木 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2022年3月3日発売)
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本 ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784101116129

作品紹介・あらすじ

樹木を愛でるは心の養い、何よりの財産。父露伴のそんな思いから著者は樹木を感じる大人へと成長した。その木の来し方、行く末に思いを馳せる著者の透徹した眼は、木々の存在の向こうに、人間の業や生死の淵源まで見通す。倒木に着床発芽するえぞ松の倒木更新、娘に買ってやらなかった鉢植えの藤、様相を一変させる縄紋杉の風格……。北は北海道、南は屋久島まで、生命の手触りを写す名随筆。

感想・レビュー・書評

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  • 帯ではなくカバー自体に「アカデミー賞国際長編映画賞部門ノミネート『PERFECT DAYS』で話題の一冊!」と印刷されていた。実際、それだけでこの2年間に6刷もしているので効果あるのだろう。もちろん、わたしもそれで買った。映画の方は、このままいけば今年のマイNo. 1になる。本書は、未だ物語が動き出す前に映画の主人公が寝る前に少しづつ読んでいた本である。つまり、主人公平山さんの信条そのものを現していた本でもあったというべきだろう。

    そういう風に読んでみると、幸田文の木々に対する思い出や、態度は、まさにPERFECT DAYSそのものだったような気がする。

    いっとき、わたしは野の花に凝ったことがある。県北の瀑布への小径を毎夏通い、「あゝ今年も此処にこの花が咲いている」と確認することを繰り返した。花はひと夏で萎むけど、植物そのものは上手くいけば永遠に近い生命を生きるのだと実感した。「そう思う自分に酔っているのだ」と友だちに批評された通りに、暫く続け、尾瀬に行って雨で酷い目に遭って夢から醒めたようにその趣味は消えた。

    映画の平山さんは、ほぼ毎日、ほぼ同じ公園の同じ木の「木漏れ日」の写真を撮り続けて、おそらく数年は経っていて飽きる様子がない。幸田文さんも、えぞ松の更新に生死輪廻を感じ、3代に渡る木花の生育に想いを馳せ、檜に履歴書を見、七千歳の縄文杉の過酷な一生を想う。ほぼ一生をかけて、木々の「秘密」を追っていた。平山さんも、幸田文さんも、木への愛情は、わたしのような一朝一夕のものではなく、本物である。だからこそ見えてくるものがある。

    倒木の上にえぞ松は芽を出す。そうすると真一文字にえぞ松は「更新」する。時間にして250年か300年か。「森はゆっくり巡るのだろうか、人があまりにも短命なのだろうか。」

    時々出逢うことのある何百年という大樹に向かい、わたしはいつか聴いておこうと思う。わたしはここまで生きて来て大丈夫だったんだろうか?と。


    • 土瓶さん
      大丈夫です。そしてこれからも!!( `ー´)ノダンゲンシマス!




      (*´▽`*)タイジュデモナンデモアリマセンガ
      大丈夫です。そしてこれからも!!( `ー´)ノダンゲンシマス!




      (*´▽`*)タイジュデモナンデモアリマセンガ
      2024/08/21
    • kuma0504さん
      土瓶さん、
      断言されました(。•ㅅ•。)アリガト♡
      この前、
      寝入りバナに、なんか
      「大丈夫だよ」
      と降ってきたんです。
      ほとんど覚えてな...
      土瓶さん、
      断言されました(。•ㅅ•。)アリガト♡
      この前、
      寝入りバナに、なんか
      「大丈夫だよ」
      と降ってきたんです。
      ほとんど覚えてないんですが、
      なんか、神様じゃなくて
      「人類として」みたいな感じだったようなんで
      大樹に聴いてみようかな、ʅ(。◔‸◔。)ʃ
      なんて思いました(^ ^;)。
      2024/08/21
  •  ひと月ほど前、映画『PERFECT DAYS』を観ました。とてもいい映画でした。役所広司さん演じる平山は、毎日フィルムカメラで木々がつくる"木洩れ陽"を撮り続けます。その一瞬は二度と同じではないと‥。そして平山が読んでいた本が本書でした。

     この映画に触発され本書を手にしました。幸田文さん(幸田露伴次女、1990年没)の15篇の随筆集で、92年に単行本が刊行された遺著のようです。ただ、それぞれの初出は1971〜1984と、古いものは半世紀も前の文章ということになります。

     草木に心を寄せるのは、心が潤み、感情が動き余韻が残るからと、幸田文さんは記しています。
     漠然とではなく、五感を使って木を観て綴られた飾らない文章‥。古さや味気ない印象はまるでなく、むしろ瑞々しさ、自然の奥深さまで見えるように伝わります。樹齢の時間軸からすれば、50年前(の文章)は、"ついさっき"くらいなのでしょうか‥。
     倒木更新を始め、引用したい部分が多々あるのは、名随筆たる所以かもしれません。木へ真摯に向き合い、人生を重ね寄り添い描かれた世界は、樹齢千年以上の杉だけの呼名「屋久杉」のように、決して廃れないでしょう。

