雲の墓標 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101110028

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  • 春の城より読み終わるのに時間がかかったのは,やはり死と向き合わざるを得ない特攻学生の日記という重い内容であったからである.戦争の虚しさ,不条理を知りつつも死と向き合うことから目をそらさない吉野次郎の姿から,いろいろなことを考えてしまう.吉野の生き方や死を現代の日本の基準,価値観からだけで判定してはいけないのではないか.

  • 特攻隊となり散華する海軍予備仕官の青年の心情を、日記形式で綴る小説。万葉集を愛する純粋な大学生達だったのに、学業を中断して学徒出陣により召集され、日々の厳しい訓練に明け暮れ、飛行機乗りに仕立て上げられた頃には皆の気持ちも様々な方向へ。
    誰もが懊悩する極限の状況で、若者達が死の恐怖や生への執着に立ち向かう…もし自分ならばどう振る舞えるのか、ふと考えてしまいます。
    夢や希望を諦め、国の為に命を捨てるという事実を考え、組み立て、どうにか折り合いをつけようとしたり煩悶したり、受け入れたり。すさまじい心象風景が淡々と描かれています。

  • 生まれた時代に選ばれる人生なんて。戦争は絶対にいけません。

  • 「きけ わだつみのこえ 」つながりで読み始めた。京大生・吉野は学徒動員で海軍予備学生となり入営。旧軍隊内の訓練(しごき)の日々。そして吉野は特攻機パイロットとして死地に赴く。
    学徒兵の手記として描かれる小説である。だが「吉野の手記」は、「 きけ わだつみのこえ 」の現実とつながるリアリティがあった。作者阿川自身が海軍予備学生であったためだろう。

     ただ、少々の物足りなさを感じる面も。「わだつみ」所収の“本物の”手記には、葛藤、そして、諦観・覚悟へ、という過程が、短い手記のなかにも読み取れるものがあった。しかし、吉野が、飛行兵として覚悟を決め、特攻の死を受け止めるまでの心情変化の過程は、さらりと過ぎてしまった印象。いつしか、状況を受け止めていった、という感じなのだ。
    一方、京大同窓の学徒にして隊の同期生藤倉という登場人物がいる。この戦争の大義に常に懐疑的で、特攻隊員としての死を拒み、生き残る策を模索する。彼は、吉野と対比的な役割を担って描かれたように思う。

    日常を記録する淡々とした場面のなかに、遠慮の無い凄惨な描写が現れるところがあり、意表を突かれる。航空隊基地が爆撃を受けた後、あちこちに散らばる四肢をバケツに拾い集める様や、麻酔無しで肢を切断手術する阿鼻叫喚。不慮の事故死に遭う某航空兵の死、その惨状。これら実に生々しい。

    「練習機赤トンボ」、「九九艦爆」。そして、新鋭機「銀河」、「彩雲」などなど。様々な機体が登場するのも興味深い。あの戦況と生産条件のもとで尚、航空機の生産、開発を続けたことに驚き感心した。

    文庫巻末、安岡章太郎の解説曰く。
    「(海軍)兵学校出の海軍士官を殺すのがもったいないために学生を将校に速成してつかうのだ」。
    そういう見方があるのだと初めて知る。

     ところで、かつて、自身が小学校3-4年生当時のある思い出。校内の図書室で本書単行本を手にした担任教師から、「お前、これ読んだらどうだ?」と薦められたのだ。その教師の真意は、今となっては知るよしもない。だが、40年余りの後、ふとしたきっかけで読了。奇妙な縁を想う。

  • 戦争小説と言うよりは、海軍予備学生の日常の生活記録、日記。
    淡々と日々の思いと心の変化が描かれている。

  • 自然の描写と戦争の描写が対比されていて、息苦しいまでにリアル。

  • 2016.10.28
    自分は何て平和な時代に生きているのだろう。

    青年が、生と死の間で葛藤する姿。
    死ぬために訓練をする。自分の感情にふたをして生きなければならなかった。

    雲こそわが墓標。

  • 目的化した死が、あらゆる不安をはらいのける
    サルトルは、自由が人間を縛りつけるのだと言った
    だが徒競走ならば、自由もへったくれもない
    きれいさっぱり清められた一本道を、おのが死めがけて突っ走る
    そのように自らを律して特攻の日を迎えようとする若者たちの手記
    というテイで書かれた小説
    その、スマートとすら呼べるすがすがしさは
    ひょっとしたら同調圧力に負けたおのれをごまかす
    自己欺瞞でしかないのかもしれない
    いや、しかし実のところそれは、要領よく生き延びたとして
    おのれに恥じないでいられるような人間でありたくはない、がゆえに
    自らの意志でつかみとった気高さ、潔癖さであると
    ・・・生き延びてしまった者が
    そのように納得してしまうことこそ欺瞞であろう

  • 最近読んだのに記録がない。フォルダーの整理をかねて探してみたら、見つかった。
    昨年一昨年は疲れてメモする気力がなかったので、読みっぱなしの本が多い。記録しようとは思って書き始めても、書き終わってないものが10冊近くあった。これは途中まででも別のホルダーに入れておけばかすかに記憶は残るだろう。
    半分は未完もひどい状態なので削除した。再読して書くことがあるかどうか。
    最近読んだ気がしていたのに、日付が昨年や一昨年になっている、日が過ぎるのは早い、まさに矢の如し。

    「雲の墓標は昨年読んだ。紛れて無くなる前に載せておこう。




    昭和31年4月 新潮社発行 
    平成12年2月 69刷 新潮文庫



    「永遠の0」を読んだので思い出して読んでみた。

    若い頃に読んだときは、感傷的な読み方で、主人公の吉野が次第に死を肯定して特攻機に乗る、友人の藤倉は批判的でありながら、事故死をする。学府から離れた若い死に胸が詰まった記憶がある。

    戦後も遠くなったといわれ、自由を謳歌できる世代が育っている今、読んでみるとまた違った感慨がある。

    戦争の経過や、戦況は「永遠の0」でも少しは理解できるが、海軍予備学生は、兵学校卒には軽く見られ、命を兵器にする。

    学生生活(学問)に心を残しながら、次第に感化されていく様子が痛ましい。

    渦中にあればこのように、自ら命を捨てることを次第に肯定するようになるのだろう、一種のマインドコントロール状態で、敵機に向かって突っ込んで、命を捨て未来を絶つことも厭わなくなるのだろう。

    こういった気持ちは、平和になった今やっと気づくものなのだろう。

    人権・自由が保障されている今、放縦ともいえる生き方さえ許されている。
    たまにこういう本を読むことで、改めて自分を考える時間を持つことになった。

    薄い文庫だが、読むことで記憶も薄れ掛けた、戦争があった事実を振り返ってみる。
    楽しみのための読書にも、こんな短い時間があってもいいと思った。

  • 少々堅苦しい文章なので、読むのに疲れて何度も何度も挫折しましたが、今回やっと読み終えることが出来ました。

    ただの大学生だった吉野くんが、段々と考えが変わってきて、「潔く死んでもいい」みたいになるのが怖かった。
    海軍生活をずっと続けていると、そんな考え方になっちゃうの?

    今の時代としては、吉野くんの友達の藤倉くんの考え方の方がよっぽど共感できます。

    考え方が徐々に変わってはくるんだけど、時々すごく心に響くことをいう吉野くん。
    残念です。

    そして、私が、この本へ何度目かの挑戦をしているとき、作者の阿川さんがお亡くなりに。
    ご冥福をお祈りします。

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