羆(ひぐま) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1985年7月25日発売)
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本 ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784101117195

感想・レビュー・書評

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  • 動物小説集と銘打ってはいるが、これは人間の物語。執念、悲哀、偏愛、劣等感、孤独...。5編全て暗いが結びがそれぞれ秀逸。「蘭鋳」「軍鶏」「鳩」が好み。生き物を育てるのって大変だ。

  • 多くの人が指摘しているが、どれもこれも悲惨な話なのだが、読後感はそんなに悪くない。

    動物小説集とうたってあるが、やはりこれは人間を描いている小説集である。これらの作品が書かれた時点では、オタクなる言葉はなかったと思うが、登場する人物は究極のオタクといってもいいかもしれない。明るい気分にはなれないが、小説としては面白い、

  •  動物と人間の濃い接点を描き出す短編集。 
     「蘭鋳」 ランチュウの飼育を家業とする義理の兄。その父の後添いだった母。その連れ子でまだ少年である息子の視点で描かれる家庭ドラマ。鑑賞のために奇形的に作られた魚の生育を背景に、大人たちのエゴが逆巻く。ラストの少年の逃げ場のなさはそのまま水槽の中の飼われているランチュウと重なり、読む者の心を引き裂くような読み味。 
     「羆」 母を殺した羆を倒し、その仔熊を飼う熊撃ちの男。3年後に起きる悲劇。飾り気を排した文体の気味のよさと、場面に淡くにじむ感情の影。ラストの寂しい味わいは格別。 
     「軍鶏」 簡潔な文体で、どこか満たされない青年が闘鶏にかける姿を描く。手を掛けて育てられても、戦いでいずれ命を落とすか盲目になっていった銘鶏、嵐、正宗、黒駒の3羽が忘れられなくなる。
     「鳩」 鳩レースにのめりこみ破滅する青年の話。君子という同好の恋人もいたはずが、暗雲が立ち込めていくばかりで結末へ。『..君子や弟の鳩に対する熱意は、世俗的なものにひきずられてくつがえるような脆弱なものだったらしい。かれらは、初めから鳩を飼う資格に欠けていたのだ。父は、家産をかたむけ、妻に失踪されても鳩を飼うことはやめなかった。...それがレース鳩飼育者の本質であり、自分も父と同じような人間でありたかった。…』(P190)クズだ。
     「ハタハタ」小さな子供たちまでもが不漁を心底心配する漁村で、遭難事故が起き、遺体捜索が終わらないうちにハタハタ豊漁が訪れ、父の遺体が見つからない少年はやがて、遭難遺体が長く留まる港が豊漁になるという迷信により漁村の人々が父の死と長い不明を喜んでいるという会話を耳にする。父を失った少年の家庭は豊漁の恩恵は一切受けることない。母は少年の村を出ようという嘆きを聞いても貧窮と労苦の中で少年と弟妹達を育てる日常を変える様子はない...という小説だった。
     乾いた文体でバランスよく悲惨さがかかれる為それほど負担感はなく読み終えた。

  • 短編集。それぞれ題材にとられた特異な環境下にある動物の描き方は、主人公の内面に投影されており、動物たちの運命もまた、物語の結末を暗示しているかのようで、読後に独特の印象を残す。どれも秀作だけに、表題にあえて「羆嵐」と被るタイトルを選んだのは勿体無かったかも。

  • 羆、蘭鋳、軍鶏、鳩、ハタハタをテーマに繰り広げられる人間模様が描かれている短編集。嗚呼、暗い。何て暗いんだ。この人の作品を読むと必ず頭の中の映像化は曇天でモノクロ色に染められてしまう。人生の喪失感や悲哀が淡々と語られ、読後のむず痒い程のやるせなさはいつまでも尾を引く。動物に携わる人間達の生き甲斐や息苦しい程の嫉妬、卑屈感、劣等感がひしひしと読み手に伝わり心は鉛の様に重くなる。そしてラストで一瞬光がさし始める予感を感じさせる演出が堪らない。やっぱり吉村昭は面白い。そして凄い。

  • 羆、蘭鋳、軍鶏、鳩、ハタハタ 人と獣の織成す5編。人が動物をひきまわしているのか、動物が人をもてあそんでいるのか?人と獣の間には、人間社会という重い空気が流れる。少年も老人も、男も女もそれぞれの動機ときっかけで獣と関わりあい、それぞれの結末に直面する。筆致は硬質で上品だが、どの作品もセックスとバイオレンスに満ち満ちたノワールで情容赦ない傑作短編集。

  • 吉村昭の動物を題材にした短編集。動物を糧にする人間の非情さ、自然の厳しさ。

  • 動物をタイトルにした5話ではあるけど、これでもかと人間を描ききった心理小説だった。
    それぞれの理由で生き物たちに取り憑かれた男たちの話。どれも共通して閉鎖的な田舎町が舞台で、鬱屈したやるせなさと物悲しさが漂い、つい登場人物に感情移入しながら読み進めた。良くも悪くも親から受け継いだものが共通してるのも印象的。
    どこか報われない、世間から少し外れた場所で生活する人間たちが、あらゆる動物を道具や自分の代替として生きがいにしていく。
    3篇めの「軍鶏」がまさにそんな感じ。足の悪い自分の代わりに鶏たちを荒々しく闘わせることで日頃閉じ込められたストレスを爆発させている。闘うことしか知らない軍鶏に憧憬を抱く主人公が無垢というか愚かというか。生き物を育てるということは愛情も間違いなくあるんだけど、結局は自己満足の部分が大きくて、自分の喜びの為の道具にしか過ぎないのかなと虚しくなる。
    5話すべて暗くてキツイ終わり方だけど不思議と後味の悪さはなくて、彼らの今後に思いを馳せてしまった。

  • 10/1 読了.動物への異常な執着を見せる主人公ばかりが登場する短編集.動物の命の異様な軽さ、粗末に命を扱う人間の醜さが絡み合って独特の雰囲気が全編に漂っていてなかなかのインパクトだった.

  • 「ハタハタ」で、漁業生活者の世界が強く響いた。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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