エロ事師たち (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101112015

感想・レビュー・書評

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  • あなたが作家を目指しているとしましょう。
    読んだ人が感動するような作品が書きたい―。
    立派な動機です。
    テーマも明確。
    筋立ても固まりました。
    もちろん、力量は十分にあります。
    さあ、では、執筆に取り掛かろう。
    ちょっと待ってください。
    その前に、本書「エロ事師たち」を読みましょう。
    打ちのめされます。
    登場人物は、ブルーフィルム(ポルノ映画)の制作に勤しむ裏社会の男たち。
    一筋縄ではいかない、一癖も二癖も三癖もある男ばかりです。
    より過激で刺激的な作品を作ろうと、男たちは官憲の目をかいくぐりながら暗躍します。
    たしかにエロい。
    グロテスクでもあります。
    でも、文学的な香気が確かに漂っている。
    野坂33歳のデビュー作。
    脱帽するほかありません。
    昭和48年生まれの自分が物心ついた時には、野坂は既に「テレビの人」でした。
    それが原因で、ずっと彼の小説をスルーしてきました。
    もっと早く読んでいれば良かったですね。
    本書が文学だとすれば、自分の文学観はいかにも浅いと認めざるを得ません。
    文学は、自分が考えているよりももっと深いところで蠢いている何かです。
    もちろん、どんな文学があってもいい。
    ただ、本書を読めば、文学の深さと広さが、ともに6センチは大きくなるはずです。
    共に頑張りましょう。

  • わたし、先月末で67歳になりました。いえ、おめでとうはいりません。なぜこんな事を言うかと申しますと、こんな歳になってもこの本の感想を書くのははずかしくて、読んでも知らん顔しようかと思ってしまう、そのかまととぶってるいくじなさにあきれてしまうからです。

     題からも想像がつくように、文面を引用したらきっとネットの規制が入ってしまう文字が踊っております。でもちっともいやらしくないんです。読んでいるとふきださずにいられません、そういう自分が「おとな」になったなーと思うのです。えっ、やっぱりかまととぶってて気持ち悪い?それがこっぱずかしいのです!

     直木賞の『火垂の墓』『アメリカひじき』もいいけれど、やっぱりこれが野坂昭如の一番の傑作ではないかと思います。おとこのどうしょうもないエロ好みをおもしろおかしく書いています。イロじゃないんです。エロなんです。

     スブやん。主人公です。「酢豚の略。肥ってはいても、どこやらはかなく悲しげな風情に由来」からついたあだな。哀しげ、酸いような顔を思い描き、これだけでも笑いました。

     仲間のエロ事師たちと法の網目をくぐり、あぶない写真を作り販売、ブルーフィルム作成し映写会、女との仲立ち...のビジネス。そう、今ならネット出会い系サイトなのでしょうかね。

     ビジネスはビジネスでいろいろ苦労するのが見ものです。でも、そこから見えてくる「おとことおんなのとんちんかん」がおもしろいです。「男と女のさが(性)」じゃなくてです。むしろ「おとこの思いこみ」みたいなものがおかしいです。

     ほんと「おとこ」ってあわれですねー。って書くのがこっぱずかしいです。そんなに知りもしないくせに…。


  • 谷崎潤一郎賞候補に挙がり、純文学とは何か?を考えた一冊。
    性にひたむきなダメ男達が、無い頭を試行錯誤しながら(たまにちょっと頭が良い)馬鹿な事に突き進む会話劇。
    悔しいが終始愉快で話の展開も退屈せず楽しめた。陰毛が落ちてるに違いないと、女子学校に拾いに行く所など頭を抱えたが、他作では絶対に読めないシーンだろう。

  • カバー絵がちょっと下品だが、中身の文章はとても魅力的だ。
    関西弁のやりとりが心地よいリズムで押し寄せて来る。
    ついつい時間を忘れて最後まで読んでしまった。
    カバー絵でとても損をしていると感じた。

  • 戦争が終わった後の日本で生きることを「エロ」を通して描いた名作。エロには人間の歪さや本能、醜悪さ、そして美しさが詰まっている。他人には理解できないとされる嗜好を、共有し実現させる登場人物達は、法律で取り締まれても、その慈愛の精神は尊い。
    戦時中を生き延び、その世界でしか生きられない人間が、その世界で生きることを選びとり、生きる意味を見出そうと必死にもがき続けるなか、戦争を知らない世代があっさりとその境界線を超える残酷さとそれでも知恵を使って生き延びようとする人間の覚悟を、エロを通じることでライトに、そしてストレートに伝えてくる。
    人間の本能と秘事と強く生きようとする意志、生き抜く覚悟は不変のものだから、訴えるものは強く、古くならない。
    軽妙に現実を描く作者はやはり時代の寵児であり、大いなる語り手であったのだろうと再認識させられる一冊。