     そこに立っている木の周辺環境・状況にまで思いを巡らせ、木の物語を読み取る幸田文さん。その眼差しは、『PERFECT DAYS』の主人公・平山の、喜びと哀しみに重なるものがありました。繰り返し読みたいと思える一冊でした。

    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      原作本ではありませんが、セットで「観て読んで」を
      したくなります。渋さに憧れる私‥‥(笑)
      原作本ではありませんが、セットで「観て読んで」を
      したくなります。渋さに憧れる私‥‥(笑)
      2024/03/18
    • kuma0504さん
      「PERFECT DAYS」は、今年20作ほど観ましたが、とりあえず暫定一位です。この本は気になっていました。いつか手に取ると思います。
      「PERFECT DAYS」は、今年20作ほど観ましたが、とりあえず暫定一位です。この本は気になっていました。いつか手に取ると思います。
      2024/03/22
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      読み継がれ、語り継がれるべき好書と思います
      読み継がれ、語り継がれるべき好書と思います
      2024/03/22
  • 初読みの幸田文さん、文章が始終綺麗でテンポが良く、良い文章とはこういうののことをいうのだな。
    面白いかというと、私にとってはそうではなかった。あまり興味が湧かず、読むのに骨が折れた。

    全体を読んで感じたのが、作者の共感性の強さ。人よりも圧倒的に木が登場するのだが、人にも木にも、たちまち深く共感して、お節介という言葉が適切かはわからないけれど、その境地まで達する。その温かく何事にも突っ込んでいく作者の様子に温かさを感じ、ほっとさせらた。

    解説は、佐伯一麦さん。とても読み応えがあった。

    解説の中で、サマセット・モームの『要約すると』が引用されていた。
    「良い文章と言うものは、育ちの良い人の座談似ているべきだと言われている」

    はー、確かに。同時に読んでいた谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」も、この本も、正しくその通り。高貴な人が目の前で長々と話しているかのような印象を受ける。そして品が良い。
    変にこねくり回した表現は使わないけれど、
    (私にとっては)あまり聞き慣れないぴったりと当てはまる言葉も時には使いながら、
    それでも主張がわかりやすくさっぱりしている。

    特に好きだったのが、父親と藤の花を見に行った所。情景や、お二方の心待ちまでもが、空気や匂いまでも伴って伝わってくるようで、愛しい箇所だった。

    また、作者の、「何事も、1年めぐらないと確かではない。せめて四季4回は見ておかないと話にならない」という態度が印象的だった。


    心に残る文の数々

    ◯夏の檜は見るからに、その生きる騒音を、幹の中に内蔵していることが明らかだった。しかも、体内の音ばかりでなく、もっと伸びる、もっと太る、といった意思のようなものまでを示していた。こんな姿を秋の檜からは、どう想像できよう。 36

    ◯細根は、木という仕組みの末端だが、仕組みの末端が負っているその努力、その強さ。人に踏まれ、赤むけになって、黙って濡れている投網型の根を見ていると、木は一生、住居をかえない、ということへ思いがつながる。生まれたところで、死ぬまで生き続けようと、一番強く観念しているのは根に違いない。62

    ◯やはり1つの道を貫いてきた人の目はさわやかであり、目が確かだから、杉がどれほど大きかろうと、見たものはきちんと心に納められ、心に納まりがあるから、言葉も自然にいい言葉が出てくることになる。71

    ◯親切が染み込んでくる時、こちらは一つ覚えにおぼえ、以後ずっとそれを力にする。一歩先に立って歩きながら、淡々とそう教えてくれた山の人の、首から肩へかけてのむっくりと、頑丈な姿を忘れないのである。76

    ◯老樹と、中年壮年期の木と、青年少年の木と、そして幼い木と、すべての階層がこの林では揃って元気なのです。将来の希望を託せる、こういう林が私たちには1番、いい気持ちに眺められる林なんです。

    最後、「ポプラは名残を惜しみにきた私へ、なんと愉快な踊りを贈ってくれたことか。」というところ、涙が出そうでした。

  • 薄い本からは想像出来ないほどの清々しさがあった。
    幸田文の「木」をタイトルとした15のエッセイだ。
    著者の「おとうと」を読み終わり、積読しているこの本を引っ張り出してきた。幸田文のワールドにどっぷり浸かって、なんていい文章を書くんだろうと心地よさでいっぱいだ。

    木についてのエッセイは長年コツコツと積み重ねた様子がある。文量は少ないがどの作品もしっかりと主張があるし学びが多い。

    解説は佐伯一麦、こちらもこの本と著者について語ってくださる。解説から読んで欲しい…そんな一冊でもある。

  • 幸田文(あや)の15篇からなる随筆集。父は露伴。

    樹木に逢って感動したいとの思いから、1971年1月『えぞ松の更新』から、1984年6月『ポプラ』まで、13年半にわたり、北は北海道から南は屋久島まで、実際に見に行って木と触れ合った感想が書かれています。

