アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)

著者 : 野坂昭如
  • 新潮社 (1968年2月1日発売)
3.66
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  • 78レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101112039

作品紹介

昭和20年9月21日、神戸・三宮駅構内で浮浪児の清太が死んだ。虱だらけの腹巻きの中にあったドロップの缶。その缶を駅員が暗がりに投げると、栄養失調で死んだ四歳の妹、節子の白い骨がころげ、蛍があわただしくとびかった-浮浪児兄妹の餓死までを独自の文体で印象深く描いた『火垂るの墓』、そして『アメリカひじき』の直木賞受賞の二作をはじめ、著者の作家的原点を示す6編。

アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  阪急「甲陽園」駅から歩いてすぐの所に「火垂るの墓」の舞台となった満池谷の浄水場(ニテコ池)がある。作品では、十四歳の清太と四歳の妹節子がこの浄水場のほとりにある横穴に住み、妹が亡くなるまでのーカ月余りを生活していた。
    現在、この浄水場は西宮市の越水浄水場となり池の周囲ばコンクリートの堤防で囲まれ。下に降りる事はできない。池の中央にはライオンズクラブで寄付した噴水が勢いよく水を噴き出していた。
     お盆の為か満池谷幕地にはひっきりなしに墓まいりの人が訪れていた。この内の何人かは、この戦争で亡くなった身内の人を弔う墓まいりなのだろう。
     池をとり囲む町はいまでは高級住宅地帯となり、作品に描かれた面影はどこにも見出せなかった。これでは、作品で重要な役割をした蛍も、夜になっても見つけることは困難だろうと感じた。ただ昔から変わらないのは、ここから見える六甲の山なみだけだろう。物語は、主人公の少年、清太が省線(現JR)三宿駅構内の柱にもたれかかり、今、何日なんやろな、何日やろかと考えつつ息を引きとるところから始まっている。
     昭和二十年九月二十一日の深夜、清掃の駅員が情太と同じように死んでいった少年たちを見回りながらも、彼らを肋けるでもなく、その死を無感動に流し、死亡した清太の腹巻きから小さなドロップ缶を見つける。「なんやこれ」とモ-ションをつけて駅前の焼跡、すでに夏草しげく生えたあたりに放り投げると、ふたが取れて小さな骨のかけらがころげ、草に宿っていた蛍が驚いて、二、三十点滅しながら飛び交った。
     白い骨は妹、節子のもの。その死に至るまでの回想がこの物語の骨子である。
     病身の母を町内会の防空壕に先に入れ、清太は妹の節子を背負って焼夷弾の降る中を逃げる。空襲が終わり、集合場所の学校へ行ってみると、母は火傷で全身を包帯に巻かれていて問もなく亡くなる。
    二人は遠い親戚の家に身を寄せるが、その家の未亡人は二人につらぐ当たる。いたたまれなくなった兄妹は、家を出満池谷の横穴に藁を敷いて、二人だけの生活を始める。
     何も知らない妹はここが台所、ここが玄関とはしゃぐ。横穴の支柱に紋帳をかけて寝るが、真っ暗ヤミで淋しい夜、二人は体を寄せ合っても寝つけない。清太は、池のほとりの蛍を子あたり次第つかまえて紋帳の中に放す。
     『朝になると、蛍心半分は死んで落ち、節子はその死骸を壕の入口に埋めた。「何しとんねん」 『蛍のお墓つくってんねん」うつむいたまま、お母ちゃんもお墓に人ってんやろ、こたえかねていると、「うち小母ちゃんにきいてん、お母ちゃんもう死にはって、お墓の中にいてるねんて」はじめて清太、涙がにじみ…」
     「火垂るの墓」は夏に先がけてアニメ映画になり上映された。映画の中でも、このシーンはほとんどの観客が涙なしでば見られなかっためではないだろうか。
     この小説は、野坂の原体験をもとに書かれたという。彼は一才八ヵ月の妹を栄喪失調で亡くし、それに負い回を感じ続けているという。この作品は妹へのレクイエムでもあるのだろう。それでなければこれほどそくそくと胸を打つことはない。私はこれまでこのように胸を打つ戦争小説を読んだことはない。
     野坂は著書「国家非武装されど我、愛するもののために戦わん」の中で次のように述べている。「大日本帝国が戦争を止めた日から、ぼく自身の戦争が始まった。一才四ヵ月の妹を、文字どおり骨と皮に痩せさせ、飢え死にさせた敵に対し、ぼくはまだ素直になれない」。この場合の敵とはもちろん戦争相手の敵国という意味ではなかろう。
     「火垂るの墓」は「アメリカひじき」と合わせ’68の直木賃を受賞しているが、この一作で十分に受賞しうる作品だと思う。
     