  • ピース又吉さんの『第2図書係補佐』でも取り上げられていたと思う。傑作と聞きながらなかなか読めていなかった。

    野坂さんは前に「火垂るの墓」とかを読んだことがあったので初めてではなかったが、読み始めて「そういえばこういう文体だった」と思い出した。講談師のような(講談師で合っているのか?)独特の語り。

    語りがそうさせるのかもしれないが、可笑しさと哀しさが同居している。読んでいるこちらも泣き笑いとなる。まあ「エロ」だし、出てくるエピソードもかなりきわどくて爽やかさは皆無なのだけど、人を見る視線がやさしくて、そこがいい。

    出だしに神戸の空襲でスブやんの母親が焼死してしまうところがある。そう言っている箇所はないのだが、何となくスブやん(スブやんだけでないけど)が、「こんなことしてたらお母ちゃんに怒られるなぁ 悪いなぁ」と言っているような気がする。この悪くなりきれない感じが、どこか温かい人物像につながっているのかもしれない。

    最近読んでいた、内田樹『寝ながら学ぶ構造主義』でのフーコーに対する記述で「性のカタログ化」というタームがあって、読んでてそれともだいぶ呼応した。

  • 面白かった。
    澁澤龍彦やサドっぽくて好き。
    男性の情けなさ、それも究極の情けなさはやはりあれだったのか。
    登場人物が変な男ばかり!
    そこが良かった。
    ノーマルな男の話ではないので、まあ変態ばかりなのですがエロ事師たちが陰で棲息していてその後どうなるのか気になりページを捲る手が止まらず。
    うまく紡ぎ合わせてあり無理もなく、野坂昭如のテーマをふんだんに楽しめました。

  • 西川美和さんの「名作はいつもアイマイ」に出てきて、興味を持って読んでみた。
    標準語では表現できない作品だといえば、そんな気もする。
    僕は兵庫出身なので、それなりに大阪弁を使ったことはあるんだけれども、時代のせいか、地方のせいか、ちょっと知っているのと違う言葉遣いだった。
    乱行パーティが描かれていたが、ホントにあんな風なかんじで成立したりしているんだろうか。野坂氏の想像なんだろうか。直感的には、ありえないんじゃないかと思うけど…
    しかし、野坂さんとえいば、ちょっとどもりながら、テレビで大島なんとかさんという呼び名は監督だけどなにをやってるかわからない人と口論するへんな人という認識だったが、作家でもあったということがよくわかりました。

  • くだらない、と思って読みはじめたのだが、単なるエロではない、あくまで「エロ事師」としてのプロ根性を見せつけられて、思わず感心してしまった。世の男のロマンへの献身、そこにかける情熱、そしてそれ故に最後には仲違いまでしてしまうエロ事師たち。そこに見る、人間のおかしみ、せつなさ、いとおしさ。大阪弁の独特の浪曲風の語り口と相まって、その音楽の中にどっぷりと浸ってしまった。くだらないと思っても、是非最後まで読んで頂きたい。解説は澁澤龍彦。

  • 2012/11/19読了。ピース又吉の本で紹介されてたのを見て、読んでみました。又吉のように本屋さんでタイトルを尋ねることはなく、Amazonでポチっと購入。便利な時代です。

    "エロ事師"とはエロを扱う商売で、ブルーフィルムやらエロ写真やら、コールガールの斡旋などなど扱ってるんですが、主人公スブやんは『これは人助けなんや』、と純粋で真面目。

    アングラな内容かと思いきや、明るくて笑えて、スブやんの仲間たちのやりとりが微笑ましいのです。何ページかに一回、プッと吹き出しちゃいました。
    大阪弁と独特な文章も、最初は読みづらいと思ったけど、だんだんヤミツキになります。

    最後のオチ、んーースブやん、そうきたかぁ。可笑しい、でもちょっと切ない。

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著者プロフィール

野坂昭如

一九三〇年(昭和五)神奈川県生まれ。親戚の養子となり神戸に育つ。四五年の空襲で養父を失い、のち、実家に引き取られる。旧制新潟高校から早稲田大学第一文学部仏文科に進むが、五七年中退。CMソング作詞家、放送作家などさまざまな職を経て、六三年「エロ事師たち」で作家デビュー。六八年「アメリカひじき」「火垂るの墓」で直木賞を、九七年『同心円』で吉川英治文学賞を、二〇〇二年『文壇』およびそれに至る文業で泉鏡花文学賞を受賞。そのほか『骨餓身峠死人葛』『戦争童話集』『一九四五・夏・神戸』など多くの著書がある。二〇一〇年(平成二十七)死去。

「2020年 『「終戦日記」を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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