破船 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117188

感想・レビュー・書評

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  •  この小説は怖い、暗い、悲しい。ホラーではなく、実際日本の貧しい漁村であった風習、掟の厳しさ、怖さが綿密な取材によって再現されているからなのだ。
     船が座礁することは悲劇だか、その破船から掠奪し、辛うじて生きることが出来る人々もいた。
     豊かな世界の一般常識でいえば、当然「罪」とされることが、その村では神仏の恵みなのである。
     そうして生きている共同体の絶対的な掟。それは個人よりも共同体を守り継がねばならないということ。それが悲劇に悲劇を重ねる。
     しかし、ただ悲劇と思えない。魂の強さを感じる。
     人間の生命も神も輝かしくて、正しいものだと思っていた自分がお目出度い人間だと思った。
     本当は人が生きていくのは、もっとドロドロしたことなのだ。そんなことは、実体験としては知らずに生きていくのが幸せであるが、知識としても知らないままでいることも罪のような気がしてきた。
     読んで良かった。

  • いただき本
    大好きな吉村昭さん。

    お船様、赤い服に猿のお面。天然痘。

    以下の解説文がこの本の全てです。良書。

    読者がここに読むものは、簡明で無駄なく、まるで硬質な文体がそぎおとすように刻みあげてゆく、かつての漁村の過酷な不幸の物語である。略
    読者は、判断の自由な領域で、この忘れがたい作品の内実を読みとってゆくことができるのである。

  • 昔は漂流船・難破船は発見者による略奪・捕獲の対象になると考えられていたという。文中から法整備がなされた中世以降の話だと思われるが、こうしたムラ社会の生き残りをかけた考え方、行動、風習が悍ましい...。終盤の悲劇には絶句...。

  • 良質な映画を見終わったような読後感。
    過酷という言葉では表現しきれない絶望感。
    お船様への希望と、恵みを得た人の堕落。
    病に対する無力さ。
    生きること、生き抜くことは厳しいけれど、それでも生きていかねばならない時、自分なら耐えられるだろうか、そんなことを考えさせられた。
    ページを閉じた後も、飢えの心配をしなくていい身分に、環境に、しみじみと幸福を感じた。

  •  暗い。ものすごく暗い。でも、どんどん引き込まれる。

     人々の暮らし、村のおきて、自然の情景を、感情を差し挟むことなしにひたすら淡々と描写し、その中から過酷な運命に翻弄される人々の姿を浮かびあがらせていく。登場人物のひとりひとりに感情移入させられるということではないのだけれど、物語全体がしっかりと心に訴えてくる。何だかチヌア・アチェベの「崩れゆく絆」を読んだときの感じに似ている。舞台設定は全く違うのだけれど……

     苦しみながら生きていくこと自体が目的のような人生にどんな意味があるのだろう。共同体(あるいは人間という存在自体)が業のようなものを背負っていて、それでもそれを絶やしてはいけないのは何故なのか…… 結末には、暗澹たる気持ちにさせられた。
     

  • 僻地のある漁村では「お船様」の行事があった。
    岩礁で破船した船から積み荷をはじめ、何もかもを奪い取るのだ。
    お船様を待ち焦がれ、誘い込むために毎年塩焼きの火まで焚く、というその風習がおぞましく感じてしまう。
    だがそれは、生きていけない程の貧しさから生まれた風習なのだ。
    そんな村の不安を孕んだ日々が、無駄なく、でも目に浮かぶように描かれていて、どんどん引き込まれた。
    後半はその不安が現実になり、運ばれてきた厄災が、まさに今の世界にも通じるところがあって、忘れられない作品になった。

  • 「お船様」の奇習も不気味だが、終盤、疫病蔓延の描写がリアルでゾッとする。日本海沿岸の伝承を基にしたという、作者ならではのフィクション。想像力がすごい。

  • 淡々と語られる「お船様」の実態、天から打ち下ろされた疫病の猛威、東北地方の寒村に起こる過酷なまでの不幸は実際起こったものなのだろう。作者の記述にリアリティを感じたのは私だけではあるまい。

  • 豊かな現代との違いに戸惑う一冊。こんなに過酷な生活なんだから、お船様に対する犯罪なんて、大したことじゃないような気もしてくる。なす術もなく運命に翻弄される不幸。

  • 吉村昭の小説はだいたい面白いですが、こちらもかなり面白い。
    抑えた筆致の中で、江戸時代の村での風習っぽいことがリアルっぽく描かれている。柳田国男や宮本常一の本を思い出されます。江戸すげー、とか明治すげー、とか新渡戸稲造とか司馬遼太郎を読みながら言ってる人にはぜひ読んでもらいたい一冊。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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