井上成美 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (724ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101110141

作品紹介・あらすじ

昭和五十年暮、最後の元海軍大将が逝った。帝国海軍きっての知性といわれた井上成美である。彼は、終始無謀な対米戦争に批判的で、兵学校校長時代は英語教育廃止論をしりぞけ、敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら清貧の生活を貫いた。「山本五十六」「米内光政」に続く、著者のライフワーク海軍提督三部作完結編。

感想・レビュー・書評

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  • 先日読んだ『失敗の本質』の中で艦隊思想が主流の日本海軍の中で一部に航空強化論があったことが語られており、興味を持った。井上大将の徹底した合理的思考は常人からは敬遠されがち。だが、その本性は冷徹漢ではなく、むしろ”人をつくる”ことに心血を注いだ人生である。こういう人が懐刀に止まらず、サクッとトップに立ち、時代に合うグランドデザインを描くと組織は強いのだろう。戦争物の本は今まであまり読んでいないので読みづらいが自分が広がる感じがしてそこも良い経験だった。面白かった。

  • とてつもない作品。
    少数派であることの難しさ、
    そして自分を貫くことに関する難しさを
    いやというほど感じる作品です。

    彼は多くの人が戦争推進という体をとる中
    反対の立場を崩しませんでした。
    そう、敵国が持つ技術の差を
    いやというほど知っていたから。

    しかしながら、多数派が
    はびこるということはどういうことかは
    想像がつくことでしょう。
    実質上の左遷という形をとられることになります。

    彼はどこか遊びのない人に想われることがあり
    とっつきづらさがありました。
    それは彼自身が意見を貫く=みだりに好意に乗らない
    というスタイルでいたからでしょう。
    そう、中立でいることも難しいことなのです。

    スケールの大きい作品ですが
    読みづらさはなかったです。

  • 海軍の反戦大将

    読んでて思ったのは、強化版 御手洗くん

    ゴリゴリの合理主義者でよくあの時代に暗殺されなかったなと思う
    日本人特有のその場の空気を大切にするのが嫌いで、なし崩し的に事が進むくらいなら、孤高を選んででも意見する

    兵法家としての才能はからっきしりだけど、三国同盟時期と江田島校長時代の功績は本当に凄い

    特に日本には絶対必要なタイプの人間だと思う

    三提督に触れる機会を与えてくれた阿川さんに感謝です

  • ・人間を神様にしては行けない。神様は批判できない。
    ・考える、頭を使う。アングルを変えて物事を考察する力を養う。自身も読む手を休めてじっくり考えこんでいた。
    ・「念のため長官に相談して」などとは言わず、自分の役職としての判断を示し、責任は自分で持つ。
    ・英語教育における直読直解主義。英英辞典を用いる。
    ・一般教育・教養の重要性。すぐに役立つ知識に偏重しない。
    ・委員会とは要するに責任を回避するための組織。責任の所在は分散して誰が本当の責任をとるのかはっきりしなくなる。
    ・迷うことがあっても根本のところをよく考えて下への迎合は避ける。

  • 山本五十六、米内光政、井上成美。

    ともに帝国海軍大将、三国同盟反対派、米英戦争反対派。

    井上成美はこの中で一番知られていないが、もっとも戦後に影響を与えたと言っても過言ではないと感じた。

    満洲事変から太平洋戦争に至るまで、海軍が陸軍の横暴を抑えられれば日本の運命ももっと良くなっていたと思わざるおえない。

  • 東郷平八郎や山本五十六のような著名な戦功をあげた人物ではないにも関わらず、本書は色々なところで推薦されており、30年以上も読み継がれています。その理由を知りたかったのですが、確かに今の世にも通じる内容が多いのだなと感じました。

    本を読み進めていくと、井上成美という人物像について、以下の点が浮かんできます。
    ・希望的観測を嫌って事実を重視し、合理性を重んじる人だった。
    ・冷静な観察眼や大局観を持っていた。
    ・組織に対しても迎合しなかった。
    ・故に、周りから疎まれていった。

    真の理解者は米内光政など限られた人のみだったようですが、少数でも深い理解者とともに仕事ができることは幸せなのかもしれない、とも思ったりします。周りから見ると少し偏屈な人物だったようですが、自らの任務と職責に対する態度、および、自らのスタッフへの接し方は見習いたいところが多いです。

    また、本書は「組織力学」「教育論」に関する示唆も多く含んでいます。700ページを超えますが、一人の軍人の伝記といったカテゴリーを超えて、多くの人に読んでほしい一冊です。

  • 「阿川弘之」が「井上成美」を描いた伝記『井上成美』を読みました。

    『国を思うて何が悪い ~一自由主義者の憤慨録~』、『山本五十六〈上〉〈下〉』に続き、「阿川弘之」追悼読書です。


    -----story-------------
    一億総玉砕だけは避けねばならぬ。
    孤高にして清貧。
    日米開戦を強硬に反対した、最後の海軍大将の反骨心溢れる生涯。

