海の史劇 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (688ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117102

感想・レビュー・書評

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  • 日本海海戦を中心にその前後に起きた様々な出来事も詳らかに...。意思決定、群集心理、傲慢、侮り、悲哀、憐憫...。
    太平洋戦争に突入してしまう下地を作ってしまった圧倒的な勝利が歴史的な転換点であったことを改めて実感...。示唆に富んだ秀逸な作品である。脱帽。

  • 読了は十数年前。日露戦争における日本海海戦をテーマにした戦争記録小説の秀作。
    ロジェストヴェンスキー中将率いるバルチック艦隊が出航するところからはじまり、日露双方の記録をもとに丹念にそしてたんたんと描くのだが、その話の流れのリズムもよく、読む者を話に引き込んでくれます。
    バルチック艦隊派遣の背景とその多難な航海、そして迎え撃つ日本艦隊の状況と苦悩を描き込んだ上で、「その時」である日本海海戦の顛末を克明に記す。また、余韻を伴うその後の様子と後日譚もテンポよく記されていて「日本海海戦」という出来事を描き切ったといえるだろう。まるで、現実を映像に封じ込めて編集し、物語性をもたせたドキュメンタリー映画を観ているかのような圧倒感を持つ描きっぷりでした。
    結果がわかっているので、ある意味、安心して読むことができました。
    自分は面白くて2度読みしてしまった。

  • 本書は、同時代を書いた、司馬遼太郎「坂の上の雲」と対比されるが、同書が、坂の上の雲を仰ぎ見ながらひたすら上り続けた、明治人の意気軒高さと心意気を、書いているのにくらべて、書き出しがバルチック艦隊の出航の模様から始まり、敗軍の将となった、ロゼストヴェンスキー総督の末路にまでおよぶ壮大な史劇となっている。

    私がここで留意したいのは、当時の国民の熱狂とは裏腹に、当時の政府や軍のトップの人たちが、国力の限界を正確に把握していて、積極的に
    米国大統領に仲介を依頼したことである。
    それから40年後の、政府や軍のトップたちが、戦況の劣勢をひたすら隠し本土決戦や一億玉砕を呼号して、いたずらに国土を疲弊させ犠牲者を増やしたことを思い起こしてもらいたい。
    国のトップの劣化は、結局国民を不幸にするものである。

  • 面白かったです。 映画で203高地とか日本海海戦とか観ていますがこの本を読むと又印象が変わりました。 特に変わったところは①乃木大将の駄目さ。 自分や部下の士官を可愛がる?のか臆病なのか前線に出ていないから現状認識が出来ない結果有効な手を打てず兵力を無駄に消耗させてしまった。(戦死した兵隊さんは犬死と言わざるを得ない。)児玉源太郎が戦地に来てその光景を目の当たりにしたら激怒するのも無理はない。②ロシア海軍の航海能力の凄さ。日本海海戦であっけなく負けたように思ったいたが、遥々ロシアからアフリカ大陸を回って日本海まで航海したのは素晴らしい。今の時代では原子力を使えば燃料に不安はないがあの時代は食料、水、石炭を補給しつつ7ヶ月掛けての大航海は凄い。公開中の乗組員の不満や夜間の奇襲、エアコンなんてない気象条件が悪い中での航海。 

  • 日本海海戦までのロシア・バルティック艦隊の大遠征と圧倒的な日本の勝利、勿論痛快な勝利ではありますが、この時代の紳士的な双方の態度、ロシア兵捕虜への人道的な日本の対応、また敗軍の将ロジェストベンスキー、ステッセル・・・への暖かい日露両国の対応など、しかし寂しい晩年。明治の成長期の輝かしい日本人の希望を描いた司馬遼太郎の「坂の上の雲」とはまた違った、より更に客観的な史実として説得力も感じさせ、なおかつ著者によって素晴らしい心温まる叙事詩になりました。

  • 日本海海戦(日露戦争)を描いた歴史小説。「坂の上の雲」とは歴史の描写方法、スコープが異なるので重複感は全くないし、比較をしながら読むと却って興味深い。
    吉村昭のアプローチは史実を淡々と描写する手法であり、それ故に生々しさがより迫ってくる。また、登場人物への私情もないので、より客観的な人物像を知ることができる。
    日本海海戦がメインではあるが、それに深く関係することとして203高地攻略も登場する。
    「坂の上の雲」と比較すると、
    ・秋山兄弟が殆ど(全く?)登場しない!
    ・ポーツマス条約の小村寿太郎等の交渉状況も含まれている。ただ、これは「ポーツマスの旗」(吉村昭著)を読むと更によい。
    ・捕虜となったロシア兵が日本で厚遇される状況がより具体的に描かれている。
    ・ロジェストビンスキーなどロシア将校の敗戦後のロシアでの処遇に関することも含まれている。

  • ・坂の上の雲の日本海海戦よりも本作の方が描写としてわかりやすい。
    ・バルチック艦隊の航海は大事業であることを認識させられた。
    ・ロ提督が「坂の上・・・」よりもしっかりした人物として描かれれている。
    ・実際の戦闘は悲惨なものだが、この時代は、まだ武士道・騎士道が生きていた。

  • 吉村昭にはずれなしです!

  • 舞台は日露戦争。主に航海中のバルチック艦隊内部や日本海海戦の様子が書かれている。日本側の情勢、二百三高地攻略、ポーツマス講和の内幕など詳しく書かれている。読みやすく読者を退屈させない。

  • 原作者の遺志に背いて映像化された「坂の上の雲」。同時期に連載されていた本作。日ロ戦争。歴史文学と記録文学。事実が淡々と記述されてるだけのようでいて、引き込まれる。その作風にはいつも感心させられる。ロシア側の立場での描述も長い。両者の視点で考えられる。勝利したのは日本。負けていれば独立国としての存続はなかっただろう。一方、得た者は乏しい。そして、失ったものも大きい。夥しい数の戦死者、戦傷者。政情不安。米国の警戒。そしてあの大戦につながっていく。TVドラマは美しく作られる。だが、現実の戦争はきれい事ではない。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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