忘却の河 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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本棚登録 : 604
感想 : 57
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101115023

感想・レビュー・書評

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  • あまりにも好きすぎて、読んでいる途中は一生読み終わらなければいいと思った。そのくらい小説世界に没頭し、心酔した。そんな小説。
    福永武彦本人の人生観であるか、はたまた完璧なフィクションであるかは分かりませんが、全ての登場人物が抱えるそれぞれの孤独に共感する。愛の挫折ゆえに魂が死んでしまった人間が苦しむ様子はまるで作者自身の人生がそうであったかのように思わせる何かがあって、怖くなった。
    お涙頂戴でも何でもないのに、涙がこぼれる。こんな読書体験、はじめて。ありがとう。

  • 家族ってなんだろうという疑問を個々の魂のありかた、ゆくえから見つめている作品。

     といって、難しい言葉が並べてあるのではなく、日常の生活を描き積み重ねてあるのですっとはいってくるのだ。

     父親と母親と二人の年頃の娘、時代は昭和30年代なかば 生活は上等の部類。

     なに悩むことあろうと思うのだが、父はなぜだか心ここにあらず(これが物語の芯)、母は不治の病、長女は母の看病で家にしばられ鬱屈したよう、妹はひとり楽しげな大学生生活を送っているようで家族てんでばらばら。

     現代の複雑なストレスのたまる家族たちと変わりないではないか。だから古いものがたりだけれど今読める。

     ちなみにわたしの娘時代と一致するが、わたし及び家族がこんなにも悩まなかったので、当時に読んでもきっとシンクロしなかったと思うのは、しあわせだったのか、おきらくだったのか。それなりにいろいろあったような気がするんだけれど、もう忘れたほど単純だった。
     
     「現代のストレスのたまる家族たち」と書いたけれど、ほんとこのごろはくたびれることが多い。 「愛」などと意識しなくてもよかった時代がなつかしい。

     どうしてこうなっちゃったんだろと今の自分の身にふりかえて考えさせられ、読ませられた。と、こう身につまされる、しかし構成がすばらしい、薫りたつ文芸作品だった。

    • 淳水堂さん
      ばあチャルさんこんにちは。

      「忘却の河」は私にとっては構成も文章も完璧な日本文学だと思ってます。
      互いにすれ違い分かり合えなくても、...
      ばあチャルさんこんにちは。

      「忘却の河」は私にとっては構成も文章も完璧な日本文学だと思ってます。
      互いにすれ違い分かり合えなくても、それでもふと気が付くこともあって、そして家族は続くんだなあと。
      素晴らしい小説を読めたーとただただ満足。素晴らしいですよね。
      2021/08/22
  • 草の花から続けて読んだ、福永武彦作品。
    藤代家の主人である「私」の独白に物語は始まり、語り口は彼の家族へ移りながら、ゆっくりと進行してゆく。
    愛するということと、愛されていると感じること、其々に家族は苦悩を抱いており、日常と過去がシームレスに展開する中で、いつでも彼らは自分の心を探している。
    福永武彦の巧みで独特のテンポ持つ文章はとても心地良く、酔いしれながらも読み進めてゆくと、作品を通して深い意識の中に潜っていってしまうような感覚があった。
    綿密に練られた全七章からなるその構成は、これ以上無いくらいに読み易く、読後はとても爽やかな気分になれる。無人島に一冊もっていくなら、僕は迷わずこの一冊を選ぶ。現時点で、今まで読んだ本の中での最高傑作。

  • 几帳面で端正なたたずまいで、神経質で理屈っぽくて、あきらめているつもりなのに、絶望にしがみついているのに、譲れない希望も持ちあわせていて。そんな甘ったるさがとても福永武彦らしい小説でした。
    小説、とは、ストーリーだけ、構成だけ、設定だけ、描写だけ…では成立しない。物語性も構成も設定も描写も…他のどんな要素も捨てることなく、かつ、哲学が存在する。作者の持つ哲学が小説に息を吹き込み、そのとき物語に命が宿るのだろう、そう思う。
    「忘却の河」は紛れもなくそんな生きた小説だ。

