破船 (新潮文庫)

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レビュー : 75
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117188

感想・レビュー・書評

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  •  この小説は怖い、暗い、悲しい。ホラーではなく、実際日本の貧しい漁村であった風習、掟の厳しさ、怖さが綿密な取材によって再現されているからなのだ。
     船が座礁することは悲劇だか、その破船から掠奪し、辛うじて生きることが出来る人々もいた。
     豊かな世界の一般常識でいえば、当然「罪」とされることが、その村では神仏の恵みなのである。
     そうして生きている共同体の絶対的な掟。それは個人よりも共同体を守り継がねばならないということ。それが悲劇に悲劇を重ねる。
     しかし、ただ悲劇と思えない。魂の強さを感じる。
     人間の生命も神も輝かしくて、正しいものだと思っていた自分がお目出度い人間だと思った。
     本当は人が生きていくのは、もっとドロドロしたことなのだ。そんなことは、実体験としては知らずに生きていくのが幸せであるが、知識としても知らないままでいることも罪のような気がしてきた。
     読んで良かった。

  •  暗い。ものすごく暗い。でも、どんどん引き込まれる。

     人々の暮らし、村のおきて、自然の情景を、感情を差し挟むことなしにひたすら淡々と描写し、その中から過酷な運命に翻弄される人々の姿を浮かびあがらせていく。登場人物のひとりひとりに感情移入させられるということではないのだけれど、物語全体がしっかりと心に訴えてくる。何だかチヌア・アチェベの「崩れゆく絆」を読んだときの感じに似ている。舞台設定は全く違うのだけれど……

     苦しみながら生きていくこと自体が目的のような人生にどんな意味があるのだろう。共同体(あるいは人間という存在自体)が業のようなものを背負っていて、それでもそれを絶やしてはいけないのは何故なのか…… 結末には、暗澹たる気持ちにさせられた。
     

  •  貧しい雪国の漁村。苦しい生活の中、村民たちは難破した船から積み荷をかすめ取ることを生活の糧としていた。10歳の少年の伊作は、奉公に出た父の帰りを待ちつつ、母や幼い兄弟たちのため漁に励むが…

     吉村さんの作品は、派手さはなくとも引き込まれます。貧困にあえぐ村の描写、日々の生活、漁師として成長していく伊作、いずれの描写もしっかりできています。こうした確かな描写が積み重なっていくからこそ、自然と読者は作品の情景を想像し引き込まれていくのでしょう。

     村では難破した船を座礁させるため、岸で火を焚いています。この火に誘われた船が沈んだところを村民たちは、狙っているのです。今の時代から考えるとひどい話ですが、それまでの村の描写を読んでいると、生きるためには致し方ないとも思わされます。そうした風習や民俗の異様さも、面白く読めました。船から奪った積み荷で村人たちが喜びに沸く場面も、そうした当時の生活の厳しさを感じさせられます。

    三人称で描かれる吉村さんの感情を挟まない抑制された筆勢は、村の行く末を厳しく描きます。自業自得といえばそうかもしれないのですが、でも単にそれで片づけられない悲しさも感じさせる結末です。なぜなら彼らの生活が一時でも貧困から逃れるためには、船から荷物を奪うからしかないのです。生きるためにはそうせざるを得ないのです。

     船が流れ着いたとき伊作は、これで奉公から帰ってきた父に米を食べさせることができる、と喜んでいました。そうした感情を読者は否定しきれないからこそ、厳しい結末は読者の胸をより深く強く打つと思います。

  • 『お船様』をまつ貧しい漁村。
    年季奉公で身を売り村を出て行った父親の代わりに家を守り励む少年。

    貧しさはこんなにも人の心や言動を殺風景にし、思わぬ豊かさはこんなにも満ち満ちたものにするものなのか。誰が悪いわけでもない。

    最後は鳥肌がたった。

  • ある漁村の民俗風習である、座礁した船の荷物をせしめる、破船。そのために、火を焚き誘導し、神仏にも祈る。恐ろしい題材。実在した村が、あるのか。

  • 吉村昭の小説はだいたい面白いですが、こちらもかなり面白い。
    抑えた筆致の中で、江戸時代の村での風習っぽいことがリアルっぽく描かれている。柳田国男や宮本常一の本を思い出されます。江戸すげー、とか明治すげー、とか新渡戸稲造とか司馬遼太郎を読みながら言ってる人にはぜひ読んでもらいたい一冊。

  • 生きるために苦しみ、苦しむために生きる。
    そこに、生きる意味はあるのか。
    貧しい漁村で起こった、悪夢の様な出来事。
    生き残った者たちは、何を見て、何を感じたのだろう。
    まるで、贅肉を削ぎ落としたかのようなストイックな文章が心に響く。

  • 二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まもなく、村を恐ろしい出来事が襲う……。嵐の夜、浜で火を焚き、近づく船を坐礁させ、その積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に伝わる、サバイバルのための異様な風習“お船様"が招いた、悪夢のような災厄を描く、異色の長編小説。(裏表紙)

    災厄は、約束されていたようにも思います。
    超常現象や過剰な描写はないにもかかわらず、やはり、怖い。

    …本文には全く文句なく素晴らしいのですが、解説がストレートにネタばらしをされているので、少し注意が必要です。

  • 近代国家の道のりを歩み始める前の日本の閉鎖した貧しい漁村の物語。
    伊作というまだ年端もいかない主人公の目線で淡々と語られるその生活は、現代社会で暮らす我々には想像もできない過酷なものであるが、あたかも本当に当時の人間が語っているような自然な語り口のリアリティーにより違和感なく読者はその生活に入っていく事が可能となる。
    自然のリズムに身をゆだね、そのもたらす恵みにより細々と命をつないでゆく人々。
    生活は厳しく、身売りも普通に行われている。
    生きるための非情な選択として灯火により交易船を岩礁地帯に誘い込み座礁させ積み荷を奪うという犯罪行為を村ぐるみでおこなっている。
    これらの村の暮らしが丹念に無駄な情感を排した文体により語られる事により、物語にリアリティーを与える事に成功している。
    異なる時間と世界を体験させてくれることが小説の醍醐味と言えるのならば、まさにこの本はそれを体現しているといえる。

  • 惨惨惨・・・・。

    吉村昭さんの作品ということは、フィクションではあってもかなりの部分が事実や記録に基づいているのだろうと推測。

    藩船がどうたら…ということは、江戸期のお話だということ。舞台となった漁村の貧しさ、貧しい中で必死に生をつないでいく日々。自ら破船を誘い込み、乗員を殺めることすら「天の恵み」と言わなければならない生活。

    その一方、江戸や京都の都市部では、衣食住に困ることなく綺麗な着物に身をつつみ華やかに暮らす人々もいる・・・。
    そんな一握りの人たちではなく年貢に汲々とした農村部ですらが、ここに描かれる人々から見たら極楽のような暮らしなのだろうと考えると、身につまされる。

    ★3つ、7ポイント半。
    2018.12.02.新。

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著者プロフィール

1927-2006。東京生まれ、作家。純文学短編、記録文学、戦記小説、事件小説、歴史小説など。作品に『破獄』『陸奥爆沈』『天狗争乱』など。吉川英治文学賞、讀賣文学賞、大佛次郎賞、菊池寛賞ほか受賞。

「2019年 『はればれ、お寿司 おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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