大本営が震えた日 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101117119

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  • 昭和十六年十二月一日皇居内東一の間で開かれた御前会議において、十二月八日対英米蘭開戦の断を天皇が下してから戦端を開くに至るまでの一週間、陸海空軍第一線部隊の極秘行動のすべてを、事実に基づいて再現してみせた作品。

    8月は意識して先の大戦に関する書籍を手にしてきましたが、そんな私の開戦のイメージは真珠湾への奇襲攻撃。

    それはあくまでも日本が戦争を始めた瞬間であって、奇襲攻撃を仕掛けるにあたり作戦や準備も含め入念に計画され、準備を行なってきたという事実を改めて痛感させられました。

    ハルノートによって開戦一択となったようなイメージをぼんやりと持っていましたが、それはまさに最後通牒でしか無く、軍部ではそれ以前から開戦に向けた準備を行なっていたということなんでしょう。

    そして、無知故に私自身のイメージとして真珠湾(海軍)から始まったと思っていた認識は半分しか当たっておらず、同時並行でマレー半島への奇襲攻撃(陸軍)があったことを知りました。

    真珠湾、ミッドウェイ、レイテ島、特攻、沖縄戦に本土空襲、原爆投下...

    戦時中ではなく、日本が戦争をすると決めた時から開戦までの1週間。

    そこで何が行われ、何を行っていたのか。

    タイトルである「大本営が震えた日」とは、極秘にすすめられてきた開戦に向けた準備の証拠が敵側に渡ったかもしれないという緊張感。

    一部の軍上層部の苦悩を描いた作品。

    最前線で戦った多くの兵士には開戦の直前まで知らされなかった事実。

    そして多くの国民は日本が戦争を始めたことを大本営発表のラジオにて知ることに。

    軍人約230万、民間人約80万もの犠牲者を出した大戦はこのようにして始まった。



    説明
    内容紹介
    開戦を指令した極秘命令書の敵中紛失、南下輸送船団の隠密作戦。太平洋戦争開戦前夜に大本営を震撼させた恐るべき事件の全容――。
    内容(「BOOK」データベースより)
    昭和16年12月1日午後5時すぎ、大本営はDC3型旅客機「上海号」が行方不明になったとの報告を受けて、大恐慌に陥った。機内には12月8日開戦を指令した極秘命令書が積まれており、空路から判断して敵地中国に不時着遭難した可能性が強い。もし、その命令書が敵軍に渡れば、国運を賭した一大奇襲作戦が水泡に帰する。太平洋戦争開戦前夜、大本営を震撼させた、緊迫のドキュメント。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    吉村/昭
    1927(昭和2)年、東京日暮里生れ。学習院大学中退。’66年『星への旅』で太宰治賞を受賞。その後、ドキュメント作品に新境地を拓き、『戦艦武蔵』等で菊池寛賞を受賞。以来、多彩な長編小説を次々に発表。周到な取材と緻密な構成には定評がある。芸術院会員。主な作品に、『破獄』(読売文学賞)、『冷い夏、熱い夏』(毎日芸術賞)、『天狗争乱』(大仏次郎賞)等がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 太平洋戦争勃発前の数日間を詳細な調査によって描き出した著者得意の記録文学。情報秘匿のためには人の死も厭わない軍部の闇、一握りの軍人により企図された奇襲計画...。
    「トラ、トラ、トラ」との高揚感、達成感とは真逆な感情が溢れ出す...。読後の疲労感が半端ない。

  • 吉村昭作品を読むのは、戦艦武蔵についで2作品目になる。
    開戦に至るまでの様々な出来事が緻密かつ丹念な取材で書かれている記録文学の良書。
    作戦の全容は少数の首脳部しか承知していなかったにも関わらず、ここまでの大規模な国家プロジェクトが徹底した企図秘匿の基にすすめられたことは只々驚いた。
    択捉島単冠湾からハワイまで航行し大艦隊で奇襲攻撃するという一か八かの作戦を立てたこと自体、日本が追い込まれていたんだと思う。歴史にタラレバは無意味かもしれないが、奇襲戦法が成功したことは奇跡と言えるが、もし成功してなければ原爆の犠牲者も出なかったかもしれないと思うと複雑。いずれにせよ、戦争ほど悲惨なものはない。

  • まだあの戦争から100年も経っていないんだ。
    太平洋戦争の末期じゃなく今から始めるって時ですら、こんなに薄氷を踏むような浅はかな戦略だったんだ

    いかにあの時代が人命より国家を重視してた証左だ

    それは、無理やり五輪を開催しようとしている今の日本と重なる

    こんなに人名を軽視していた時代から、
    まだ100年すら経ってないんだな。

    ファクトフルネスじゃないけど、いろいろあるけど世の中は少しずつ良くなってるんじゃないかと信じたい

  • 開戦日に向かって、当時の日本の中枢が、右往左往し不安に駆られながら目的達成のために進めていく様が、なんともすごいリアルな感じで、当時の雰囲気を感じ取れた。
    でも、結果、ものすごい犠牲が出てしまうのだが、、
    その犠牲の上に今の日本があることは、忘れてはいけないと思った。

  • 八月は日本の戦争の本を読む。

    昭和16年12月1日の御前会議でアメリカ、イギリス、オランダとの開戦が決定され、奇襲に向けての準備が秘かに開始された。
    12月8日の宣戦布告と同時に真珠湾奇襲とマレー半島上陸を成功に導くためにはそれまでの一週間の軍事行動を絶対に察知されてはならず完璧な秘匿が命ぜられた。
    そんな中で作戦を伝達する極秘命令書を持った将校が乗る飛行機が中国領内で行方不明に・・・。

