- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101117027
感想・レビュー・書評
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『少女架刑』がすごすぎます。自分の体を解剖され無になっていく様子が、死んだ少女の一人称で語られていきます。その冷え冷えとしたロマンチシズムがもう美しくて。静寂な空気のなか、肉体をなくした少女の意識の無垢が際立って無性に哀しくなるのです。全編とおして、死に対する描写に透明な美しさを感じてしまいました。ひきこまれては危ないと思いつつも惹かれてしまうのです。
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吉村昭の初期短編集。表題作だけ読んだ。無気力な若者たち。「戦争が始まればいいんだ」ばかりつぶやいていたり、阿片の吸引、整形手術、人の組織化…などに興味を抱く者たち。オウムみたいだな…と思った。先見の明がおありになったのだろう。
なんと、最後、びっくりした。本当に海に身を投げるとは…まさか…身を投げて下に落ちるまでの気持ちが綴られている! ってことにびっくりした。こんなの初めて読んだ、という感じがした。 -
表題作の「星への旅」のみ読了
太宰賞受賞との事で読んでみました。
無気力な生活の中で、自殺する事を目標として、死ぬ事に最後の希望を抱くような感じのストーリー。
終始暗くて重い空気が漂うなかでも
やっぱり吉村昭の筆力というか表現力というか、
情景描写が力強く、かつ美しい。
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私が読んだ本の装丁は、高木雅章さんの陶芸の色が窯の中で色々と変化した跡のような表紙だった。(筑摩書房)
星への旅、石の微笑、鷺、煉瓦塀、少女架刑。
『鷺』を読み終え駅のホームで座っているとき、向かいのホームにオレンジ色のオーバーサイズTシャツを着て白いロングスカートを履き、オレンジのラインが入ったくるぶし上までの靴下を履いた明るそうな女が目に入った。
男と一緒で、腕と肩をリズムにノせて動かしたり、足を強く踏みつけたり、元気な様子が伝わってきた。
そんな女を見ていると、この本の暗さとは大違いだなと思った。
屢々(しばしば)
鼬(いたち)
鷺(さぎ) 路の鳥と書いて“さぎ”
【逐電】(ちくでん)
① 非常に敏速に行動すること。急ぐこと
② 逃げ去って行方をくらますこと。出奔。逃亡。失踪。
③ かみなり。
【愁眉を開く】
悲しみや心配がなくなって、ほっと安心した顔つきになる。悲しみや心配がなくなる。安心する。
【驀進】(ばくしん)
まっすぐに勢いよく進むこと。まっしぐらにつき進むこと。
【清冽】
水などが清らかに澄んで冷たいこと。また、そのさま。
【撓】
たわむ。たわめる。まがる。まげる。「撓屈」
②くじく。くじける。屈服する。「不撓」
③みだす。みだれる。「撓乱」
含羞(はにかむ)
【痼】
しこり、ながわずらい
【熾】さかん・おこす・おき
さかん。勢いがはげしい。「熾烈」 ②おき。おきび。燃えて赤くなった炭火。「熾火」
【熄】きえる・やむ・うずみび
きえる。火がきえる。 ②やむ。やめる。なくなる。「終熄」 ③おき。うずみび。
【聚】
①あつまる。あつめる。「聚散」「聚斂(シュウレン)」 対散 ②あつまったもの。たくわえ。「積聚」 ③人々のあつまり。なかま。むらざと。「聚落」
【箭】
や(矢)。また、やだけ。しのだけ。 -
【目次】
鉄橋/少女架刑/透明標本/石の微笑/星への旅/白い道
【感想】
『名短篇、ここにあり 』で少女架刑が印象に残った為、購入。
繊細な言葉選びと著者の死生観が分かる作品が連なった一冊。 -
みんな死んでいる。
星への旅は最期の描写がありありと浮かび、自分まで落下している錯覚を起こした。 -
3.79/524
内容(「BOOK」データベースより)
平穏な日々の内に次第に瀰漫する倦怠と無力感。そこから脱け出ようとしながら、ふと呟かれた死という言葉の奇妙な熱っぽさの中で、集団自殺を企てる少年たち。その無動機の遊戯性に裏づけられた死を、冷徹かつ即物的手法で、詩的美に昇華した太宰賞受賞の表題作。他に『鉄橋』『少女架刑』など、しなやかなロマンティシズムとそれを突き破る堅固な現実との出会いに結実した佳品全6編。
目次
鉄橋/少女架刑/透明標本/石の微笑/星への旅/白い道
鉄橋
(冒頭)
『長い鉄橋のたもとの線路の近くで、焚火が赤々と焚かれていた。
保線夫や警官が数人、顔を赤く染めながら火に手をかざしていた。漆黒の夜空には、冷え冷えと銀河が流れている。』
『星への旅』
著者:吉村 昭(よしむら あきら)
出版社 : 新潮社
文庫 : 400ページ -
死を考える本
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高校生の頃、タイトルや表紙で宮沢賢治みたいなファンタジーだと勝手に思い込み購入。
それまで死について深く考えて来なかった若い頃の私にとっては衝撃的な内容だった。
しかし…静謐な空気感のなか死に向かう人間の、美しくも淡々とした描写に心を奪われた。そして「もう少し大人になって、また読み返そう」と心に決めた。
いま数十年が経ち、再読。
粗筋は何となく覚えていたので記憶通りだったが、特筆すべきはやはり繊細で美しく儚い描写力。現代の人気作家にはない昭和の文士の力量をまざまざと見せつけられた。
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タイトルからファンタジー的要素があるかと期待したのがバカだった。これまでの吉村昭だったことを読後に痛感した。なぜここまで詳細に深く描写するのか。その意図は多分実行に至るまでの気持ちの動きを追うことなのだろう。死んで星になるなんて甘いものではない。しかし、主人公のその瞬間の描写には痛みや苦痛かなく、淡々と客観的な心情が語られるのみ。思いとどまるきっかけを期待したが、思いとどまる理由がなかった。最後はそんなものかもしれないと納得するしかなかった。