- 本 ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101115016
感想・レビュー・書評
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あまりに美しく純粋な青年の孤独な愛の物語。
決して誰とも分かり合えない強い孤独。
友人に囲まれているときもそれは消えない。それどころか自分との違いを感じてより強まっていく。
愛が孤独を強くしていったようにも、孤独が愛を深く重くしていったようにも思う。
また戦時中という時代背景も、死が身近にある恐怖から孤独を強めていったのだろう。
青年はとても理知的だった。
考え抜く。貫き通す。揺るがない信念が青年を苦しめたようにも見えた。
自分の大事にしているもの。信仰もそうだ。生き方にも通じる譲れないもの。そういったものが違う相手と結ばれたとしても苦しい。
愛することは信じること。この一瞬を悔いなく生きること。青年の真っ直ぐな想いが心に残った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
汐見茂思、あまりにもピュアすぎ。私には読む資格ないのではないかと思いながら、最後まで読んだ。
「愛することは傷つけること」という汐見君の言ってる意味が初め分からなかったのだが、汐見君ほど相手のことを自分の理想と重ねて、その相手と一体でいたいと思われたら、そして「愛されないなら死んだほうがまし」とまで思われたら、そりゃあ、相手は重くて重くて、それに応えたら傷つくかもしれない。でも、この小説の中の登場人物は、こんな私のようにレベルの低い思考回路ではなく、みんな凄い理知的で研ぎ澄まされているのだ。
汐見君のように現実の怖さから目を背けないで悲しく生きるのと現実から目を背けて楽観的に生きるのとどちらが不幸なのだろう。
こんなレビューではこの本について何も分からないと思うけれど、あまりにも精神的すぎる内容で、書きにくい…。だけど汐見茂思のようなピュアな人をこの本の中だけでも残してもらえて良かった。
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地球っこさん
マイスキーさんのチェロは好きです。借りられたCDにもし、シューベルトの「アルペジョーネソナタ」も入ってたらいいですね、私がマ...地球っこさん
マイスキーさんのチェロは好きです。借りられたCDにもし、シューベルトの「アルペジョーネソナタ」も入ってたらいいですね、私がマイスキーさんのも含めて4種類もレビューに上げた曲です。2022/01/13 -
Macomi55さん
別のCDでありました!
明日は雪っぽいので図書館には行けなさそうなので、予約だけしたおきます。
楽しみっ♪Macomi55さん
別のCDでありました!
明日は雪っぽいので図書館には行けなさそうなので、予約だけしたおきます。
楽しみっ♪2022/01/13 -
2022/01/13
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福永武彦自身の体験がもとになった私小説の雰囲気漂う、著者の中では数少ない作品の一つである。主人公の汐見の純粋すぎるがゆえに、後輩の藤木やその妹の千枝子との恋愛感情をこじらせている様は、非常に胸が痛んだ。ひねくれた性格によってこじらせる場合もあるが、純粋すぎる性格によってこじらせる場合もあることをこの作品で認識することができた。
自分はここまでの純粋な気持ちを持っていないので、なぜここまで汐見が戦争や孤独、恋愛に対して深く考え、潔癖であろうとするのか、理解に苦しむ部分もあった。戦中の時代だからこその感情なのかもしれないが、当時の若者とは少し違う感性、考え方を持っているがために、自分を苦しめてしまっているのだろうか。そうなのではないかと思いながら読み進めていたため、自分も辛くなってしまう場面がいくつかあった。ここまでの長文を手記として綴った汐見の文章力には脱帽である。 -
汐見茂思はサナトリウムで見込みの少ない手術を望んでそのまま死んだ。
”私”は汐見と年が近く、彼から手記を残された。
汐見が生涯で愛したのは、高等学校で一学年下の藤木忍と、その妹の千枝子だった。
高等学校で汐見が藤木に望んだのは、魂が共鳴し合うような友情を願っていた。
しかし藤木は自分はその想いに値しないと答えるのだった。
藤木はその二年後に病を得て死んだ。
汐見は藤木の家に残された母と妹千枝子のもとを訪れる。
千枝子との恋愛は静かに進んでいた。汐見はそのつもりだった。
しかし汐見には独自の孤独があった。それは信仰でも埋められない孤独だった。藤木のような若者が突然死ぬ。自分の学友たちが次々に出兵する。戦争には嫌悪感があるが自分には止める力はない。戦争に対する恐怖は、生理的な死への恐怖と、自分が望まなくても人を殺さなければいけないことがあるかもしれないという慄れがある。
自分を強くするために汐見は孤独を深め、そして千枝子は汐見が見ているのは彼自身の理想であり、本来の自分ではないとの不安から汐見のもとを去る。