    木は動かないが故に、漠然とただそこに「ある」という感情を抱きがちですが、筆者はそれを「いる」という感情で接している。そのあたりが、木を見に行った先々で会う、木を木材として利用している人たちとの考え方の違いとなっていて、読んでいて興味深かったです(どちらが正しいとか間違っているということではないです)。

    内容は、どの随筆も学びが多かったですが、特にハッとしたのが『松 楠 杉』の中で、著者の「野中の一本立の大木は素敵」の発言に対し、植物のことを教えてくれる先生の「すてきと思うのは勝手だが、なぜ一本なのか、そこを少し考えてみなくてはネ」とたしなめられたところ。気付きって大事だなと思いました。

    あと、登場する職人さんたちは、木材として利用して生計をたてているので、木をどう有効に利用するかを考えています。真っ直ぐで木目にクセがない利用価値の高い木は切られ、曲がって節くれだらけの木は切られずに長生きする…視点の違いですが、なんだか老荘思想を思い出させますね。

    老子「曲(きょく)なれば即(すなわ)ち全(まった)し、枉(ま)がれば則ち直(なお)し、窪(くぼ)めば即ち盈(み)つ」
    荘子「直木(ちょくぼく)は先(ま)ず伐(き)られ、甘水(かんせい)は先ず竭(つ)く」

  • 巨木を見るのが好きなので、題名に興味を持って読みました。でも何だか文章がくどくどしく感じ、なかなか読み進めず、私とは相性が合わなかったようです。(天下の幸田さんに超失礼:ペロ)
    桜の老木について書かれた「この春の花」。老桜の木一代の中には祖父から親、子、孫…(根本から枝、葉先を表現)が入り混じって生きている、という描写が印象に残りました。

    • Hannaさん
      最初の感想は半ば眠りながら書いてたので、ちょっとだけ直しました。誰も見てないと思うけど、自分が恥ずかしかったので…
      最初の感想にいいねを下さ...
      最初の感想は半ば眠りながら書いてたので、ちょっとだけ直しました。誰も見てないと思うけど、自分が恥ずかしかったので…
      最初の感想にいいねを下さった天使の皆様、ありがとうございます(*´꒳`*)
      2024/06/25
  •  作者が折に触れて書いてきた木に対しての15の随筆を死後にまとめたエッセイ集。
     作者の深い洞察、素直な視点、少しのユーモアが混じっており、1編1編がとても読み応えのあるものとなっていた。
     「木のきもの」という着物の知識が問われる章もあるにはあったが、基本的には知識がなくても読んでいて楽しめる内容となっており、ストレスなく読めた。
     個人的には「ひのき」の章が好きだった。木の歴史というものに触れ人の性格と似た部分があることを匂わせながら、大工からするとどうしようもないアテという材木の頑固者への作者の思いやりのある視点やそれでもヒノキであることを否応なく思い知らされるハードボイルドさが、神妙な心持ちにさせる読後感を残していた。

  • この本は、映画Perfect days で登場した本と知って読んだ本です。役所さんが仕事の合間に、いつもの木の前で眺める姿、印象的でした。
    そして、その姿に自分を重ね合わせていました。
    何故、こんなに木に惹かれるのか?
    この頃の自分は木をみることが、喜びというか、見ずにはいられない。帰れない。
    わざわざ遠回りをして森のような公園に寄り、勝手に自分のなかで木と対話をして帰る。
    なので、この幸田文さんの文を読んで、木に惹かれるにもいろんな背景があるのだということ。
    木と向き合うということには、いろんな形があり、時期があり、出会いがあり、この先の経験も無限大だなと楽しみになりました。

  • 映画『PERFECT DAYS』で
    主人公が読んでいた文庫本です。
    就寝前に少しずつ。
    たしかにそんな読み方が似合う。

     人にそれぞれの履歴書があるように、
     木にもそれがある。
     (P43)

    と考えて、林の木々を見に行ったり
    木を木材にする現場を見せてもらったり。
    木材にした後も「木は生きている」
    木造の建物が落ち着くのは
    それも関係しているかもしれませんね。

  • 筆者が実際に日本各地に出向いての樹々に対する
    情感が描かれていて実際に自分も目にしてみたい
    気持ちになりました。

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著者プロフィール

1904年東京向島生まれ。文豪幸田露伴の次女。女子学院卒。’28年結婚。10年間の結婚生活の後、娘玉を連れて離婚、幸田家に戻る。’47年父との思い出の記「雑記」「終焉」「葬送の記」を執筆。’56年『黒い裾』で読売文学賞、’57年『流れる』で日本藝術院賞、新潮社文学賞を受賞。他の作品に『おとうと』『闘』(女流文学賞)、没後刊行された『崩れ』『木』『台所のおと』(本書)『きもの』『季節のかたみ』等多数。1990年、86歳で逝去。


「2021年 『台所のおと 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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