- 本 ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101110028
感想・レビュー・書評
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十年以上前に読んだ本で、ふと思い出して読み返して、また泣いた。学徒出陣で特攻隊に組み込まれた人の日記という形式で終戦までの日々が語られ、時々彼の友人たちの手紙が挟まる。淡々とした語り口の中で、しだいに軍隊に染まっていくさま、思想がごく自然に変わっていくさまを見るのがつらい。死を目前にして、読んでるこちらが泣きたくなるほど美しく景色が描写されるようになるのがつらい。友の死を当たり前のように受け入れるしかない、生と死が限りなく近く、逝くのが先か後かの違いでしかない空間がつらい。死ぬために訓練する狂気の空間が、実際にあったことだという事実が恐ろしい。
もう読むまいと思うくらい全体的に暗くつらい本なのに、戦争の気配がするたび、私はきっとまた読み返したくなるのだろうと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2015.10記。
個人的追悼:小説家阿川弘之氏 (長いです)
小説家の阿川弘之氏がなくなった。とくに若い頃熱心に読んだ敬愛する作家のひとり。
阿川氏は自ら若き士官として務めた旧日本海軍への深い愛情を文学の下敷きにしていた。故に、戦後の文壇からは長く「反動」のレッテルを貼られ、大江健三郎に代表される「良心的」な作家と不当な形で比較されてきた。しかし一冊でも読めば、彼の作品が痛切なまでの反戦文学であることは容易に読み取れる。
海軍善玉、陸軍悪玉論は阿川氏が確立した史観であり(与那覇潤「中国化する日本」より)、最新の昭和史研究では見直しが進んでいるが、そのことと文学としての価値とはもちろん(無関係とは言えないにせよ)別個の問題だ。
「井上成美」「山本五十六」といった伝記文学、あるいは「暗い波濤」「春の城」といった戦争物の傑作群の中でもとりわけ印象深いのは「雲の墓標」。学徒動員されて特攻隊員として散っていく青年の姿をきりっとした文体で描く。士官学校でのカンニングシーンなどのたくまざるユーモアや、組織の理不尽さ、何より主人公の死を暗示させながら一切の具体的な描写がないラストシーンは強く心に残っている。
それにつけても考えるのは、戦争で亡くなった英霊に、「申し訳ない」と思うのか、「感謝」と思うのか、の違いだ。とくに若い世代が英霊、という言葉を使う場合、「英霊に感謝」という視点が大半だ(小林よしのりの「戦争論」が嚆矢だろう)。
それを決して否定したいわけではない一方、阿川氏も含めた戦争を実体験している表現者の作品に感じるのは、「自分だけ生き残って申し訳ない」という気持ちだ。この世代の人が「すぐ横で死んでいった同僚に感謝」なんて言っているのは見たことがない。 -
戦争と少し離れたところに位置していた学生たちが、飛行科の予備学生として海軍に入り、終戦間際には特攻隊員に選出され散っていく。 自分の運命をどう受け入れるかと苦しみ、何としても運命を変えようと考える者、海軍教育のままに運命を受け入れる努力をする者・・・。 いづれにしても、彼らの運命の行き着く先を考えると胸が痛む。 こういう若者たちを二度と出さない世界になりますように・・・。
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永遠の0を読んで
戦争を扱った本を読みたくなって選んだのがこれ。
同じ特攻隊の目線で、
でも立場は違ってて予備学生の視点。
やっぱり大きな声では言えない本音が相当あったんだと改めて思った。戦争って本当に恐ろしい。
2011/9/26 -
春の城より読み終わるのに時間がかかったのは,やはり死と向き合わざるを得ない特攻学生の日記という重い内容であったからである.戦争の虚しさ,不条理を知りつつも死と向き合うことから目をそらさない吉野次郎の姿から,いろいろなことを考えてしまう.吉野の生き方や死を現代の日本の基準,価値観からだけで判定してはいけないのではないか.
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特攻隊となり散華する海軍予備仕官の青年の心情を、日記形式で綴る小説。万葉集を愛する純粋な大学生達だったのに、学業を中断して学徒出陣により召集され、日々の厳しい訓練に明け暮れ、飛行機乗りに仕立て上げられた頃には皆の気持ちも様々な方向へ。
誰もが懊悩する極限の状況で、若者達が死の恐怖や生への執着に立ち向かう…もし自分ならばどう振る舞えるのか、ふと考えてしまいます。
夢や希望を諦め、国の為に命を捨てるという事実を考え、組み立て、どうにか折り合いをつけようとしたり煩悶したり、受け入れたり。すさまじい心象風景が淡々と描かれています。
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生まれた時代に選ばれる人生なんて。戦争は絶対にいけません。
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戦争終了後から15年程度でこういう作品が書かれるのかと思いきや、よく考えれば大岡昇平とかもそうでしたね。
それを考えると本作、ちょっと重厚感がない感がある。
ただ、時間が経って書かれた特攻の小説より暗さが目立っていて、やっぱり体験の断絶が起きている感がする。 -
辛い。心が苦しくなる場面が沢山あった。戦争に関する小説は色々読んだことがあったけど、物語って感じじゃなくて特攻隊のリアルという感じがしてとても胸に刺さった。
著者プロフィール
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