    最初はミステリー仕立ての小説のようにハラハラドキドキの展開だが、すべては緊迫の一週間における日本軍に起こった事実の記録。
    エトロフ島単冠湾に集結した連合艦隊が秘かにハワイを目指すその緊迫感や、タイ国境マレー半島に上陸する陸軍の緊張感。
    開戦までの一週間を知ることができた日本人必読の一冊。

  • 「吉村昭」が太平洋戦争開戦前夜を描いたドキュメント作品『大本営が震えた日』を読みました。

    『戦史の証言者たち』に続き「吉村昭」作品です。

    -----story-------------
    開戦を指令した極秘命令書の敵中紛失、南下輸送船団の隠密作戦。
    太平洋戦争開戦前夜に大本営を震撼させた恐るべき事件の全容――。

    昭和16年12月1日午後5時すぎ、大本営はDC3型旅客機「上海号」が行方不明になったとの報告を受けて、大恐慌に陥った。
    機内には12月8日開戦を指令した極秘命令書が積まれており、空路から判断して敵地中国に不時着遭難した可能性が強い。
    もし、その命令書が敵軍に渡れば、国運を賭した一大奇襲作戦が水泡に帰する。
    太平洋戦争開戦前夜、大本営を震撼させた、緊迫のドキュメント。
    -----------------------

    昭和16年11月から12月8日までの太平洋戦争開戦に関するエピソードを集め以下の構成でドキュメントした作品です。

     ■上海号に乗っていたもの
     ■開戦司令書は敵地に
     ■杉坂少佐の生死
     ■墜落機の中の生存者
     ■意外な友軍の行動
     ■敵地をさまよう二人
     ■斬首された杉坂少佐
     ■イギリス司令部一電文の衝撃
     ■郵船「竜田丸」の非常航海
     ■南方派遣作戦の前夜
     ■開戦前夜の隠密船団
     ■宣戦布告前日の戦闘開始
     ■タイ進駐の賭け
     ■ピブン首相の失踪
     ■失敗した辻参謀の謀略
     ■北辺の隠密艦隊
     ■真珠湾情報蒐集
     ■「新高山登レ一二〇八」
     ■これは演習ではない
     ■あとがき
     ■解説 泉三太郎

    中心となっているのは、昭和16年12月1日に発生した上海号不時着事件、、、

    香港攻略や南方作戦に関する作戦命令書を持った「杉坂共之陸軍少佐」や暗号書を持った「久野寅平陸軍曹長」が搭乗した旅客機「上海号」が中国軍勢力範囲の山岳地帯に不時着し、作戦命令書や暗号書等の軍事機密書類が敵(中国)側に渡るのを恐れた日本軍の行動や「上海号」から脱出した「杉坂少佐」や「久野曹長」の逃避行が描かれています。

    軍事機密書類が敵の手に渡れば、これまで極秘裏に準備を進め、既に後戻りできないところまできているマレー半島上陸作戦、真珠湾奇襲作戦が明らかとなり、緒戦での勝利は覚束なくなることから、大本営を始め、関係者が震撼した事件です。

    ノンフィクションであることを忘れそうになるような冒険小説さながらの展開には驚かされましたね。


    また、太平洋戦争の開戦って、真珠湾攻撃ばかりが注目されがちですが、、、

    本作品では真珠湾に向かった聯合艦隊ばかりではなく、同時に行われた陸軍によるマレー半島への上陸作戦についても詳しく触れられており、

    ○12月7日には、既に戦闘(戦争)が始まっていたことや、
    ○マレー半島への上陸時、荒天により上陸用舟艇への乗り込みにおいて死者を出していたことや、
    ○事前にタイとの交渉によりタイ国内を通過できる予定が、「ピブン首相」の失踪により調整が遅れ、タイ国軍や警察との間に武力衝突が発生したこと 等

    初めて知ったことも多かったですね。



    マレー半島上陸作戦と真珠湾奇襲作戦を描いた名著だと思います。

    決して戦争を美化することのない、

    「庶民の驚きは大きかった。
     かれらは、だれ一人として戦争発生を知らなかった。
     知っていたのは、極くかぎられたわずかな作戦関係担当の高級軍人だけであった。
     陸海軍人230万、一般人80万のおびただしい死者をのみこんだ恐るべき太平洋戦争は、こんな風にしてはじまった。
     しかも、それは庶民の知らぬうちにひそかに企画され、そして発生したのだ。」

    という著者の言葉が印象的だし、太平洋戦争の本質を表していると感じましたね。

    決して忘れてはならない歴史だと思います。

  • これが戦争か

  • 航空機「上海号」が中華民国軍支配地域に不時着。そこには対米英開戦に関わる作戦命令書を携行した日本軍参謀が乗り合わせており、もし命令書が敵に渡っていたら綿密な奇襲作戦がすべて水泡に帰してしまう。
    真珠湾攻撃やマレー攻略作戦の直前まで不測の事態に直面していた日本軍の実態を記録した作品。不確実性はつきものとはいえ、ここまでギリギリだったとは知らなかった。
    軍首脳部の狼狽ぶりと最前線将兵の任務に対する実直さの差異が印象的。

  • 取材に基づいた緻密な描写。素晴らしい。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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