羆嵐 (新潮文庫)

著者 : 吉村昭
  • 新潮社 (1982年11月29日発売)
4.11
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  • 317レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117133

作品紹介

北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆の出現!日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音…。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。

羆嵐 (新潮文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 事件を端的に知らせるような筆致なのに、序文からすぐに小説の世界へ引き込まれる。
    詩的な、感情的な表現を用いていないため、人々の非力さが却ってくっきりと際立っている。
    哀しい群像劇をじっくりと味わうことができた。

    また、自然の描写が美しく、しかも扱い方が上手い。
    淡々と綴られていながら、雪に閉ざされる北海道の荘厳な風景が目にありありと浮かぶよう。
    凄惨な事件の最中に描かれる、午後の渓流の牧歌的な雰囲気が、事件とのコントラストを強め、また日常の地続きで一連の事件が起きているということに対する恐怖を高める。
    『高熱隧道』でも感じたけれど、合間に差し込まれる過不足ない自然描写が、物語に一層奥行きを与えて、まるで映画を観ているかように思わせる。

    すっかり吉村昭の世界にハマってしまった。
    ただ事件内容を描くだけでなく、その後色々と考えさせてくれるのも良い。
    次も次もと読んでしまう。

  • 目線が定まらず少し読みづらい文章で難航しましたが興味深く一気に読了。ブックオフで108円だったので本棚に積んでいましたが、今年は熊出没が多いので手にしました。

    マンガや再現ドラマを数回見て事件内容を知ってはいたけれど、小説で読むと違った意味のこわさがあって戦慄してしまいました。

    『颶風の王』でも感じたけど北海道の自然の厳しさ、人間の存在そのものを吹き飛ばしてしまいそうなくらいの苛烈な環境。人は闖入者だった…という部分を身にしみて感じました。

    読んでいる間ずっと息をひそめて、茶色いものの正体が羆だと知っているにも関わらず、きちんと「羆」とわかるまで安心できませんでした。

    何もできない群衆が愚かに思えた。自分も群衆の中の一員に思えたりして風刺っぽいような一面もみえた。猟師の銀四郎が羆を仕留めた時はホッとしたけど、銀四郎の発言や対応を見ていると、銀四郎と羆が対話や同化しているかのようで鳥肌が立った。

  • 大正4年(1915) 北海道苫前村において、ヒグマ1頭によって
    起こされた大惨劇。
    実際に起きた事件を丹念に取材して書き上げられたもの。

    2日の間に、6人もの人間を殺して食べたヒグマ。
    それを斃すために、百数十名の男が、銃や武器を手に集合しても、
    なんの意味もなさない程に、強大な力を示すヒグマという生き物。

    ほんとに恐ろしかった。
    厳しい自然環境のなかで生きるのは、人間もヒグマも同様だ。
    自然のなかでは、人間もヒグマからみたら、ただの食べ物。
    狩りをして手に入れたらなら、全てはヒグマのもの、ということ。
    輝く雪の白さ、冷たさ、厳しさ
    禍々しく滴る血、黒い巨岩のごときヒグマの姿
    抑制され淡々と描かれているが、引き込まれる語り口。

    私は図書館で、文庫ではなく昭和52年発刊の単行本を借りたけど
    この装丁が、文庫本の比でないくらい、おっかない!!
    そこら辺に置いておいたら、その表紙でびっくりしてしまい
    慌てて裏返したら、背表紙もまた同じで、ひゃ~っと叫んで
    本を開いたら、中にもまた同じ画が~~~
    本文を補って余りある、強烈な装丁・・・
    暗がりが怖くなること間違いなし!

