羆嵐 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.11
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本棚登録 : 2028
レビュー : 357
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117133

作品紹介・あらすじ

北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆の出現!日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音…。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。

感想・レビュー・書評

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  •  北海道の貧しい開拓集落で実際にあった羆害事件を題材とした小説です。吉村昭は事実に取材した小説をいくつも書いていますが、特にこの小説では基となる事件が衝撃的なものであるだけに異様な迫力があります。

     この小説で登場する羆は、ジョーズやシンゴジラも顔負けの恐ろしさで、どこで出くわすことになるのかとはらはらしながらページを繰りました。中篇といえる長さで、しかも文章が緻密で淡々として無駄がなくすらすらと読めるので、あっという間に読み終えました。

     羆撃ち名人である山岡銀四郎の活躍が、分署長たちの無能さと対比するようにして描かれています。銀四郎は妻子に去られた悲哀から、すさんだ生活をしています。普段は忌わしい厄介者でしかない彼が、羆を撃つ時だけは別人のように頼もしい男となるのは、胸がすくほどかっこいいけど、悲しくもあります。なぜなら、彼が命がけで羆を撃つのは、自分を死の恐怖に晒すことによって悲哀を忘れるためだと思えるからです。

     加えて、自然の非情さに翻弄されながら寒村で生きていかざるを得ない人々の姿にも、重苦しい悲しさを感じました。

  • 事件を端的に知らせるような筆致なのに、序文からすぐに小説の世界へ引き込まれる。
    詩的な、感情的な表現を用いていないため、人々の非力さが却ってくっきりと際立っている。
    哀しい群像劇をじっくりと味わうことができた。

    また、自然の描写が美しく、しかも扱い方が上手い。
    淡々と綴られていながら、雪に閉ざされる北海道の荘厳な風景が目にありありと浮かぶよう。
    凄惨な事件の最中に描かれる、午後の渓流の牧歌的な雰囲気が、事件とのコントラストを強め、また日常の地続きで一連の事件が起きているということに対する恐怖を高める。
    『高熱隧道』でも感じたけれど、合間に差し込まれる過不足ない自然描写が、物語に一層奥行きを与えて、まるで映画を観ているかように思わせる。

    すっかり吉村昭の世界にハマってしまった。
    ただ事件内容を描くだけでなく、その後色々と考えさせてくれるのも良い。
    次も次もと読んでしまう。

  • 日本の獣害史上最大の事件とも言われる三毛別羆事件をモデルにした一冊。3メートル近い大きさの羆が入植者達を恐怖のドン底に叩き込む描写はリアル過ぎてその場にいるかのような臨場感を感じさせる。

    姿を見せない羆にいつ襲われるか分からない恐怖と比べれば、数メートル先で村人の屍肉を咀嚼している羆の存在を感じられることは安心できるという表現には妙に納得させられてしまった。

    間違っても冬以外の季節に読んではいけない。

  • 新潮文庫「徹夜本」フェアにて出逢う。
    ユリ熊嵐を思い出して、思わず手に取ったって言っていいのかしら……。

    それはさておき。

    これ、Wikipediaを参照するには、かなり実話がベースになっているんかな、と。
    羆の体長2.7mて。
    人間の女の味を覚えて、女性モノの衣類や寝具を撒き散らす羆……怖すぎる。
    いや、北海道と全然関係ないところに住んでるけど、なんか夜そのものに恐怖を覚える。

    酒乱のマタギ銀さんの顔色にも注目。
    命を賭けて狩る訳なのに、いや命を賭しているからこそか、そこに儀式やしきたりがある。
    熊嵐にしても、不思議で神秘的だけど、神秘性よりも断然、食べられる恐怖が勝つ一冊でした。

  • 文句なしに★5。前半はただひたすら怖い。後半は英雄譚。熊がヤバすぎてコメディかと思うことすらある。糞の中の毛髪&人肉みて腰抜かすシーンとか。これ読んだらくまモンやプーさんをかわいいとは思えなくなる