    福永武彦、好きだなぁ…と今回も思い知らされました。
    感傷的なのに、論理的。人の罪は誰が赦すのだろう、どう赦されるのだろう。日本という風土で罪に相対して、導かれる答え。
    鋭利な切っ先で深く斬りこんでくる物語に、BAD ENDも覚悟していた私は、優しい空気に包まれたラストでやっと詰めていた息をほどきました。
    優しい読後感を感じながら、でもこの物語の重いテーマから解放されたのではないと知りながら。

    福永武彦は好きすぎてうまく読後感も表現できないですが…。
    個人的に、呉さんとゆきさんのロマンスに泣きましたが、次女からそのロマンスの存在を伝えられたときの父親の安堵にちょっとほっとしました。

  • 静かで端正な文章が美しい。父親の、現代と過去の交錯する描写が秀逸です。意外にもハッピーエンド……(と私は思った)。一章の冒頭に引用されたギリシャ神話辞典の言葉「レーテー」の説明文から引き込まれる。あと、福永武彦と池澤夏樹って親子だったんだ……。

  • 「ふるさと」について考えさせられる本でした。ふるさとはもちろん自分が生まれたところだけど、人によっては人生の深い後悔を置いてきた場所でもある。

    母に勧められたこの本、とても良かったです。

  • 初めて福永武彦を読んだ。
    この時代ならではの奥ゆかしい日本の家族が描かれていて美しい。

    中年の男、その長女と次女、そして病気で寝込んでいる妻の視点で章が展開される。

    中年の男が終盤の長女に対して言う台詞が好き。

    「私たちはそういうふうに躾られてきたのだ。それに私は自分の感情を殺すことも覚えていた。それでもどうにもならない時がある。心の中が溢れて来て抑えることの出来ない時がある。私にしたってお前が可愛くないわけではなかった。そういう時に私はこっそりお前のそばへ行って、小さな声でこの子守唄を歌ったものだ」【332頁】

  • 「草の花」よりもこちらの方が好き。この文体は本当に懐かしい。最近はこういう古い文体の作品が失われてしまった。登場人物がみな苦悩、悩み、孤独、暗い過去を抱え、どこにも出口が無く哀しい気持ちになるが、それまでバラバラだった歯車がぴたりとはまって回りだすように、最後に心温まる結末で結ばれる。読了後の幸せな気分と言ったら。登場人物同士の会話に「 」をつけないので読みづらいという声もあるようだが、その技法がまた想像力を刺激し、読者をより深く物語へ入り込ませる。共感できる部分が多々。著者の人間に対する優しい眼差しを感じるこの作品に出合えてよかった。おすすめして下さった方に多謝。

  • 再読。例えば生と死、愛と憎しみ、過去と現在、罪と贖い‥とかアンビバレントで最もらしい御託を並べて感想を述べるのは簡単だが、そんな簡単なものであるはずは絶対にないので言葉に詰まる。章ごとに人称が変わり視点が動く構成の力にぐいぐい引き付けられながら、流れの中に自分も忘却の彼方に蓄積された澱みを思い起こさずにいられなかった。池澤夏樹の言葉を借りよう。〈魂としての人間〉。全ての外皮を削ぎ落とした剥き出しの魂にだって穢れは残る。救いがあるのかどうか私にはわからない。それでも生まれてきてしまった。全うするしかない。

  • ストーリーだけの小説なんて読み返したくなるわけないですが、 この本は、人生であと4回は読み返したくなるでしょう。 思想がいい。哲学がいい。表現がいい。切り込み方がいい。

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著者プロフィール

1918-79。福岡県生まれ。54年、長編『草の花』により作家としての地位を確立。『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、『死の鳥』で日本文学大賞を受賞。著書に『風土』『冥府』『廃市』『海市』他多数。

「2015年 『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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