  • 吉村昭の文章が好きだ。淡々として無駄がない。写実的で常に一定のリズムと熱量で記述されるそれは、まるで機械式時計のような格好良さがあります。

    例えば本作『羆嵐』で何度か描かれる夜明けの描写はこんな感じ。

    「闇の色がうすれはじめ、野鳥の啼き声がきこえてきた。窓の外をうかがうと、雪はやんでいたが、かなりの量の雪がほの白く積もっているのがみえた。いつもと同じ夜明けであった。」

    「朝の陽光が、雪におおわれた三毛別の村落にあふれていた。家々からは炊煙が立ちのぼり、犬の吠え声が所々で起こっていた。」

    「雪が小降りになった頃、夜空に青みがきざし、焚火の炎の色もうすらぎはじめた。」

    うーん、簡潔な文章の中から、文明社会から隔絶された村落の静けさや人々の生活感、微妙な天候の変化、夜明けを待つ人々の心境などが伝わってきますね。

    大正時代に北海道で実際にあった史上最悪の獣害事件『三毛別羆事件』を基にした物語です。北海道ツーリングに行く前に読んでおけば良かった!

  • 日本獣害史上最悪の惨事となった大正15年の三毛別羆事件を描いたドキュメンタリー。

    北海道の開拓村を襲った惨劇、羆の襲撃により二日間で6人の命が奪われる。

    羆の恐ろしさは、それが喰らった人々の遺体の描写に表れている。
    淡々語られるその様子は、これが本当にあった事件であると言う事を考えると身の毛もよだつ恐ろしさを感じる。

    この事件で、後半中心となる人物は猟師の銀次郎であろう。
    彼は、普段の素行から村人より忌み嫌われる存在であるが、この事件のさなか、人々が恐怖から冷静な行動がとれなくなっている中で唯一冷戦沈着に行動し、熊を追跡し最後にはこれを仕留める。
    人間というものは、本当に一面だけで判断できないものであり、簡単なステレオタイプ的なものに置き換えれないものであると感じる。

  • 北海道で実際に起こった熊害事件を基にした小説。事件の内容はWIKIの方が詳しくエグいです。この本は主に、羆に怯え萎縮してゆく村人たちの心理と、熊撃ち猟師の活躍にフォーカスしています。
    この頃の北海道の入植者って、藁小屋みたいなのに住んでいて、そりゃ熊もすっと入って来れるよね…って感じ。動物なので容赦なく、女子供から襲ってる点も怖いです。くま怖い。

  •  北海道の貧しい開拓集落で実際にあった羆害事件を題材とした小説です。吉村昭は事実に取材した小説をいくつも書いていますが、特にこの小説では基となる事件が衝撃的なものであるだけに異様な迫力があります。

     この小説で登場する羆は、ジョーズやシンゴジラも顔負けの恐ろしさで、どこで出くわすことになるのかとはらはらしながらページを繰りました。中篇といえる長さで、しかも文章が緻密で淡々として無駄がなくさらさらと読めるので、あっという間に読み終えました。

     羆撃ち名人である山岡銀四郎の活躍が、分署長たちの無能さと対比するようにして描かれています。銀四郎は妻子に去られた悲哀から、すさんだ生活をしています。普段は忌わしい厄介者でしかない彼が、羆を撃つ時だけは別人のように頼もしい男となるのは、胸がすくほどかっこいいけど、悲しくもあります。なぜなら、彼が命がけで羆を撃つのは、自分を死の恐怖に晒すことによって悲哀を忘れるためだと思えるからです。

     加えて、自然の非情さに翻弄されながら寒村で生きていかざるを得ない人々の姿にも、重苦しい悲しさを感じました。

  • 熊超怖い。知ってるけどやはり怖い。獲物に執着するのは知ってるけど、火を怖がらないとか、最初に食べた性別を襲うようになるとかは知らなかった。遠くから見るならともかく、山の中では絶対遭遇したくない。昭和52年の本だけど(だから?)文章きっちりしてて読みやすい

  • 羆の恐ろしさ。それと戦う人間の非力さ。北海道という未開の地で暮らす人々。その羆を殺すのは、嫌われ者の村人だった。

  • 実話を元にしたお話だけあってリアル感が漂います。熊の恐ろしさは現代の都会では想像つかないけど、これが昔、実際に起こったと考えるととても恐ろしくなります。銀じいさんがかっこいい。

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