おとうと (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 845
レビュー : 109
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101116037

作品紹介・あらすじ

高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは三つ違いの弟に、母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおくるようになり、結核にかかってしまう。事実をふまえて、不良少年とよばれ若くして亡くなった弟への深い愛惜の情をこめた看病と終焉の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 平松洋子さんが幸田文のことを書かれていた。それで家事や着物について書かれたエッセイを手にしてみたのだが、歯が立たなかった。少し古い言葉が判らなかったのか、僕はこういう凛とした文が駄目なのか、敗北感が残った。

    立ち寄った本屋で見つけた本書。
    何事も蔑ろにしない文章。冒頭の向島の大川の土手の風景。風の感触、姉の自分の感情、弟の心情を慮る内容にすっと引き込まれる。
    作家の父、継母、長女の自分、弟の碧郎の物語。継母の立場や言い分も理解しつつ、納得できない自分の心根を語る。弟や父に対しても、同様。

    不良の仲間に引き入られたり、玉突きやボート等に遊び惚ける弟。何者にもなりたくない人間だったんだろう。平凡や平和がうっすらと哀しくてやりきれないという。そして姉のげんは自分にも通じるものがあると理解する。

    文さんは露伴から厳しく家事全般を仕込まれたと聞いていたが、本書の父はそんな厳格さはない。弟が遊ぶ金をこっそり渡しているし、学問をするでなし仕事に就くでないフーテンを許している。碧郎の発病でも医者の元に自分は足を運べない。子供に対する愛情が感情がカラ滑りしているよう。足が地に着かない息子の気持ちが判るし、しっかり者の長女に頼ってしまうのも納得してしまった。

    強くグイグイと押してくる文章だった。するするっとは読めなかったが、名文家だと思う。
    読み切れなかったエッセイや露伴の本も挑戦しようかな。

  • 姉と名のつくものは共感して止まない話ではないだろうか。しかも、ちょっと生きるのが下手な弟を持つ身には特に。冒頭の、雨の中傘をささずにぐんぐん歩いて行ってしまう弟の描写からもう引き込まれていった。
    ゲンが碧郎を思うときの、可哀想と可愛いが絡み合って、胸がぐっとつまる感じ。いたたまれない。
    可哀想に思ってしまうことをどうにかしたくて、母にも父にも友達にもなってやりたいと頑張ってしまう。姉にしかなれないことに結局は気づくのだけれど…。ゲンはよく頑張っていた。懸命な姿にもぐっと来てしまった。
    碧郎のした丘の話が印象的だった。身に染みついてしまったうっすらとした哀しみを、拭わないまま死んでしまうことを思うとたまらない気持ちになる。

    • komoroさん
      姉としての悩みや苦しみがレビューを読んで伝わってきました。
      一生懸命頑張ってきたんだろうな。
      感動したレビューでした。
      姉としての悩みや苦しみがレビューを読んで伝わってきました。
      一生懸命頑張ってきたんだろうな。
      感動したレビューでした。
      2016/04/24
    • 9nanokaさん
      ありがとうございます(汗
      うちは仲良し兄弟じゃなかったんですが笑、弟のことは常々不憫だなと思ってました。
      komoroさんは弟のことを不...
      ありがとうございます(汗
      うちは仲良し兄弟じゃなかったんですが笑、弟のことは常々不憫だなと思ってました。
      komoroさんは弟のことを不憫だと思ってましたか?
      2016/04/25
    • komoroさん
      僕は弟を不憫だと思った事もありませんし小さい頃は弟をいじめたけれど大人になったらとても仲良くできてます。
      兄と弟、姉と弟といった関係もある...
      僕は弟を不憫だと思った事もありませんし小さい頃は弟をいじめたけれど大人になったらとても仲良くできてます。
      兄と弟、姉と弟といった関係もあるのではないでしょうか。
      きっと弟さんはお姉さんに感謝していますよ。
      2016/04/27
  • 文さんの文筆デビューは43歳と比較的遅い。
    おそらく当時の読者は文さんに、父・露伴を描いた作品を過度に期待したはず。彼女も当初は随筆で、亡父の面影を公けにしていたが、この小説で“満を持して”自分の家族について世に出した観がある。しかし、世間の期待をわざと少しはぐらかすかのように、主人公は父ではなく、弟である。

    この作品で「姉」は、女学生としての弱い姿のみでなく、病気がちで精神的にも不安定な継母に代わり、炊事などの家事をこなし、家族の生活を守る強い姿も描かれている。実際にも、文さんは他人よりも多くの苦労を、持ち前の気丈さで乗り切ったのだろう。だからなのか(意識的か無意識的か)時間を経るうちに心のフィルターで自分の少女時代を“純化”し、過去から守っているように思える。

    例えば、弟が中学校で、ちょっとしたアクシデントで同級生にけがを負わせてしまう。弟は故意ではないと主張したが、周りは弟がわざとやったと思い込み、弟は孤立する。姉は、元々明るく屈託のなかった弟を信じるが、弟自身には、姉の純化された記憶とはまったく違った心の動きがあったはず。

