破獄 (新潮文庫 よ-5-21 新潮文庫)

  • 新潮社 (1986年12月23日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784101117218

みんなの感想まとめ

脱獄を繰り返した主人公の物語は、戦中と戦後の日本の刑務所のリアルな状況を背景に、緻密な人間ドラマを描いています。特に、看守との心理戦や、巧妙な脱獄方法は目を引き、主人公の心情の変化が物語に深みを加えて...

感想・レビュー・書評

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  • 4回の脱獄王の物語でした。
    読んでいると、なぜ脱獄を繰り返したのかが気になる所でした。
    戦中と終戦直後の刑務所のリアルな部分(看守不足や食糧不足、司法、GHQ等)に突っ込んで居て面白いと思いました。

    看守が佐久間との心理戦において葛藤するシーンが多く、巧妙な脱獄方法と佐久間の体力には目を見張るものがありました。
    佐久間の物語終盤の心情の変化に感動しました。

    全体的に丁寧に描写されていて良かったです。

  • H29.1.27読了。

  • 実在のモデルが存在したお話。これも期待以上の読み応えがあった。
    《ゴールデンカムイ》の中に出て来る脱獄囚(白石由竹)もきっと同じ人がモデルなんだろうなと思う箇所が幾つもあった。
    主人公(佐久間清太郎)は人並みではない知力、身体能力、そして人の情に特別敏感で相手の心を探る術に長けていた様だ。
    戦中戦後と言う時代背景から来る人権無視、また寒い地での監獄は囚人は言うまでもなくそこで働く看守達にとっても想像に絶する厳しさだった事がわかる。
    敗戦後の混沌とした世の中で、民主化政策の波がまず囚人の扱い方にあらわれたと言うのも妙に興味深い。
    彼は娑婆で最期を終えた。
    監獄の環境の改善の他に温情ある看守との出会いが彼の脱獄する意欲を喪失させてくれたのかもしれない。

  • 昭和の脱獄王をモデルにしたフィクション大作。網走刑務所を訪れた際に、ついでだからと網走市の本屋で購入。
    四度の脱獄をした犯罪者とそれを防ごうと奮闘する看守の攻防に戦時中、戦後という社会情勢が複雑に絡み合う。社会面と人間ドラマ、孤独と反発、そして人間を更生に導く人間ドラマ。緻密な取材と文献資料を読み込み、構成したのだと感じずにはいられない作品だった。読後は時代の大きなうねりに巻き込まれた興奮と虚無感、感動が一度に押し寄せた。中々に素晴らしい作品でした。


  • 表題の通り、戦前から戦後にかけ4度の脱獄に成功した佐久間(仮称)を話の中心に据え、刑務所内の人間関係を丁寧に描写しているが、国内情勢・司法環境の遷移を緻密な調査をもとに数十年のスケールで厚みのある肉付けがされている。ドキュメンタリーとして非の打ち所ない読み応えある作品である一方、とにかく読み易さが目に付いた。『漂流』も名作だが、本作はドラスティックな展開に読み疲れも少なく非常に楽しめた。

  • 実話に基づく小説。生涯で4回の脱獄を成功させた佐久間。中には、かの網走刑務所も含まれる。特製手錠を解錠したり、3.2メートル上の天井窓を破って逃げるなど、どのような技を使ったのか、興味深い。
    戦争の経過に伴う日本の状況と刑務所事情の厳しさが背景にあり、囚人よりも看守の大変さに驚いた。看守、所長より何枚も上手の佐久間。そんな佐久間に破獄を断念させたのは、厳重に拘束するよりも人間らしく尊重して扱う事だった。
    これほどの知恵と忍耐力があれば、まともに生きれば、何でもでき、大成功しただろうに、勿体無い。
    でも破獄にしか用いられなかったからこそ、この物語を面白く、彼をさらに魅力的にしている。

  • 昭和11〜22年の間に東北・北海道の刑務所から4度の脱獄を果たした無期刑囚の大胆かつ緻密な計画とその超人的手口に肉薄描写した一冊。

    著者は昭和54年、元警察関係の要職にあった人から脱獄を繰り返した一人の男の話を聞き、関心を寄せる。取材を重ね膨大な資料を渉猟。それらを元に肉付けし、ノンフィクション仕立ての物語にした筆力にただただ唸るばかり。

    この小説の特徴として『会話』が極めて少なく、主人公の無期刑囚と、いつまた脱獄するのではないか…という看守たちの怯えと不安が交錯する心理描写が淡々と描かれ、極寒の独房での過酷さ、看守の目を盗み、着々と脱獄の企てをしているであろう不気味さと緊迫感を生む相乗効果もある。

    主人公は難攻不落と言われた網走刑務所からも脱獄をしており、『アルカトラズからの脱出』よろしくやすやすと監獄の壁を破っていく。看守たちからは『容易ならざる特定不良囚』と呼ばれる。

