松本清張傑作選 時刻表を殺意が走る: 原武史オリジナルセレクション (新潮文庫 ま 1-67 松本清張傑作選)

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  • Amazon.co.jp ・本 (490ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101109732

作品紹介・あらすじ

清張は昭和史とともに生きた作家だった。そして昭和という時代は、まさに鉄道の黄金時代でもあった-原武史。時刻表トリックの金字塔「点と線」や、かつて殺人を犯した映画俳優の心情を活写した「顔」、特急で九州へ向かう心中カップルの道行きを描く「拐帯行」など、全5編を収録。"鉄学者"の異名を持つ選者による、緊迫のサスペンスと豊かな旅情が味わえる贅沢なアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • いずれも鉄道が物語の重要な舞台になっている、清張のアンソロジー。「点と線」「万葉翡翠」は既読だか、他のものは初読。

    やはり「点と線」が秀逸。昭和の風俗、雰囲気がなんとも言えず郷愁を感じさせる。それにしても、最近の新幹線しかないJRには物足りなさを感じる。効率と経済最優先では、スローライフは実現できない。せめて、寝台列車くらい復活させてほしい。

  • 松本清張の若かりし頃の作品。昭和32年頃の時代背景を理解しながら読むと良い。逆にその時代を知らなければ、焦れったくて理解できないかもしれない。第一話「点と線」。すぐ、飛行機を使えばと思ったが、この時代は高くて庶民には高嶺の花、乗れなかった時代だから仕方ない。少し時間のトリックに偏りすぎなのと、悪徳官僚の結末が見えないのが心残りだ。
    第二話「顔」。人間心理をついた作品。何でじっと我慢できなかったのか、墓穴を掘ることになったか、そこに人間の弱さが感じられる。
    第三話「万葉翡翠」。折角古代のロマンに相当力を入れていたのに尻すぼみになり、事件がいとも単純な動機に少しがっかりする。
    第四話「たづたづし」。役人にしては浅はかな心で殺人までに話が進む。しかし、結末は馬鹿げた結果に。余韻は残ったが。
    第五話「拐帯行」。これは少し良かった。結末が良く、満足できた。読んだあとスッキリする。

  • 「松本清張」作品から、「原武史」が独自の視点で傑作を選んだ『松本清張傑作選 時刻表を殺意が走る―原武史オリジナルセレクション』を読みました。

    『西郷札 傑作短編集〔三〕』、『私説・日本合戦譚』、『梅雨と西洋風呂』、『棲息分布』、『松本清張傑作選 悪党たちの懺悔録―浅田次郎オリジナルセレクション』、『『松本清張傑作選 暗闇に嗤うドクター―海堂尊オリジナルセレクション』に続き「松本清張」作品です。

    -----story-------------
    鉄道――。
    車窓に流れゆく風景に、隠された犯罪のサイン。
    「清張」は昭和史とともに生きた作家だった。
    そして昭和という時代は、まさに鉄道の黄金時代でもあった―「原武史」。

    時刻表トリックの金字塔『点と線』や、かつて殺人を犯した映画俳優の心情を活写した『顔』、特急で九州へ向かう心中カップルの道行きを描く『拐帯行』など、全5編を収録。
    “鉄学者”の異名を持つ選者による、緊迫のサスペンスと豊かな旅情が味わえる贅沢なアンソロジー。
    -----------------------

    次々と読みたくなってしまう「松本清張」作品… 今回は鉄道をテーマに作品をセレクトした短篇集を読みました、、、

    このジャンルは名作、傑作が多く、全て既読の作品でしたが、以前読んでから相当の期間が経っており記憶が不確かだったので、思い出しながら、愉しく読めました。

     ■点と線
      心中事件を探る刑事にヒントを与えた「四分間」
     ■顔
      かつて殺人を犯した俳優が怯える目撃者の存在
     ■万葉翡翠
      考古学の探査中に起きた学生の行方不明事件
     ■たづたづし
      殺したはずの愛人が記憶喪失となって生きていた
     ■拐帯行
      九州で死に場所を探すカップルの数奇な出会い
     ■窓外をあかずに眺めていた人物 原武史
     ■解題 香山二三郎