    昭和五十年暮、最後の元海軍大将が逝った。
    帝国海軍きっての知性といわれた「井上成美」である。
    彼は、終始無謀な対米戦争に批判的で、兵学校校長時代は英語教育廃止論をしりぞけ、敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら清貧の生活を貫いた。
    「山本五十六」「米内光政」に続く、著者のライフワーク海軍提督三部作完結編。
    -----------------------

    海軍提督三部作の完結篇、、、

    「井上成美」のことは、あまり知らなかったのですが、『山本五十六〈上〉〈下〉』を読んで、その冷静でストイックな生き方が気になったので、本書を読んでみました。


    大局的な見地で物事を考え、客観的かつ冷静な判断力を持ち、曲がったことが大嫌いで、妥協することなく自分の考えを貫き、相手が誰であっても自分の主張を明確に… そして、歯に衣着せずに、そのまま伝える姿勢には憧れを感じますね、、、

    自分に不足している部分だからかなぁ。


    「山本五十六」が「近衛文麿首相」に対米戦の見込みを聞かれ、

    「ぜひともやれと言われるなら、最初の一年や一年半は思う存分暴れてご覧に入れます」

    と宣言したことに対して、

    「山本さんは何故あの時あんなことを言ったのか。
     軍事に素人で優柔不断の近衛公があれを聞けば、とにかく一年半は持つらしいと曖昧な気持ちになるのは決まり切っていた。
     『海軍は対米戦争やれません。やれば必ず負けます、それで聯合艦隊司令長官の資格がないといわれるなら私は辞めます』
     と、何故はっきり言い切らなかったか」

    と明確に批判する等、親密な関係にあった人物であっても、はっきり言っちゃうんですからね。


    あまりにも頑固で、潔癖症で、そして、論理的に説明できないことは受け入れない、、、

    特に金銭面に関する潔癖性については異常なまで拘り、戦後は長井に隠遁し清貧な暮らしを営むことになりますが… 教育への拘りは捨てきれず、私塾を開いて近所の子ども達に英語を教えていたようです。

    江田島の海軍兵学校時代の言動も考えると、軍人や政治家よりも教育者の方が向いていたんじゃないかと思いますね。


    友人や親戚だと、付き合いが難しい存在でしょうが、、、

    恩師として知り合うのが理想な人物なのかもしれませんね。



    「井上成美」の言葉、、、

    「私の見通しこそ正しかった。
     私の意見、立案に耳傾けていてくれたら、こんな惨澹たる敗戦には立ち至らずにすんだのに」

    この人が、もっと日本のトップに近い位置にいたら、日本の歴史は大きく変わったと思います。

  • 最後の海軍大将となっていたが、実は本人はこれを断固拒否していたとは。一貫して米英との戦争と日独伊三国同盟に反対を唱え、戦艦での海戦を時代遅れとし、いち早く飛行機での空戦が主体となることを主張した先見の明。戦後の日本の復興にも大きく関わって欲しかったかも

  • 当時戦争に反対していた人はかなりいたと思うがここまで徹底して反対していた人は少なかったのではないか。
    第二次大戦前のヨーロッパにおいて侵略の犠牲になった国と中立を全うした国の条件を整理しての「侵略国が攻撃のために支払う損害が、その獲得し得る利益よりも大きいと思わせるに足る抵抗力を一国が保持する時は中立の維持が可能でである」という箇所は、まとめてみると当たり前だがなるほどと思って考えさせられた。

  • ほんとに正しいことを言ったのに、したのに、時代に押し流されてしまった人。空軍力の増強をいち早く取り入れようとしたのもこの人。
    戦後はもっとまっすぐに日本のために尽くしてくれた方が良かったかもしれない。ストイックすぎたひと。

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著者プロフィール

阿川弘之
一九二〇年(大正九)広島市に生まれる。四二年(昭和一七)九月、東京帝国大学文学部国文科を繰り上げ卒業。兵科予備学生として海軍に入隊し、海軍大尉として中国の漢口にて終戦を迎えた。四六年復員。小説家、評論家。主な作品に『春の城』(読売文学賞)、『雲の墓標』、『山本五十六』(新潮社文学賞)、『米内光政』、『井上成美』(日本文学大賞)、『志賀直哉』(毎日出版文化賞、野間文芸賞)、『食味風々録』(読売文学賞)、『南蛮阿房列車』など。九五年(平成七)『高松宮日記』(全八巻)の編纂校訂に携わる。七八年、第三五回日本芸術院賞恩賜賞受賞。九三年、文化功労者に顕彰される。九九年、文化勲章受章。二〇〇七年、菊池寛賞受賞。日本芸術院会員。二〇一五年(平成二七)没。

「2023年 『海軍こぼれ話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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