  • 吉村昭の文章が好きだ。淡々として無駄がない。写実的で常に一定のリズムと熱量で記述されるそれは、まるで機械式時計のような格好良さがあります。

    例えば本作『羆嵐』で何度か描かれる夜明けの描写はこんな感じ。

    「闇の色がうすれはじめ、野鳥の啼き声がきこえてきた。窓の外をうかがうと、雪はやんでいたが、かなりの量の雪がほの白く積もっているのがみえた。いつもと同じ夜明けであった。」

    「朝の陽光が、雪におおわれた三毛別の村落にあふれていた。家々からは炊煙が立ちのぼり、犬の吠え声が所々で起こっていた。」

    「雪が小降りになった頃、夜空に青みがきざし、焚火の炎の色もうすらぎはじめた。」

    うーん、簡潔な文章の中から、文明社会から隔絶された村落の静けさや人々の生活感、微妙な天候の変化、夜明けを待つ人々の心境などが伝わってきますね。

    大正時代に北海道で実際にあった史上最悪の獣害事件『三毛別羆事件』を基にした物語です。北海道ツーリングに行く前に読んでおけば良かった!

  • 目線が定まらず少し読みづらい文章で難航しましたが興味深く一気に読了。ブックオフで108円だったので本棚に積んでいましたが、今年は熊出没が多いので手にしました。

    マンガや再現ドラマを数回見て事件内容を知ってはいたけれど、小説で読むと違った意味のこわさがあって戦慄してしまいました。

    『颶風の王』でも感じたけど北海道の自然の厳しさ、人間の存在そのものを吹き飛ばしてしまいそうなくらいの苛烈な環境。人は闖入者だった…という部分を身にしみて感じました。

    読んでいる間ずっと息をひそめて、茶色いものの正体が羆だと知っているにも関わらず、きちんと「羆」とわかるまで安心できませんでした。

    何もできない群衆が愚かに思えた。自分も群衆の中の一員に思えたりして風刺っぽいような一面もみえた。猟師の銀四郎が羆を仕留めた時はホッとしたけど、銀四郎の発言や対応を見ていると、銀四郎と羆が対話や同化しているかのようで鳥肌が立った。

  • 大正4年(1915) 北海道苫前村において、ヒグマ1頭によって
    起こされた大惨劇。
    実際に起きた事件を丹念に取材して書き上げられたもの。

    2日の間に、6人もの人間を殺して食べたヒグマ。
    それを斃すために、百数十名の男が、銃や武器を手に集合しても、
    なんの意味もなさない程に、強大な力を示すヒグマという生き物。

    ほんとに恐ろしかった。
    厳しい自然環境のなかで生きるのは、人間もヒグマも同様だ。
    自然のなかでは、人間もヒグマからみたら、ただの食べ物。
    狩りをして手に入れたらなら、全てはヒグマのもの、ということ。
    輝く雪の白さ、冷たさ、厳しさ
    禍々しく滴る血、黒い巨岩のごときヒグマの姿
    抑制され淡々と描かれているが、引き込まれる語り口。

    私は図書館で、文庫ではなく昭和52年発刊の単行本を借りたけど
    この装丁が、文庫本の比でないくらい、おっかない!!
    そこら辺に置いておいたら、その表紙でびっくりしてしまい
    慌てて裏返したら、背表紙もまた同じで、ひゃ~っと叫んで
    本を開いたら、中にもまた同じ画が~~~
    本文を補って余りある、強烈な装丁・・・
    暗がりが怖くなること間違いなし!