    『点と線』は、言わずと知れた「松本清張」作品の代表作… 著者初の長編推理小説で、時刻表トリックとしても草分けの作品、、、

    心中事件の意外な真相を描いた社会派推理小説の秀作で、鉄道ファン大満足の時刻表アリバイ崩しが魅力です… もちろん、既読の作品ですけどね。

    汚職事件に関係のある××省の役人「佐山憲一」と、赤坂の料亭の女中「お時」が、博多近郊・香椎の海岸で情死した… 事件を調べる警視庁の刑事「三原紀一」と福岡署の中年刑事「鳥飼重太郎」は、「佐山」と「お時」が博多行の特急「あさかぜ」に一緒に乗車したにもかかわらず、「佐山」は食堂車で一人で食事をし、福岡市内の旅館に一人で何日も宿泊していたことを知り、疑念を抱く、、、

    もしかしたら情死に見せかけた殺人事件なのではないか?
    捜査を進めるうちに、「三原」は東京駅で13番線プラットフォームから15番線プラットフォームが見えるのは、1日の中でわずか4分間しかないことを突き止め、××省に出入りしている機械工具商「安田辰郎」を容疑者として追及しようとするが、「安田」には北海道出張という鉄壁なアリバイがあった。

    東京駅の4分間の間隙を利用したトリック、国鉄と西鉄の二つの香椎駅と二組の男女の謎、青函連絡船の乗船者名簿のカラクリ… アリバイ崩しが愉しめる作品ですよねぇ、、、

    『点』であった「お時」と「佐山」の関係を『線』に見せるためのトリックの秀逸さと、警察(特に「三原」と「鳥飼」)の執念の捜査が見どころですね… 「安田」のトリック(実際は妻「亮子」のトリック)は、緻密な計算ができていて、本当に感心しますが、トリックやアリバイ崩し以上に、女の嫉妬と執念の怖さが印象に残る作品でした。

    以下は主な登場人物です。

    「鳥飼重太郎」
     福岡署の古参刑事。常にくたびれた服装をしている。

    「三原紀一」
     警視庁捜査二課の警部補。
     銀座にある行きつけの喫茶店でコーヒーを飲むのが趣味。

    「安田辰郎」
     機械工具商・安田商会の経営者。

    「佐山憲一」
     ××省の課長補佐。

    「お時」
     赤坂の割烹料亭「小雪」の女中で安田の係。
     本名は桑山秀子。

    「安田亮子」
     安田の妻。肺結核を患い鎌倉・極楽寺近辺で療養している。

    「石田芳男」
     ××省の部長。

    「佐々木喜太郎」
     ××省の事務官。



    『顔』は、以前読了した『影の車』や『共犯者―松本清張短編全集〈11〉』にも収録されていた作品、、、

    過去に殺人を犯した役者が映画で売り出すこととなり、当時、被害者と二人でいたところを目撃した男を殺そうと企む物語です。

    特徴のあるニヒルな風貌が注目されて、重要な役での映画出演が決まった新劇俳優「井野良吉」だが、俳優として有名になることで、あの男に自分の顔を見られてしまう可能性が高くなることに怯えていた… 9年前に酒場の女給「山田ミヤ子」を殺害した「井野」は、北九州の八幡から、殺害現場である島根県の温泉津温泉に向かう山陰本線で二人を目撃した「石岡貞三郎」を京都へ誘い出して、殺害してしまおうという計画を立てる、、、

    でも、一度見ただけの男性の顔なんて覚えてないですよね… 偶然、そのことに気付いた「井野」は「石岡」との待ち合わせ場所には現れず、日常生活に戻っていく。

    映画は成功し、「井野」は賞賛を受けるが… 顔そのものよりも、仕草であったり、同じ情景であったりという方が記憶が蘇ることもありますよね、、、

    映画のワンシーンでの仕草が「石岡」の記憶を呼び覚ましてしまいます… 俳優としての成功が、人生の破滅を招いてしまうとう構図が面白い作品でした。



    『万葉翡翠』は、以前読了した『顔・白い闇』や『張込み 傑作短編集〔五〕』にも収録されていた作品、、、

    万葉集にある渟名河(ぬなかわ)の玉の謎を巡り、三人の大学生が候補となる場所を手分けして探検するが、そのうちの一人が行方不明となってしまうという物語です。

    万葉集に出てくる渟名河は、架空の地ではなく、新潟県頚城(くびき)郡に実在すると推理したS大の助教授「八木修蔵」は、三人の学生(「今岡三郎」、「杉原忠良」、「岡村忠夫」)に探査を任せる… 勾玉(まがたま)の原石だった翡翠(ひすい)の産地を発見すべく、新潟の小滝川谿谷を行く「今岡」だが、遭難し、行方不明になってしまう、、、

