戦艦武蔵 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.94
  • (106)
  • (190)
  • (107)
  • (10)
  • (1)
本棚登録 : 1355
感想 : 153
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117010

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 巨大戦艦時代が終焉をむかえる中、最後の巨大戦艦になるのかな。
    宝の持ち腐れみたいに、機密にしていた戦艦やけど、いざ、使う時には、もう負け戦確定的…
    何か、悲しさ満点やな。

    こんな巨大なもの作るのには、その機材を運ぶのも大変で、巨砲運ぶ為に、運ぶ船作らなあかんとか…
    巨大戦艦建設の最大の難関は、進水なんか…

    武蔵の建造から、沈むまでの話やけど、ほとんどは、戦いまでの話が中心。

    実際に、もう時代は、戦闘機中心の時代に移行して、不沈艦と歌われた武蔵建造の帝国海軍の夢と野心は…
    何か、神話が一人歩きしてる感じ。

    その神話が崩れた時、武蔵本体の運命は知らんけど、乗組員の運命が悲惨…

    神話という夢は、いつか醒めるのに…
    夢のままなんかムリやのに…

    じっくりと真実を見て、
    じっくりと考えて、
    早急に対処する。

    戦時の異常心理か知らんけど、ちゃんとして〜

  • 巨大戦艦「武蔵」の建設計画から、進水、戦歴、沈没に至るまでの7年間を描いた歴史文学。著者の吉村昭は、軍人や乗船兵でもなければ、造船会社の関係者でもなく、戦時中は少年だった。ある意味「第3者」という立場からフラットな目線で、「戦争に突き進み、敗色濃厚でも戦争を続けてしまう」当時の日本社会に迫ろうとしている。
    膨大な人命と物資、金銭と時間を浪費するだけなのに、なぜこのような非合理的な「愚行」が国としてまかり通り、社会に根強く残ってしまうのか。筆者は強い疑問を持っていたのだろう。

    実は、本書はページ数の過半数が、武蔵が建造される期間に割かれている。さすがに戦場、特にレイテ海戦における沈没までの正確な記録は残っていなかったのだろう。ただし、一般人(作業員や長崎市民)という視点から見た「武蔵」に対するイメージは緻密な取材に基づいており、大変興味深い。

    ・何を作るのか知らされないまま、造船所での過酷な強制労働に携わる作業員
    ・造船所がある港を見ることすら許されない長崎市民
    ・漁業で使う材料が一斉に無くなり、狼狽する漁師
    ・愛着を持って建造した戦艦を海軍に引き渡した直後、あっけなく退去命令をくらう造船会社の幹部

    今の時代も、建設現場などでは「国を代表する大プロジェクト」に携わることに対して、技術者や作業員の間でプライドや連帯感は存在する。
    身近なところでは、ワールドカップでの熱狂だって似ていると思う。
    人々の間で「神話」を夢見る気持ちの高ぶりが、現実から離れて非合理的な集団行動を取ってしまうのだろうか。この本質に毎回迫ろうとする吉村文学、これからも沢山読んでいきたい。


  • 国を挙げた一大プロジェクト、超大型戦艦武蔵の起工から最期までを克明に記しあげたノンフィクション。
    手に余った巨大戦艦が辿る海上での末路は壮絶の一言。60年代にここまで緻密な調査を行い、当時の日本の愚かさやひたむきさを迫力と共に描き、花火のように終わる本作は記録文学として圧倒的な位置にいると感じた。

  • 2015年3月、マイクロソフトの共同創業者の故ポール・アレン氏の捜索プロジェクトチームが8年がかりで、シブヤン海底に眠る武蔵を発見した。本書を読みながら発見時のテレビの衝撃的な映像を思い出した。

    大和は海軍の施設である呉海軍工廠で造艦されたのに対して、武蔵は三菱重工長崎造船所という民間企業が造ったことは初めて知った。
    武蔵の起工から竣工までが造艦に関わる人間ドラマとともに完成するまでの過程が克明に記されており記録文学の傑作と言える名著だと思う。

    造船所から海軍に引き渡されるまでを前編、海軍が所有してから沈没までを後編として、最新の映像技術でぜひ映画にしてほしい作品。豪華キャストに実力派の監督が手掛けてくれればヒットは間違いないと思う。映像化されれば万難を排して見に行くだろうと思わせてくれる作品だった。

  • 巨大な建造物である武蔵の存在をひた隠しにする「極秘」の徹底っぷりが印象に残った。
    武蔵の起工が1938年。今からたったの80年前の話だ。

    いまの世の中で物事を「隠す」ということは果たして出来るのだろうか?
    あらゆるものが曝け出されている。

  • 太平洋戦争直前、米英日の不公平な軍縮条約は国際連盟脱退につながり、日本海軍が大型軍艦造船に舵を切る。第2号艦として長崎で建造される武蔵を、まず造船大国日本の技術力の面から記述。艦建造の各段階における担当者・作業員たちの群像である。しかし、時代は航空兵力が中心になり、戦艦ではなく空母が海洋戦の主力になると山本五十六大将などが予見していたにも関わらず大型戦艦が建造された。戦隊に編入後はさして活躍することなく米航空兵力によって撃沈される、悪手といえる軍の戦略に翻弄されていく戦艦武蔵の最期は読んでいて辛かった。

  • 戦争に突き進む心理を描かれたことは、設計構想の話を期待して手に取ったのでだいぶ不意打ちであった。しかし、きちんと練られており面白い

  • 白い航跡の吉村さんの著書。軍人の氏名・階級など無意味な記載も多いが、極秘建造された武蔵の難しい状況が上手に描写されている。第3、第4の巨大戦艦も造られ始めていたことを初めて知った。

  • さすがの著者の記録文学。前半は若干冗長だが、中盤から後半にかけての悲哀が半端ない。だが、著者独特の淡々とした筆致から戦争に邁進する人々の狂気や妄信を詳らかにしていく...。日本海軍の旗艦的な存在である戦艦と、その戦艦の造船や操船に携わった人々の想い...。ちょっとワクワクしてしまう自分はまだまだ修行が足りないなぁ。

  • 戦艦武蔵の建造秘話から、沈没までの話が緻密な取材の元に克明に描かれている。

    強くそして少しずつ朽ちていく武蔵とそれに乗る兵士たちの姿に涙無くして読むことができなかった。良作である。

著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉村昭の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×