    身体能力もさることながら、知力・判断力・洞察力に加え忍耐力を兼ね備え、ある看守は呟く。『その類稀なる智力と体力を他のことに向ければ何事かを成し遂げた男になったはず…』は、読者も総じて抱く思いのはず。

    本書は脱獄歴を縦軸に、戦前戦中戦後の刑務史について筆は及ぶ。戦時中の食糧難時でも一般人より栄養価の高いものを提供され、看守より体格がよかった。ただ都会にある刑務所は例外で、栄養が偏り受刑者の病死が相次ぐ。一方、野菜を自給できる網走刑務所は極寒地であるにもかかわらず死亡率が低かった。網走刑務所が『農園刑務所』と呼ばれる所以である。

    もっとも驚かされたのは戦時中の囚人たちの使役。刑務所外活動〈道路・港湾・飛行場建設等〉も頻繁に行われ、占領国に海外にまで派遣もされている。多くの男性は戦争に駆り出され、労働力が払底している最中だけに貴重な労働力であったことを物語る。

    戦後は国に代わりGHQが囚人の不当な扱い調査を
    執拗に行い、戦前までの旧弊の撤廃と民主化に向けて介入を行うも頓挫をしている。そう、本書は刑務所内も戦争に大きく揺さぶられていく経緯を克明に記している。

    著者は現実の事件や歴史上の事象をめぐり、一貫して文学的アプローチで追求をしていく。本書の場合は『脱獄』であるが、その『目的(プロジェクト)』完遂までの狂おしいほどの熱情と知恵を遺漏なく押さえ、壮大な物語へと仕立て上げ、読者は善悪・良否という二元論をどこかに捨て去り、脱獄を果たす度に思わず快哉を叫びそうな衝動にかりたてられるはず。

    〈無期刑囚と看守たちの息詰まる攻防記〉オススメ!

  • とても読み応えがある!戦争を挟んだ時期に無期懲役囚が網走刑務を含めて4回脱獄する話し。最後は年齢などから脱獄の気力が失われかけていたところ、刑務所長の温情を受けて、模範囚となり、仮釈放を受けるストーリー。読み応えがあるのは、脱獄方法それ自体というよりは、戦前は戦争に役立つものを作り、自家農園で自給自足し、被爆した刑務所は囚人が脱走し、人で不足から囚人に刑務官をさせて無秩序になったり、戦後はアメリカ軍の指導監督を受け囚人への暴力を理由に殴られるなどし、これを知った囚人がアメリカ軍に言いつけると脅して、便宜を受けるなどという時代背景と刑務所の関連、囚人には自給した食べ物を与える一方、刑務官は少ない配給で我慢し、脱走時に備えて囚人よりも薄着でいたことなど、公務員としての高潔さも描かれており、盛りだくさんの内容

  • 吉村さんの本はこの作品が初めてで、この作品から吉村さんのファンになりました。時代風景が感じとれるか少し不安でしたが、自然に入って来ました。ストーリーはタイトル通りですが、吉村さんならでわの表現か飽きさせず臨場感たっぷりな作品でした。

  • 実在モデルの存在に驚愕。
    「もう疲れましたよ」と言わせ、仮釈放までを思う鈴江所長の人間性は唸りました。

    囚人も人間。
    あまり知ることのない、戦争時の食糧難での待遇や囚人が囚人を監視する特警隊制度など、勉強になりました。
    硬いけど事実が丁寧に伝わる作品でした。

  • 四度の脱獄を繰り返した白鳥由栄をモデルとした、戦前から戦後占領期にかけての行刑を背景とした小説。
    戦時中でも刑務所は六合の穀物が配給され、所員より食べてたというのは意外というか何というか。召集されるより刑務所の方がマシだったとか。

  • 「昭和の脱獄王」と呼ばれた白鳥由栄(よしえ)がモデル。
    戦中・戦後の混乱した国内、刑務所の状況などが丹念な調査から描かれている。人の心理を巧みに操る男。彼を脱獄に向かわせる動機、環境、処遇、関係、能力...。作中に出てくる新聞の風刺記事は、時代を組織を扱き下ろす。
    ご都合主義が生まれる背景・状況について、最後にサラッと切り込むのは流石。

  • 吉村昭、最高。
    文体は固く、頁数が多く、ストーリーの起伏は少なく、終始淡々と綴られる語り口は一見退屈に思えてしまうが、なんのなんの夢中になってる自分がいる、、、というパターンを繰り返すこと、はや4回目(笑)。

