他の登場人物とか、あいだのストーリーがすっぽりと抜け落ちているのだ。とはいえ、原作を知らないままドラマや映画などを観ていたとしても、それが小説を大胆にアレンジされているものだとしたなら、やっぱり清張さんの描いた『砂の器』を知らないも同然である。なので、今回は犯人がわかっているのは仕方ないとして、そこにたどり着くまでのストーリー展開をじっくり楽しむことにした。
東京・蒲田駅の操車場で男の扼殺死体が発見された。被害者の東北訛りと“カメダ”という言葉を手がかりとした必死の捜査も空しく捜査本部は解散するが、老練刑事の今西は他の事件の合間をぬって執拗に事件を追う。今西の寝食を忘れた捜査によって断片的だが貴重な事実が判明し始める。
(あらすじより抜粋)
上巻の大部分は、なかなか捜査が進展しなくて私もしんどかった。
今西部長刑事はすごい。四六時中、事件のこと考えてる。大好きな盆栽を観賞してるときだって、趣味の俳句を作っているときだって、息子の太郎ちゃんと銭湯でお湯に浸かってるときだって、ご飯食べてるときも、眠りにつくまでも、もちろん朝目覚めた瞬間にも、事件のことを考えてる。今西さんはきっと死ぬまで刑事なんだ。
古い時代から新しい時代への転換期とでもいおうか、〈ヌーボー・グループ〉という「在来のモラルや、秩序や、観念を一切否定して、その破壊にかかる若い芸術家たち」がもてはやされる時代。
私が面白く感じたのは、そんな新しい時代を作ろうとする〈ヌーボー・グループ〉の若者たちと、亡くなった被害者のため、自分の足で被害者の生きてきた人生をこつこつとたどり事件に向き合う、昔気質の職人のような今西部長刑事の対比だ。
実直に捜査する今西刑事の元に事件の端緒が集まってくるんだけど、それらは捜査の過程というよりは偶然によるものが多く感じる。でも、それらは都合よく生まれた偶然なんかじゃなくて、やっぱり今西刑事が四六時中事件のことを考えてるからこそ、アンテナにひっかかった必然的なものなんだよ、きっと。
今西さんの上司や同僚たちもいいよね。上司がこんなにも自分の捜査を見守ってくれていたら、被害者やその家族のためだけでなく、捜査に携わる組織のためにも必ずホシをあげようと思えるもの。そして私のお気に入り、若い刑事の吉村くんが爽やかで真面目でいい。下巻はもっと登場して、今西さんとペアで動いてほしいな。
遅々として進まない捜査だったけれど、今西部長刑事が足で稼いだ情報などのおかげで、ようやく光か射してくる。ところがすぐにまた、黒い雲が太陽を覆うように捜査は暗礁に乗り上げる。まるで今西刑事の指の間をサラサラと砂がこぼれ落ちていくようだ。
それでも上巻は、さあ今西さん、反撃だよってところで終わるのだから、はよう下巻を読まないと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上下巻の感想です。
ミステリーの名作でググるとでてくる作品の一つ。
約60年前のものなので読めるか心配だったけど時代のギャップも楽しめて面白い。
例えば大阪への移動が夜行だったり、男女の上下関係、個人情報がダダ漏れ、2人で飲んで750円などなど、それに人々の付き合いも密だったんですなと。
内容も前半は刑事と関係者が近所だったり、ちょっと強引だなと思ったりしたけど、これも時代背景かなと。
所々、他の本(当作品より後のもの)を連想させるものがあり、色々な作家に影響を与えてるのかなと思いました。 -
名作にふれるのはやっぱり良いですね。清張作品独特の、時代を感じながら、すこーしづつ推理の世界に引き込まれていきます。
実直そのものの今西刑事。粘りの捜査がたくさんの謎解きのヒントを与えてくれています。さあ、どういう答えが導きだされるのか? -
とても読みやすかった。
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ずいぶん前に読了。その後映画鑑賞後再読、再々読。
(23.12.6 映画鑑賞) -
普通推理小説を読んでいると「理屈ではあり得ても人間の感情ってそんな簡単じゃないだろう」と思ってしまうことが多い。ただ、松本清張作品はあまりそういうことを感じることが少ないように思われる。奇抜なトリックやどんでん返しなどが少ないせいだろうか。どこにでも起こりえそうなそんな話なのに、なぜだか惹きつけられる。
砂の器というタイトルの理由が上巻だけではまだ深くわからない。ただ砂のイメージから、さらさらと流れていってしまう具体的な形を伴わないもの、という予測を立てている。下巻を楽しみに読みたい。、 -
迷宮入りの事件を諦めない刑事の粘り強さに、仕事人間の「美学」を感じた。方言の飛び地、類似した駅の名前、紙吹雪を撒く女性の姿から手掛かりの糸を手繰り寄せた展開に鳥肌が立った。全国に広がる捜査のスケールに、地図を広げながら読みたくなった。
個人的には、亭主関白な雰囲気のある昭和の家庭、そして寝床で喫煙する風習に、突っ込みを入れたくなった。 -
誰しも忘れたい過去があるはずだ
しかし
振り返って手を伸ばしてみても
掴んで修理することはできないし
スマホのデータのように
きれいさっぱり消去することもできない
「俺から逃げることはできねぇぜ」
忘れたい過去はそんな風にくっきりと
あるいはもやのようにぼんやりと
僕たちにいつまでもまとわりついてくる
この小説の主人公である和賀も
そんな過去に苦しめられる一人だ
天才音楽家として名声を手にし
彼の目の前には前途有望な将来しかない
だが過去は彼を逃がさない
どこまでいっても
どんな解釈を試みようとも
和賀の過去は和賀を追いつめていく
しかし過去と対峙しその過去を糧にして
力強く前向きに生きることができる
人間などいるのだろうか
僕たちは
和賀の犯した罪を責めることができるのか?
この小説のラスト一行は、美しい
和賀が奏でる音楽のように
どこまでも優しく暖かい。
何度も映像化された名作中の名作。
時代背景の古さなどお構いなしに
これからも読者の心を打ち抜いていくだろう -
2019年3月16日、読み始め。
この作品は、新潮文庫として発行されたのが、昭和48年3月27日。
そして、今手にしているのは、新潮文庫の112刷で、平成30年6月15日のもの。
息の長い作品である。
なお、2019年3月28日に6度目のテレビドラマの放送がフジテレビ系列で予定されている、とのこと。
2019年3月20日、読了。
●2022年9月13日、追記。
内容を忘れてしまったので、確認。
以下、コピペ。
東京・蒲田駅の操車場で男の扼殺死体が発見された。被害者の東北訛りと"カメダ"という言葉を唯一つの手がかりとした必死の捜査も空しく捜査本部は解散するが、老練刑事の今西は他の事件の合間をぬって執拗に事件を追う。今西の寝食を忘れた捜査によって断片的だが貴重な事実が判明し始める。だが彼の努力を嘲笑するかのように第二、第三の殺人事件が発生する…。 -
再再読
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