仮釈放 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117294

感想・レビュー・書評

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  •  殺人を犯し無期刑をいい渡された元高校教師が、服役成績が優秀であるとして仮釈放されるものの社会に溶け込めず、戸惑いと苦しみを抱えながら生きていく姿を描く。この小説はネタバレ厳禁だと思うので詳しく書きませんが、最後の数ページは驚くような苦い展開でした。小さなメダカの命を大事にする男が、どうしてこんなことになってしまうのだろうか。

     小説家というものは想像力が豊かで、なかには頭の中だけで組み立てたことを自由に書いていける人がいるのかもしれません。しかし、想像力だけで書かれた小説はどうしても薄っぺらなものになるような気がします。それに比べて吉村昭の作品は、どれもどっしりとしていて堅牢です。この小説も、淡々と書かれているようでいて実に密度が高く重いです。それは、この作品がフィクションであるとはいえ、取材を通じて得た事実によるしっかりとした裏づけがあるからでしょう。

     吉村昭はまるで自らの経験を記すように、細部にこだわってとてもリアルな描写をしていきます。殺人を犯すときに目の前が朱色に染まるといった描写、独房にまぎれこんだ蠅と囚人との気持ちのやりとり、保護司はどのように犯罪者と接するのか、仮釈放の身にある者が周囲の人たちに対して抱く気持ちなど、どうして作者は犯罪者のことがこんなにもよく分かるのだろうかと驚かされます。まるで物語の中に取り込まれてしまうような、文字によるヴァーチャル・リアリティを体験させてもらいました。

  • 最初から最後まで、なんとも言えない鬱々とした気分で、読み進みました。どうなるんだろう、どうなるんだろうとドキドキします。仮釈放された主人公の不安がヒシヒシと伝わってきます。私自身、主人公とは少し違いますが若い頃、夜逃げの経験があり、世間の目を気にしながら生きていた時期があり胸が痛みました。人間の心の奥に潜んでいる感情、説明することが困難な部分を考えさせてくれる作品です。

  • 吉村昭の作品には、グッと力を入れて読ませるような迫力がある。
    その中で仮釈放は、心のほぐれていく感覚がありながらも、最後はやはりグッと力を入れざるを得ない展開に。
    絶望感というか、焦燥感が残る作品。

  • 吉村昭による立派な仮釈放された人物かいる。
    ノンフィクションが多い吉村昭にしては珍しいフィクションだが、ノンフィクションのように仮釈放と言うなかで生きる菊谷がいる。
    無期懲役から仮釈放され、長期刑が染み付いた人の考え方心情、変わり行く時代はとてもリアル。
    菊谷が慎ましく生きささやかな幸せわ感じて行くステップの一つにまた悲劇があり、上手くいかないもどかしさを感じた作品。

  • 主人公のわかりそうでわからない人物像がすごい。
    殺人を犯し無期刑にもなったが、罪を悔いておらず、そのことを周囲に気づかれてもいない。主人公は生真面目な性格で、何も駆け引きを打たないが、それ故に垣間見える恐ろしさがある。
    怒涛の畳み掛けとなるラストは、誰の状況も一瞬で変わり得ることを感じさせられた。

  • 己の犯した罪に悔いは無いと思っている男。
    その男が、仮釈放で世に出てきたらどうなるのか。
    暖かい目で迎えられながらも、心の底では冷めた己がいる。
    男は、何を悔い、どう改悛すればいいのか分からないまま時だけが過ぎていく。
    己の犯した罪の大きさと己の心情の狭間で揺れ動くさまを吉村昭の大胆で繊細な筆致で重厚に描いていく。
    これは、間違いなく大名作である。

  •  吉村 昭 は三冊目、実に重い内容である。著書も多いのでこれからも読み続けよう。作者が取り上げる主題がアンダーグランド的なものであって、一般社会とあまり接点がない隠された事実をを取材し、実像に肉迫する。この本に出会わなければ生涯知らないであろう内容が書かれている。本を読んで感じ入ることのできる数少ない作家だと思う。

  • 主人公は非常に真面目な人間であり、一途である。それゆえ、模範囚にもなったし、仮釈放後もしっかり働いていた。
    この真面目な主人公がどうなるのか、本の残りのページ数がとても重かった。
    真面目であることはなにも免罪しないし、真面目さの方向が間違っていた故に無期刑になっているわけであるが、それにしてもラストへの流れはキツい。

  • 仮釈放されても、社会に、溶け込めずに苦しむ主人公。刑罰の難しさを感じる。

  • 本の紹介動画です。
    https://www.youtube.com/watch?v=Hz3C6kXG7dg

    2022年4月に読む本で紹介しました。動画があるのでアクセスしてください。
    https://www.youtube.com/watch?v=dcuxPbpkaZ0

    内容(「BOOK」データベースより)
    浮気をした妻を刺殺し、相手の男を刺傷し、その母親を焼殺して無期刑の判決を受けた男が、16年後に刑法にしたがって仮釈放された。長い歳月の空白をへた元高校教師の目にこの社会はどう映るか?己れの行為を必然のものと確信して悔いることのない男は、与えられた自由を享受することができるか?罪と罰のテーマに挑み、人間の悲劇の原型に迫った書下ろし長編小説。

    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    吉村昭
    1927‐2006。東京・日暮里生れ。学習院大学中退。1966(昭和41)年『星への旅』で太宰治賞を受賞。同年発表の『戦艦武蔵』で記録文学に新境地を拓き、同作品や『関東大震災』などにより、’73年菊池寛賞を受賞。以来、現場、証言、史料を周到に取材し、緻密に構成した多彩な記録文学、歴史文学の長編作品を次々に発表した。主な作品に『ふぉん・しいほるとの娘』(吉川英治文学賞)、『冷い夏、熱い夏』(毎日芸術賞)、『破獄』(読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞)、『天狗争乱』(大佛次郎賞)等がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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