米内光政 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101110066

感想・レビュー・書評

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  • 豪快な性格ながらも、極限状態では緻密な判断を下せる能力。これが米内が持つ人を惹きつける力だったのか?著者が言うように、陸軍のトップも米内のようなカリスマ性を持っていれば果たして・・・

  •  今年は米内光政(1880-1948)生誕140年といふことです。この人は「第37代内閣総理大臣」といふよりも、「最後の海軍大臣」としての方が存在感があつたやうです。
     本書はその米内光政を、やはり海軍出身の阿川弘之が執筆した評伝小説であります。
     元来米内光政といふ人は、兵学校でも平凡な成績で、さう優秀とも目されず目立たぬ経歴だつたやうです。何かと「俺が俺が」の軍人の中では異色の存在と申せませう。そのせいか、若い時分の記録はあやふやで、詳らかではないみたい。盛岡出身ですが郷里でのエピソードは少なく、本書でもイキナリ春日艦長(海軍大佐)としての登場であります。

     部下に対しても必要最低限の事しか伝へず、時には必要な事さへ伝へず誤解をされたり(鈍重なのでは?と)、有事でもなければ歴史に残る事もなく、そのまま埋もれた人だとも言はれてゐます。確かに、本当に重要な事といふのは案外少なく、たいていの事は「まあ、どうでもいいよ」で済むやうな気がします。しかしそれにしてもこの人は度が過ぎた面倒臭がりだといふ評もありました。
     ゆゑに本書の記述は、彼に関はつた人物の証言が中心なので、小説としては物足りないかも知れません。一点、米内の人となりと思想を、歴史に絡めて浮き彫りにするといふ意図ではないでせうか。

     有事でもなければ埋もれた筈の人物が、まさに太平洋戦争といふ未曾有の有事に巻き込まれた訳であります。海軍左派トリオと呼ばれた米内・山本五十六・井上成美らの反対も虚しく開戦し、日本は予想通り壊滅的な打撃を受けます。二度目の海軍大臣就任の役割としては、終戦工作をいかに国策に叶ふやうに遂行するか、といふ事でした。既に予備役となつてゐた米内を、まさに歴史が必要としたと申せませう。

     確かに「陸軍=悪」「海軍=善」とは単純に言へないし、「天下の愚将」といふ米内評もあります。それだけ一筋縄では行かぬ、茫洋とした人物像が浮かんできます。幸ひ米内光政については、色色と書物が出てをります。米内礼讃に飽き足らぬ人は、他の文献にも当ると宜しからうと存じます。本書は本書で、つかみどころのない米内光政といふ人物の輪郭を力強く描写した、骨太の一冊でございます。

  • 日本に必要な人物。少しでもこの方の声に耳を傾け、国民の生活を考えられる人がいれば良かったのに。今の日本も、国民のことを第1に考えて政をしてる方が現れることを祈りたい。

    桜の会を弾劾するために、税金の高給取りが子供に見せられない野次を飛ばし、記憶に無い、私の管轄では無いと何十時間も平行線の無駄な時間を費やすのだろうか……

  • ◇いろいろな面で、非常に勉強になりました。

    最も印象的だったのは、
    「真の指導者とは何か」を教えてくれる
    教科書のように感じました。

    今まで読んだリーダーシップの本で、
    聞いたことこともないスタイルなのですが、
    (つまり、何も言わない。
    しかし、内なる信念はハッキリしていて、
    最後の最後には、指導力を発揮する)
    これぞ、理想のリーダー像なのではないか。

    批判ばかりしている自分を大いに反省させられ、
    願わくば、かくありたい、と思わせられました。

    ◇米内とは、偉大な人らしいが、何をしたのか、
    かねてから知りたいと思っていたのですが、
    本書を読んで、かなり見通しがよくなりました。

    あわせて、なぜ無謀な太平洋戦争に突入していったのか
    何が起こっていたのか、大戦中に登場する人物像等
    様々なことが、よく見えてきました。

    ◇戦争中、名が残るのは、派手なことをした人であって、
    華々しいけれど、評価に値するとは必ずしも限らない。

    しなかった人の方は、一般からはわかりにくいので、
    真に偉大でも、名は残りにくい、
    ということがわかりました。

    あの時代にあって、冷静にものごとを見つめ
    命を張って、戦争に突入するのを止めようとしていた人が
    こんなにいたとは知らなかった、と新鮮であり
    そんなことも知らなかったのかと、恥ずかしくなりました。

    ◇井上成美との、コントラストも、とっても面白かったです。

    「米内中将は、二・二六のような変事でもなけれは
    慈眼衆生を観るといった感じの、したしみ深い長官だが、
    (井上)参謀長はご本人が論理学の教科書みたいな人で
    目つきは鋭いし、日常接するのが怖かった」

    ◇その井上が米内をどう評価していたか、
    というところから、本書は始まります。

    井上が、
    「日本の海軍には、一等大将と二等大将とがあった」
    と言っていたのは、有名な話だとのこと。

    果たして、誰が一等大将に合格かと言えば、
    山本五十六でさえ、条件付きで一等大将とは、
    何と厳しい評価なのかと驚きました。

    「大将の位がえらいなんて思っているような大将は全員落第なのだが、
    この容赦なしの井上成美が、同時代の提督の中で、
    無条件で一等大将と認めていたのが米内光政であった」