    確かに純化した自分自身と、自分を軸とした家族との位置関係はよく描けている。だが弟の心理描写は「女性視点」から見た男子の姿、すなわち文さんの心に映った“鏡像”の描写にとどまり、弟の精神的成長の動機を含んだ描写に、今ひとつ踏み込めていないのでは、と感じた。
    男子の思春期にみられる精神的成長は、女性が想像できない複雑な過程をたどるもの。それがこの作品では「姉から視点」が勝ちすぎていて、不十分に感じる。私は男だから、そういう偏った女性視点に対しては、厳しい言い方をしてしまう。

    「三つ違いの姉になど母親の愛はもてないものだ、と言われたのを痛く想いかえす。」のような、弟に対する自分自身の心象表現は、すごく光ってるのに…

    だから、家族の絆が描かれた“仲良し”小説が好きならば本作品は気に入るだろう。でもドストエフスキーのような、一般的な家族像を超越した人間存在そのものを深く描く小説が好きならば、ちょっと食い足りないかもしれない。
    (2010/6/9)

  •  ちょっとした部分に垣間見える、昭和初期の暮らしぶりや当時の社会常識等興味深いし、品よく締まりの効いた文章も素晴らしい。けれど何よりもここに書かれた愛に不器用な家族の有り様に、姉弟の絆に、殊に主人公・げんの弟によせる母にも似た愛情に胸を掴まれてしまう。
     些細なことから道を踏み外し、結核で苦しむ弟を懸命に看病する―こう書くと陳腐だが、主人公と同じく弟を持つ姉としては身に覚えのある感情が多く、どうしても我が身に引き寄せて読んでしまった。

  • 不仲な両親の間で、少しずつ親離れしていく思春期の弟と弟を見守る強い姉を描いた作品です。
    人が変わる伸びしろ、芯のところはぐっと固いけれど、周りの殻がうにょっと伸びるのはこんななのかと思わされる小説です。
    詳しくは http://d.hatena.ne.jp/ha3kaijohon/20120301/1330582595

  • 冒頭の文章がすごくきれいで
    一気に引き込まれた.
    著者の実体験を基にした内容だが,
    いろいろな描写がリアルで当時の生活を
    感じることができた.

    最後に弟は結核で亡くなってしまうが
    最後まであたたかい目で弟を看病し続け―自分も感染するかもしれないのに

    ただの兄弟愛ではないと思った.

  • 文章に人間味が表れていました。
    言葉には出なくても絶えず自分の中に流れてる感情が
    不足なく表されていた。

    弟想いで、いい姉です、げんは。

    家庭内不和とグレる弟がとーてーもー身近でいろいろ思わずにはいられませんでした(^q^)
    でもまだ碧朗はげんに対して素直な一面を見せる。
    それすら羨ましい。
    死んだような眼をしている弟が悲しいのです。
    かわいそうな私の弟。

    愛情って大切。

  • うーん…姉から弟を見る心情には少し共感したけど いかんせん時代背景が違いすぎて。

  • 家庭内のそれぞれの立場からの描写が絶妙。
    心理的に揺れ動くところが、共感できた。

  • 「観たら読む。」運動の一貫として敢行。

    全ては映画での最終シーンの意図を探りたかったが故に読み進めたと言っても過言ではない。実際のところは「読み進めることができた」とでも言い直すべきか、読了まで予想以上に時間がかかった。そのなかなか読み進められない自分を感じているときは「細雪」を読んでいた時の感覚を思い起こされたため、おそらくは女性の頭のなかで起こる様々な葛藤がつらつらと書かれている文章をみた時に自分は同じようなアレルギー反応を示すらしいということがなんとなく分かってきた。もう少しサンプルは必要ではあるが…。

    で、結論から言うと映画の最終シーンは原作には忠実であったがもう少し「溜め」が欲しかった。昔の邦画はエンドロールがないことが多いので余計にそうなのかもしれないけれど、音楽と映像でもってあと数分、いやあと数十秒引っ張ってくれていれば観ている者にも彼女の心中を察するだけの時間があったかと。まぁ、自分が人の心中を察するに鈍感な側の人間であるということが証明されただけなのかもしれないが。

    今後自分は「流れる」までたどり着くのだろうか?

    またの鑑賞機会があったら盛り上がるかも。

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著者プロフィール

幸田 文(1904・9・1~1990・10・31) 小説家・随筆家。東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。1928年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚。幸田家に戻り、父の傍らにあって家を守り、父の最期を看取る。47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。その清新な文体が好評を博し、随筆家として出発。56年『黒い裾』で読売文学賞、57年『流れる』で芸術院賞等を受賞し、小説家としても文壇的地位を得た。70年頃から、奈良法輪寺三重塔の再建のために奔走した。著書は他に『おとうと』『闘』『崩れ』『木』『台所のおと』『きもの』等多数。『幸田文全集 全23巻別巻1』(岩波書店刊)がある。

「2013年 『北愁』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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