    犯人が「今岡」と格闘した際に地上に落としてしまった数粒のフジアザミの種子が、埋められた遺体の上に花を咲かせ、偶然通りかかった登山者が、その情景を短歌にしたことから犯行が露呈… フジアザミは、富士山周辺にしか自生していない特殊な植物だったことが決め手になってしまいましたね。

    翡翠を独り占めしようとした男の破滅… 犯罪の推理が愉しめるだけでなく、歴史好きにとっては、冒頭で展開される「八木助教授」の“講義”が面白い作品でした。



    『たづたづし』は、以前読了した『眼の気流』にも収録されていた作品、、、

    独身と思っていた不倫相手の女性に刑務所で服役している旦那がおり、しかも、近々出所することを知った男性が、立身出世と体面を保つために愛人を殺そうとする物語。

    最近課長に昇進したばかりの32歳の「わたし」は、電車の中で24歳の「平井良子」という女性と知り合い関係を持つ… 3ヶ月後、「良子」はふいに、自分には夫がいて、恐喝傷害で刑務所に入っており、あと1週間で出所することを告白する、、、

    自分の社会的立場の崩壊を恐れた「わたし」は、「良子」を長野県富士見駅近くの山林に連れ出し絞め殺すが、その後、数日経っても新聞に「良子」の死体発見の記事が出ない… 徐々に不安になってきた「わたし」は、長野県の地方紙を調べ始めたが、驚くべき記事がわたしの目に入った。

    「良子」は、その後、息を吹き返し、記憶喪失者として上諏訪の喫茶店で働いていた… それを知った「わたし」は、もう一度「良子」を殺そうとするが、記憶を喪った「良子」に新鮮さを感じ、再び愛人関係に、、、

    しかし、或る日、「良子」が失踪… そして、数年後、出張先で幼子を背負った女性を偶然見つける。

    同一人物なのに“別人”という奇妙な“新鮮さ”が面白い犯罪小説でした… 『愛のきずな』というタイトルで映像化もされており、8年前に観てました。



    『拐帯行(かいたいこう)』は、以前読了した『危険な斜面』にも収録されていた作品、、、

    将来に夢も希望もない若手社員が会社の金を着服し、愛する女と情死を覚悟した旅に出るが… 人生の希望と再生を描いた物語です。

    会社の金(35万円)を拐帯(持ち逃げ)した安サラリーマン・森村隆志は、恋人の西池久美子と九州へ旅立つ… 贅沢な旅行を終えた後、心中しようと決めている二人は、同じ特急に乗っていた中年の紳士と妻らしい女性と一緒になる、、、

    上品で落ち着いた雰囲気の二人の姿に、自分たちにはない安定した生活を見た隆志は、羨望と圧迫を感じ、そのことがきっかけとなり隆志の気持ちは少しずつ変わり始める… 隆志は自首して、旅で出会った男女のような生活を目標にして人生を建て直すために再出発を図るが、憧れた二人の正体は!?

    心理描写や登場人物の配置の仕方が巧いなぁ… と感じる大ドンデン返しモノでした。



    『点と線』は、トリックに凝り過ぎた感じはするものの面白いですね… それ以外では『顔』、『たづたづし』が印象的でしたね。

  • 再読。清張作品の代表作でありながら以前読んだ時、ピンとこなかった「点と線」をしっかり読んでみたかった。アリバイ崩しがテーマ。松本清張らしい心理描写はないので私にはちょっと物足りなかった。あと書かれたのが昭和初期で今の交通事情と違う。「顔」「たづたづし」は何度読んでも面白い。2作品とも女がらみの男の身勝手さが書かれてるがどの時代も変わらないですね。

  • "鉄道のダイヤから殺人のアリバイを構築する犯人、そのアリバイを暴く刑事の物語「点と線」。
    日記風に語られる「顔」。
    この2作品がおもしろかった。"

  • 代表作「点と線」他、鉄道に関わるミステリー5点。解説を読んで、九州行きのブルートレインなど逐次廃止になったことを知り、感慨深い思いにかられた。2014.11.7

  • 6月5日

  • いまさらながら始めて松本清張を読む。TVでは本書にも入っている「点と線」などを見ていた。勝手に硬い文章、ストーリーと思っていたが、読みやすい文章で、2時間ドラマ風のストーリーであることに少し驚いた(初期作品、短編であるせいかもしれないが)。これほどTVで清張作品がドラマ化される理由が分かったような気がする。書かれた時代のせいなのかもしれないが、作品の多くの部分に女性軽視が目立つ。

  • 点と線は外して欲しかった。

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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