    • ぽんきちさん
      これ、恐い話でしたね。
      私は文庫で読んだのですが、単行本の装幀、とっても迫力ありそうですね。図書館で探してみようかな(^^;)。
      これ、恐い話でしたね。
      私は文庫で読んだのですが、単行本の装幀、とっても迫力ありそうですね。図書館で探してみようかな(^^;)。
      2012/01/19
    • tsuzraさん
      以前から読みたいと思っていた作品です。
      新刊ばかり読んでしまい、なかなか読まないままでした。
      ようちんさんの感想でよしっ!とおされました。楽...
      以前から読みたいと思っていた作品です。
      新刊ばかり読んでしまい、なかなか読まないままでした。
      ようちんさんの感想でよしっ!とおされました。楽しみです。
      単行本あるかなぁ?表紙ぜひ見てみたいです。
      2012/01/19
    • ようちんさん
      oyumyさん
      tsuzraさん
      ぽんきちさん
      こんにちは。
      花丸ありがとうございました。

      皆さんから、こんなに反応があるとは...
      oyumyさん
      tsuzraさん
      ぽんきちさん
      こんにちは。
      花丸ありがとうございました。

      皆さんから、こんなに反応があるとは
      思わなかったので、正直驚いています。
      作品の持つ力に引寄せられてのことでしょうね。
      羆の見えざる恐怖には、現実の寒さも忘れて
      身も心も凍えさせられました。

      余談ですが、恐怖の表紙ゆえ、通勤電車内では
      しっかりカバーをしてましたよ(^^;
      ではでは皆様の感想、楽しみにしてます。
      2012/01/20
  • 未だ日本が貧しく、特に北海道の開拓村の生活は困窮を極めていた大正4年12月、冬眠の時期を逸した一頭の羆がわずか2日間で6人の男女を殺害した。
    その事実そのものは戸川幸夫の動物文学全集などで知ってはいたが、戸川を読んだ子供時代とは全く違った恐怖を感じた。
    吉村昭という小説家の手にかかると悲劇が表面的なものでなく、羆の獣害を生んだ社会情勢まで考えるとその恐ろしさが更に際立ってくると感じる。
    自然と人間、富裕と貧困、都市と農村、漁村、持てる者と持たざる者。
    1人の嫌われ者猟師が冷静沈着に羆と対峙しているように見えるシーンが印象的である。

  • 自然の厳しさ/怖さを充分認識していたつもりでしたが、そこに野生生物の存在を括ってはいなかった、自身、甘かった、、、。

    たとえ「これが自然だ。」と言われても歯がゆく、悔しい!
    新しい生活、生きがいを求め、自然の恵みとともに暮らし、自然と共存していた矢先である。

    見ぐるみをすべて剥がされサファリパークに放り出されて、そこで生活するのとほとんど同じような無力、、、、恐怖であり、読んでてめっちゃ伝わってきました。

    本書は有名作品で、周知のとおりではあるのですが、話の展開、描写、ことば選び、すべて良く、読み応えのある一冊です!

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著者プロフィール

吉村 昭(よしむら あきら)
1927年5月1日 - 2006年7月31日
東京日暮里生まれ。学習院大学中退。在学中、大学の文芸部で知り合った津村節子と結婚。
1966年『星への旅』で太宰治賞、1972年『深海の使者』で文藝春秋読者賞、1973年『戦艦武蔵』『関東大震災』など一連のドキュメント作品で第21回菊池寛賞、1979年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、1985年『冷い夏、熱い夏』で毎日芸術賞、同年『破獄』で讀賣文学賞および芸術選奨文部大臣賞、1987年日本芸術院賞、1994年『天狗争乱』で大佛次郎賞をそれぞれ受賞。吉川英治文学賞、オール読物新人賞、大宅壮一ノンフィクション賞、新田次郎文学賞、太宰治賞、大佛次郎賞などの選考委員も務めた。
徹底した資料調査・関係者インタビューを背景にした戦史小説・ノンフィクションで、極めて高い評価を得ている。上記受賞作のほか、三毛別羆事件を題材にした『羆嵐』が熊害が起こるたび注目され、代表作の一つとみなされる。『三陸海岸大津波』は2011年の東日本大震災によって注目を集め再評価を受け、ベストセラーとなった。

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