汐見は戦争から生きて帰ってきたが、胸の病でサナトリウムに入る。
死ぬまで抱えていた孤独は手記に残された。
多感な青春の時期を戦争の時代に過ごした汐見の想いは、自分の意思では変えられない時代である分、自分の精神を削って孤独の中に自分を確立させよとうとしていた。汐見は精神の底からの愛情を求めていたけれど、あまりに確立させていたため、周りの人間には精神的に近寄りがたくなってしまっていた。
「本当の友情というのは、相手の魂が深い谷底の泉のように、その人間の内部で眠っている、その泉を見つけ出してやることだ。それを汲み取ることだ。それは普通に、理解するという言葉の表すものとは全く別の、もっと神秘的な、魂の共鳴のようなものだ、僕はそれを藤木に求めているんだ、それが本当の友情だと思うんだ」(P114)
「僕は孤独な自分だけの信仰を持っていた。(…)自分が耐えたがたく孤独で、しかもこの孤独を棄ててまで神にすがることが僕にはできなかった。人間は弱いからしばしばつまずく。しかし僕は自分の責任においてつまずきたかったのだ。僕は神よりは自分の孤独を選んだのだ。外の暗きにいることの方が、むしろ人間的だと思った」(P229)
最初から最後まで福永武彦の文章描写がとにかく美しい。サナトリウムで見られる季節の変化、学生同士で交わす精神論、最後を締める千枝子の手紙の品の良さ。
真摯に生きた人たちを美しい日本語で表しています。
オリオンの星座が、その時、水に溶けたように、僕の目蓋から滴り落ちた。(P153)
藤木、君は僕を愛してはくれなかった。そして君の妹は、僕を愛してはくれなかった。僕は一人きりで死ぬだろう。(P295) -
すばらしい読書体験でした。 芸術家を志し、自分を靭(つよ)くすることに執着し、そして孤独を愛しすぎた男の、儚く切ない青春の物語。 藤木に対する、千枝子に対する盲目的な愛に、苛立ちすら感じてしまうのだが、目の前に情景が浮かんでくるような美しい文章が、主人公汐見の数奇な運命を救済しているような気がする。 しかし、なぜゆえに浮かばれぬ恋の顛末はこれほど人の心をうち震わせるのだろう
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情景が美しい。
美しすぎるからこそ、現世に遺す若者の悔恨の情が痛々しいほどに伝わる。
戦争、結核。
抗いえない運命に、神も信じられず人も信じられず、孤独なまま死ぬ男。
「神=愛」というものが存在するならば戦争は起こりえるのかという問いを忘れないようにしたい。 -
サナトリウムで望みのない手術を自ら受け、帰らぬ人となった汐見。彼は、同部屋で親しくしていた「私」に二冊のノオトを遺していた。
物語は、この二冊の手記が中心となっている。
一冊目、「第一の手帳」
汐見が十八歳の時に下級生の藤木を愛した過去が、H村での弓道部合宿をメインに描かれる。
汐見は忍をプラトニックな愛(友情)で激しく愛するのだが、忍はしだいに汐見から離れていく。そして悲しい結末が訪れます。
(私はこの一部を中学の現国問題集で読み、腐女子だったので「はっ!ボーイズラブが!」と短絡的思考でテンションを上げて、その日に本屋に寄って購入しました。この出来事をきっかけに小説を好んで読むようになったのだから、私の読書体験の原点といえる作品ですねw)
第一の手帳の時系列として、中盤すぎたあたりで悲しい結末が描かれた後に、過去に戻って忍との幸福な触れ合いや、叶わないけれど爽やかな読後感があり、胸を打たれるわけです。
で、その何ともいえない余韻をひきずったまま「第二の手帳」へ。
こちらは、藤木の妹である千枝子を愛した手記となりますが、そこには男女の恋愛にとどまらず、キリスト教や戦争・徴兵という、いわば人生、生き方が問われる展開となっていきます。
この辺は中学の時に読んでもピンと来ませんでしたが、さすがに歳くった今読むと、わかりみが深いですね。
そして二冊のノオトを読み終えた「私」は千枝子に連絡をとります。
最後の千枝子の手紙に泣きました。
全体を通して、とにかく美しい文章。ショパンの旋律のように甘い。音楽のように流れてくる文章で、哲学的な考えが随所にありますが小難しくなく、するする読める。そして、藤木の瞳が澄んだ美しさを持っていたように、冬空に浮かぶ星のような、雪解けの水が小川を流れるような、心が洗われる美しさに溺れます。それを「私」の語りである冒頭とラストの「冬」「春」でのサナトリウム(死の象徴)での厳しい出来事ではさんでいて、喪われた人、喪われた記憶、といった喪失感を際立たせています。
名作!
『藤木の眼、ーーいつも僕の心を捉えて離さなかったのは、この黒い両つの眼だ。あまりに澄み切って、冷たい水晶のように耀く、それがいつも僕の全身を一息に貫くのだ。そして僕はその度に、僕の心が死んで行くように感じ、そしてまたより美しくなって甦るように感じる』
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心理描写が秀逸で、複雑な心のすれ違いもすんなり読み進められた。バイセクシャルの主人公というのは現代でも珍しいと思うが、当時はもっとインパクトがあったと思う。
著者プロフィール
福永武彦の作品