  • 日本の敗戦を感じる 火垂るの墓
    黒い福音(ドラマ見た方も楽しめる 黒い福音)に続き、
    日本は敗戦国なのだ、と感じさせる一冊。
    黒い福音よりもはるかに、戦争色が強い作品集でした。

    火垂るの墓は映画版を何度も見ていますが、まさにこの文章を
    そのままアニメーションにしたものだ、と冒頭びっくりしました。
    原作の野坂さんが試写を見て号泣されたというのがわかります。

    短い短編ではありますが、映像化するには、これくらいの短さで
    十分なんだな、と感じます。
    藪の中だったり、萩尾望都さんの作品とかも、ごく短い短編で
    深い物語が紡がれていますから。

    そして、野坂さんの作品を読むのが初めてなのですが、句点が
    極端に少ない、読点「、」でたたみかけるような文章。
    どうしても語りたい、語らないといけないという強い意思を
    感じるような文章です。

    最初はうわっと思ったのですが、読み進めているうちにこの文章の
    リズムに引き込まれている自分に気づきました。

    実際の体験を元に、パラレルストーリーがいくつも分岐して、
    様々な小説世界が作られている一冊です。
    薄いけど、読みごたえは十分でありました。

  • 野坂昭如の代表作でもある「火垂るの墓」「アメリカひじき」

    「火垂るの墓」はもはや宮崎駿の映画の方が親しまれていると思うけども、映画とはこと向きの異なった話となっている。映画「火垂るの墓」はあくまでも映画の「火垂るの墓」としてみた方がよいだろうと思う。

    「火垂るの墓」は戦争や社会に対する反省や悔恨ではなく、野坂昭如の自分自身の不甲斐なさに対するものなのだと言えると思う。そこが、映画と原作の大きく違うところだろう。(なので、いま発売されている文庫本のカバーイラストがアニメの一コマであることには少し違和感を感じてしまう)

    「アメリカひじき」は、日本人の白人に対する媚び諂いの精神、どうしても抜出ることのできない精神的な鎖。それは過去の敗戦の記憶からの呪縛だろうか、劣等感のリアリティが日本人や社会としてではなく、敗戦後を生き抜いた一人の男を通して表現されている。

    2作とも、文章は冗長のようで実は無駄のない独特の流れの中でストーリィが編まれている。

    ----------------
    【目次】
    1.火垂るの墓
    2.アメリカひじき
    3.焼土層
    4.死児を育てる
    5.ラ・クンパルシータ
    6.プアボーイ
    ----------------

  • 独特の文体、でも読みにくくはない。

  • 「火垂るの墓」
    ”戦争の悲惨”を兄妹の愛と対照的に描いている傑作。

  • 戦争の何が怖いのだろうか。
    子供が逃げられないところ?
    大人が建前だけの性格になるところ?
    そう、爆撃より恐ろしいのは人間の世間。

  • 「死児を育てる」ってお話。号泣しました。

  • この2編以外にもいくつか話が入っていたのだが、この2つに関して言うと、どちらも話の途中で「回想シーン」のようなものが入り、分かりづらかったのだがドラマチックになっていた。「ほたるの墓」は、映画そのままだった。「アメリカひじき」は・・・戦争を知る人たちは、今の日本をどう思っているんだろう、と思った。

  • 6つの短編集。ただただ飢えと暮らしの惨めさがリアルで、読んで暗い気分になります。多分これは誇張ではなく、現実に戦後の日本の至るところで起きていたはずなのだ。それからもう?まだ?72年。
    読点が少なく畳み掛けられるような文体が、あっという間の転落、流れるような時と行動の移り変わりに読者を連れていきます。

    ほたるの墓はアニメで観てトラウマだったけど、それでもこの本の他の短編と比べて、空襲、戦後の食糧難、必死に生きる人々を兄弟愛で「綺麗に」書いていたと知った。
    死児を育てる、ラ・クンパルシータの、家族の食べ物を盗み他人を蹴落としてもとにかく食べ物を口にしなければならない、口に入れたいと願ってしまう残酷さ。アメリカひじきの、戦後の日本の、卑屈さ惨めさ。
    飢えというのは道徳を超えた、非道いものだという印象しか受けない。糠団子、黒くドロドロした雑炊なんて食べたことないけれども。

  • ★3.5
    全6編が収録された短編集で、表題作は直木賞受賞作品。が、「アメリカひじき」は日本を貶めているかのようで好きになれず、「火垂るの墓」はあまりに淡々としているのが意外だった。勿論、痛ましい描写は多々あるものの、綴られる文章が同情を乞うものではなく淡白なせい。それは他の作品も一緒で、著者の体験が含まれているのにひたすらに客観的。ちなみに、全6編の中では「死児を育てる」「ラ・クンパルシータ」が特に印象に残った。前者は彼女が背負った罪の重さと戦争が続いているという現実、後者は当時の少年院の描写が興味深い。

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