    実話を下敷きにしている・・・しかも、トレースしてるレベルで、という点も大きいのだろう。


    さて、本編の感想。
    脱獄するか、させまいか、との攻防よりも、府中へ移管されてからの部分に特に心引かれた。

    むろん、作中にもあるように「疲れた」という佐久間の感想も大きな要因のひとつではあろうが、府中刑務所長の英断に心打たれた。

    彼は教育者の道を選んだとしても大きな仕事をなし得たのだろうと思った。

    ★4つ、9ポイント。
    20170705

  • 首都圏を環状に回る武蔵野線。始発を出て次の駅。府中街道を北へと歩けば、高く聳える壁が右手に見える。その向こうで、かつての脱獄王が懲役を果たした。青森、秋田、網走、札幌と、手錠足枷もろともせず、難攻不落の獄舎を抜け出した。中にいれば食いはぐれはない。外に出れば、食うにも困る。雨風凌げる屋根も壁もない。猛獣も棲息する地域。襲われる恐怖。それでも、逃げることに執念を燃やした。何を思い、何故最後は止めたのか?戦前から戦中、戦後へと、受刑する側もさせる側も、時代に翻弄されながら、厳しさから暖かさへと変わって行った。


  • 脱獄を4回成功させた実在の男を題材にした話。
    文中にもあったが、常人離れした知力体力と運動能力の全てが脱獄する事に費消されてしまった不幸。
    戦中戦後の厳しい状況と過酷な刑務所の環境、そして超人的な佐久間の行動が淡々とした筆致で語られ、あっという間に読了。

  • テレビで見たことがあった気がする。どんな牢獄であっても、あらゆる知恵を振るい、脱獄に成功する無期刑囚の話だ。味噌汁で鉄を腐食させる所なんかは、有名だ。そうか、これが、その話なんだ。一気に読み進む。

    どんな獄も破ってしまう囚人。時代は戦時から戦後。時折戦争の風景も混ざる。さて、そんな囚人をどのように縛り付けることに成功したのか。

    読んでのお楽しみ。実話に基づく話である。

  • 昭和11年から22年にかけて、計4度の脱獄を成功させた佐久間清太郎の人生を描くノンフィクション。

    4度とも異なる脱獄方法もさることながら、看守を心理的に追い込むプロセスはヘタなミステリーよりも緊張感がある。こんな超人が戦時中にいたのか。

    そして、この小説の最大の見せ場は彼の脱獄シーンではなく、なぜ彼が5度目の脱獄をしなかったのか。それに尽きる。

  • ・あらすじ
    昭和8年に青森県で起こった強盗致死事件の犯人として逮捕され無期刑判決を受けた佐久間清太郎は昭和11年、昭和17年、昭和19年、昭和22年と脱獄を繰り返す。
    4箇所の刑務所を脱獄した佐久間の執念と、戦中戦後の混乱期の世相や治安維持に努めた執行機関の取り組みなどを描く。

    ・感想
    読む前は主人公である佐久間がどうやって刑務所を脱獄したのか、という方法論やその執念がどこから来るのか?などの佐久間の人となりに焦点にあてた作品だと思ってた。
    でも実際は、佐久間という脱獄犯を通して戦中戦後の日本の移り変わりを描いた社会派作品だった。
    そうだよね、吉村先生だもんね。

    戦中の刑務所や警察組織がどうなっていたのかなんて全然考えたことなかったけど物資不足、人員不足や治安の悪化にこうやって無いものを振り絞りながら対応してたんだなぁ。
    刑務所に収監されてる囚人も辛いだろうけど、刑務官もとても過酷な環境で働いてたんだな…そりゃそうだよな。

    お互いに反感を持つ刑務官と佐久間。
    違反するたびに過酷になる罰。
    その度に「絶対に脱獄してやる」という執念を燃やす佐久間、という悪循環。

    佐久間の様に反抗心が強く負けず嫌いな性格の人間って不当な扱いをされればされるほど燃え上がるところがある。
    佐久間も別に何にでも反抗する人間だったのではなく、「辛い境遇」から抜け出すために必要性に駆られて脱獄してただけ。
    だから脱獄の原動力だった「辛い環境」が改善されてしまえば脱獄もしないという終わり(もちろん加齢や疲労による心身の衰えもあるけど)も、何だか日本の社会と似ているな、とも思った。

    反抗心とか「何クソ!!」っていう精神って困難な時代を生き抜くには必要なものなんだろうけど、この日本では中々培われないものだよなーと読みながら感じた。

  • タイトルや題材から難解な作品かと思ったが、読みやすく、脱獄囚と刑務官の人物描写も巧みで物語に没入できた。

    戦前戦中に脱獄を繰り返した脱獄囚のことは知っていたが、読後に凄まじい行動力と智力の持ち主だと思い、インターネットで調べるとモデルの脱獄囚はそれほど脚色されていないことがわかった。

    府中刑務所でのこの人物への扱いは、まさに「北風と太陽」だろう。

    いまは網走刑務所は博物館として保存公開されている。脱獄囚の脱獄する様子のモニュメントもあるそうだ。いつか行ってみたい。

  • 観光で網走監獄に行った時に脱獄のことを展示してたので興味があって読んでみた。
    4回も脱獄をした佐久間と対峙した人々の話で、戦時中の刑務所の様子など圧倒的な筆力で読ませる本です。脱獄後も捕まることなく過ごしたのがすごい。北海道の冬や熊も強敵なのに。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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