    と言われると、米内とはどんな人物なのか、
    一気に引き込まれました。

    ちなみに、井上の教え子の某氏によると

    「山本五十六さんほか数人が二等大将か、辛うじての一等大将。
    あとは東郷元帥を含めて全部三等大将だったのではないでしょうか」

    とのことだそうです。。。

  • 最も印象深い二つの対照的な場面

    8月10日の御前会議前
    米内光政「多数決で結論を出してはいけません。きわどい多数決で決定が下されると、必ず陸軍が騒ぎ出します。その騒ぎは死にもの狂いだから、どんな大事にならぬとも限りません。決を採らずにそれぞれの意見を述べさせ、その上で聖断を仰、御聖断を以て会議の結論とするのが上策だと思います。」

    ポツダム宣言受諾通告後
    大西瀧治郎「たしかに戦勢は不利です。われわれの努力が足りませんでした。申し訳ないことです。われわれが責任を負わなくてはなりません。しかし、あと二千万人の日本人を特攻で殺す覚悟なら、決して負けはしません。もう一度だけやらして下さい。もう一度智恵を出させて下さい。どうか、今しばらく戦争を継続させていただきたいと、陛下にお願いして下さい。」

  • 小説としては少し退屈ですが、米内光政自体、鈴木寛太郎と戦争を終わらせた人。もっと世の中に知ってほしい人。
    米内、山本、井上の海軍三羽烏は日本史できちんと教えておくべきと思う。

  • 綿密な記録類の読み込みと取材に基づいた記録文学。本土決戦を避け、終戦へ導くことに全霊を傾けた最後の海軍大臣の伝記。

  • 2012.1記。

    太平洋戦争前夜の海軍大臣にして首相の地位にあった米内光政の伝記的小説。その人となりを周囲の人の証言をもとに描き出すことが本書の狙いであるが、史実に忠実であろうとすると同時に、著者は主人公に強い共感を抱いていることを隠しておらず、そのことがかえって読後感を心に残るものにしている。

    米内光政は必ずしも同期の秀才ではなかったらしい。実際、参謀だの米国大使館だのを同期が歴任する中、佐世保あたりで芸者にもてまくってたりする。しかし、時代とともにドイツと連合して対ソ戦に備えるべきと主張する陸軍と、ドイツと組めば対米戦争不可避と絶対反対の米内ら一部海軍との対立が先鋭化、政治もこう着していく。
    こうした世相の中、省内で名も知られていなかった米内が次第に中枢に上り詰めていくプロセスは読みごたえがある。

    「カミソリみたいな井上さん(井上成美)を、参謀長として、のちには次官として、上手に包み込んで使っておられた」という人使いの妙。
    一方で「(米内さんはいつも井上や山本五十六とだけ話をするので)・・・部課長クラスが何を言ってきても…あまり相手にしない。まあお前たち適当にやれヨというようなことで・・・この点、陸軍は下が動かしているんですからね」などという証言は、あらゆる職場において目にする風景であり、サラリーマンとして色々思うところがあった。

    太平洋戦争緒戦の勝利に国民は沸いたが、実際には日本軍がもっこと鋤で防御陣地を作っていた頃、米軍はブルドーザーで陣地構築していた(占領地で接収し、日本軍人のほとんどが初めてその機械を目の当たりにすることになる)。この圧倒的な国力差によって日本が追い詰められていく様は、読んでいて暗澹とした気分にさせられる。

    この本を読んでも、「なぜかくも明確な戦力差がありながら戦争に突入したのか」の答えが見つかるわけではない。米内という人への評価も一つではないだろうと思う。それでもこの時代の一断面を知る上で、極めて示唆に富んだ一冊であるとは言えるように思う。

  • 1982(底本78、初出77~78)年刊。著者の太平洋戦争海軍提督三部作の一。語学に堪能、第三者視点や俯瞰的視野を有し「敵を知り己を知れば百戦危うからず」を地で行く米内光政の評伝。◆勿論、著者の井上成美びいきが感じられるが、大きい声を持つだけの者が目立つ時代の中、米内の寡黙さが、多くの死傷者と荒廃した国土となった戦後から見るに、燦然と光り輝く。そんな印象を持たせるに十分な書。◆日本語の重要性は兎も角、収集情報の多元化や留学生受入れの点から、高等教育(後期中等教育も)での外国語の重要性も本書から感得可能。

  • 海軍大将米内光政について、名前は知っていても具体的に何をした人かは無知であったため手に取った。三国同盟や米英との戦争に終始反対し、戦争を終結に導いたといった実績が有名なところだろうか。綿密な取材に基づく私生活全般についても詳しい本。

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著者プロフィール

一九二〇年(大正九)広島市に生まれる。四二年(昭和一七)九月、東京帝国大学文学部国文科を繰り上げ卒業。兵科予備学生として海軍に入隊し、海軍大尉として中国の漢口にて終戦を迎えた。四六年復員。小説家、評論家。主な作品に『春の城』(読売文学賞)、『雲の墓標』、『山本五十六』(新潮社文学賞)、『米内光政』、『井上成美』(日本文学大賞)、『志賀直哉』(毎日出版文化賞、野間文芸賞)、『食味風々録』(読売文学賞)、『南蛮阿房列車』など。九五年(平成七)『高松宮日記』(全八巻)の編纂校訂に携わる。七八年、第三五回日本芸術院賞恩賜賞受賞。九三年、文化功労者に顕彰される。九九年、文化勲章受章。二〇〇七年、菊池寛賞受賞。日本芸術院会員。二〇一五年(平成二七)没。

「2018年 『南蛮阿房列車(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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